シナリオ『アンハッピーバースデイ』公開

 今回は前回からの予告通り、自作シティシナリオ『アンハッピーバースデイ』を公開します。シナリオ傾向などに関しては前回の記事と1.はじめにを読んで確認してください。
 では、本編に入ります。




このシナリオは現在テストプレイの結果を受けリファイン作業中です。詳細については以下の記事をご覧ください。作業は5月いっぱいを目途に終了予定です。
大変長らくお待たせしました。一通りのリファイン作業は完了です。
 
シナリオ『アンハッピーバースデイ』リファイン案


 6月15日更新:本シナリオのワード・PDFファイル及び最終決戦におけるMP管理用の画像・エクセルファイルを配布いたします。ダウンロードはこちらからどうぞ。

シナリオ『アンハッピーバースデイ』

1.はじめに
 このシナリオはクトゥルフ神話TRPGのシナリオです。とある架空の街を舞台にしたシティシナリオで、様々な場所を巡っての情報収集とNPCとの会話を通じた探索が中心となっています。PL人数は3~4人ですが、3人PLの場合難易度が上昇するため、同行するNPCを一人付けたほうが無難かもしれません。自由な探索が始まるまでの導入が長いですが、このシナリオに存在する情報は伏線を張っている部分が多いため、軽く流さないように注意を促しておくといいでしょう。また、このシナリオは内容が重めのものとなっており、唯一の良いエンディングもハッピーエンドとは言えないかもしれません。人によっては苦手な方もいるかもしれませんので、この点にも注意してください。
 このシナリオは後半にシナリオ分岐があり、それによってベストエンドへの道が立たれてしまう可能性があります。しかし、KPが重要な情報のある方向に〈アイデア〉ロールで誘導するなどの調整をすれば、初心者でもベストエンドにたどり着ける程度に難易度は下げられるでしょう。
 また、このシナリオにはハンドアウトが自由枠を含めて複数用意されていますが、基本的に(推奨)と書かれているハンドアウト、特に警察官PCが居るとシナリオの真相に届きやすく、ベストエンドにも向かいやすくなるでしょう。また、シナリオ開始時に現在正気度が50以下の探索者は永久発狂によるロストの可能性を伝えておくことを強くお勧めします。

2.シナリオ概要
 20年前、ある未婚の女性がヨグ=ソトースの子供を身ごもった。彼女は最後まで妊娠に気付かず自宅でその双子を出産したが、二人目に産み落とした名状し難い異形の姿に正気を失い、生後間もないその子供を手にかけてしまった。
 時代は下って現代、生き残った子供は「秋月麻希」と名付けられ、人間と変わらぬ外見を保ったまま女性の一人娘としてまっとうな人生を送っていたが、ある日から「誰かに見張られているような感覚」に悩まされるようになる。探索者たちの手によって彼女のストーカーは捕まえられた後もその感覚はますます強くなっていき、ついには逮捕されたストーカーの男が何者かに殺害されたことを皮切りに、麻希の近しい人物までも殺害され始める。
 シナリオにおける一連の事件は母親が以前手にかけた、ヨグ=ソトースの娘によるものである。「彼女」はこのとき瀕死に近い重傷を負ったものの、20年の時をかけて地面に這い出ると、夜間無差別に人を襲ってその身を食いつくすことで徐々に力を回復させ、最終的な復讐を果たそうと起こしている。「彼女」の復讐心は、母親以上に、麻希に対して向けられている。実は20年前に母親が絞め殺そうとした赤子は死の淵をさまよう間際、無意識に《精神転移》を行って姉妹の身体を乗っ取っていたからだ。
 「彼女」は麻希の親しい人物をかつて千草が自分に行った仕打ちになぞらえて殺していくことで二人を精神的に追い詰め(MPを減少させ)、その仕上げとして母親を殺した上で再度《精神転移》を行い、自分の身体を取り戻そうとしている。探索者たちは事の真相にたどり着き、秋月親子を守り切ることができるだろうか。


3.登場NPC
秋月 麻希
「お母さん、すっごく料理上手いんだよ!」
年齢:シナリオ内で19から20に
STR14 DEX20 INT11 アイデア55
CON30 APP14 POW30 幸運100
SIZ13 SAN- EDU14 知識56
HP22 MP30 回避60 DB+1d4
所持技能:目星50%、説得55%、回避60%、精神分析30%、応急手当40%、テレパシーを不完全に受信する80%、速く走る80%、相手に良い印象を与える55%、クトゥルフ神話5%
所持呪文:記憶が最終段階まで戻っている場合、ヨグ=ソトースに関連する全ての呪文を使用することが出来る
所持(するかもしれない)呪文:《大いなる父への請願》(オリジナル)
《大いなる父への請願》…最終戦において発現する可能性がある。秋月麻希がこの呪文を使った場合、ヨグ=ソトースの娘はこの呪文を取得しない。この呪文は落とし子の助けに気まぐれに応じた外なる神の力を借りて発動されるものである。秋月麻希のMPが自身のMPより10以上下回った際自動的に発現し、次の行動タイミングで発動する。ヨグ=ソトースの娘から10MPを吸収し、自身のMPに加える。
〇性格・特徴など
 基本的に温厚な性格で、あどけなさが残る笑顔をよく見せる、人懐っこい性格の持ち主。感性が独特でいわゆる「変わっている」性格であり、人並み以上に健康である(彼女は生涯一度も風邪を引いたことがない上、怪我の治りも早い)、手先が器用、霊感が強いなどの特徴がある。しかし、それらは一見して個性の域をギリギリ出ないレベルであり、姿形や能力も普通の人間とほとんど変わりない。唯一他者より明確に秀でている点として、彼女は短距離走の強化指定選手にも選ばれるほど足が速く、現在通っている地元の大学もインターハイ入賞の実績をもって推薦入学している点が挙げられる。
〇RP上の注意点
 秋月麻希はシナリオ進行と共に記憶を取り戻し、本来の性格とは打って変わって冷静な様子を見せるようになる。この麻希の変化を分かりやすくするため、RP上では努めて明るい性格に振る舞ったり、描写の上でいつも笑顔であることを含めるといったアピールをすることが望ましい。
〇シナリオ上の設定情報
 彼女は二十年前ヨグ=ソトースの血を引いてこの世に産み落とされた半神である。常人より高いステータスは全て半神であるが故の特徴だが、彼女は奇跡的に人間の特徴が色濃く出ている。
 20年前に《精神転移》を行ったのは彼女の人格であるが、産み落とされて間もない中で生命の危機を感じ反射的に行った行為であり、成長した彼女も当時のことを全く覚えていない。彼女は運良く神話生物の堕とし子としての遺伝的特徴があまり現れず、通常ヨグ=ソトースの落とし子が通常持ち合わせているクトゥルフ神話に対する知識欲なども持ち合わせていない。しかし、潜在的には確かに外なる神の力が眠っており、ヨグ=ソトースの落とし子に特有のテレパシー能力も不完全ながら備えている。
 シナリオ開始の3週間ほど前から地上に表れて力を回復し始めたヨグ=ソトースの娘との共鳴現象に悩まされるが、これを彼女は不完全なテレパシー能力によって「誰かに見張られているような感覚」として感じとっている。ヨグ=ソトースの娘が近づくにつれてこの共鳴現象は強くなり、最終的には自分のすぐそばに底知れない敵意を持った何者かがいるような感覚を常時感じることになる。
 シナリオが進み神話的事象に触れていく中でかつて自分が行ったことに関する記憶を段階的に取り戻していく。それに合わせて自らのうちに眠る神話生物としての自我が目覚め始めるが、これは自分を狙うヨグ=ソトースの娘から自分の身を守るために発生する防衛反応に近いものである。
※「ヨグ=ソトースの娘」をあのような状態に追いやったのは間違いなく「秋月麻希」の人格であるという過去の事実に人間としての麻希の精神では耐えられません。また、こうした過去の行いに対する復讐として本来の体を取り戻そうとする「ヨグ=ソトースの娘」に対し、自分が変わらず生き続けるためには神話生物としての非情さをもって「彼女」を殺すしかありませんでした。そのため、「秋月麻希」の神話生物としての自我が強くなっているのです。

秋月 千草
「麻希の父親は……居ないんです」
年齢:40
STR10 DEX11 INT10 アイデア55
CON13 APP14 POW15 幸運40
SIZ13 SAN45 EDU14 知識40
HP13 MP15 回避22 DB-
所持技能:目星45%、聞き耳60%、図書館55%、忍び歩き50%、心理学55%、製作:料理90%、娘に愛情を注ぐ65%
不定の狂気:酒恐怖症(治癒していたが、シナリオ内にて再発)
〇性格・特徴など
 少し影のある、落ち着いた雰囲気の女性である。過去のことはあっても人並みの社交性は兼ね備えており、探索者たちが顔を合わせても精神を病んでいたとは思えないだろう。彼女が精神を酷く病んでいた時期は子育てもままならず、麻希も実家に預けられていたが、彼女が回復して以降は麻希に対して愛情を注いで育ててきており、現在の親子関係は良好である。
〇シナリオ上の設定情報
 彼女はかつて料理人を目指して調理学校に通っていたが、20年前父親の知れぬ子供を産み、双子のうち一人を手にかけた事件をきっかけにその夢を諦めた。以来精神を病み、長らく精神科にかかっていたが、数年前に立ち直って今は薬の服用も行っていない。現在は料理教室の講師として生計を立てている。料理に酒を使用する際は問題ないが、以前は精神薬なしでは酒を目にすることもできなかった。
 20年前のことを深く後悔しており、「彼女」を密かに麻衣と名付けて仏壇への祈りを毎日欠かさず行っているほか、シナリオの一か月前には「彼女」が埋葬された共同墓地にも行き、未来に生まれ変わった「彼女」との再会を願って埋葬場所に「輪廻転生」の花言葉を持つノースポールを植えた。この時の出来事がきっかけでヨグ=ソトースの娘が地上に這い出ることになる。

ヨグ=ソトースの娘、秋月 麻衣
「かえせぇぇぇ……わたしのからだぁぁぁぁ……………」
STR22 DEX21 INT11
CON28 APP- POW20 
SIZ16 SAN0 EDU-
HP22 MP20 回避42 DB+2d6
所持技能:組付き100%、つかんで吸う(DBは加算しない)100%、死体を貪る60%
P246〈つかんで吸う〉…押しつぶしにより毎ラウンド1d6ダメージ、次ラウンド以降吸血によって1d10ダメージ
正気度喪失:目撃時のSANチェックは不可視の際1/1d8、可視状態の時1d8/3d10で、一週間以内に二回以上見た場合は、SAN値減少量が半減する。
装甲:血液を薄い膜のように体に這わせることで物理的な攻撃、化学薬品による被害は全て最小値に軽減する装甲となる(最小値ではあるが継続ダメージは重複して受ける)。火に対する完全な耐性を持つ。
所持呪文:P266《精神力吸引》、P291《ヨグ=ソトースのこぶし》、P266《精神転移》、P259《死の呪文*》、P278《被害をそらす》、P256《クトゥルフのわしづかみ》、P255《記憶を曇らせる》、《大いなる父への請願》(オリジナル)、(以下に書いていないものの効果はルルブ参照)
《精神力吸引》…対象からマジックポイントを吸い取る呪文である。呪文の使い手のMPと対象のMPを対抗させ、呪文の使い手が勝った場合には対象は1d6 MPを失い、その分を呪文の使い手が獲得する。呪文の使い手の方が抵抗表による競争に負けた場合には、使い手は6MPを失って、対象がそれを得る。
《精神転移》…対象と永久的に精神を交換する呪文である。呪文をかけるために消費するMPは10、それから自分のMPと犠牲者のMPを抵抗表に従って競わせなければならない。勝った場合にはラウンドの最後に精神が交換され、呪文の使い手は1d10正気度ポイントを失い、犠牲者は1d20正気度ポイントを失う。
《精神転移》に失敗した場合呪文の使い手は直ちにもう一度呪文をかけ直さなければならない(MPがあと10ポイント必要である)。そうしなければ行き場を失った魂が永遠の彼方に消え去ってしまうのである。MPを使い切ってしまった場合も、永遠の彼方へ消えることになる。転移がいったん始まったら、呪文が破れることはない。
《死の呪文*》…ルールブックの呪文に追加の条件として、死体に対してこの呪文を使用する場合使用するMPを半分にし、対抗ロールを不要とする。対象は呪文の使い手から10m以内に居なければならず、毎ラウンド集中しながら呪文に神経を集中させたのち、犠牲者の体に大きな火ぶくれができ始め、その次のラウンドで衣服がくすぶり始める。更にその次のラウンドで犠牲者は体内から発生した炎に包まれ、1ラウンドほどで肉体を焼ききる上、この火を止めることはできない。
《被害をそらす》…呪文の使い手に向けられたあらゆる物理的な攻撃を無効にする呪文であり、本来受けるはずだったダメージ+1のMPを消費し、外なる神の名前を口に出して自分を襲おうとする相手に向かって触手を伸ばすことで、攻撃を脇へそらすことができる。
《大いなる父への請願》…最終戦において発現する可能性がある。ヨグ=ソトースの娘がこの呪文を使った場合、麻希はこの呪文を取得しない。この呪文は落とし子の助けに気まぐれに応じた外なる神の力を借りて発動されるものである。ヨグ=ソトースの娘のMPが自身のMPを10以上上回った際自動的に発現し、次の行動タイミングで一度のみ発動する。探索者たちから2MP各々から吸収し、自身のMPに加える。
〇性格・特徴など
 「彼女」の精神は自分をこのような境遇に追いやった原因である秋月千草と、その張本人である「秋月麻希」に対する復讐心で満たされている。しかし、母親に捨てられて生きたまま焼かれ、父親に助けを呼びかけても全く反応がない境遇から、同時に「彼女」は孤独を覚えている。そのため、千草に対する攻撃には躊躇いを見せ、麻希に対しては嫉妬心からより憎悪を増させる結果となっている。彼女の持つ「顔」は千草と麻希、そして偉大なる父の顔をかけ合わせたような容貌で、人間とかけ離れた異形のそれではない。
〇シナリオ上の設定情報
 「彼女」は20年前死んだと思われていたが、虫の息になりながらも20年ほどかけてゆっくりと地中で体力を回復していた。最終的にはノースポールを植えに来た千草の存在に反応したことをきっかけに、地上へと這い出るまでに回復した(主な内容は13.復讐劇を参照)。
 「彼女」自身は外なる神の血を濃く受け継ぐ神話生物「ヨグ=ソトースの娘(息子の性別違い)」であるが、致命傷に近い傷を生まれて間もなく負ったために、様々な能力が不完全である。これについては以下を参照。
・通常ヨグ=ソトースの落とし子は食事時以外不可視の存在であるが、「彼女」は呪文を使用した時にも姿が暴露されてしまう。
・精神力を集中して呪文を使用する際、彼女の身体からは黒い粘液が染みだして地面に跡を残す。この際、ヨグ=ソトースの娘は強烈な痛みを感じている。
・装甲が存在せず、攻撃を受けるタイミングで体内に流れる黒いゼラチン状の血液で体表を覆い、与えられる物理攻撃を最低値に軽減している。しかし、攻撃が止む度血液を体内に戻す関係上、化学攻撃に対する弱点となっている。
・物理的な攻撃を受けた際、《被害をそらす》の呪文が自分の意思に依らず自動的に発動されてしまう(化学的な攻撃の場合は発動しない)。
・テレパシー能力の送信能力が制御できず、活動中は常に発信状態になっている(これが麻希の「ストーカー被害」の正体です)。また、受信能力も不完全であり、自分の姉妹を見つけ出すのにも事欠く有様であった。
・成長後の能力も一般的な「ヨグ=ソトースの息子」らに比べて劣り、一部においては話生物の特徴が殆ど発現していない秋月麻希にさえも劣る。

ストーカーの男、肝付 汚太郎
「僕と麻希ちゃんは愛し合っているんだ、邪魔するなよおおおおおおおおおおお」
APP3、それ以外は任意
耐久力は人間の範疇を越えない任意の値(最大でも18)でよい ダメージボーナス なし
技能:小型ナイフ35%、信用を含む全ての交渉系技能1%、聞き耳40%、忍び歩き50%、隠れる10%
精神的な障害:秋月麻希に対する偏執症
〇性格・特徴など
 なぜ三次元に興味を持ったかは不明だが、少なくとも一年以上は麻希を遠巻きにストーキングしているらしい。性格は特に決めていないので、途中までのミスリード要員にでもなんでも自由にお使いください(特にこだわりがなければ下手な混乱を招かぬよう怪しくしないほうが良いでしょう)。
〇シナリオ上の設定情報
 特に考えていません。

4.シナリオ全体の流れ
シナリオ前半~インターバルまで
 ストーカー被害の訴えに始まり,肝付の逮捕、誘われた夕食におけるアクシデント、続くストーカー被害というように、探索者たちが神話的事件に巻き込まれていくまでが描かれる、事実上の導入です。普通のシナリオに比べて変則的でやや長いですが、このシナリオの全体像を把握するための伏線が随所に挟まれており、それらが自由探索パートにおける行動の指針になるような作りになっています。
インターバル~自由探索まで
 インターバルではシナリオ内時間を一週間ほど進めることになりますが、その間何か行動したいことや試したいことがあると宣言するPCがいた場合には、認めてもいいでしょう。ただし、まだ神話的事件が起こっているというわけではないので、処理は簡潔に行うようにすべきです。製作者はここまででシナリオの進行度がだいたい40%ほどになると見積もっています。
自由探索パート前半
 探索者たちがこれまでの情報などをもとに自由探索を行い、連続失踪・殺人事件と麻希のストーカー被害が結びついており、危険の矛先が麻希と千草に向いていることに気が付く場面です。また、麻希が探索者と行動を共にすると共に(情報を得ると共に)かつての記憶を少しずつ取り戻していき、麻希は一体何者なのか、身に起きている現象の原因は何なのかという謎が深まることでしょう。ここまででシナリオの進行度はだいたい70%前後になると見積もっています。
自由探索パート後半
 麻希の友人が殺されていく中、千草の告白から探索者たちが20年前に起きた事件の真相を知っていき、脅威から親子を守るべく探索者たちが奔走する場面です。残されたダイイングメッセージの謎を考えていく上で千草よりも麻希に憎悪が向けられている謎、真相を知りたがる麻希と探索に伴って訪れる記憶の復活に伴う変化、その最終段階として麻希が探索者に書き渡す《万物流転》の呪文など新たな謎が浮かび上がっていき、最後の決戦へと向かうことになります。

5.ハンドアウト
 基本的にこのシナリオは警察官、探偵、麻希の知り合いが最低一人いることを前提に作っており、どれかが欠けた場合情報の再配置や役割の穴埋めが必要となることを了承してください。推奨技能は〈医学〉、〈心理学〉、〈精神分析〉、交渉系技能、準推奨技能は〈オカルト〉、〈生物学〉、〈クトゥルフ神話〉です。
〇HO1:探偵、探偵助手
 この探索者は秋月家の近所に事務所を構える探偵か、その関係者である。警察に麻希のストーカー依頼を取り合ってもらえなかった秋月千草から、ストーカー被害の調査をしてほしいという依頼を受ける。そのストーカー被害とは、娘の秋月麻希が誰かに見張られているような感覚を毎晩覚え、振り返ると時々似たような怪しい男が立っているというものであり、具体的な仕事内容としては、最終的に警察に逮捕してもらうための証拠集めといった具合である。一定程度の社交性と時間的余裕はあることが望ましい。ストーカー被害に関する情報は以下。
・被害は3週間ほど前から
・ここ一か月は大会が近く毎日大学に通っているのだが、決まって家路に着く九時くらいを見計らってストーカー被害を受けている
・被害はだいたい15分ほど続く
・視線を感じて振り返ると時々見知らぬ大柄の男が立っていた
・部屋の中に居ても視線を感じたことがある(気味が悪いと感じた麻希が走って帰った時のことであるが、詳しく聞かれなければこのことは話さない)
 また、HO1の探索者はHO4の警察官と知り合いであるとともに、以前事件解決に協力した実績から特別に捜査への関与を認められている。そのため、事件現場の捜査を行う場合に特別な交渉技能は必要ない。
〇HO2:友人
 この探索者は秋月麻希の友人であり、初めから面識を持っている。本人から秋月麻希がストーカー被害にあっていることを聞いており、麻希と一緒に行動するところからシナリオに入ることになる。そのため知り合い程度ではなく、大学のゼミ生や幼馴染などある程度の仲であることが望ましい。親友という設定であれば、父親が居ないことを事前に知っていても良い。
〇HO3:教授
 この探索者は秋月麻希の所属するゼミの担当教授であり、初めから彼女と面識を持っている。シナリオへの参加動機はやや薄いため、好奇心が強い、世話焼きであるといった性格のほうがシナリオには関わりやすい。
〇HO4:警察官
 秋月親子の住む矢口町を管轄する警察署に勤めている警察官であり、彼女らとは一定程度の面識を持っている。知り合いの警察官ということでストーカー被害を秋月家から相談されていたが、事件性に欠けるということで上司から被害届受理の許可が下りず負い目を感じている。その負い目から個人的に捜査に協力するようなお人よしや出しゃばりな(要するに探索者向きな)性格であれば、秋月親子との接点はなくともよい。
〇HO5:近所の人間
 純粋な自由枠。秋月親子との間に良好な関係があればどのような人物でもよい。


6.導入の始まり
基本的にはハンドアウトに参考にして自由に導入を行います。依頼を受けた探偵が麻希を交えて友人などの関係者から被害に関する話を聞いた帰り道、上司を説得するためストーカー被害について詳しい話を聞こうとして秋月家に向かっていた警察官が偶然出会うなど、できる限り探索者の全員が7.肝付汚太郎大地に立つに参加できるような導入を行ってください。

7.肝付汚太郎大地に立つ
 ここは基本的に麻希との帰り道に探索者たちが付き添うという体で書いていきますが、シナリオの進行に応じて柔軟に対応してください。
路地.jpg
 麻希の家は最寄り駅から20分ほど歩いたところにあります。彼女は大学の陸上部に所属しており近日控える大会のために、毎日練習を行っており、帰りの時間は決まって夜となります。そのため、彼女から何か話を聞くとしても練習が終わって以降になってしまいます。この時、シークレットダイスでストーカー男の〈忍び歩き〉〈隠れる〉ロールを行ってください。探索者たちが不審者を警戒していれば、任意の適当な技能に成功することで挙動不審な太った男(肝付汚太郎)を見つけることができます。仮に全員が失敗したとしても、ストーカーの男の技能が失敗していれば、電柱の陰から腹が出ているのが見えるなどと言って発見させましょう。
 その男に対して声をかけるなどのアクションを行えば彼は酷く混乱し、「怪しいやつらめ、お前ら一体麻希ちゃんの何なんだ!」などと意味不明な言葉を早口で並べ立てます。〈心理学〉に成功すれば彼が麻希に対し強く執着している様子が見て取れ、〈精神分析〉に成功すれば、彼の様子から秋月麻希に対して病的な偏執症を患っており、現在は見知らぬ人に話しかけられたことで、一時的なパニック状態に陥っていることがわかることでしょう。


8.逮捕劇
 彼と接触してしばらくすると、パニック状態に陥った彼は護身用に持っていた果物ナイフを取り出し、振り回しながら近寄るなと騒ぎ始めます。探索者たちが警察を呼ぶ、取り押さえようとするといったアクションを起こすならストーカーの男が過剰反応し、戦闘が開始されます。

ストーカーの男、肝付 汚太郎
APP3、それ以外は任意
耐久力は人間の範疇を越えない任意の値(最大でも18)でよい ダメージボーナス なし
技能:小型ナイフ35%、信用を含む全ての交渉系技能1%、聞き耳40%、忍び歩き50%、隠れる10%
精神的な障害:秋月麻希に対する偏執症

 男は6ポイント以上のダメージが入った段階、あるいは〈精神分析〉に成功した場合、その場にうずくまり泣き出します(探索者たちが攻撃を躊躇しているようなら、ダメージが入った段階で戦闘終了としてもかまいません)。そのまま警察などを呼べば、ストーカー規制法や傷害の現行犯などで逮捕されることでしょう。警察の事情聴取などはあるかもしれませんが、少なくとも付きまとっていたストーカーは逮捕され、麻希も一息ついている様子を見せます。
  なお、誤ってストーカーの男を殺してしまった探索者は殺人犯として逮捕されシナリオに参加できなくなってしまいますので、KPはダメージに応じてストーカーの男の耐久力を上限までの範囲で最大限調節してください。

9.夕食の誘い
 肝付が逮捕されたニュースは地方新聞で取り上げられ、凶器を持った男を通りすがりの通行人らが現行犯で取り押さえたと報道されています。警察官PCや探偵PCが居れば、彼らについて触れても良いでしょう。この事件の解決後、お礼をかねて秋月家から夕食の誘いがきます。KPは探索者の性格などを見て有効だと判断する手段で夕食に誘い出しましょう。千草が料理教室の講師であることや、秋月麻希の人懐っこい性格を利用するとスムーズに事が進むかと思います。
 秋月家は公団の一室であり、2DKとやや狭いものの二人暮らしには十分な広さとなっています。千草は料理教室の生徒を家に招いて食事をとることもあるので、ダイニングのテーブルは大きめで探索者たちが食事をとるスペースも十分にあります。ダイニングの調度品は品の良いものが並べられており、棚にはインテリアの小物とともに料理のレシピ本やアルバムといった大型の本が納められていることがわかります。ダイニングは二つの部屋と繋がっており、[MAKI’s ROOM]とプレートに書かれた扉は閉められていますが、もう一方は扉が開け放たれています。ただし、扉が開いているほうも電気が消えているため、中の様子をうかがい知ることはできません。
イタリアン.jpg
 探索者たちが秋月家に到着したタイミングではまだ千草が料理中であり、出来上がるまでの間に麻希と会話をする時間が多少与えられます。探索者たちが麻希に尋ねそうなこととしては彼女たち自身のことや父親のことでしょう。秋月親子の情報はNPC紹介を見ていただくとして、父親に関して麻希が知っていることを以下に書いておきます。

〇父親について
 自分が生まれてすぐ交通事故で死んでしまったと千草は彼女に伝えています。彼女が父親に関して聞かされていることは殆どないため、父親のことを聞かれてもあまり答えられませんが、命日が自分の誕生日と同じであるということは知っています。
 写真なども極度の写真嫌いであったため一枚も残っていないと聞かされています。墓参りにも行ったことがなく、これについても宗教上の理由でと麻希に説明しています。父親の影がなさすぎることを子供ながら不思議には思っていましたが、母親が精神を病んでいることについて知っている麻希は、親を気遣って父親のことを聞かないようにしてきました。

 2,3会話をした後に食事は出来上がります。一見して本格的なイタリアンの料理が食卓に並ぶと、麻希が「ちょっと待ってて」と探索者たちに告げ、母親から渡されたおかずの入った皿を持って電気が消えた部屋へと入っていきます。その際麻希が電気をつけるので、今まで見えなかったその部屋の一部が目に入ります。
 ダイニングからはベッドの端と■仏壇が見え、麻希はその仏壇にお皿を供えるとすぐ戻ってきます。探索者が仏壇のことを尋ねれば、麻希があれは父親のものであると話してくれるでしょう。
※なお、麻希が入っていった部屋は千草が私室として使っている部屋です。
■仏壇
 黒を基調としたやや小さめの仏壇で、遠目から見ても仏壇におかしな点は見られません。ダイニングから〈目星〉を行う場合、距離があるので追加で〈アイデア〉に成功することによって、位牌やロウソクなどの仏具はあるものの、故人の写真などは見当たらないということだけがわかります。
 麻希が戻ってくれば、食事が始まります。世間話や、探索者の中に知人が居れば共通の話題で夕食の場は穏やかに流れていきます。千草に父親のことを尋ねれば、麻希が知っているような内容を話すか言い淀み、そのうちにやんわりと麻希から制されることでしょう。最も、千草自身はそれほど気分を害していませんし、食卓の雰囲気が悪くなる、ということもありません。

10.蘇る悪夢
 夕食の途中、麻希が「あっ」と何かを思い出したように自分の部屋に向かうと、何やらラッピングされたビンのようなものをテーブル上に置きます。
「実は私、今日二十歳になったんだ~。これは、自分への誕生日プレゼントのつもりで買ったんだけど、皆にもあげるね。」
そう言いながら中身を取り出すと、ワインボトルが顔を出します。〈知識〉などの適当な技能に成功すれば、大学生が飲む分にはちょっと高いが、口当たりのやわらかな飲みやすいワインであることがわかるでしょう。麻希は笑顔を浮かべながら、探索者たちの中でお酒が飲める人が居れば一緒に飲もうと誘いの言葉をかけてきます(なお、この間千草はあっけにとられたように硬直しています)。
飲むと答えた探索者たちの人数を数えてグラスを取りに向かう麻希ですが、その途中で母親に手首を掴まれたかと思うと、不意に母親からビンタをくらいます(〈こぶし〉で判定、ダメージはなしだが、成功するとしばらく手の跡が赤く残る)。バシッという痛々しい音が耳に刺さるでしょう。
「酒なんか飲むんじゃないって前に言ったでしょう!」
 千草がそれまでの落ち着いた様子とはうって変わってヒステリックに叫びます。麻希は突然のことに驚きながら「どうしたの、突然」と言い返しはするものの、母親の剣幕に押されて涙を流すことも忘れ、その場に立ち尽くします。端から見ても千草の態度は行き過ぎであることは分かるでしょう。秋月千草と面識のある探索者も、このような千草の姿は見たことがありません。〈心理学〉に成功すれば、千草の様子からは恐れや恐怖といった感情が読み取れます。また、千草に対する〈精神分析〉に成功すれば、彼女の態度がなんらかの精神的な病に起因するものではないかという予測が立ちます(クリティカルが出れば、千草は酒に対する強いトラウマを抱えていることがわかります)。
 いくらか一方的に叫んだ後千草は自室に閉じこもってしまい、ダイニングには麻希と探索者たちだけが残ります。涙のにじむ目を袖でこすりながら麻希は探索者たちに詫び、今日はもう帰ってくれるように頼みます。ワインのボトルも探索者の誰かに持って帰ってもらうよう頼むでしょう。先ほどの千草のことを尋ねたり〈精神分析〉の結果を伝えれば、以前母親が精神科にかかっていたことを教えてくれます。なお、彼女は千草の酒に対するトラウマに関しては何も知らないため、それに関して聞かれても答えることはできません(以前から酒は飲むべきでないと言われていたことは事実ですが、未成年飲酒のことを指しているのだろうと思っていました)。


11.日常に入る亀裂(インターバル)

 このパートでは再び新しいシナリオの導入が始まるような形となります(事実上、自由な探索が始まる12.交わる線までがシナリオ全体の導入です)。秋月家における夕食から一週間、探索者たちはそれぞれの日常を過ごします。この間の行動宣言は広く認められるべきですが、まだ神話的事件が起こっているというわけではないので、処理は簡潔に行うようにすべきでしょう。KPは以下の文章を参考に、再びストーリーに動きがあるまでの日常を簡潔に描写してください。

〇警察官PC
 あの夕食から5日後、探索者は連続失踪事件の合同捜査チームに編入されることになります。なんでも、隣町で起きていた不可解な失踪事件がPCの所属する管轄である矢口町においても起こるようになったとのことです。死体があるというわけではないのですが、一帯における失踪者が毎日一人というハイペースで増えており、偶然と説明するにはあまりに件数が多すぎるため、事件性があるとして捜査チームが発足されました。しかし、失踪者の年齢や性別などはバラバラで目撃者も皆無とあって、捜査は難航しています。また隣町の警察官は矢口町警察署との合同調査に非協力的であり、それに応じて矢口町の警察官はもっぱら書類整理などの作業が中心となっています。
〇友人・教授などのPC
 練習を続けていた大会も終わり、ようやく時間の取れるようになった麻希から夕食後の千草の様子を聞くことができます。次の日千草は麻希に対して謝り、「昨晩取り乱したのは昔酒を飲んだ際の悪い思い出が蘇って精神が不安定になったからで、自分から呼んでおいてあのようなことになってしまったことに対していつか直接謝りたい」と言っていたことを伝えます。「せっかくの誕生日だったっていうのに、あれじゃあアンハッピーバースデイだよ」と、麻希は冗談めかして言うことでしょう。また、日中も彼女はしきりに付近を気にする様子を見せ、尋ねられればストーカーは捕まったはずなのに、未だあの誰かに見張られている感覚が続いているどころか、むしろ酷くなっているような気がするということを話します。
〇探偵PC
 秋月麻希に付きまとう肝付汚太郎を捕まえてから5日後、麻希から直接依頼が舞い込んできます。なんでも、ストーカーは捕まったというのに依然として誰かに見られているような感覚を感じるため、他の誰かにもストーキングをされているのであれば、その人物を突き止めてほしいというものです。しかし、いくら調査を進めても以前のようなストーカーは影も形も見つかりません。

12.交わる線
 インターバル終了後一日目の午前中、探索者たちは麻希に呼ばれ、近所のカフェに集まります。
カフェ.jpg
 話の内容は概ねインターバル中に友人・教授などのPCに対して話していたような内容で、8.逮捕劇の時自分を助けてくれた探索者たちを頼って相談しようとしたのです。また、麻希は一週間前の夕食のことを謝り、母親も時間が合う時に皆さんに謝りたいと言っていたということを伝えます。
 探索者たちが麻希に対して何か聞きたいことがあれば、このシーンで済ませてしまいましょう。聞きたいことが尽きたタイミングで、警察官PCの元に、同僚の警官から一つの連絡が入ります。それは、麻希のストーカーとして逮捕され、治療を受けていたストーカーの男が4階にある病室から抜け出したが、病室前の監視カメラにも姿が映っておらず行方が全くわからないとの情報です。
※ヨグ=ソトースの娘が病室の窓から侵入し、ストーカーの男を連れ去ったのです。ヨグ=ソトースの娘が不可視化能力を持っていることの伏線でもあります。
 探索者たちと麻希が喫茶店を出るタイミングで、麻希が大きく身震いをし、小さく悲鳴を上げます。彼女は酷い震えによってその場に立ち尽くし、動くことができなくなってしまいます。また、このタイミングで探索者たちは、喫茶店の敷地のちょうど建物の陰になっているところから、「ドサッ」という、何か相当重いものが地面に落ちた音が聞こえてきたことに気が付きます。喫茶店の裏手には広い花壇が設置され、色とりどりの花々やハーブが育てられていますが、その中央部に明らかに不自然な穴が掘られているのを発見します。辺りに足跡などは一切ありませんが、掘り返した土の跡は周りに確認できます。その穴を覗くと宣言があれば、以下の描写を始めてください。

その穴の中には、先ほどの落下音の原因が入っていた。それを見れば、先ほどの音があれだけ大きかったこともうなずける。
深さ2mほどある穴の中には、色白の、太った男性が、足を上にして、首と手足をあらぬ方向に曲げながら鎮座していた。その恰好は球体関節の人形かと見まがうほどの、おおよそ人間が取り得るべくもない体勢であり、決して色白という訳ではなく、もはや心臓から送り出される血が全身に行き渡っていないことが理解させられてしまう。
何よりも異様なのはその首である。太い体型から余計に目立つのであるが、死体の首は、どれほど強烈な力で締め上げられたのか、手首ほどの細さに圧縮されているのだ。
そして、落ち着いてみれば気が付くことだろう。視線を下げたその先にある死体の顔は……一週間前に見た、あのストーカーの顔だ!【1/1d4のSANチェック】

※麻希に正気度というステータスはありませんが、SANチェックのダイスロールは行ってください(自動成功扱いです)。

 死体は病院服を着ていますが、あまり着衣の乱れはありません。死体の顔に対して〈心理学〉を行えば、口が大きく開かれた死体の表情は驚きに満ち溢れており、わけもわからぬまま殺されたのであろうことが推察できます。
 死体を調べようと穴に近づくと、死体に大きな火ぶくれができ始め、チリチリと何かが焦げるような音がするとともに病院服がくすぶりだしたかと思うと、突然死体が炎上し始めます。〈アイデア〉などの適当な技能に成功すれば、周囲に火元がなく、その燃え方から、この火は体の内側から発生したように感じます。この炎は数十秒で死体を焼き尽くし、穴の中に残るのは骨と、穴の中に多少付着した■黒いゼラチン質の粘液だけです。突如として死体が燃え始めるという、通常起こり得ない異常な事態に遭遇した探索者たちは、追加で【1/1d3のSANチェック】を行います。
※ヨグ=ソトースの娘の《死の呪文》によるものです。黒いゼラチン質の液体が炎に耐性を持つことの伏線でもあります。
■黒いゼラチン質の粘液
 触ってみれば、多少の弾力性があることを確認できます。臭いを嗅いでみれば、どこか下水のような臭みを感じることでしょう(普段下水道の中に潜伏していたためです)。〈化学〉に成功すれば、自分の知っている既知のどの物質にもこのような性質は当てはまらないことが判明します。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これは地球外からやって来た生命体の血液であり、身体を物理的に保護する役割があることに気が付きます。

 探索者たちはこのイベントが終わったタイミングにおいて、どこからともなく話しかける、酷く聞き取りづらいしゃがれ声を聞きとります。内容は以下です。

「私は地獄から這いあがった
これは復讐の始まりに過ぎない
私は罰を与える
過去の罪を悔いろ」


 POW*1ロールに成功すれば(麻希もダイスロールは行うが自動成功)、喫茶店の屋根の上に、身の毛もよだつような恐ろしい悪寒を感じます(悪寒を感じただけの場合SANチェックは行わない)。ヨグ=ソトースの娘はすぐに去ってしまいますが、POWロールに成功した探索者は、屋根のふちに黒い粘液がべっとりついていることに気が付きます。
 麻希は先ほどの震えが尋常じゃないほどに悪化しており、〈精神分析〉に成功するか、数分間優しく話しかけるかしなければ、自力でその場を離れることすらかないません。
※彼女はその高いPOWと不完全なテレパシー能力によって、ヨグ=ソトースの娘が向ける強力な復讐心を感じ取ったのです。落ち着きを取り戻した後彼女から話を聞けば、いつも感じていたストーカーの視線に似たものに加え、体に刺さるような強い憎悪を感じたと話してくれるでしょう。それを探索者に伝えると、とうとう耐え切れなくなった麻希は
「私、何もしてないのにどうして……」
と泣き出してしまいます。彼女にどう声をかけるかは探索者たち次第です。
 シナリオ上ではここで初めて連続失踪・殺人事件と彼女の「ストーカー」被害が実際に結びつくことになります。ここで探索者たちが合流することを想定していますが、もし合流がなされなくとも、被害者が増えるうち二つの事件の関連性には気が付くことでしょう(もし気が付かないようなら、〈アイデア〉成功でストーカー被害と失踪事件の始まった時期が同じであることを気づかせてください)。

13.復讐劇
 KP向けにこれ以降起こる出来事の真相と、シナリオ上の流れを説明します。矢口町とその隣町で起きていた連続失踪事件は、20年前秋月千草が殺したと思っていた「ヨグ=ソトースの娘」によって引き起こされています。この世ならざる存在の姿を見て発狂し、狂気に陥った秋月千草によって「彼女」は数分間にわたり首を絞め上げられましたが、その凄まじい生命力によって死にかけながらも生存していたのです。救急車によって運ばれた後NICで死亡が確認されましたが、それは神話的存在に体組織が近いため、最新の医療機器が役に立たなかったことが原因です。
 死産とされた「彼女」はそのまま火葬されますが、外なる神の血を色濃く受け継ぐ「彼女」の体は防衛反応によって分泌された火に耐性を持つ血液によって守られ、火葬場の炎によって燃え尽きることなく、恐怖した担当者らの手によって共同墓地にある巨木の根元付近に樹木葬と称してそのまま埋葬されました。しかし、命が尽きることこそなかったとはいえ、ヨグ=ソトースの娘は甚大な被害を受けました。故に、しばらくは地中で体力を回復することに専念せざるを得ず、外に出て活動できるようになるまで回復するのに20年もの月日がかかったのです。
 以下は、シナリオ中におけるヨグ=ソトースの娘の行動と、それに応じて発生する麻希との共鳴現象に関しての記述です。
・シナリオ開始からインターバルまでの間
 シナリオ開始一か月ほど前、地中に埋められて約20年が経過し、ようやくいくらか力を回復した「彼女」は千草が共同墓地へとやって来た際に復讐心を奮い立たせ、埋葬された墓から這い出ることに成功します。しかし、地中から這い出たとはいえ生まれて間もなく殺されかけ、地中にいた間は肉体の修復と生命維持に注力していたため、ヨグ=ソトースの娘は未成長のままでした。そのため、地上に出てからしばらくは夜間に人間を襲い、その肉体を喰らうことで急速に成長していく日々が続きます。これが、秋月親子の住む矢口町の隣町で起きた連続失踪事件の真相です。通常彼女は不可視の存在ですが、食事してしばらくの間は「彼女」の姿が見えてしまうため、一晩につき一人捕まえた後は下水道に潜り、ゆっくりと捕食していました。
 「彼女」が成長するにつれて姉妹である秋月麻希の身に共鳴現象(不完全なテレパシーの受信による現象)が起き、「彼女」が地上で活動を行う間(通常麻希が家に帰る21:00~21:15)、「誰かに見張られているような感覚」を覚えるようになります。
・インターバル(10.日常に入る亀裂)の間
 ある程度成長した「彼女」は自らの復讐のため、唯一名前を知っている母親の名前を出し、居場所を尋問してから獲物を殺すようになります。娘の麻希が比較的有名だったことが災いしてすぐに母親の居場所と最も憎む相手の名前は判明し、「彼女」はまっすぐ矢口町へと、人を喰らいながら移動し始めました。これが、隣町から矢口町に向かって行方不明者の失踪場所が移動している理由です。またこの期間中、ヨグ=ソトースの娘は麻希を観察するため日中にも活動するようになっており、この時「彼女」が目撃した麻希の友人が後の殺害対象になっています。
麻希の方も今まで以上に強い共鳴現象のために、「周囲に誰かが居る気配」をだんだん強く感じるようになり、今まで夜間だけだったのが時折日中でも起こるようになります。
・インターバル終了後一日目(探索再開のタイミング)から
 肉体的には不十分ながらも自分の力を十分発揮できるまで成長し、秋月麻希の動向を掴んだヨグ=ソトースの娘は、ついに復讐を開始します。「彼女」はまず秋月親子を精神的に追い詰めるとともに、揺さぶりをかけることで過去の罪を思い起こさせるため、かつて自分の受けた仕打ちと同じ方法で「秋月麻希と親しい人間」(「麻希がこの一週間で会っていた人物」)を殺害します。自分の受けた仕打ちとは即ち、絞殺、焼殺、生き埋めです。最終的には千草を殺害し、精神に極限まで消耗した(MPを減らした) 秋月麻希に対して《精神交換》を仕掛け、自分の体を取り戻そうとしているのです。
 麻希との共鳴現象は最高潮に達し、ヨグ=ソトースの娘としては不完全な麻希の身体でも、常時ヨグ=ソトースの娘の気配と恨み、妬み、苦しみ、復讐心といった負の感情を感じることになります。

14.タイムスケジュール
 探索者がシナリオ中自由に活動できるのは、インターバル終了後一日目の午後からです。その間、シナリオ中では様々な場所でイベントが進行・変化していきます。KPは探索者の行動の時間消費を大まかに勘案しながら、以下のタイムスケジュールに合わせて裁定を行ってください。なお、NPCの行動はあくまで探索者の影響を考慮しない通常時のものであり、実際の行動は変化することでしょう。
 明確に二人の身に危機が迫っていることがわかると、探索者は二人を守ろうとして秋月家に釘付けになるなど、行動が制限されてしまうかもしれません。探索者たちが秋月親子に情報を渡さないのであれば仕方ありませんが、秋月親子が状況を把握した場合には、KPは彼女たちがなるべく探索者たちに同行するよう差し向けるべきでしょう。家の中で待ち受けようとも、何の手立てもなしにヨグ=ソトースの娘を撃退することなど出来ないのですから(精々不意打ちを防ぐ程度でしょう)、共に探索を行っても同じはずです。
〇インターバル終了後一日目
午前
・麻希は11.交わる線において探索者たちと行動を共にする
・千草は料理教室にいる
午後
・秋月麻希の大学の友人木谷理絵が絞殺される
・秋月麻希は探索者と別れた後、特に連れ出されなければ帰宅
・千草は料理教室にいるが、夜前には帰宅
〇インターバル終了後二日目
午前
・秋月麻希の高校時代からの友人樫井奈緒が焼殺される
・(麻希の友人が殺害されたことを知らない場合)麻希は大学に、千草は共同墓地に行き、ヨグ=ソトースの娘が這い出した穴を発見する
・(麻希の友人が殺害されたことを知っている場合)二人とも家に居る
午後
・秋月麻希の幼馴染長月涼介が生き埋めにされる
・二人とも家に居る

・麻希の記憶が既に最終段階まで戻っている場合、秋月千草がヨグ=ソトースの娘に襲撃される
〇インターバル終了後三日目
午前
・午前終わりまでに探索者たちが麻希の記憶を取り戻せなかった場合、午前中の正午近くに千草が襲撃される
午前・午後共通
・千草生存時秋月親子は家の中で動かないが、千草死亡時麻希は自室で引きこもってしまう

・遅くとも夜までにヨグ=ソトースの娘との最終決戦が行われる

15.警察による捜査
 警察も独自にこの連続行方不明事件に関して捜査しており、警察官PCも隣町との合同捜査本部に加わります。とはいえ、主だった捜査は既に数週間かけて捜査を行っていた隣町の警察官を主体として行われており、矢口町の警察官は書類整理などが中心であまり活発な捜査を行ってはいません。
 捜査本部の情報を〈図書館〉で調べることにより◆過去の失踪事件の情報を詳しく調べることが出来るほか、矢口町内で殺人事件が発生して以降は、望むのであれば死体の検死に立ち会うことも可能です。また、捜査に重大な進展があった場合は、直接連絡が入ることもあるでしょう(KPはこれを使って探索の進展具合に応じ、情報を出すことも可能です)。
◆過去の失踪事件の情報(〈図書館〉成功で数時間かけて情報取得、失敗時は半日経過)
 隣町でここ一か月に失踪した人間の個人情報を含めたファイルに加え、最終目撃地点など捜査に必要な情報が文書として残されています。文書ファイルを見る限り、隣町警察署は失踪位置がはっきりしない現場の検証よりも、もっぱら聞き込み調査に力を入れて捜査を行っているということがわかります。しかし、隣町警察署はあまり人員に余裕があるわけではなく、これだけハイペースで失踪者が現れていることも相まって捜査がおざなりになっているようで、聞き込みの対象も失踪者の親族といったかなり狭い範囲に絞られていることがわかります。
※十分な聞き込み捜査が行われていれば、失踪時間が夜間に集中していることがわかっていたでしょう。探索者が手分けして独自に聞き込みを行えば数時間でこの情報は得られますし、クリティカル情報として与えてもいいでしょう。
 調べた結果としては、言われていた通り40人近く居る失踪者のデータに規則性はあまりなく、共通することと言えばこれほど異様なハイペースで失踪が繰り返されているにもかかわらず、事件性のある証言や目撃情報が全くないことです。規則性はないかと疑って〈アイデア〉に成功すれば、強いて言うのであれば失踪者は子供と年寄りが少なく、家に居た人間が突然蒸発するというよりは、通学・出勤したきり帰ってこないというケースが多いことがわかります。
もし技能が失敗した場合、時間経過の途中で一部情報を開示するなどして、情報待ちで探索が滞らないように工夫しましょう。
この資料を読んで〈アイデア〉ロールに成功すれば、失踪者の最終目撃場所を地図上で確認してみると、当初隣町では全く不規則に失踪者が出ていたものの、突然矢口町のほうに向かって直線的に移動し始めていることに気が付けます。このロールは情報を共有した探索者も行えます。
 また、警察署には◆ストーカーの男の事情聴取記録や◆汚物ばら撒き事件に対する住民からの被害届なども保管されています。これらについては〈図書館〉成功で即座に、失敗でも数十分~一時間で見つかるでしょう。
◆ストーカーの男の事情聴取記録
 ストーカーの男は供述では一年前からストーキングをしているようだが、あくまで彼女を見守っているだけで家の中まで見張ってはいないなど、麻希の訴えとは異なる供述をしていることが確認できます。
◆汚物ばら撒き事件に対する住民からの被害届
 ここ一週間ほど矢口町内で夜から明け方にかけて道路上に汚物を巻いている人間が居るらしいという内容で、通常の洗剤ではなかなか汚れが落ちず、強力な洗剤を使って溶かさないと汚れとべたつきが落ちず困っているという内容の訴えです。汚物の発見場所の情報も載っていますが、失踪事件の情報を調べた上で〈アイデア〉に成功すると、失踪場所の付近にこの汚れが残されていることに気が付きます。
◆黒い粘液の鑑識結果
 探索者はこの黒い粘液を怪しみ、鑑識に回す可能性も高いでしょう。しかし、20年前同様、警察の擁する最新機器を用いてもこの物質を特定することはかないません。こういったものは最終的に担当者がさじを投げてしまえば「地球外の物質であり電子機器では判別不可能なため詳細不明」として終わらせてしまうかもしれませんが、もし探索者が〈幸運〉に成功すれば、一日ほど時間をかけた後職務熱心な担当者が膨大な検査結果をまとめてくれるでしょう。12.交わる線で屋根上にある大量のサンプルを手に入れていれば、担当者の気を強く引いたということで〈幸運〉に+30%の補正が入ります。
 検査結果が出た後は捜査本部のほうに分厚い報告書が提出されます。〈図書館〉に成功すれば、一時間ほどでそれらの資料からいくらかの有益な情報を手に入れることができます。紙束状なので複数人で手分けをすれば、〈図書館〉の成功者の数だけ時間を短縮することができるでしょう。
・黒い粘液に対して様々な検査を行ったところ、生体反応に似た結果が見られた。
・その結果を分析した結果、人の血液に近い特徴を持つとの結論を得た。
・DNA鑑定を行ったところ、このDNAは三重らせん構造を持ち、塩基配列は人に近い類似性を示しているが、その構造は全く既知の生物には全く当てはまらない。
・ 強い衝撃を与えると瞬間的に凝固する性質を持つ。
・ サンプルを希硫酸と水酸化ナトリウム水溶液に浸したところじんわりと溶けていった。

16.復讐の名のもとに
 ヨグ=ソトースの娘が麻希を精神的に追い詰めるため殺したNPCの死体は人通りの多いところで放置されるため、殺害後すぐに見つかります。死体発見後は一定時間現場検証が行われ、警察と繋がりのある探索者が立ち会おうとすれば現場を調べることは容易でしょう。なお、現場検証が終わった後は報告書がまとめられて保管されるため、半日経った事件の内容に関しては警察署で入手することが可能です。
 麻希が被害者の名前を聞けば、そのNPCがつい最近会った友人であるということを説明してくれます。直接名前を出せば、探索者たちが麻希に友人の死を伏せてもことあるごとに伏せている事実を聞き出そうとするでしょう。麻希が友人の死を知ればあまりの事実に沈鬱な表情を浮かべたまま、言葉を失います。
 また、探索者たちが麻希に現場に残されたメッセージの内容を相談するのであれば、このメッセージはいったい誰に向けられたものなのかと問いかけるなど、17.失われた記憶のトリガーを引くように誘導してもいいでしょう。このメッセージが麻希に向けられたものであることに彼女が気付けば、彼女の失われた記憶の一部が呼び覚まされます。各事件現場の情報は以下の通りです。
■木谷理絵
 彼女は麻希と同じ大学に通う友人です。スーパーに行った際、ヨグ=ソトースの娘によってトイレに誘き出され、殺害されました。
・直接の死因は絞殺による窒息死(〈医学〉による情報)
・体は首を太い紐のようなもので猛烈に強く締め上げられており、首の直径が5㎝ほどになってしまっている
・他に外傷は見られない(〈目星〉による情報)
・死体の発見場所は矢口町内にあるスーパーのトイレ内だが、トイレ前の防犯カメラには犯行に使われたと思われる凶器を持った人物は映っておらず、目撃者も皆無
・現場には黒いゼラチン質の粘液による汚れで以下のようなメッセージが残されている
「私は今も地獄の苦しみの中に居る
お前の犯した罪を思い出せ」

私は今も地獄の苦しみ.png
■樫井菜緒
 彼女は高校時代からの麻希の友人です。バイト先から帰る途中に襲われ、数分と経たずに身を焼かれました。
・詳細な死因は不明だが、遺体は高温で焼かれている(〈医学〉による情報)
・現場には骨しか残っておらず、遺留品のバッグから身元を推定(〈目星〉による情報)
・バイト先から自宅までは10数分の場所であり、退勤から死体発見までの時間が極めて短く、状況に不明点が多い
・骨の発見場所は帰り道にほど近い一般道
・現場近くのブロック塀に黒いゼラチン質の粘液による汚れで以下のようなメッセージが残されている
「何故お前が生きているんだ
お前が死ぬべきだったのに」

何故おまえが生きているんだ.png
■長月涼介
 彼女は麻希の幼馴染です。友人との待ち合わせ場所に向かう途中で襲われ、体の自由を奪われたまま生き埋めにされました。
・死因は生き埋めによる窒息死(〈医学〉による情報)
・死体の発見場所は民家の庭
・第一発見者は家主で、不審に思って不自然に掘り返された場所があったため、掘り返したところ死体が発見された
・死体と穴の中には生き埋めにされた後もがいた跡がある(〈目星〉による情報)
・穴の中には少量の黒いタールのような液体(同上)
・民家の内側のブロック塀には黒いゼラチン質の粘液による汚れで以下のようなメッセージが残されている
「下準備は次が最後だ
私は代償を払ってでも復讐を選ぶ
全ては失ったものを取り戻すために」

下準備は次で最後だ.png

17.失われた記憶
 現在大学生として生きている「秋月麻希」の精神は、本来ヨグ=ソトースの娘として生まれてきた個体の精神です。ヨグ=ソトースの娘が生後間もなく千草に絞め殺されかけた際、無意識に《精神交換》を行ったことで、オリジナルの秋月麻希の身体を乗っ取ったのです。「秋月麻希」はそのことは覚えておらず、自身がかつてヨグ=ソトースの娘であったことも記憶にありませんが、シナリオ中神話的事象や秘められた過去の事実に触れていく中で、自らの過去を少しずつ思い出していきます。そのトリガーとなるのは以下の四つです。
〇殺人現場に残るメッセージ群から自分が復讐の対象であると気づいた時(第一段階)
 自分に向けられた鋭い悪意に、麻希の記憶がわずかに呼び覚まされます。とはいえ、思い出したということを明確に感じるわけではなく、息が詰まるような苦しさに襲われるといったものです。記憶が戻ったとき、麻希はその場に倒れこみ、喉を押さえて苦しがります。この症状は30秒ほど続いた後に止み、〈医学〉などを使用すれば、この症状は医学的原因により引き起こされたものではないことがわかるでしょう。〈精神分析〉に成功すれば、この症状が心因性のものである可能性に気付きます(クリティカルが出れば、過去のある出来事が原因であることまでわかっていいでしょう)。
※過去の記憶が断片的に蘇ったものです。ニアミスのイベントが先に起こった場合、このイベントは省略しましょう。
〇ニアミスのイベントに遭遇した時(第二段階)
 ヨグ=ソトースの娘の姿を目撃した麻希は悲鳴を上げて倒れ伏してしまいます。発狂などの結果ではないため〈精神分析〉や〈医学〉によってすぐ意識が回復することはありません。この時、彼女は20年前のビジョンを見ることになります。自分に伸びる二本の腕、息苦しい中で黒く染まっていく視界、そしてビジョンの最後は自分の魂が抜けていくような感覚と共に終わります。
 これは紛れもなく彼女の精神に宿る記憶です。
〇千草の告白の内容を知ったとき(第三段階)
 このシーンは麻希と知り合いのPCの見せ場である部分なので、なるべく彼らと二人きりないし三人きりの状況でこのイベントを起こしましょう。
 千草の告白で入手した会話の内容を、おそらく探索者たちは麻希に伏せることでしょう。麻希はそのことを不審に思い、知り合いのPCと二人きりになったタイミングなどでその内容を聞き出そうとします。
おそらく探索者たちもすぐ話すことはためらうことでしょう。すると、彼女は「もしかして、お母さんのこと?」と尋ねてきます。彼女は千草が過去に精神的な病を抱えていたことは知っていますが、その原因までは知らないので、彼女としてもかねてより母親の過去を知りたがっていたのです(もちろん、興味本位などではなく、自分が何かしてあげられないかという純粋な思いからですが)。彼女は探索者にその内容を話すよう強要はしませんが、感情に強く訴えかけます。実際に彼女に伝えるかどうかの最終的な判断は、探索者に委ねましょう。
 もし探索者が全ての真実を彼女に伝えると、「そんなことが……お母さんが私に話さなかったのは、そういうことだったんですね……。じゃあ、あの怪物は……。」と呟き、深刻そうな表情を見せます。ここで、〈心理学〉ロールを要求し、成功すれば彼女が何かほかのことを考えている様子であることがわかります。また〈精神分析〉に成功すれば、伝えた内容に対する反応として、彼女の様子はどこか落ち着いていることがわかるでしょう。
※封印された過去の記憶が徐々に戻りつつあり、依然見たビジョンがまるで自分の身にかつて起こったことのように、妙な現実味を帯び始めていることに麻希が違和感を覚えつつあるのです。また、ヨグ=ソトースの娘という神話生物との接触は、絶妙なバランスの上に成り立つ秋月麻希の人間性を徐々に神話生物寄りへと傾けつつあります。そのため、神話的事象という非現実的な現象を平然と受け入れられるようになりつつあるのです。
 少しの沈黙の後、不意に麻希が「か、紙とペン貸して、早く!」と言いだし、以下のようなアルファベットの文を麻希が書きつけます。
《Panta rhei》
ai Tawil at-Uml
kfuu rufhei
jikfkaa reu alfkd
ia ia Azathoth
Azathoth Azathoth jikam
ai Yog-Sothoth zizqa
pantarhei.png

 この文章の意味がなんであるか尋ねても、麻希が答えられることはありません。千草の過去の話を聞いてから頭がズキズキ痛んで、急にこれを書かなきゃいけないという焦燥感を覚えたと話します。
 この文章に対して〈ほかの言語:ギリシア語〉+30、〈博物学〉、〈知識〉/2に成功すれば、内容はわからないものの《Panta rhei》とはギリシア哲学でいうところの「万物流転」を意味していることが分かります(万物流転というのは、要するにこの世に存在する全てのものは絶えず変化して移り変わっており、生成と消滅を繰り返すものであるという意味です)。〈オカルト〉に成功すれば、これは呪文の一種であり、神々を賛美することでその力を借り、特定の何かに対して影響を及ぼそうとするものではないかと推測することが出来ます。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、呪文のすべての内容がわかることでしょう(詳細は下記)。
〇へその緒の発見(第四段階)
 共同墓地における探索を終え、穴の中にあるへその緒を発見して手に取ると、麻希は秘められていた全ての記憶――自分がかつての「ヨグ=ソトースの娘」であり、生後間もなく死にかけた際に《精神交換》を行って先に生まれていた姉(本来の秋月麻希)の体を乗っ取ったこと――を取り戻します。しかし、もはや彼女が驚くことはありません。麻希の中の神話生物としての冷徹さが、自分が生き残るための防衛反応的に、自らの罪の意識や「姉妹」を殺すことに対する抵抗感をかき消しているのです。このため、これ以降秋月麻希に対する〈精神分析〉や〈心理学〉は全て無効になります。
 全てを思い出した後、彼女は墓標たる木の頂を見つめます。そこには何も存在はしていませんが、日中であれば、木の影の先に名状し難い姿を見つけることが出来るでしょう。その場で麻希を監視している「ヨグ=ソトースの娘」は機が熟した(麻希が過去の罪を思い起こした)ことに満足し、つぶれた喉から無理やり押し出したような笑い声を軽く上げ、その場を後にします。
 「彼女」が去った後、麻希は探索者たちに向き直り、落ち着いた様子で「……全部思い出したわ。……それと、さっきの呪文の意味が分かったの。」と話しかけます。ここで、PLには以下の情報が開示されます。
《万物流転》(Panta rhei)…この呪文は5ポイントのPOWを消費することで開始することができる。呪文の文句を集中して詠唱することで任意のMP、POWポイントを捧げることが出来、詠唱者が消費した任意のMP、及びPOW*5の総計+5%(これは最初に消費したPOWの分です)の確率で、地球外の生命体を、その体を構成する分子に5ラウンド(1分)かけて分解することができる。詠唱に失敗しても、ラウンドごとの手番に誰か一人が1ポイント以上のMPないしPOWを費やすことで呪文の詠唱は継続し、費やされたポイント分成功率が加算されていく。この呪文によって消費されたPOWが回復することはない(永久喪失)。
 なお、探索者が本シナリオにおいてこの呪文を使う際、秋月麻希が近くに居れば、呪文発動時におけるPOWの消費は彼女が受け持ちます(彼女が言葉を発せない状況下でも、呪文の詠唱開始時のPOW消費だけは行えます)。

呪文の文句の日本語読みは以下
あい たうぃる あと うむる
くふう るふえい
じくふかあ れう あるふくど
いあ! いあ! あざとーす!
あざとーす、あざとーす、じかむ
あい!よぐ・そとと!じずくぁ!

 また、シナリオ終了時まで一時的に麻希のヨグ=ソトースに関する情報に対しての〈クトゥルフ神話〉技能が99%に固定され、ヨグ=ソトースに関連する全ての呪文を取得します。
「あの時頭に浮かんだのは、あいつに対する対抗手段だったのね。死にたくないっていう思いが神様に通じたのかも。」
「今あいつは消耗してるみたい。多分菜緒(涼介)を殺した際に使った力を回復するから、しばらくは姿を見せないと思う。」
「『最後はお前だ』ってあいつは言ってる。多分次は直接私を狙うんだろうね。」
そこまで言うと、彼女は今までに見せたことのない鋭い視線で探索者たちを見つめて続けます。
「私……死にたくない。それに、あいつを野放しにしてたら、この先もっとひどいことが起こると思うの。」
「お願い。あいつを……殺すために、私に協力して。」

 記憶を取り戻した麻希は以前とは性格が変わったように冷静、あるいは冷酷な様子を見せます。今の彼女はかつての自分の行いが招いた結果であることをすべて理解した上で、自身に復讐心を燃やす姉妹を殺害しようと考えています。なぜなら、それ以外に自分が自分でありながら生きていく方法がないからです。
 探索者たちは今までとは明らかに異なる態度を見せる麻希に対して色々と尋ねるかもしれません。簡易Q&Aは以下の通りです。
・ ヨグ=ソトースの娘に関して…情報や攻撃方法、防御手段といった情報に関しては答えてくれます。
・ ヨグ=ソトースの娘の狙いに関して…麻希も完全には理解しておらず、「わからないけど、多分私を殺そうとしているんじゃないかな。」と答えます。ただ、「菜緒たちを殺したのは……多分、私を精神的に追い詰めるためだと思う。」とも答えます。
※自身もかつて使った《精神交換》に関しては、消耗しているとはいえ彼我のMP差を考えて可能性から排除しているのです(当然この呪文の存在を探索者に知られたくないという意図もあります)。
・ へその緒について…「あんな化物と私が同じ人間に見えるの?」と自分のものであることを否定します。麻希はヨグ=ソトースとの間の一切の関係を否定します。
・ 「取り戻した記憶」とは何か…過去自分が自分が半神であるという事実に関しては「今は答えられない」などと言ってはぐらかします。
最終的に彼女は「終わったら全部話すから……お願いだから、今は聞かないでほしいの。」と言い切って納得させようとすることでしょう。

18.千草の告白
 このイベントは通常二日目以降に起こされるべきイベントでしょう。探索者たちが千草に対して連続殺人事件の詳しい情報(主に殺害方法や残されたメッセージ、探索者たちが実際に遭遇した場合、ヨグ=ソトースの娘の見た目など)を伝えると、「麻希のストーカー被害に関して心当たりがあるので、直接会って伝えたい」と言われます。彼女自身は過去の出来事を思い出し、話すことにためらいがあるのですが、自分の過ちによって娘が危険にさらされている可能性を知って、告白することを決意したのです。ただし、内容が内容であるため、千草は麻希が居ない状態で話すことを望みます。この情報を探索者たちに打ち明けた後は、彼女自身も娘を守るため自分に何かできることはないかと申し出ることでしょう。
 以下の事前文章は一例です。伝えた情報に応じて一部を修正して利用してください。

「ずっと予感はしていたんです。でも、自分の心がそう思うことを拒否していて……。
事件の内容を聞いた時に、この予感が正しかったんだとわかりました。
全ては私が悪いんです。私があの時、あの子を殺したから……。」

 一拍おいて、千草は話を続けます。

「麻希から父親のことを聞きましたか?」
(探索者の答えを待つ)
「あの子は優しいですからね。
あえて聞かないだけで、きっとおかしいとは思っているでしょう。
麻希の父親は……居ないんです。離婚したとか、死んだとかではないんです。」

 千草はうつむきながら、絞り出すようにして話を続けます。

「私が20歳の時……人生で初めてお酒を飲みました。飲み方なんて全く知らなかったもので酷く酔っぱらってしまって、家に帰るまでの記憶をなくしてしまうほどでした。」
「あの子たちを産んだのは、その10か月後です。妊娠には気づかず、産んだのも自宅でした。……心当たりなんて、一つしかありません。」

 うつむいたまま、長い沈黙が続きます(ロールプレイや技能ロールを挟んでもよい)

「(……あなたたちが言っていた、そのままの姿だったんです。)不完全な足が5,6本生えている……もはや奇形児とも呼べないような……およそ人間とは想像もつかないほどの姿でした。」
「私はその時……あの子を殺したんです。どういう精神状態だったのか、今でもよく覚えてませんが……正気を失っていたんだと思います。気が付いたら私はあの子の首を絞めていて……我に帰ったときは、もう殆ど動かない状態でした。」
「自宅で産まれたのですぐに救急車を呼んで……後でNICから、運ばれた時には既に死んでいたと聞かされました。」
「どうせあのままでは生きていけなかったと病院の人には慰められましたが……とにかくもう思い出すのも怖くて、一刻も早く忘れようと、その場であの子の火葬と、共同墓地で葬ってもらうようにお願いしました。」
「その後数年は両親に麻希を預けっぱなしにして、ひたすら精神療法を受けました。
……正気を取り戻したと同時に浮かんできたのは強い後悔でした。」
「医者にはもうあのことは思いださないほうが良いと強く言われました。お墓の場所さえ教えてもらえなかったんです。
でも、後悔の念はずっと消えなくて……仏壇を買って、祈りを捧げ続けていたんです。」

 顔を上げた千草は目に涙を浮かべながら、言葉を紡いでいきます。

「精神が安定した後、精神科医からお墓の場所を教えてもらいました。
でも、私がお墓参りをしていいものかずっとためらいがあって……初めて訪れたのが、ストーカー被害が始まったのと同じちょうど一か月前なんです。
あの子への願いを込めて、ノースポールの鉢植えを持っていって、木の下に埋めて帰りました。」
「願わくば、来世であの子に会って罪滅ぼしがしたいだなんて考えていましたが……結局は、私が精神を癒すためだけの方便でしかありませんよね。
何がどうあろうと、私があの子を殺してしまったんだから……。
それだけでなく、こうして私のせいで麻希にまで辛い思いを味合わせてしまっている……最低な母親です。」
「多分、あの子は私を殺そうとしているんだと思います。
強い怨念を持った霊は人をも殺せるって……何人も殺しているのなら、相当なものなんでしょうね。
私は覚悟が出来ています。でも、どうかあの子だけは……麻希だけは守ってあげたい。
あの子が酷い目に合う理由なんて何もないんです。」
「麻希を守るために、私もあなたたちに協力させてください。」
 千草の発した最後の言葉からは、母親として我が子を守ろうとする強い意志と決意を感じることでしょう。

19.ニアミス
 シナリオ中、探索者たちが矢口町に住んでいる秋月麻希と親しい人物が標的となっていることに気が付けば、その人物を守ろうとするかもしれません。麻希に尋ねれば、ここ一週間に麻希が会った友人三人のうち、生き残っている人の名前を話してくれるでしょう。彼らを守ろうとするか、あるいは遠巻きに見守るかなどの対応如何によって、ヨグ=ソトースの娘と最終決戦前に遭遇するかが決まります。
 ヨグ=ソトースの娘は探索者が見張っていようといまいと、標的が人気のない通りなどに差し掛かった段階で襲い掛かり、その時に合わせた殺害方法で殺そうとします。その手口は鮮やかなものです。探索者たちはなす術もなく、姿の見えない超自然の存在によって守ろうとしていた人物がむざむざと殺されていく様を見て、【1/1d8のSANチェック】を行うことになるでしょう(《イブン=グハジの粉》を常時撒いているとかなら別ですが)。この際の発狂は「極度の恐怖によりその場に立ち尽くしてしまう」で固定です。
 続けて探索者たちは、自分の額に何やらひんやりとした感触を感じます。それは粘着性のある、肥大したイカの触腕のような、弾力性のある太いものです。自分の目の前でぼそぼそと呟き声のようなものが聞こえたかと思うと、探索者たちはその胸の悪くなる腕の持ち主の姿を目撃してしまうことになります。

 目の前に立っていたのは、灰色をした何本もの太いロープがねじり合うようにして胴体の部分を作り、その隙間から覗く数多の目が瞬く、本能が生物であることを否定する異形であった。探索者たちを頭数個分上回る胴体を下から支える10本の太い触手は、今や自分たちの眼前に伸ばされている。そんな非現実的な光景の中、何よりもあなたたちの正気を削り取るのに十分な現実は……うねる触手の中にある、生物学上顔に当たるであろう焼け爛れた部分が、まさしく人間のそれと同じであることだ!

 間近でヨグ=ソトースの娘の真の姿を目撃した探索者は【1d8/3d10のSANチェック】を行い、不可視状態のSANチェックで失った正気度を引いた値分正気度を減少させます。また、ヨグ=ソトースの娘の姿を目撃した麻希は悲鳴を上げて倒れ伏してしまい、失われた記憶の一部が蘇ります。発狂などの結果ではないため〈精神分析〉や〈医学〉によってすぐ意識が回復することはありません(詳しくは17.失われた記憶参照)。この怪物を目の前にすると頭を鈍器で殴られるような激しい頭痛に襲われ、脳内に底の知れない憎悪が流れ込んできます。この時、発狂した探索者は「狂人の洞察力」に成功することで、この時流れ込む激しい憎悪の矛先が、千草以上に麻希に対して向けられていることに気が付きます。
 ヨグ=ソトースの娘は全員に《記憶を曇らせる》の呪文を使おうとしていますが(発狂者は自動成功扱い)、「彼女」が詠唱をしている最中、苦しそうなうめき声を上げると共に灰色の触手から黒い粘液を分泌させ、地面に垂らしていくのを目撃します。呪文の詠唱が完了するまでの猶予は1ラウンドですが、発狂していないPCはその間何か行動宣言があれば許可していいでしょう。物理的に危害を加えようとした場合、「彼女」は自動の発動の《被害をそらす》で防御します(詳しくは22.最終決戦を参照)。
 呪文の詠唱が完了すると、ヨグ=ソトースの娘は逃走します。呪文をかけられた探索者はその場に立ち尽くしてしまい、駆けつけた警察官に要領を得ない証言をした後解放されるでしょう。その場合、後に残されるのは少量の■黒いゼラチン質の粘液と、探索者に与えられる5%の〈クトゥルフ神話〉技能だけです。
■黒いゼラチン質の粘液
 触ってみれば、弾力性があることを確認できます。臭いを嗅いでみれば、どこか下水のような臭みを感じることでしょう(普段下水道の中に潜伏しているためです)。〈化学〉に成功すれば、これが地球上に存在するどの物質とも違うことが判明します。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これは地球外からやって来た生命体に特有の血液であり、身体を保護する役割があることに気が付きます。

20.矢口町内の探索場所
〇メンタルクリニック
 秋月千草が通っていたメンタルクリニックは秋月家から歩いていける距離にあります。精神科医の高井黒尾が一人で切り盛りしている小規模なクリニックで、数年前に通院を止めたとはいえ長年受け持っていた千草のこともよく覚えています。しかし、守秘義務上外部の人間である探索者たちに千草の情報を話そうとはしないでしょう。彼から千草の情報を聞き出すためには交渉技能の他に暴力で脅す、麻希を連れていく、シナリオ上で千草が殺害されたことを伝えるなど、RP上の工夫が必要です。
 彼が知っている内容は探索の進行状況に応じて調節しましょう。千草から過去のことを聞き出せそうにないと判断した場合は、千草が話す内容をここで出してしまって構わないでしょう。加えて彼の場合、精神科医として長年見てきたうえで症状の経過や、ここ数週間精神異常を訴えて訪れる客が増えていることなどを教えてくれます。
・彼女が通院し始めたのは20年前から、5年ほどは重い症状が続いていたが徐々に立ち直り、通院してから15年ほどで薬を飲む必要がないほどに立ち直った。
・最近、また病院を訪れたいという電話を受けていた
・千草は非常に精神的にタフな女性であり、病状の改善経過から精神的な病が再発するというのは、何か過去のトラウマが再発するきっかけがあったのではないかと睨んでいる
・ここ数週間ほど、原因は不明だが酒を飲んでもいないのに数時間の間の記憶が飛んでいるという、似たような症状の患者が急に増えた。
※ヨグ=ソトースの娘の殺害現場は目撃者が居ないのではなく、目撃者の記憶が消されているのです。

〇秋月家
 探索者がこの家を調べるタイミングがあるとすれば、秋月千草がヨグ=ソトースの娘に殺された後や、麻希の了解を得た上でになるでしょう。探索する箇所はあるにはありますが、得られる情報はヒント程度のものが多いです。
■ダイニング
 調理器具や調味料などが充実しているほかは、一般家庭にあるようなものしか置いておりません。刺身包丁(ダメージ1d4+1)なども置いてあるので、武器などを望むのであれば〈目星〉成功で与えてもいいでしょう。
■千草の部屋
 落ち着いた雰囲気の空間です。◆机や◆ベッド、◆本棚代わりにしているカラーボックスなど一般的な家具に混じって、置く場所がないからか◆仏壇が置かれています。
◆机
 引き出しがたくさんついた机です。長く使われているようで、年季を感じます。机の上には筆記用具や料理本、彼女が考案する新たなレシピが書かれたノートが置かれています。引き出しの中には仕事関係の書類などが納められていますが、〈目星〉に成功すれば隠されるようにして入れられていた飲みかけの錠剤(向精神薬)が見つかります。この薬は非常に有名なものなので、〈薬学〉の二倍か〈医学〉に成功すれば中身がわかって良いでしょう。
 唯一鍵のかかった最下段の引き出しの中には、彼女が20年前に封印したままの私物が納められています。〈鍵開け〉かSTR10との対抗に成功して鍵を破壊すれば中を確認することができるでしょう。
 鍵付きの引き出しの中には、昔彼女が通っていた専門学校の学生証や定期券などの私物や、彼女が昔書いていたであろう古い日記が納められています。〈母国語〉に成功すれば、その内容は専門学校時代の千草の日常が書き連ねられているものであることがわかり、日記の最後は20年前のとある日で止まっており、以降が全部白紙であることがわかります。技能成功者の中で〈アイデア〉に成功した探索者は、「恋愛に関する記述は複数あったものの、子供がいるにもかかわらず特定の誰かと交際したという記述が全く見当たらない」ということに気が付きます。
◆ベッド
 少なくとも10年以上は使われているであろう、やや古びたシングルベッドです。〈知識〉に成功すれば、このベッドはセミシングルベッドと呼ばれる、ベッドの中でも最小のサイズのベッドであることがわかります。
◆本棚代わりにしているカラーボックス
 千草の趣味であり職でもある料理関係の本や雑誌が入っています。〈図書館〉に成功すれば料理本はどの本も読みこまれており、時折「麻希が好きな料理」と書かれた付箋や書き込みがあることがわかります。
◆仏壇
 仏壇には位牌が一つ置かれており、その両脇には蝋燭立てなどが置かれる、一見して一般的な仏壇の作りになっています。仏壇を近くで見て〈アイデア〉に成功すれば、位牌が置かれているにもかかわらず、故人の写真が仏壇の付近に見当たらないことがわかります(急な出産だったうえ、死産扱いのためです)。また、位牌を見て〈知識〉ないし〈アイデア〉に成功すれば、通常書かれている没年月日や戒名が位牌に書かれていないことがわかります。裏側を見てみれば、没年月日(秋月麻希の誕生日と同じです)の他「秋月麻衣」と書かれていることを確認できます。これに関して〈オカルト〉に成功すれば、このように位牌に普通の名前を書く場合というのは宗派上の理由や本人の意思の他、死産した子供に戒名を付けず付ける予定だった名前を書いて位牌を作る場合があることがわかります。〈目星〉に成功すれば、仏具などが一式取り揃えられていてどれもかなりの使用感があり、仏壇自体もやや年季が入っているがよく手入れされていることがわかります。
■麻希の部屋
 彼女の変わった趣味趣向が窺える部屋です。小奇麗ではあるもののあまり女性らしさを感じる部屋ではありませんし、爬虫類の図鑑やスポーツ系の雑誌、ラーメンなどのジャンクフード系の情報誌などが本棚に収められていることがわかるでしょう。日記なども机にありますが、日記というよりは日々のトレーニング記録や陸上に関することを中心としたノートで、その他のこととなると時折「練習中白ネコに出会った」などとその日にあった出来事を一言書いている程度です。
 この部屋を調べてもあまり事件に関わりのある情報は出てきませんが、唯一関わりのあるものがあるとして、◆夢日記があります。麻希は通常人間が体験するような「夢」とは少々異なる体験を寝ている間にしています。その内容は普通の人間にとっては変わった夢を見ているなあといった程度にしか思えないでしょうが、クトゥルフ神話に造詣がある人間ならば彼女が常人でないことに気が付くことでしょうし、精神分析医が内容を見れば、通常このような夢を見る患者の精神には解離性障害(いわゆる二重人格)の兆候がみられると分析できるでしょう。
◆夢日記
 麻希が見た夢が日記形式で綴られています。この日記は麻希が見た夢をすぐ忘れてしまうことから、友人に勧められて始めたものです。中身を見てみれば、内容はメルヘンチックなものやおどろおどろしい殺伐としたものといった、いわゆる「変わった夢」の内容ばかりであることに気が付けます。この日記を見たうえで〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、この日記につづられているのは紛れもなくドリームランドの内容であり、おそらくは彼女が無意識下で訪れた際の内容が書かれているのではないかという予測が付きます。〈精神分析〉に成功すれば、麻希の精神に解離性障害(いわゆる二重人格)の兆候が見られることがわかるでしょう。

〇矢口町総合病院
矢口町総合病院.jpg
 肝付汚太郎は逮捕時の怪我と精神的な問題から、しばらくの間矢口町内にある総合病院の一室に入院することになっていました。この病院は総合病院を名乗ってはいるものの旧医療法の基準をギリギリ満たすレベルの規模で、一般に想像されるような広大な敷地を持つ大病院というよりは都内の小中学校と同程度の敷地しかない中病院です。12.交わる線以降にここを訪れると、病院内に下水の臭いが充満していることがわかるほか、病院職員が地面に付いた黒い汚れ(ヨグ=ソトースの娘の血液です)を強力な洗剤で溶かしながら落としている場面に遭遇します。病室のカメラを見ても何も映ってはいませんが、見えない何者かが病院内に入ってきたことを示唆してもいいでしょう。

〇産婦人科
 20年前千草が救急車で運び込まれたのも矢口町にある総合病院でした。高井や千草本人から過去の話を聞くことができれば、当時立ち会った看護師を探し出すことができるでしょう。現在は看護師長として、同じ病院に勤めています。しかし、彼女は20年前の一件を話したがりません。話を聞く限り覚えてはいるようなのですが、思い出したくないといった様子です。〈精神分析〉に成功すれば、千草が運ばれてきた時の出来事がトラウマになっているのではないかということに気が付けます。
 彼女から情報を引き出すためには〈精神分析〉と〈説得〉の複合ロールか、〈説得〉の-20、〈言いくるめ〉の半分に成功する必要があります。ただし、〈精神分析〉の結果を用いたロールプレイのもと交渉系技能を振る場合、マイナス補正を緩和してください。
成功すれば、彼女は断続的に以下の内容を話してくれます。
・彼女の赤ちゃんは、一人は正常だったが、もう一人は顔こそ人間の形を整えていたが、皮膚は黒ずんでおり、できそこないの足が何本も下半身から生えている、明らかな奇形児だった
・NICにすぐ運ばれたが、すぐに死亡が確認されたため、死体安置室に送った
・死体からはうっすらと首元に痣らしきものが確認できたが、千草の子供に対する態度や父親がおらず、妊娠する覚えもないとの話から、医師と相談して死産として扱った
・(クリティカル情報)死体安置室に仰向けに置かれていた幼児の死体が、火葬のため取り出した際うつ伏せになり、位置も移動していた
・付き添い人が誰もいないので自分が立ち会って火葬したが、何度火葬しても黒ずんだその幼児の死体は燃え尽きることがなかった
・恐怖に身を包まれた彼女だったが、千草の希望は共同墓地への移送であったため、葬儀社の手を借りて共同墓地の横に生えている巨木の根元に穴を掘って、樹木葬と称して土葬した
 〈医学〉に成功すれば、人の身体が火葬によって燃え尽きないという事例は火葬場に問題でもなければ通常有りえないことがわかります。彼女にその墓地の場所を聞けば、穴を掘った場所まで教えてくれます。死者を慰めるために数百年前に建てられた、巨木の根本です。

〇共同墓地
 遺骨を一か所にまとめて合祀するタイプの共同墓地です。矢口町総合病院で亡くなった身寄りのない病人も、多くはここに葬られていました。看護師や千草から話を聞いていれば、共同墓地の端にある目的の巨木はすぐに見つかるでしょう。
共同墓地.jpg
 近くまで行けば技能を使うまでもなくわかりますが、根元付近の土が掘り返されており、その中に白い花が半分土に埋もれるようにして咲いていることがわかります。
 穴の中に対する〈目星〉に成功すれば、穴の底に■黒いゼラチン質の粘液がべっとりとついており、その中に■黒いひもを見つけます。〈地質学〉に成功すれば、一か月ほど前にこの穴はでき、掘り返されたのではなく、中に埋まってきた何かが地上に這い出してきたということに気が付けるでしょう。また〈生物学〉に成功すれば、この巨木は病気であるのか葉や実の成長が芳しくないことがわかります。加えて土に埋もれている花がノースポールであり、その花言葉が「冬の足音」「高潔」「清潔」「誠実」そして、「輪廻転生」であることがわかります。
■黒いゼラチン質の粘液
 今まで見てきた中で一番量が多く、全部取り出せばバケツ数杯分になります。触ってみれば、弾力性があることを確認できますが、臭いを嗅いでみても、下水のような臭みを感じることはありません(下水道の中で潜伏する以前のものだからです)。〈目星〉などの技能に成功すれば、所々が乾いていたり固まっており、〈アイデア〉に成功すればこの穴の中の粘液にはかなり古いものが混じっているのではないかということがわかります。また、〈化学〉に成功すれば、これが地球上に存在するどの物質とも違うことが判明します。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これは地球外からやって来た生命体に特有の血液であり、身体を保護する役割があることに気が付きます。

■黒いひも
 全長10数cm、直径1cmほどでY字状になっている紐です。〈目星〉に成功すれば、わずかながら残る焦げ跡を発見できます。〈医学〉に成功すれば、これは人間の臍帯(へその緒)ではないかという予測が付きます。しかし、Y字の臍帯というものは通常の医学的知識をもってしては考えられません。〈アイデア〉に成功すれば、珍しい一卵性双生児の例に似たような事例があったことを思い出します。この臍帯を麻希が手にした時、麻希は自らの過去に関する全ての記憶を取り戻します(17.失われた記憶)。

〇街中での聞き込み
 麻希の父親が居ないことに関しては父親に逃げられたんじゃないかなどといったような眉唾程度の話しか聞けませんが、秋月家の近所関係は比較的良好だったことが窺えるでしょう。また、親子関係にも問題はなく、麻希もちょっと変わったところはあるけれども、いつもニコニコしていて愛嬌があり気配りのきく、出来の良い子であると評判です。また、秋月麻希が全国的なランナーであり、また千草も料理教室の講師として、矢口町周辺では比較的名が知られていることを描写しましょう。
 また、最近変わったこととして近所で話題になっているのが、道路に黒い粘液上の汚れがまかれるイタズラがここ数日近所で続いているというものです。汚れは強力な洗剤を使って溶かさないと落ちず、決まって一日おきに別の場所で撒かれていることから、同一犯による仕業であろうと警察にも被害届を出しているとのことです。

〇千草の実家
 秋月千草は立ち直った後、両親の勧めもあって実家の近くで自立しました。即ち、彼女の実家は矢口町内にあるのです。この場所は秋月親子が二人とも知っています。千草の両親はまだ健在で、適当な交渉技能に成功すれば千草の過去や父親が居ないこと、幼少時の麻希を育てていたことについて話してくれるでしょう。

21.襲撃の阻止
 早ければシナリオ上インターバル終了後二日目の夜には、麻希を精神的に追い詰める仕上げとしてヨグ=ソトースの娘が秋月千草を殺害するべく襲撃するイベントが発生します。たいていの場合、探索者たちは危険が秋月家に迫ってきていることを分かっているでしょうから、誰か見張りを置いておく、秋月親子を連れて探索を行うといったような何らかの対策を行っている可能性が高いでしょう。
探索者が千草の近くに居た場合、ヨグ=ソトースの娘との戦闘が開始されます。ヨグ=ソトースの娘は1ラウンド目の最初に《クトゥルフのわしづかみ》をその場に居る全員に対して使用し、可視状態となります。ここにおける描写は19.ニアミスを参考に行ってください。
 ここで、付近に秋月麻希が居た場合2ラウンド目の最初に介入し、強制的に戦闘終了となります。麻希が外に出ている、あるいは家に居る場合でも探索者の妨害がなければ、麻希はヨグ=ソトースの娘の猛烈な殺気を感じて母親の襲撃に間に合うよう動きます。場合によっては戦闘途中でシーンを一回切る必要があるでしょう。
 ヨグ=ソトースの娘は麻希の姿を見ると触手の一本を素早く伸ばしますが、麻希に迫る触手は途中で麻希が使う〈ヨグ=ソトースのこぶし〉によって弾き返されてしまいます。正攻法では敵わないと判断したヨグ=ソトースの娘は、以下の台詞を喉が潰れたようなしゃがれ声で言い放ちます。


「死にぞこないの分際でふざけるなよ、お父さんの顔も知らないくせに。お前のせいで私は…。」
「お母さんはまだいい。だが、お前だけは許さない。人として生きる道を奪ったお前だけは。
お前に復讐するために苦痛に耐えて生きてきたんだ。」
「次合う時……その時がお前の人生の最後だ!」


 そう言うと、その場から即座に逃走します。
 
 襲撃の阻止に失敗した場合(千草を一人にしていた、麻希が千草襲撃の場面に間に合わなかったなど)、ヨグ=ソトースの娘は千草の首を絞め上げます。しかし、その力は一息に首の骨を折るほどではなく、千草はなんとか言葉を発します。
「麻衣、私が悪かったわ。私を殺すならそうしなさい、でも麻希だけは……」
 そこまで言うと、ヨグ=ソトースの娘は咆哮し、触手の一本で千草の腹を貫き、首を力の限り絞め上げた後死体を投げ捨てます(自分こそが麻希であるのに、自分の母親とはいえ存在を否定されるような発言をされたことに激高したのです)。
 その場に探索者たちが居る場合には直接叫び、居ない場合にはその場に血文字で以下の文章を残します。
「本当はこうしたくはなかった
お前が私に殺させんだ、他でもないお前、お前が」
「お前のせいでお母さんが死んだ」
「私は××なんかじゃない」
「次はお前の番だ、私の苦しみを味合って死ね」
本当はこうしたくは.png
 ××の部分は実際に叫んでいる場合力を入れ過ぎて潰れて聞こえ、文章として残されている場合その部分だけ触手の一撃によって削り取られていますが、「麻衣」と書かれています。

22.最終決戦
 千草に対する襲撃が成功するにせよしないにせよ、襲撃イベント発生後ヨグ=ソトースの娘との最終決戦が発生します。この発生タイミングは探索の進行度に応じて決めていいですが、できることなら夜に起こしたほうがいいでしょう。ヨグ=ソトースの娘は麻希に方法としてはテレパシーを使って共同墓地の穴付近あたりに呼び寄せるか、千草が死んでおり、麻希が塞ぎ込んでとても外に出られるような状態でなければ、秋月家での戦闘もあり得るでしょう。
 探索者たちと麻希が決戦の場に到着すれば、姿こそ見えないものの、これまでの事件を引き起こし、秋月親子を追い詰めてきた存在が、すぐ近くにいることがはっきりと感じ取れます。探索者たちはここで、これまで彼女が感じていたものと同じ感覚を肌で味わうことになります。不可視の存在の発する波動からは強い怒り、絶望、苦しみ、殺意といった負の感情が波のように押し寄せ、その途方もないほどの悪意が、探索者たちの眼前にいる少女に向けられていることを嫌が応にも気づかされることでしょう。
 一瞬の静寂の後、不意に麻希の体がつんのめるようにして前のめりになったかと思うと、「もがっ」という苦しそうな声とともに空中へと持ち上がります。不可視状態のヨグ=ソトースの娘が、最大戦力である秋月麻希が呪文の類を使えないように、不意打ちで〈組み付き〉を行ったのです。
「ここまでは想定通り……」

 聞き覚えのあるしゃがれ声が、探索者達の眼前から聞こえ、姿の見えない超自然の存在がついに麻希へと襲い掛かるさまを目撃した後、戦闘が開始されます。
【注意点】
 この戦闘開始時、シナリオの進行状況に応じてNPCの開始時MPが変化します。以下の条件に従ってMPを調節してください。
麻希…親しい人間が死んだことを知っている場合、その人数*4MPを、母親が死んでいる場合、更に5MP減少します
千草…かつて自分が手にかけた娘が復讐しに来ているのだと思っている場合3MPを減少させますが、自分ではなく麻希が狙われているのだということに気が付いている場合MPの減少は打ち消されます
※ヨグ=ソトースの娘は麻希が自分の予想より高いMPを持っていることに気が付いているため、それに応じた戦術をとることになります。即ち、麻希以外の人間―即ち探索者たち―のMPを《精神力吸引》によって吸い取り、それによって麻希に対する《精神交換》を成功させようとするのです。また、「彼女」は麻希達が自分に対する何らかの対抗手段を所持しているであろうことを予想しています。その意味でも、《精神交換》はヨグ=ソトースの娘が自分の体を取り戻し、麻希に自分と同じ苦しみを味合わせた上でこの世から葬り去る最高の手段なのです。
 この戦闘における注意点として、この戦闘は彼我のMP差が重要であるということを忘れないでください。少なくともヨグ=ソトースの娘が《精神力吸引》を使用する際だけは、毎回MPの値を公開しましょう。また、毎ターンのNPCのMP処理は全てKPが行うことになるので、KPは戦闘が遅延しないよう各NPCのMP処理はメモに書くなどして効率化を図ってください。
 第一ラウンド、DEX最速のヨグ=ソトースの娘が探索者たち全員に対して《精神力吸引》の呪文を行います。この際、ヨグ=ソトースの娘が可視化され、その恐ろしい姿が探索者たちの眼前にさらけ出されます。17.ニアミスで描写を行っていない場合は以下の描写を行い、【1d8/3d10のSANチェック】を行ってください。描写を行っている場合も、赤字部分の描写は行うべきでしょう。既に探索者たちがヨグ=ソトースの娘を目撃している場合、失う正気度は半分になります。

灰色の、ブヨブヨとした太いロープがねじり合うようにして胴体の部分を作り、その隙間から数多の目を覗かせる化け物が、突如目の前に現出する。探索者たちを頭数個分上回る胴体を下から支える10本の太い触手は、その半分ほどが、麻希の体を覆うようにしてきつく巻き付けられていた。何よりもあなたたちの正気を削り取るのに十分な現実は……うねる触手の中にある、生物学上顔に当たるであろう焼け爛れた部分が、まさしく人間のそれと同じであることだ!

 秋月麻希は口を塞がれているため呪文の詠唱が出来ず、手番は〈組み付き〉の振りほどき自動失敗で消費されます。しかし、呪文詠唱開始時のPOW消費を受け持てるということを、探索者たちにテレパシーで伝えます。
 探索者たちが《万物流転》の呪文を使う場合、自分の手番に呪文の詠唱を行い、消費した任意のMPとPOW*5の総計に5%を足した達成値で呪文の詠唱ロールを行ってください。詠唱が失敗した場合も、呪文の詠唱が続く限りは上昇した達成値にプラスして詠唱ロールを行うことができます。ただし、発狂中の探索者は、呪文の詠唱に十分集中することができないということで、消費したMPに対して上昇する呪文の成功率が半分になってしまいます(端数切り上げ、POWに関しては通常のまま)。詠唱に参加できるかどうかの判断はKPに委ねられますが、可能な限り寛大な裁定を行い、気絶などでなければ詠唱に参加できるようにすることが望ましいでしょう。場合によっては、KP権限で狂気の内容を決めてしまって構いません。
 また、ヨグ=ソトースの娘には化学攻撃が有効です。〈投擲〉などに成功して命中すると、血液装甲による防護で直接ダメージが入ることはありませんが、血液を体内に収納する段階で1d4ダメージが入り、苦しそうに唸り声を上げます。この攻撃でダメージが入った場合、毎ラウンドの最後に1ポイントの継続ダメージが入ります。
 通常の攻撃も、この戦闘においては有効な攻撃手段となります。戦闘中における物理攻撃はすべて最低値となりますが、それらは全て自動発動の《被害をそらす》によって軽減され、ヨグ=ソトースの娘のMPを削ることになるからです。この際、呪文によって攻撃を防がれていることをわかりやすくするために「芯を捕らえた弾丸は体からしみ出した黒い液体に飲み込まれ、触手の一本を振り上げると、体表に濡れる弾はあらぬ方向に飛んでいった」などと描写しましょう。
※なお、1ラウンド目で呪文が成功した場合やHPがなくなってしまった場合も、描写を工夫して《精神転移》を行い、Aエンドにつなげてください。《万物流転》の呪文は、即座に対象を分子化してしまうものではなく、ヨグ=ソトースの娘は致命傷を受けたとしても即座に死ぬということはありません。
 ラウンド終了時、探索者たち全員は〈目星〉か〈アイデア〉を振り、成功者はヨグ=ソトースの娘の触手のうちの二本が、自分たちへの攻撃の時とは異なる複雑な動作をずっと継続していることがわかります(《精神交換》の準備です)。
 第二ラウンド以降もヨグ=ソトースの娘はラウンドの最初に行動を行いますが、自分と麻希のMP差に応じて行動が変化します。以下の行動ルーチンに従ってヨグ=ソトースの娘の行動を決定してください
〇ヨグ=ソトースの娘のMPが秋月麻希のMPを20以上上回っている
「ど、どうして?こいつらだけでなく、お父さんまでもが私を裏切るの?」
 《精神交換》に十分なMPを蓄積したヨグ=ソトースの娘は、用済みとなった探索者たちを殺害するため全員に技能〈つかんで吸う〉を使用します。しかし、秋月麻希が《大いなる父への請願》を使用した場合、他ならぬ父からの裏切りに困惑し、組みつき状態を解いてしまいます。

突如として、暗闇に覆われた辺りがまぶしく照らされる。辺りを見渡せば、その光は自分たちの周囲30mほどが巨大なスポットライトに照らされているようだということがわかる。そして、それほど巨大な照明器具が、この世に存在するはずもないことを。光源を探すと、太陽の数倍もの明るさが、見上げたものの網膜を焦がすことになる。いかなる宇宙的所業であろうか、その光は銀河の遠く彼方から、太陽を遥かに超える輝きを、この一帯に放っているのである!《1/1d4のSANチェック》

〇ヨグ=ソトースの娘のMPが秋月麻希のMPを10以上下回っている
「ははは……やっぱりお父さんだけはいつも私の味方なんだ。このままお前から奪い返して見せる!」
 母と姉妹に裏切られ、最後の復讐の機会を逸しようとしている哀れな落とし子に対し、この世に彼女たちを産み落とした時と同じきまぐれさで、父親が手を差し伸べます。以下の描写の後、探索者側で戦闘に参加している全員からMPを2奪い、ヨグ=ソトースの娘に加算してください。

 突如として、暗闇に覆われた辺りがまぶしく照らされる。辺りを見渡せば、その光は自分たちの周囲30mほどが巨大なスポットライトに照らされているようだということがわかる。そして、それほど巨大な照明器具が、この世に存在するはずもないことを。光源を探すと、太陽の数倍もの明るさが、見上げたものの網膜を焦がすことになる。いかなる宇宙的所業であろうか、その光は銀河の遠く彼方から、太陽を遥かに超える輝きを、この一帯に放っているのである!《1/1d4のSANチェック》

〇それ以外
 再び《精神力吸引》の呪文を使用します。

 ラウンド中に探索者たちの《万物流転》呪文詠唱が成功したりHPが0以下になった場合、自分と麻希のMP差に依らず《精神転移》の呪文を発動します。その判定結果に応じてエンディング描写を行ってください。
 なお、戦闘中にMPが尽きた探索者は問答無用で気絶です。どんなに早くとも、この戦闘が終わるまでは目覚めることはないでしょう。

23.結末
 このシナリオはマルチエンディングであり、主に千草の生存と最終戦の結果が影響してきます。似たような文章が連続しますが、それぞれ終わり方が異なるため特に省略することもなく書いています。
Aエンド:バース・デイ
 このエンディングは千草が生存し、かつ最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に失敗した場合のエンディングです。
 探索者たちの詠唱が成功すると、ヨグ=ソトースの娘の体表が白い煙を出しながらブクブクと泡を立て始めます。

「かえせぇぇぇ……わたしのからだぁぁぁぁ……………」


怨嗟の声を上げながらなおも触手を動かし、焼け爛れた顔から吐き出した青白い煙を麻希の方へと放ちましたが、ヨグ=ソトースの娘が激しくせき込み始めると数秒で煙は霧散し、その場にくずおれます。麻希を捕まえていた触手も彼女を離し、拘束から離された麻希が立ち上がると、姉妹の片割れを下に見てこう言い放ちます。

「私の身体を乗っ取ろうとしたみたいだけど……
死に損ないの野望もこれで終わりね」


 ヨグ=ソトースの娘は体の半分以上が消え、なおも地面をのたうち回っています。麻希はそれを尻目に探索者たちの元に駆け寄ろうとしますが、ヨグ=ソトースの娘は不意に残る触手を目にもとまらぬ速さで動かして印を結び、猛烈な速度で麻希に迫ります。
 ヨグ=ソトースの娘から再度放たれた青白い煙は先ほどより量が少ないものの、鋭い槍の形を模し、麻希の身体に刺さるようにして吸収されていきます。不意を突かれた麻希は驚いた顔をしていますが、突然のことに動くことができません。
「取り戻せなくても、せめてお前の中で…………さんと……」

 ただれた跡の消えた、麻希に似ているが、どこか父性を感じさせる顔はそう言い残すと空気の中に消えていきました。先ほどまでそこにいた全ての痕跡が、跡形もなくなります。
 麻希は胸に手を当てながら困惑した表情を見せていますが、無事のようです。しかし、千草がその場にいる場合、再び自らの手で我が子を手にかけてしまったことにより、【1d6/1d10のSANチェック】を行った後、彼女はその場で気を失ってしまいます(基本的に技能の使用で目覚めることはないでしょう)。
 その場に残された探索者たちは、麻希から過去の事実を含め話を聞くことができます。彼女の身に起きた変化について聞けば、自分の中に何か異物が入りこんだような感覚を訴えますが、その他は特に問題はないと言います。その後も変わらずかつての姉妹に対する同情や後悔といったものは読み取れませんが発言の歯切れが悪く、ここで〈心理学〉や〈精神分析〉に成功すれば、麻希の言動からはそう思い込もうとしているのではないかと感じます。

 精神的にも肉体的にも療養がある程度済んだ後、探索者たちは再び秋月家における食事に誘われることになります。麻希もあの一件以来しばらく療養生活を行っており、探索者たちが秋月親子と会うのもおそらくは久しぶりです。秋月千草がヨグ=ソトースの娘(自分の娘)の死を知った場合、彼女は強制的に不定の狂気:心因性記憶喪失を発症してしまいます。どのような形であれ、2度も我が子を失った悲しみに千草の精神は耐え切れず、本能的にヨグ=ソトースの娘、秋月麻衣に関するすべてのことを記憶から消してしまったのです。そのため、これまでの出来事もちぐはぐな記憶になっており、話題に出されると困惑するでしょう。
 一方の秋月麻希のほうは、探索者たちと過ごした数日間を完全に覚えています。しかし、相も変わらずかつての姉妹についての話になると、依然として冷たい態度を取り続けます。彼女は母親とは異なり、20年前の一件を人間の精神によってではなく、神話生物としての冷酷さをもってするしか方法がなかったのです。ヨグ=ソトースの娘以外のことに関してはこのような非情さは発揮されず、あれほどの事態があったにも関わらず事件以前と全く変わらない明るさで話しかけてきます。
 これらの点を踏まえ、探索者たちと秋月親子との、最後の会話パートを行ってください。特にNPCと関係が深くなければ、適当に流してしまって構いません。会話の途上、探索者たちは麻希の性格が変わっていることに気が付くでしょう。かつての愛想の良さはどちらかというと厚かましさに、ただ霊感が強いというだけだったのが、オカルト的な趣味に目覚めているといった感じです。よく見れば、彼女の服はどこか魔術めいた怪しげな五芒星がプリントされており、三本の足が中心から伸びているような奇妙な絵が描かれたペンダントを首からぶら下げられています。
そして食事中、麻希はこんな話をし始めます。
「私ね、大学を一年休学して留学したいなーと思ってるの。大学で募集している交換留学に応募してて、今結果待ちなんだ。もちろん陸上は続けるつもりだし、当選したら向こうの最先端のトレーニングを受けられるように補助とかもしてもらうつもりだけどね。最近超常現象!とか、霊能力!とかの趣味にすっかりハマっちゃって、語学留学がてらちょっと本場で勉強してみたいと思ったんだ。ちょうど募集してた大学がそういうのに強いところらしくって。名前は、そう……ミスカトニック大学ってとこ!」
※ヨグ=ソトースの娘はこの世から消滅しましたが、今際の際に詠唱した《精神交換》により魂の一部が秋月麻希の魂と同化したのです。そのため、記憶は継承しているとはいえ厳密に考えると今の秋月麻希はかつての秋月麻希ではなく、より神話生物に近づき、奇跡的に色濃く出ていた人間性が薄れてしまった別の存在であるといえます。とはいえ、今の秋月麻希は20年前に千草が産み落とした双子が別の形で生まれ変わった存在であると考えられ、その意味において千草は過去に起こした罪の意識から解放され、彼女がノースポールに込めた願い(花言葉は「輪廻転生」)がかなっていることを考えると、今の状況は理想的なものなのかもしれません。もっとも、皮肉なことに千草はそのことを最早理解できないわけですが。
 この先、秋月親子がどうなるかは外なる神のみぞ知ることでしょう。もしかすると麻希はこのまま『ダニッチの怪』のウィルバーのようにクトゥルフ神話に傾倒してしまうかもしれませんし、千草もこのまま記憶を取り戻さないかもしれません。
 しかし、そう悲観する必要はないでしょう。探索者たちは確かにあの決戦の場において、ヨグ=ソトースの娘の完全なる《精神交換》を阻止することに成功しているのですから。そして、他ならぬ探索者たちがそうであるように、神話的事象によって刻まれた記憶が、たかが人間の防衛反応ごときで、消え失せるわけもないのですから。

Bエンド:アンハッピーバースデイ
 このエンディングは千草が生存しているものの、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に成功してしまった場合のエンディングです。描写の多くはAエンドと似通っていますが、異なる部分が複数あります。
 探索者たちの詠唱が成功すると、ヨグ=ソトースの娘の体表が白い煙を出しながらブクブクと泡を立て始めます。
「かえせぇぇぇ……
わたしのからだぁぁぁぁ……………」

 怨嗟の声を上げ、黒い血液をまき散らしながら残る触手を動かし呪文を唱え切ると、焼け爛れた顔からもうもうと吐き出した青白い煙が触手につかまっている麻希を覆います。その煙の中に麻希に似た顔が浮かび上がり、はそう言い残すと空気の中に消えていきました。先ほどまでそこにいた全ての痕跡が、跡形もなくなります。
「いやだあぁぁ……私は化物になんて……
助けて……おかあ…さん……」

 麻希は正気を失わずに意識を保ったままでいますが、千草がその場にいる場合、再び自らの手で我が子を手にかけてしまったことにより、【1d6/1d10のSANチェック】が入り、彼女はその場で気を失ってしまいます(基本的に技能の使用で目覚めることはないでしょう)。
 その場に残された探索者たちは、麻希に事の真相を問いただそうとするかもしれません。しかし、彼女は「ヨグ=ソトースの娘」が撃退されたことを喜ぶばかりで、以前の約束を持ち出しても「私そんなこと言ったっけ?」とはぐらかすばかりです。
 しばらくした後、探索者たちは再び秋月家における食事に誘われることになります。麻希もあの一件以来しばらく療養生活を行っており、探索者たちが秋月親子と会うのもおそらくは久しぶりです。秋月千草がヨグ=ソトースの娘(自分の娘)の死を知った場合、彼女は強制的に不定の狂気:心因性記憶喪失を発症してしまいます。どのような形であれ、2度も我が子を失った悲しみに千草の精神は耐え切れず、本能的にヨグ=ソトースの娘、秋月麻衣に関するすべてのことを記憶から消してしまったのです。そのため、これまでの出来事もちぐはぐな記憶になっており、話題に出されても困惑するだけでしょう。
 一方の秋月麻希のほうも、探索者たちと過ごした数日間をあまり覚えていないようです。しかし、最終決戦に関してはよく覚えているようで、かつての姉妹については冷たい態度を取る一方で、その節は本当に世話になったと感謝の言葉を述べています。
 食事をとりながらの会話の途上、探索者たちは麻希の性格が変わっていることに気が付くでしょう。かつての愛想の良さはどちらかというと厚かましさに、ただ霊感が強いというだけだったのが、オカルト的な趣味に目覚めているといった感じです。よく見れば、AOOAとプリントされた彼女の服の上には首からぶら下がる鈍い銀色の鍵を模したペンダントが見え、それを見た探索者たちは背筋に寒い物を感じます。
そして食事中、麻希はこんな話をし始めます。
「私ね、大学を一年休学して留学しようと思ってるの。大学で募集している交換留学に応募してたら、運良く通ってた人が事故死したとかで、滑り込みで当選したんだ。どうしても読みたい本が向こうにあって……日本の宗教団体が持ってるって話だったんだけど、こないだ事務所に行ったら誰も居なくなってて……。も、もちろん、それだけが目的じゃないよ?語学留学がてらちょっと本場で勉強してみたいと思ったんだ。でも、ちょうど目当ての大学がその本を所蔵してるところでさ。」
その名前を尋ねられれば(尋ねられなくとも)、こう答えます。
「名前?ミスカトニック大学ってとこだよ。」
 その際、麻希は探索者たちのほうを向いて笑顔を浮かべました。会話中は気が付きませんでしたが、探索者たちは不意に背中に悪寒が走ります。失われた大陸を挟んだ海向こうに期待を寄せる彼女の歪んだ笑顔は……あの数日間何度も見ていた麻希の笑顔とは、全く別物であったのだから。

Cエンド:インパーフェクト・リベンジ
 このエンディングは千草が殺害されているものの、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に失敗した時のエンディングです。
 探索者たちの詠唱が成功すると、ヨグ=ソトースの娘の体表はブクブクと泡を立てて、白い蒸気をもうもうと立て始めます。「彼女」は呪文が成功したとみるや、自分の体が分子へと分解されきる前に青白い煙を口から吐き出し、麻希の身体を覆い尽くします。二つの煙が合わさって二人の姿が見えなくなると、その中から、不思議とはっきり顔らしきものが浮かび上がります。それは先ほどの怪物の顔の部分に似ていますが、千草や麻希の面影も感じさせ、さらにはどこか父性のようなものを感じさせる、そんな顔です。その顔は誰に言うとでもなく弱々しい声で、こう呟きます。
「かえせぇぇぇ……わたしのからだぁぁぁぁ……………
あぁ…………たすけて……おとうさん……おかあ…さん……」

 その言葉を皮切りに辺りを覆っていた煙が晴れ始め、空中に持ち上げられていた麻希の体が落下するのを目にします。先ほど怪物がいた場所には弾力性のあるタールのような液体が広がり、そこから未だに煙が噴き出ていますが、見る見るうちにその体積は小さくなっていき、最後には、まるで何もなかったかのように痕跡が消えてしまいます。麻希は座り込んだ状態で呆けながら、声を上げて目から大粒の涙を流しています。
 その後、麻希は陸上を辞め、大学も休学してしまいます。彼女が得ている情報に応じて彼女の心の傷口は変化するでしょうが、いずれにせよ母親を失ったショックは途方もないほどです。探索者たちの関わり次第では回復が早まることでしょうが、しばらくは精神科にかかりきりとなることでしょう。圧倒的な宇宙的脅威に立ち向かい、最小限の犠牲で打ち勝つことができたことを考えれば、探索者たちもいくらか報われるかもしれません。

Dエンド:ドッペルゲンガー
 このエンディングは千草が殺害され、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に成功した時のエンディングです。
 探索者たちの詠唱が成功すると、ヨグ=ソトースの娘の体表はブクブクと泡を立てて、白い蒸気をもうもうと立て始めます。それと同時に、「彼女」は呪文が成功したとみるや、ヨグ=ソトースの娘は青白い煙を口から吐き出し、途端に麻希の身体を覆い尽くします。二つの煙が合わさって二人の姿が見えなくなると、その中から不思議とはっきりと顔が浮かび上がります。それは先ほどの怪物の顔の部分に似ていますが、千草や麻希の面影も感じさせ、さらにはどこか父性のようなものを感じさせる、そんな顔です。その顔は誰に言うとでもなく弱々しい声で、こう呟きます。
「いやだあぁぁ……私は……
助けて……おかあ…さん……」

 その言葉を皮切りに辺りを覆っていた煙が晴れ始め、麻希の体が何もない空間から落下するのを目にします。先ほど怪物がいた場所には弾力性のあるタールのような液体が広がり、そこから未だに煙が噴き出ていますが、見る見るうちにその体積は小さくなっていき、最後には、まるで何もなかったかのように痕跡が消えてしまいます。麻希は気絶しており、すぐには目を覚ますことはありません。
 表向き彼女は母親を失ったことを悲しみますが、しばらくした後立ち直ったように以前と変わらない日常を再び過ごし始めます。しかしあの一件以来、彼女は少し変わってしまいました。愛想が良かった麻希はもはや厚かましいだけの人間に変わってしまい、オカルト趣味に目覚め、陸上そっちのけで様々な魔術書を読み漁ったり、奇怪な集会に参加するようになったのです。やがて、彼女は大学が主催する交換留学に応募し、当選します。大学の名前は「ミスカトニック大学」。失われた大陸を挟んだ海向こうに期待を寄せる彼女の歪んだ笑顔は……あの数日間何度も見ていた麻希の笑顔とは、全く別物であったのだから。

24.成功報酬
ヨグ=ソトースの娘の《精神交換》を失敗させた…1d20点の正気度回復
ヨグ=ソトースの娘の真の姿を目撃した…1d20点の正気度回復
千草が生きている…1d10点の正気度回復
《万物流転》の呪文を成功させた探索者(成功者のみ)…1d10点の正気度回復
20.最終決戦までの間に、シナリオの真相(20年前ヨグ=ソトースの娘が秋月麻希に身体を乗っ取られたこと)に考えが及んだプレイヤーの探索者…POWを1上昇
ヨグ=ソトースの娘の姿を目撃した…〈クトゥルフ神話〉技能を5%獲得(シナリオ中に獲得していない場合)
《万物流転》の呪文を成功させた(探索者全員)…〈クトゥルフ神話〉技能を3%獲得



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