シナリオ『アンハッピーバースデイ』ver2.0

 今回は前回からの予告通り、自作シティシナリオ『アンハッピーバースデイ』を公開します。シナリオ傾向などに関しては前回の記事と1.はじめにを読んで確認してください。
 では、本編に入ります。
2017年9月26日
 ようやく再公開できました!数か月にわたる再公開するする詐欺に関しましては弁解しようがございません。申し訳ありませんでした。シナリオ全体の再構成と情報の追加、探索自由度の大幅強化等々加筆に次ぐ加筆の結果、ようやくまとまりが付いたため、再公開の運びとなりました。しばらくは誤字脱字などの修正が入ると思いますが、ひとまず最終版完成ということで、今後長期間非公開になることはないでしょう。




 
シナリオ『アンハッピーバースデイ』ver2.0

シナリオ『アンハッピーバースデイ』

1.はじめに
 このシナリオはクトゥルフ神話TRPGのシナリオです。とある架空の街を舞台にしたシティシナリオで、シナリオを通じて様々な場所を巡っての情報収集とNPCとの会話を通じた探索が行われていきます。特に探索者が再序盤から関わる秋月親子はこのシナリオの最重要人物であるため、最低限このNPCとのRPを推奨します。
 また、このシナリオでは職業とNPCとの関係性に関するハンドアウトが用意されています。PL人数は3~4人ですが、最終局面のギミックの関係上3人PLの場合難易度が上昇するため、同行するNPCを一人付けたほうが無難でしょう。前半はシナリオの誘導に沿った展開が続き、中盤以降に自由探索が始まります。また、このシナリオの特徴としてエンディングや途中進行に影響するシークレットポイントが二種類存在しています。
 このシナリオは道中の選択や行動がエンディングに作用する方式をとっており、解釈次第ではありますが後味の悪いエンディングとなるパターンが複数存在しています。おそらくPL全員がすっきりポンとなるハッピーエンドは迎えられないと思いますので、クトゥルーエンド上等の心持ちでプレイすることをお勧めします。とはいえ、ロスト率は低くパーティが全滅する可能性は低いため、初心者でもエンディングを迎えることは可能でしょう。
注意点として、このシナリオは展開によっては内容が重いものになり、後味の悪いエンディングになる可能性があります。人によっては苦手な方もいるでしょうから、この点を考慮してください。
 また、このシナリオはSAN値減少が激しく、シナリオ開始時に現在正気度が50以下の探索者は永久発狂によるロストの可能性があります。PLには事前にこの情報を伝えておいたほうが良いでしょう。
10月1日追記:シナリオ最下部にシナリオの情報リスト、行ける場所リストを張っておきました。キーパリングにお役立てください。

2.シナリオ概要
 20年前、ある未婚の女性「秋月千草」がヨグ=ソトースの子供を身ごもりました。人知を超えた存在である子らには妊娠の兆候もなく、彼女は自宅でその双子の姉妹を産み落としましたが、二人目の名状し難い異形の姿に正気を失い、生後間もないその子供を手にかけてしまいます。
その双子は一卵性双生児でした。しかし、神の子たる彼女たちは遺伝子情報からして人間の常識から外れており、一方の子供には「神話生物としての外見と人間の精神」が、もう一方の子供に「人間としての外見と神話生物としての精神」が備わって生まれてきたのです。
 時代は下って現代、20年前に難を逃れた子供は「秋月麻希」と名付けられ、人間と変わらぬ外見のまま女性の一人娘としてまっとうな人生を送っていました。しかし、ある日から「誰かに見られているような感覚」に悩まされるようになります。探索者らが彼女のストーカーを捕まえた後も、その感覚は強くなっていき、ついには逮捕されたストーカーの男が何者かに殺害され、麻希たちが怪物に襲われたことを皮切りに、麻希の近しい人までも殺害され始めました。
 シナリオにおける一連の事件は千草が以前手にかけた、「ヨグ=ソトースの娘」が引き起こしています。「彼女」は瀕死に近い重傷を負って、長らく地中に潜んでいましたが、墓参りに来た母親に反応し、20年の時を経て地面へと這い出ることに成功したのです。「彼女」は復讐心に燃えていますが、その対象は母親ではなく、「秋月麻希」に対して向けられています。実は20年前に母親が絞め殺そうとした赤子は、死の淵をさまよう間際、無意識に《精神転移》を行って姉妹の身体を乗っ取っていたからです。
 「彼女」は再度《精神転移》を行うことで自分の身体を取り戻そうとしています。対する麻希は自らに迫る危機を察知することで神話生物としての本能が少しずつ呼び戻されていき、探索者たちを利用してヨグ=ソトースの娘を葬り去ろうとします。また、千草も過去の出来事と一連の事件の関係性から罪の意識を深め、独自に探索者たちへと働きかけることでしょう。探索者たちは秋月家における神話的因縁を解き明かし、事件を解決に導くことができるでしょうか。

3.登場NPC
秋月 麻希
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「お母さん、すっごく料理上手いんだよ!」
年齢:シナリオ内で19から20に
STR14 DEX20 INT11 アイデア55
CON30 APP14 POW30 幸運100
SIZ13 SAN- EDU14 知識56
HP22 MP30 回避60 DB+1d4
所持技能:目星50%、説得55%、回避60%、精神分析30%、応急手当40%、速く走る80%、相手に良い印象を与える55%、クトゥルフ神話5%
所持呪文:記憶が最終段階まで戻っている場合、ヨグ=ソトースに関連する全ての呪文とKPの任意の呪文を使用することが出来る
所持(するかもしれない)呪文:《大いなる父への請願》(オリジナル、最終決戦の項で解説)
備考:このシナリオで麻希にのみ存在するシークレットポイントとして、麻希の記憶の復活段階を表すM(記憶)ポイントと、殺害された友人の数に応じて累積するT(悲劇)ポイントが存在しています。これらのポイントはエンディングと最終戦に影響するため、
〇性格・特徴など
 基本的に温厚な性格で、あどけなさが残る笑顔をよく見せる、人懐っこい性格の持ち主。感性が独特でいわゆる「変わっている」性格であり、人並み以上に健康である(彼女は生涯一度も風邪を引いたことがない上、怪我の治りも早い)、手先が器用、霊感が強いなどの特徴がある。しかし、それらは一見して個性の域をギリギリ出ないレベルであり、姿形や能力も普通の人間とほとんど変わりない。唯一他者より明確に秀でている点として、彼女は短距離走の強化指定選手にも選ばれるほど足が速く、現在通っている地元の大学もインターハイ入賞の実績をもって推薦入学している点が挙げられる。
〇RP上の注意点
 秋月麻希はシナリオ進行と共に記憶を取り戻し、本来の性格とは打って変わって冷静な様子を見せるようになる。この麻希の変化を分かりやすくするため、RP上では努めて明るい性格に振る舞ったり、初対面の人間にもなれなれしい口調で話しかけるといったアピールをすることが望ましい。
〇シナリオ上の設定情報
 彼女は二十年前ヨグ=ソトースの血を引いてこの世に産み落とされた半神である。常人より高いステータスは全て半神であるが故の特徴だが、彼女は奇跡的に人間の特徴が色濃く出ている。
 20年前に《精神転移》を行ったのは彼女の人格であるが、産み落とされて間もない中で生命の危機を感じ反射的に行った行為であり、成長した彼女は当時のことを全く覚えていない。通常ヨグ=ソトースの落とし子が通常持ち合わせているクトゥルフ神話に対する知識欲なども持ち合わせていない。しかし、潜在的には確かに外なる神の力が眠っており、ヨグ=ソトースの落とし子に特有のテレパシー能力も不完全ながら備えている。
 シナリオが進み神話的事象に触れていく中でかつて自分が行ったことに関する記憶を段階的に取り戻していき、無意識的にヨグ=ソトースの娘を葬るように探索者たちを誘引していく。そうした中でだんだんと自らの内に眠る神話生物としての自我が目覚め始めるが、これは自分を狙うヨグ=ソトースの娘から自分の身を守るために発生する防衛反応に近いものである。最終段階まで記憶を取り戻した際には、神話生物としての自我が一時的に麻希の精神を支配することになる。

秋月 千草
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「麻希の父親は……居ないんです」
年齢:40
STR10 DEX11 INT10 アイデア55
CON13 APP14 POW15 幸運40
SIZ13 SAN45 EDU14 知識40
HP13 MP15 回避22 DB-
所持技能:目星45%、聞き耳60%、図書館55%、忍び歩き50%、ほかの言語(ラテン語)40%、心理学55%、精神分析70%、製作:料理90%、娘に愛情を注ぐ65%
不定の狂気:酒恐怖症(治癒していたが、シナリオ内にて再発)
〇性格・特徴など
 少し影のある、落ち着いた雰囲気の女性である。過去のことはあっても人並みの社交性は兼ね備えており、探索者たちが顔を合わせても精神を病んでいたとは思えないだろう。彼女が精神を酷く病んでいた時期は子育てもままならず、麻希も実家に預けられていたが、彼女が回復して以降は麻希に対して愛情を注いで育ててきており、現在の親子関係は良好である。
〇シナリオ上の設定情報
 彼女はかつて料理人を目指して調理学校に通っていたが、20年前父親の知れぬ子供を産み、双子のうち一人を手にかけた事件をきっかけにその夢を諦めた。以来精神を病み、長らく精神科にかかっていたが、一か月ほど前には薬を絶つほどに立ち直った。現在は料理教室の講師として生計を立てている。料理に酒を使用する際は問題ないが、酷い時には精神薬なしで酒を目にすることもできなかった。
 20年前のことを深く後悔しており、「彼女」を密かに麻衣と名付けて仏壇への祈りを毎日欠かさず行っている。精神への悪影響を案じて「彼女」の埋葬場所は担当の精神科医によって伏せられていたが、シナリオの一か月前にようやくその場所を教えてもらうことになる。その後、「彼女」が埋葬された共同墓地にて、未来に生まれ変わった「彼女」との再会を願って埋葬場所に「輪廻転生」の花言葉を持つノースポールを植えたが、母親の急接近という事態に地中に居た瀕死のヨグ=ソトースの娘が反応し、地上に這い出るきっかけになった。


ヨグ=ソトースの娘、秋月 麻衣
「かえせぇぇぇ……わたしのからだぁぁぁぁ……………」
STR22 DEX21 INT11
CON28 APP- POW20 
SIZ16 SAN0 EDU-
HP22 MP20 回避42 DB+2d6
所持技能:組付き100%、つかんで吸う(DBは加算しない)100%、死体を貪る60%、親に甘える40%
P246〈つかんで吸う〉…押しつぶしにより毎ラウンド1d6ダメージ、次ラウンド以降吸血によって1d10ダメージ
正気度喪失:目撃時のSANチェックは不可視の際1/1d8、可視状態の時1d8/3d10で、一週間以内に二回以上見た場合は、SAN値減少量が半減する。
装甲:血液を薄い膜のように体に這わせることで物理的な攻撃、化学薬品による被害は全て最小値に軽減する装甲となる(最小値ではあるが継続ダメージは重複して受ける)。火に対する完全な耐性を持つ。
所持呪文:P266《精神力吸引》、P291《ヨグ=ソトースのこぶし》、P266《精神転移》、P278《被害をそらす》、P255《記憶を曇らせる》、《ヨグ=ソトースのわしづかみ》(オリジナル)、《大いなる父への請願》(オリジナル)、(以下に書いていないものの効果はルルブ参照)
《精神力吸引》…対象からマジックポイントを吸い取る呪文である。呪文の使い手のMPと対象のMPを対抗させ、呪文の使い手が勝った場合には対象は1d6 MPを失い、その分を呪文の使い手が獲得する。呪文の使い手の方が抵抗表による競争に負けた場合には、使い手は6MPを失って、対象がそれを得る。
《精神転移》…対象と永久的に精神を交換する呪文である。呪文をかけるために消費するMPは10、それから自分のMPと犠牲者のMPを抵抗表に従って競わせなければならない。勝った場合にはラウンドの最後に精神が交換され、呪文の使い手は1d10正気度ポイントを失い、犠牲者は1d20正気度ポイントを失う。
《精神転移》に失敗した場合呪文の使い手は直ちにもう一度呪文をかけ直さなければならない(MPがあと10ポイント必要である)。そうしなければ行き場を失った魂が永遠の彼方に消え去ってしまうのである。MPを使い切ってしまった場合も、永遠の彼方へ消えることになる。転移がいったん始まったら、呪文が破れることはない。
《被害をそらす》…呪文の使い手に向けられたあらゆる物理的な攻撃を無効にする呪文であり、本来受けるはずだったダメージ+1のMPを消費し、外なる神の名前を口に出して自分を襲おうとする相手に向かって触手を伸ばすことで、攻撃を脇へそらすことができる。
《ヨグ=ソトースのわしづかみ》…使用者は声の届く範囲に居る任意の対象(複数でも可)とMP対抗ロールを行う。対象が対抗に失敗した場合、玉虫色に視界が覆われると共に心臓を締め付けられるような感覚に襲われて行動不能に陥る。効果は一分間続き、一分ごとに1d3ポイントのダメージを受け、使用者はその分のMPを消費する。対象が対抗に成功した場合、玉虫色の輝きが自分の網膜に焼き付けられるのを感じて正気度を1点失う。
《大いなる父への請願》…最終戦において発現する可能性がある。ヨグ=ソトースの娘がこの呪文を使った場合、麻希はこの呪文を取得しない。この呪文は落とし子の助けに気まぐれに応じた外なる神の力を借りて発動されるものである。ヨグ=ソトースの娘のMPが自身のMPを10以上上回った際自動的に発現し、次の行動タイミングで一度のみ発動する。探索者たちから2MP各々から吸収し、自身のMPに加える。
〇性格・特徴など
 「彼女」の精神は自分をこのような境遇に追いやった原因である「秋月麻希」に対する復讐心で満たされている。しかし、母親に捨てられて生きたまま焼かれ、父親に助けを呼びかけても全く反応がない境遇から、「彼女」は孤独を覚えている。そのため、秋月千草に対する攻撃には躊躇いを見せるし、和解の機会すら窺おうと考えている。彼女の持つ「顔」は焼け爛れているが、素顔は千草と麻希、そして偉大なる父の顔をかけ合わせたような容貌で、人間からかけ離れた異形のそれではない。
〇シナリオ上の設定情報
 「彼女」は20年前死んだと思われていたが、虫の息になりながらもゆっくりと地中で体力を回復していた。最終的にはノースポールを植えに来た千草の存在に反応したことをきっかけに、地上へと這い出るまでに回復することになる(主な内容は16.revenge of two decades’ standingを参照)。
 「彼女」自身は外なる神の血を濃く受け継ぐ神話生物「ヨグ=ソトースの娘(息子の性別違い)」であるが、致命傷に近い傷を生まれて間もなく負ったために、様々な能力が不完全である。これについては以下を参照。
・通常ヨグ=ソトースの落とし子は食事時以外不可視の存在であるが、「彼女」は呪文を使用した時にも姿が暴露されてしまう。
・装甲が存在せず、攻撃を受けるタイミングで体内に流れる黒いゼラチン状の血液で体表を覆い、与えられる物理攻撃を最低値に軽減している。しかし、攻撃が止む度血液を体内に戻す関係上、化学攻撃に対する弱点となっている。
・テレパシー能力は不完全であり、ほとんど用をなしていない

ストーカーの男、肝付 汚太郎
「僕と麻希ちゃんは愛し合っているんだ、邪魔するなよおおおおおおおおおおお」
APP3、それ以外は任意
耐久力は人間の範疇を越えない任意の値(最大でも18)でよい ダメージボーナス なし
技能:小型ナイフ35%、信用を含む全ての交渉系技能1%、聞き耳40%、忍び歩き60%、隠れる60%、写真術90%、隠す90%、クトゥルフ神話5%
精神的な障害:秋月麻希に対する偏執症、他者を盗撮することに対する脅迫観念
〇性格・特徴など
肝付は盗撮魔であり、他者を盗撮することに対する強迫観念に近い執着心を抱いている。麻希を知って以来は彼女に執着するようになり、少なくとも一年以上は麻希を遠巻きにストーキングしているらしい。隠密技能は高いが、体型が邪魔して役に立たないことがしばしばある。逮捕歴あり。
〇シナリオ上の設定情報
 麻希をストーカーしている最中にヨグ娘の存在に気付き、獲物を引きずって根城に戻る瞬間をビデオに収めたが、のち口封じに殺されることになる。なぜクトゥルフ神話技能を持っているかは秘密だが、少なくとも一般人ではないのだろう。

4.シナリオ全体の流れ
 この項目ではシナリオ全体の流れを書いています。シナリオの読み込みやセッション中の進行度確認に役立ててください。
シナリオ前半~インターバルまで
 ストーカー被害の訴えに始まり,肝付の逮捕、誘われた夕食におけるアクシデント、続くストーカー被害というように、探索者たちが神話的事件に巻き込まれていくまでが描かれる、導入パートです。普通のシナリオに比べて変則的でやや長いですが、自由探索パート序盤における行動の指針が示されるような作りになっています。
 インターバルではシナリオ内時間を一週間ほど進めることになりますが、その間何か行動したいことや試したいことがあると宣言するPCがいた場合には、認めてもいいでしょう。ただし、まだ神話的事件が起こっているというわけではないので、処理は簡潔に行うようにすべきです。製作者はここまででシナリオの進行度がだいたい3~40%ほどになると見積もっています。
12.交わる線~自由探索パート前半
 麻希が謎の怪物に襲われ、突如傷を負って逃げ出すというイベントからこのパートは始まります。探索者たちはこれまでの情報をもとに襲撃者に関する情報を集め、連続失踪・殺人事件と麻希のストーカー被害が結びついていることに気が付くでしょう。
しかし、探索の中で麻希が探索者と行動を共にする(情報を得る)につれかつての記憶を少しずつ取り戻していき、麻希は一体何者なのか、身に起きている現象の原因は何なのかという謎が深まることでしょう。製作者はここまででシナリオの進行度がだいたい60%前後になると見積もっています。
自由探索パート後半
 麻希の友人が殺されていく中、千草の告白や下水道のイベントから過去の因縁を知り、共同墓地のへその緒から麻希もまた神話生物の血を引いているという事実が明らかになるパートです。麻希の夢日記や記憶の復活イベントによりたびたび示される対抗呪文《万物流転》や酸が弱点であることといった情報を入手し、最後の決戦へと向かうことになります。製作者はここまででシナリオの進行度が大体85%前後になると想定しています。
最終決戦
 ヨグ=ソトースの娘と探索者たちとの最終決戦のパートです。探索者が「彼女」と戦う作戦次第によって展開は変わりますが、戦いは「彼女」が死ぬか、麻希が「彼女」に精神を乗っ取られるかするまで終わりません。エンディングはこれまでの探索の結果と最終決戦の結果によって変化します。

5.ハンドアウト
 基本的にこのシナリオは警察官、探偵、麻希の知り合いが最低一人いることを前提に作っており、どれかが欠けた場合情報の再配置や役割の穴埋めが必要となることを了承してください。推奨技能は〈目星〉、〈図書館〉、〈心理学〉、〈精神分析〉、交渉系技能、準推奨技能は〈医学〉、〈オカルト〉、〈生物学〉、〈鍵開け〉、〈クトゥルフ神話〉です。なお、推奨技能はパーティ全体の成功率90%以上を推奨するものであり、準推奨技能は持っていることでシナリオ上有用な情報を手に入れられる可能性のあるマイナー寄りの技能であって、必須のものではありません。
〇HO1:探偵、探偵助手
 この探索者は矢口町に事務所を構える探偵か、その関係者である。一定程度の社交性と時間的余裕はあることが望ましい。HO1の探索者はHO4の警察官と知り合いであるとともに、以前事件解決に協力した実績から特別に捜査への関与を認められている。そのため、事件現場の捜査を行う場合に特別な交渉技能は必要ない。秋月親子との接点の有無は自由。
〇HO2:友人
 この探索者は矢口町在住の秋月麻希の友人であり、同じゼミに所属している。本人から秋月麻希がストーカー被害にあっていることを聞いており、一緒に帰るところからシナリオに入ることになることが見込まれる。そのため知り合い程度ではなく、大学の同じゼミ生や幼馴染などある程度の仲であることが望ましい。
※親友という設定であれば、父親が居ないことを事前に知っていても良い。
〇HO3:教授
 この探索者は秋月麻希の所属するゼミの担当教授であり、初めから彼女と面識を持っているほか、矢口町に住んでいる。シナリオへの参加動機はやや薄いため、好奇心が強い、世話焼きであるといった性格のほうがシナリオには関わりやすい。そうでなければ、ゼミ終わりの会食などでHO2のPCと共に秋月麻希と友好を深めている設定にすることを推奨する。
〇HO4:警察官
 秋月親子の住む矢口町を管轄する警察署に勤めている警察官である。一定程度の社交性と時間的余裕はあることが望ましい。HO4の探索者はHO1の探偵と知り合いであるとともに、以前共に事件を解決に導いた実績がある。秋月親子との接点の有無は自由。
〇HO5:近所の人間
 純粋な自由枠。秋月親子との間に良好な関係があって困っている麻希を助ける動機があればどのような人物でもよい。

6.導入の始まり
HO1・HO4の導入
 警察官PCが矢口町お抱えの探偵がいる事務所に出向き、事件解決に協力した礼を言う所から導入を始めるのが良いでしょう。そんな最中、一人の妙齢の女性―秋月千草―が事務所を訪れます。
 千草は警察官PCを認めれば、同席を願い出ることでしょう。彼女は警察に娘―麻希―のストーカー被害を取り合ってもらえなかった旨を話し、ストーカー被害の調査をしてほしいという依頼を持ちかけます。そのストーカー被害とは、娘の秋月麻希が誰かに見張られているような感覚を毎晩覚え、振り返ると時々似たような怪しい男が立っているというものであり、具体的な仕事内容としては、娘の帰り道での付き添いや、最終的に警察に逮捕してもらうための証拠集めといった具合です。ストーカー被害に関する情報は以下の通り。
・ 被害は3週間ほど前から始まったと聞いている
・ ここ一か月は大会が近く毎日大学に通っているのだが、家路に着く九時前後を見計らってストーカー被害を受けている(実際には一定ではなく、30分―1時間ほどずれることも)
・ 被害はだいたい20分ほど続く
・ 視線を感じて振り返ると時々見知らぬ大柄の男が立っていたらしい
・大学や部屋の中に居ても視線を感じたことがある
千草が事務所を後にすればこのHOの導入は終わります。

HO2・HO3の導入
 導入は麻希らが通う大学キャンパス内、授業終わりのゼミ教室から始まります。麻希は大会が近く授業も休みがちですが、今回の授業だけは単位に関わる授業だったため出席していました。
 しかしながら、いつもは明るい彼女が、なぜか今日だけは妙に落ち込んだ様子です。ゼミ終わり、探索者たちと麻希だけになった際話を聞けば、どうやらストーカー被害にあっているらしいことを打ち明けてくれるでしょう。そして、
「探索者って、私と帰り道同じだよね?今日一緒に帰ってくれないかなあ……」チラッチラッ
と言われます。それぞれの理由からちょうど麻希が帰る9時ごろまで大学に居る予定だった探索者は、共に帰ることになる……といったところで導入が終わります。

HO5の導入
 上記二つのうちどちらかにくっつけるか、適当な形で導入を行ってください。

7.肝付汚太郎大地に立つ
 矢口町駅を降りたところで探索者たちは合流することになります。駅で探偵と警察に話しかけると麻希は
「あーっ、いっけない!
そういえば朝お母さんにいわれてたんだった!」

とお茶目ぶりを発揮します。と言っても、ここまで来て別々に帰るということもないでしょう。万一そういった探索者が居れば、別れた後トラックにひき殺させる……ということはせず、麻希を使って引き留めましょう。
路地.jpg
 麻希の家は最寄り駅「矢口町」駅から20分ほど歩いたところにあります。駅には地方の駅にありがちな横断幕が張られておりでかでかと[秋月麻希さん国体出場おめでとう]と書かれており、この町における彼女の有名さを物語っています。
「流石に恥ずかしいけどね」

 彼女は近日控える大会のために、毎日練習を行っており、矢口町駅に着く時間は決まって夜9時前後となります。このため、彼女から何か話を聞くとしても練習が終わって以降になってしまいます。この時、シークレットダイスでストーカー男の〈忍び歩き〉〈隠れる〉ロールを行ってください。探索者たちが不審者を警戒していれば、任意の適当な技能に成功することでコンデジを首から下げ、挙動不審な動きをする太った男(肝付汚太郎)を見つけることができます。仮に全員が失敗したとしても、ストーカーの男の技能が失敗していれば、電柱の陰から腹が出ているのが見えるなどと言って発見させましょう。
 
 その男に対して声をかけるなどのアクションを行えば彼は酷く混乱し、「怪しいやつらめ、お前ら一体麻希ちゃんの何なんだ!ストーカーか?」などと意味不明な言葉を早口で並べ立てます。〈心理学〉に成功すれば彼が麻希に対し強く執着している様子が見て取れ、〈精神分析〉に成功すれば、彼の様子から秋月麻希に対して病的な偏執症を患っており、現在は見知らぬ人に話しかけられたことで、一時的なパニック状態に陥っていることがわかることでしょう。

8.逮捕劇
 彼と接触してしばらくすると、パニック状態に陥った彼は護身用に持っていた果物ナイフを取り出し、振り回しながら近寄るなと騒ぎ始めます。探索者たちが警察を呼ぶ、取り押さえようとするといったアクションを起こすならストーカーの男が過剰反応し、戦闘が開始されます。

ストーカーの男、肝付 汚太郎
APP3、それ以外は任意
耐久力は人間の範疇を越えない任意の値(最大でも18)でよい ダメージボーナス なし
技能:小型ナイフ35%、信用を含む全ての交渉系技能1%、聞き耳40%、忍び歩き50%、隠れる10%
精神的な障害:秋月麻希に対する偏執症

 男は3ポイント以上のダメージが入った段階、あるいは〈精神分析〉に成功した場合、その場にうずくまり泣き出します(探索者たちが攻撃を躊躇しているようなら、ダメージが入った段階で戦闘終了としてもかまいません)。そのまま警察などを呼べば、ストーカー規制法や傷害の現行犯などで逮捕されることでしょう。仮に警察を呼ばずとも、戦闘中に肝付は大声で騒いでいるため近所の住人が通報しています。後日警察の事情聴取などはあるかもしれませんが、少なくとも付きまとっていたストーカーは逮捕され、麻希も一息ついている様子を見せます。

  なお、誤ってストーカーの男を殺してしまった探索者は殺人犯として逮捕されシナリオに参加できなくなってしまいますので、KPはダメージに応じてストーカーの男の耐久力を上限までの範囲で最大限調節してください。

9.夕食の誘い
 肝付が逮捕されたニュースは地方新聞で取り上げられ、凶器を持った男を通りすがりの通行人らが現行犯で取り押さえたと報道されています。報道によれば、犯人は未だ興奮状態にあり、矢口町内の総合病院で治療と療養を行った後に詳しい事情聴取を行うとのことです。
この事件の解決後、お礼をかねて秋月家から夕食の誘いがきます。KPは探索者の性格などを見て有効だと判断する手段で夕食に誘い出しましょう。千草が料理教室の講師であることや、秋月麻希の人懐っこい性格を利用するとスムーズに事が進むかと思います。

 秋月家は公団の一室であり、2DKとやや狭いものの二人暮らしには十分な広さです。千草は料理教室の生徒を家に招いて食事をとることもあるので、ダイニングのテーブルは大きめで探索者たちが食事をとるスペースも十分にあるでしょう。ダイニングの調度品は品の良いものが並べられており、棚にはインテリアの小物とともに料理のレシピ本の他、アルバムのような大型の本が納められていることがわかります。また、ダイニングは二つの部屋と繋がっており、[MAKI’s ROOM]とプレートに書かれた扉は閉められていますが、もう一方は扉が開け放たれています(ただし、扉が開いているほうも電気が消えているため、中の様子をうかがい知ることはできません。)。
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 探索者たちが秋月家に到着したタイミングではまだ千草が料理中であり、出来上がるまでの間に麻希と会話をする時間が多少与えられます。探索者たちが麻希に尋ねそうなこととしては彼女たち自身のことや、アルバムを見れば父親のことを聞くかもしれません。秋月親子の情報はNPC紹介を見ていただくとして、父親に関して麻希が知っていることを以下に書いておきます。

〇父親について
 自分が生まれてすぐ交通事故で死んでしまったと千草は彼女に伝えています。彼女が父親に関して聞かされていることは殆どないため、父親のことを聞かれてもあまり答えられませんが、命日が自分の誕生日(6月4日)と同じであるということは知っています。
 写真なども極度の写真嫌いであったため一枚も残っていないと聞かされています。墓参りにも行ったことがなく、これについても宗教上の理由でと麻希に説明しています。父親の影がなさすぎることを子供ながら不思議には思っていましたが、母親が精神を病んでいることについて知っている麻希は、親を気遣って父親のことを聞かないようにしてきました。

 2,3会話をした後に食事は出来上がります。一見して本格的なイタリアンの料理が食卓に並ぶと、麻希が「ちょっと待ってて」と探索者たちに告げ、母親から渡されたおかずの入った皿を持って電気が消えた部屋へと入っていきます。その際麻希が電気をつけるので、部屋の一部の様子が目に入ります。
 ダイニングからはベッドの端と■仏壇が見え、麻希はその仏壇にお皿を供えるとすぐ戻ってきます。探索者が仏壇のことを尋ねれば、麻希があれは父親のものであると話してくれるでしょう。
※なお、麻希が入っていった部屋は千草が私室として使っている部屋です。
■仏壇
 黒を基調としたやや小さめの仏壇で、遠目から見ても仏壇におかしな点は見られません。ダイニングから〈目星〉を行う場合、距離があるので追加で〈アイデア〉に成功することによって、位牌やロウソクなどの仏具や白い小さい花が手向けられているものの、故人の写真などは見当たらないということだけがわかります。

 麻希が戻ってくれば、食事が始まります。世間話や、探索者の中に知人が居れば共通の話題で夕食の場は穏やかに流れていきます。千草に父親のことを尋ねれば、麻希が知っているような内容を話すか言い淀み、そのうちにやんわりと麻希から制されることでしょう。最も、千草自身はそれほど気分を害していませんし、食卓の雰囲気が悪くなる、ということもありません。

10.蘇る悪夢
 夕食が一段落つき、デザートでも食べようかという頃、麻希が「いっけない、忘れるところだった」と意味ありげな笑みを浮かべながら自分の部屋に向かうと、何やらラッピングされたビンのようなものをテーブル上に置きます。

「実は私、今日二十歳になったんだ~。お父さんの命日でもあるから、お祝いはできないけど……。これは、自分への誕生日プレゼントのつもりで買ったんだけど、皆にもあげるね。」


 そう言いながら中身を取り出すと、ワインボトルが顔を出します。〈知識〉などの適当な技能に成功すれば、大学生が飲む分にはちょっと高いが、口当たりのやわらかな飲みやすいワインであることがわかるでしょう。麻希は笑顔を浮かべながら、探索者たちの中でお酒が飲める人が居れば一緒に飲もうと誘いの言葉をかけてきます(なお、この間千草はあっけにとられたように硬直しています)。

 飲むと答えた探索者たちの人数を数えてグラスを取りに向かう麻希ですが、その途中で母親に手首を掴まれたかと思うと、不意に母親からビンタをくらいます(〈こぶし〉で判定、ダメージはなしだが、成功するとしばらく手の跡が赤く残る)。バシッという痛々しい音が耳に刺さるでしょう。
「酒なんか飲むんじゃないって前に言ったでしょう!」
 千草がそれまでの落ち着いた雰囲気とはうって変わってヒステリックに叫びます。麻希は驚いた様子で「どうしたの、突然」と言い返しはするものの、母親の剣幕に押されてその場に立ち尽くしています。
端から見ても千草の態度は行き過ぎであることは分かるでしょう。秋月千草と面識のある探索者も、このような千草の姿は見たことがありません。〈心理学〉に成功すれば、千草の様子からは恐れや恐怖といった感情が読み取れます。また、千草に対する〈精神分析〉に成功すれば、彼女の態度がなんらかの精神的な病に起因するものではないかという予測が立ちます(クリティカルが出れば、千草は酒に対する強いトラウマを抱えていることがわかります)。

 いくらか一方的に叫んだ後千草は自室に閉じこもってしまい、ダイニングには麻希と探索者たちだけが残ります。涙のにじむ目を袖でこすりながら麻希は探索者たちに詫び、今日はもう帰ってくれるように頼みます。ワインのボトルも探索者の誰かに持って帰ってもらうよう頼むでしょう。
先ほどの千草のことを尋ねたり〈精神分析〉の結果を伝えれば、以前母親が精神科にかかっていたことを教えてくれます。なお、彼女は千草の酒に対するトラウマに関しては何も知らないため、それに関して聞かれても答えることはできません(以前から酒は飲むべきでないと言われていたことは事実ですが、未成年飲酒のことを指しているのだろうと思っていました)。


11.日常に入る亀裂(インターバル)

 秋月家における夕食の一件はありましたが、あの日から一週間、探索者たちはそれぞれの日常を過ごすことになります。この間の行動宣言は広く認められるべきですが、まだ神話的事件が起こっているというわけではないので、処理は簡潔に行うようにすべきでしょう。KPは以下の文章を参考に、再びストーリーに動きがあるまでの日常を簡潔に描写してください。

〇警察官PC
 あの夕食から5日後、探索者は連続失踪事件の合同捜査チームに編入されることになります。なんでも、隣町で起きていた不可解な失踪事件がPCの所属する管轄である矢口町においても起こるようになったとのことです。死体があるというわけではないのですが、一帯における失踪者が毎日一人というハイペースで増えており、偶然と説明するにはあまりに件数が多すぎるため、事件性があるとして捜査チームが発足されました。しかし、失踪者の年齢や性別などはバラバラで目撃者も皆無とあって、捜査は難航しています。また隣町の警察官は矢口町警察署との合同調査に非協力的であり、それに応じて矢口町の警察官はもっぱら書類整理などの作業が中心となっています。そのため、現段階では探索者も表立った捜査ができません。

〇友人・教授などのPC
 練習を続けていた大会が終わり、ようやく時間の取れるようになった麻希も授業やゼミに顔を出すことになります。探索者が断固として彼女を避けるようなことがなければ自然に会って話をし、夕食後の千草の様子を聞くことになるでしょう。
 彼女によると、次の日の朝に千草は謝り、
「昨晩取り乱したのは昔酒を飲んだ時の悪い思い出が蘇ったから。自分から呼んでおいてあのようなことになってしまったことに対していつか直接謝りたい。」

と言っていた旨を伝えます。
「せっかくの誕生日だったっていうのに、
あれじゃあアンハッピーバースデイだよ」

と、麻希は冗談めかして言うことでしょう。
 しかし、彼女と同じ時間を過ごしている探索者は気づきますが、麻希は日中、授業中でさえもしばしば付近を気にする様子を見せます。尋ねられればストーカーは捕まったはずなのに、未だあの誰かに見張られている感覚が続いているどころか、むしろ酷くなっているような気がするということを話すでしょう。

〇探偵PC
 秋月麻希に付きまとう肝付汚太郎を捕まえてから5日後、今度は麻希から直接依頼が舞い込んできます。なんでも、ストーカーは捕まったというのに依然として誰かに見られているような感覚を感じるため、他の誰かにもストーキングをされているのであれば、その人物を突き止めてほしいというものです。また、彼女は母親を心配させたくないがためにこの件を母親には伝えないでほしいと話します。
しかし、いくら探してもこの件に関して探索者が以前のようなストーカーを見つけることはできません。


12.空の落とし物
 肝付が逮捕されて一週間後となるインターバル終了後1日目の午前中、探索者たちは麻希にストーカー被害の件でまた相談したいことがあると、近所のカフェに呼び出されます。
カフェ.jpg
 話の内容は概ねインターバル中に友人・教授などのPCに対して話していたような内容です。ストーカーが逮捕されたのに未だ被害が収まらず、犯人も見つからないということで、どうしたらいいかと途方に暮れて8.逮捕劇の時に自分を助けてくれた探索者たちを頼ったのです。また、麻希は一週間前の夕食のことを謝り、母親も時間が合う時に皆さんに謝りたいと言っていたということを伝えます。
 探索者たちが麻希に対して何か聞きたいことがあれば、このシーンで済ませてしまいましょう。また、この問題には解決方もないことですから、聞きたいことが尽きたか話に詰まったタイミングで、以下のイベントを発生させます。

 警察官PCの元に、上司の警官から電話連絡が入ります。その内容は、麻希のストーカーとして逮捕され、治療を受けていたストーカーの男が、4階にある病室から突如消えたというものでした。加えて上司が言うには、「隣町の警察署がうちの管轄ででかい顔をして捜査しているのが気に食わないから、肝付の一件を盾に矢口署お抱えの探偵と協力してこの事件について探れ」とのことです。ちょうどよく新たな事件も舞い込んだことですし、喫茶店に長居することはないでしょう。喫茶店を出ると、続いて以下のイベントが発生します。
 探索者たちと麻希が喫茶店を出るタイミングで、麻希が大きく身震いをし、小さな悲鳴を上げると、彼女は酷い震えによってその場にへたり込み、動くことができなくなってしまいます。また、このタイミングで探索者たちは、喫茶店の敷地のちょうど建物の陰になっているところから、「ボスッ」という、何か相当重いものが落ちた音が聞こえてきたことに気が付きます。ここで、音の確認をする探索者が居れば、以降シーンを分け、先に音の確認チームを描写する必要が出ることでしょう。
 喫茶店の裏手には広い花壇が設置され、色とりどりの花々やハーブが育てられていますが、その中央部に明らかに不自然な穴があるのを発見します。辺りに足跡などは一切ありません。その穴を覗くと宣言があれば、以下の描写を始めてください。

 穴の中には、先ほどの落下音の原因が入っていた。それを見れば、先ほどの音があれだけ大きかったこともうなずける。
 深さ2mほどある穴の中には、太った男が、足を上にして、首と手足をあらぬ方向に曲げながら鎮座していた。その恰好は球体関節の人形かと見まがうほどの、おおよそ人間が取り得るべくもない体勢であり、もはや肉体に魂が宿っていないのだろうと理解させられてしまう。
 そして、落ち着いてみれば気が付くことだろう。視線を下げたその先にある死体の顔は……一週間前に見た、あのストーカーの顔だ!【1/1d4のSANチェック】

 肝付の死体は病院服を着ていますが、あまり着衣の乱れはありません。死体の顔に対して〈心理学〉を行えば、口が大きく開かれた死体の表情は驚きに満ち溢れており、わけもわからぬまま殺されたのであろうことが推察できます。〈医学〉+30や〈応急手当〉に成功すれば、その血色から、つい先ほどまで生きていたであろうことが推察できます。

13.交わる線
 12.空の落とし物のイベント後、花壇の側の探索者たちが麻希らのもとに戻ろうとしたり、警察を呼ぼうとした場合、花壇側に居る探索者たちの視界が見る見るうちに黄色い、玉虫色のもやに覆われていきます。隠れていたヨグ=ソトースの娘が《ヨグ=ソトースのわしづかみ》をその場の全員に使用して足止めを試みたのです。この際、声を出したり移動することはできませんが、視力以外の五感は働きます。
参考:《ヨグ=ソトースのわしづかみ》…使用者は声の届く範囲に居る任意の対象(複数でも可)とMP対抗ロールを行う。対象が対抗に失敗した場合、玉虫色に視界が覆われると共に心臓を締め付けられるような感覚に襲われて行動不能に陥る。効果は一分間続き、一分ごとに1d3ポイントのダメージを受け、使用者はその分のMPを消費する。初めてこの現象に遭遇した探索者は【1/1d3のSANチェック】。対象が対抗に成功した場合、玉虫色の輝きが自分の網膜に焼き付けられるのを感じて正気度を1点失う。

 花壇側の処理が終わったら一旦場面と時間を戻し、麻希たちのシーンに映ります。麻希は先ほどの震えが尋常じゃないほどに悪化しており、〈精神分析〉に成功するか、数分間優しく話しかけるかしなければ、自力でその場を離れることすらかないません。このシーン中、探索者たちは花壇側と同じ任意のタイミングで、のどがつぶれたようなしゃがれ声で発せられる下記の言葉とともに不意打ちの《ヨグ=ソトースのわしづかみ》攻撃を受けることになります。

「その反応……全てを忘れて生きてきたのか。
気に入らないが、罰を与えるには好都合だな。」


 対抗に失敗した探索者は視界を奪われてその場にくぎ付けになりますが、成功者は視界に制限がかかりながらも拘束を受けることはありません。探索者は〈聞き耳〉ロールを行うまでもなく、いつから聞こえていたのか、背後から何かをぶつぶつと呟く声が聞こえることに気が付くことでしょう。対抗に成功した探索者がその声の発生源を探すなどという宣言があれば、以下の描写が開始されます(状況に応じて適宜細部を変更してください)。

 その存在は、大まかには人の形をしていたが、一見して狂気を駆り立てるに不足ない姿であった。
 全身の皮膚が焼けただれ、焦げ跡の残るひび割れた体。そのあちこちから、呼吸と同期して膿の如き黒い体液が、滲出と吸収を繰り返している。腕は片腕だが、下半身からは3本の足を生やしており、それらに加えて体液と同じ漆黒の、不定形の触手を体から幾本も伸ばしていた。
 これほどまで明らかな異形であるにもかかわらず、どうしてであろうか……毛髪の焦げ落ちたその顔は、まさしく人間のそれだった!【1d8/3d10のSANチェック】


 視界に制限を受けている探索者はよく見えなかったということでSANチェックの減少量が半分になります。また、この際の発狂内容はその場にくぎ付けになる固定です。全員が対抗に失敗してしまったり、誰一人として探索者がヨグ娘を目撃することがないような場合には、麻希の近くまでヨグ娘が近づき、全員の視界内にヨグ娘が移動してきたという形をとるようにしてください。
 ヨグ娘の詠唱によって発動するのは《精神力吸引》の呪文です。《ヨグ=ソトースのわしづかみ》の対抗に失敗した探索者は無条件で、成功した探索者はMP20との対抗ロールに失敗したらMPを1d6失います。
 ヨグ娘が詠唱をするとともにMP対抗に失敗した探索者たちから水蒸気のような白い煙が体から立ち上り、怪物の体内へと流れ込んでいきます。同時に探索者たちは、自分の体から何かが失われていくような感覚と共にMPを喪失することになります。
 しかし、そんな中でどこか余裕の表情を浮かべていた化物の表情が驚愕に代わります。不思議なことに怪物の身体からは探索者たちと同じように白い煙が発生し、麻希の体へと取り込まれているのです。

「なぜだっ……!?
お前は寵愛を受けていないはず……
まさかあの時、私の力も盗んでいたのかっ……!」


 ここまで喋った段階で、麻希の周辺に居る探索者(花壇組除く)はPOW*1ロールを行い、成功者は首に指が食い込むような感覚を覚え、一時呼吸困難になります(詳しくは19.封印された記憶参照)。また、このシーンで麻希の姿を見ると宣言した探索者は、これ以降のイベント中、麻希がうつろな目で口を動かし、両手で複雑な印を組んでいる姿を目撃します。
 驚愕の表情を浮かべて怪物がそこまで喋ると、触手の動きが不規則なものに変わり、そのうち一本が中ほどからボトリと落ちます。切り口からは黒い体液が垂れ、触手の一部は地面に落ちると「バシャッ」という音を立てて垂れる体液と同化します(これは防衛反応として反射的に麻希が使用した《手足の萎縮》によるものです)。思わぬ反撃に唸り声をあげながら後ずさるヨグ娘に対して麻希は追撃として《萎縮》の呪文を発動し、化物の体に傷を負わせます。

「今は無理か……だが忘れるなっ……
記憶を消しても、過去の罪は消えないっ……!
次ぎ会う時……私がこの手で断罪してやるっ……!」


という捨て台詞を残すと、その場を飛んで離脱し、拠点としている下水道へと逃げていきます。このイベントの終了時、麻希のMポイントを1上昇させます。

 ヨグ娘が去った後は探索者たちにかけられていた呪文も解け、麻希も普段の状態に戻ります。麻希に話を聞いても、急に息苦しくなった後意識を失ったと答え、イベント中に行っていた行為は覚えていないと答えます。また、詳しく当時の状況を思い出そうとすると、再び息が詰まるような苦しさに襲われ、喉を押さえて苦しみます。
 〈医学〉などを使用すれば、この症状は医学的原因により引き起こされたものではないことがわかるでしょう。〈精神分析〉に成功すれば、この症状が心因性のものであると思われるが、喉だけが苦しいという症状は珍しいことに気が付きます(クリティカルが出れば、過去のある出来事がフラッシュバックしていることまでわかっていいでしょう)。
 また、ヨグ娘に関しては、いつも感じていたストーカーの視線と同じものに加え、体に刺さるような強い憎悪を感じたと話してくれるでしょう。ここでも〈精神分析〉あるいは〈心理学〉(失敗すれば〈アイデア〉の半分でもよい)に成功すれば、麻希がこれまで訴えてきた視線という表現は彼女の思い込みであり、彼女が実際に感じているものは誰かに見られているというような視線とは別種のものではないかという発想に至ります。
 ここまでのことを探索者に伝えると、とうとう耐え切れなくなった麻希は

「私、何もしてないのにどうして……」


と泣き出してしまいます。

14.忍び寄る影
 13.交わる線のイベントにて撤退したヨグ=ソトースの娘は、一度拠点としていた下水道へと戻った後しばらくして、負った傷を回復し、秋月麻希の精神を追い詰めて再度の《精神交換》に備えるために、「麻希と親しい人物」が一人になったところを襲い、捕食しようと機会を窺っています。イベントが発生してしばらくは安全ですが、一定時間が経過したのちは、探索者たちもヨグ娘による上空からの監視を受けることになるでしょう。
 イベントから一定時間の経過後、探索者たちは外で行動をするたび〈アイデア〉の1/4から始まり、1/3、1/2、…と続いてロールを行い、成功者が出た際に鳥や雲とも違う不自然な形の大きな影が、自分たちの周囲を何度も横切っていることに気が付きます。

15.千草の予感
 13.交わる線で麻希が襲われた後彼女は家に帰ろうとしますが、探索者たちはおそらく彼女を一人で帰すことはしないでしょう。麻希を家まで送ると千草が出迎え、娘のただならぬ様子を感じ取って何が起きたのかを尋ねます。
 探索者たちがどう話すかは自由ですが、この時点でヨグ=ソトースの娘の外見的情報を詳しく話した場合、彼女は明らかな動揺を見せます。しかし、この段階ではまだ彼女の中で確信が得られていないので、探索者の問いかけには答えません。この時〈心理学〉を行えば、「彼女は何か知っていることを隠している」という情報は得られるでしょう。
 どういう形であれ異常な状況を把握すれば、千草は探索者たちに対し、「私は仕事を休めず麻希を一人にしてしまうことがあるから、その間彼女と一緒に居てくれないか」ということを頼みます。また、「麻希のことに関して何かあれば、どんなことでも随時自分に報告してくれるように」と要望します。探索者が千草への報告を怠った場合、彼女は直接電話をかけて何か変わったことがないかとしつこく尋ねることでしょう。
 これ以降、連続殺人事件の詳しい情報(主に残されたメッセージ、探索者たちが実際に遭遇した場合、ヨグ=ソトースの娘の見た目など)を伝えると、20.千草の告白イベント発生のフラグが立ちます。

16.revenge of two decades’ standing
 この項ではKP向けにこれ以降起こる出来事の真相と、シナリオ上の流れを説明します。矢口町とその隣町で起きていた連続失踪事件は、20年前秋月千草が殺したと思っていた「ヨグ=ソトースの娘」によって引き起こされたものです。母親に殺されかけた後地中に埋められた後、20年近く死ぬこともできずに苦しみながら生き続けていました。
 以下は、シナリオ中におけるヨグ娘の行動と、それに応じて発生する麻希との共鳴現象に関しての記述です。
シナリオ開始一か月ほど前からインターバル数日前までの間
 シナリオ開始一か月ほど前、地中に埋められて約20年が経過した後も自力で外に出ることが出来ずにいたヨグ=ソトースの娘でしたが、母親の千草がこの場所を訪れたことに反応し、会いたい一心で限界を超えた力を発揮し、脱出に成功します。地上に出てからしばらくは夜間に人間を襲い、その肉体を下水道の中で喰らうことによって成長していく日々が続きますが、これが秋月親子の住む矢口町の隣町で起きた連続失踪事件の真相となります。
 通常彼女は不可視の存在ですが、獲物を捕まえるために呪文を使用する際、また食事をしてしばらくの間はヨグ娘の姿が見えてしまうため、一晩につき一人捕まえた後は下水道に潜り、ゆっくりと捕食しています。
 ある程度成長したヨグ娘は「麻希」への復讐のため、唯一知っている母親の名前を出し、居場所を尋問してから獲物を殺すようになります。娘の麻希が比較的有名だったことが災いしてすぐに母親の居場所と最も憎む相手の名前は判明し、ヨグ娘はまっすぐ矢口町へと、人を喰らいながら移動し始めました。これが、隣町から矢口町に向かって行方不明者の失踪場所が移動している理由です。

インターバル数日前~13.交わる線の間
 矢口町内に入ったヨグ=ソトースの娘は秋月家付近の下水道に拠点を置き、最後の捕食活動を付近で始めます。麻希の所在地は既に把握しているため、捕食活動を行わない日中は麻希が家を出て矢口町内にいる間は彼女を監視しており、この時ヨグ娘が目撃した麻希の友人や探索者たちは後の殺害対象にもなります。
 麻希の方も「周囲に誰かが居る気配」をだんだん強く感じるようになりますが、肝付逮捕後しばらくは気のせいだとして気にせず過ごしていました。しかし、今まで夜間だけだった「被害」が明確に日中でも起こるようになったことから、事態が解決していないことを確信します。

13.交わる線以降(探索再開のタイミングから
 連日の捕食活動により過去の傷跡も回復したため、ヨグ=ソトースの娘は最終的な復讐として《精神交換》を発動するために喫茶店で麻希たちを襲います。しかし、予想以上に麻希の精神力(MP)が高く、逆に彼女から反撃を受けてしまい、一時拠点にしていた下水道へと逃げ帰ることになりました。こうした事情から、ヨグ娘は作戦を立て直す必要に迫られます。
 正面からでは精神力(POW=MP)の差から歯が立たないため、まずヨグ娘は麻希を精神的に追い詰めて精神力(MP)を削ごうとします。そのための手段として、ヨグ娘は「秋月麻希と親しい人間」(「麻希がこの一週間で会っていた人物」)を殺害し、その死体を路上に遺棄するのです。この際、ヨグ娘は自身の傷を回復するため、死体を一部捕食しています。
 ヨグ娘はこれ以降地上で活動するため、麻希の感じる気配がなくなることはりません。また、これ以降は麻希の記憶が戻っていくにつれて症状が重くなっていき、ヨグ娘の気配と恨み、妬み、苦しみ、復讐心といった負の感情さえも感じるようになります。

17. 復讐の名のもとに
 ヨグ=ソトースの娘はMP対抗ロールで負けたことから麻希を精神的に追い詰める(MPを減少させる)ため、彼女の知り合いや友人を殺害していきます。今までとは異なり死体は人通りの多いところで放置されるため、殺害後すぐに発見されることでしょう。
 なお、この「彼女の知り合いや友人」には探索者たちも含まれます。最初に木谷理絵が殺されて以降、探索者たちは矢口町内を移動する毎にPOW*1ロールを行い、成功者はどこからか自分が見張られているような視線を感じるようになりますが、これはヨグ=ソトースの娘が麻希と関係ある人間を監視し、一人になった人間を狙って襲撃しているからです(NPC達は一人になったタイミングを襲われています)。
 死体発見後は一定時間現場検証が行われますが、この件相は隣町警察署主導のもので、探索者が立ち会うためには交渉系技能が必要です。しかし、肝付の件との関連を述べるなどすれば、大幅なプラス補正か、自動成功扱いで現場を調べられるでしょう。いずれの死体にもビニールがかけられており、誰もが見える状況にはありません。死体を目撃した探索者は【0/1d4のSANチェック】です。死体による正気度喪失が5ポイントを越えた探索者は、以降死体に慣れたということでSANチェックを省略します。
 なお、現場検証が終わった後は報告書がまとめられて保管されるため、事件現場に行かなくとも数時間後に事件の内容を警察署で知ることが可能です。しかし、黒い粘液に関しては現場に行かない限り入手することはできません。

 麻希が被害者の名前を聞けば、そのNPCがつい最近会った友人であるということを説明してくれます。直接名前を出せば、探索者たちが麻希に友人の死を伏せても、ことあるごとに伏せている事実を聞き出そうとするでしょう。また、探索者たちが麻希に現場に残されたメッセージの内容を相談するのであれば、このメッセージはいったい誰に向けられたものなのかと問いかけるなど、20.封印された記憶のトリガーを引くように誘導してもいいでしょう。
 麻希が自分の友人の死を知るか、あるいは事件現場に残るメッセージを見たとき、「20.封印された記憶」の処理に従ってTポイントを4、Mポイントを1上昇させてください。Tポイントの加算は最終決戦のバランス調整でもあるため、最低限二回は発生させるよう、ネットニュースやテレビ報道などを活用してください。
各事件現場の情報は以下の通りです。
■木谷理絵
 彼女は麻希と同じ大学に通う友人です。一人で家を出てしばらくしたところを襲われ、死体は住宅街の一角で見つかります。彼女の死体はすさまじい力でねじ切られてバラバラにされ、一部にはむさぼられた跡が残っています。しかし、頭だけはきれいに残されており、死んだ当時の恐怖と痛みにひきつった顔が張り付いています。死体にはビニールがかけられており、誰もが見える状況にはありません。死体を目撃した探索者は【0/1d4のSANチェック】です。死体による正気度喪失が5ポイントを越えた探索者は、以降死体に慣れたということでSANチェックを行いません。
 現場には下水臭い臭いが漂っており、周囲の〈目星〉に成功すれば敷地内の一角に黒いゼラチン質の粘液を見つけることでしょう。また現場には死体の血文字で書いたとみられる以下のような走り書きのメッセージが残されています。

「お前のせいでこいつらは死ぬ。
私はお前の罪そのものだ。
逃れられると思うな。」


■樫井菜緒
 彼女は高校時代からの麻希の友人です。友人と一緒に行ったバイト先から一人で帰る途中に、路地の一角で襲われました。頭がブロック塀に叩きつけられてひしゃげていますが、顔の損壊はありません。しかし、はらわたがえぐりとられています。こちらも死体にはビニールがかけられており、誰もが見える状況にはありません。死体を目撃した探索者は【0/1d4のSANチェック】です。死体による正気度喪失が5ポイントを越えた探索者は、以降死体に慣れたということでSANチェックを行いません。
 現場は木谷理絵の現場よりは薄いものの下水臭い臭いが漂っており、周囲の〈目星〉に成功すれば少し離れたところに黒いゼラチン質の粘液を見つけることでしょう。また現場には死体の血文字で書いたとみられる以下のような走り書きのメッセージが残されています。

「何故お前が生きているんだ
お前が死ぬべきだったのに」

■長月涼介
 彼女は麻希の幼馴染です。友人との待ち合わせ場所に一人で向かう途中、近道にしていた病院施設の職員用駐車場で襲われました。死体はどこか高いところから落ちたかのように全身を強く地面に叩きつけられた跡があり、太腿の肉がえぐられています。また、首から上だけが丁寧に体の上に載せられています。
 下水の臭いはあまりしなくなり、〈聞き耳〉に成功しなければわからないほどです。周囲の〈目星〉に成功すれば、敷地内に点々と残る黒いゼラチン質の粘液を見つけることでしょう。また現場には死体の血文字で書いたとみられる以下のような走り書きのメッセージが残されています。

「お前に負わされた傷は回復した
私は代償を払ってでも復讐を選ぶ
全ては失ったものを取り戻すために」


18.タイムスケジュール
 以下の記述はあくまで探索者の影響を考慮しないものであり、実際の行動は進行に応じて変化します。

〇インターバル終了後一日目
午前
・麻希は13.交わる線において探索者たちと行動を共にする
・千草は料理教室にいる
昼~午後
・秋月麻希の大学の友人木谷理絵の死体が発見される
・秋月麻希は探索者と別れた後、特に連れ出されなければ帰宅
・千草は料理教室にいるが、夜前には帰宅
〇インターバル終了後二日目
午前
・秋月麻希の高校時代からの友人樫井奈緒の死体が発見される
・(麻希の友人が殺害されたことを知らない場合)麻希はそのまま大学に行こうとする
・(麻希の友人が殺害されたことを知っている場合)麻希は探索者たちと行動を共にする
・千草は自宅に迎えに来た生徒たちと共に料理教室へ
午後
・麻希が大学に行っている場合、夕方には家に戻る
・千草は夕方に料理教室の生徒たちに送られて帰ってくる
〇インターバル終了後三日目
午前
・千草が一人で家に居る場合、正午近くに千草が襲撃される
午前・午後共通
・千草生存時秋月親子は家の中で動かないが、千草死亡時麻希は自室で引きこもってしまう
・遅くとも夜までにヨグ=ソトースの娘との最終決戦が行われる(◆夢日記の解読などで手間取っている場合、KPの任意の裁定で襲撃判定を行っても良い)

19.警察所での情報
【警察署の概要】
 警察も独自にこの連続失踪事件に関して捜査していますが、主だった捜査は既に捜査を行っていた隣町の警察官を主体として行われており、矢口町の警察官は書類整理などが中心であまり活発な捜査を行ってはいません。また、そういった事情もあり矢口町の警察官も士気が低く、資料を持ち出しても咎める人はいないでしょう。
 13.交わる線のイベントを終えて以降初めて警察署を訪れた場合、上司にあたる警察官から逮捕した肝付が死亡したことを遺族に伝えておいてくれと、肝付邸の連絡先を渡されます。
 捜査本部の情報を〈図書館〉で調べることにより◆過去の失踪事件の情報を詳しく調べることが出来ます。また、捜査に進展があった場合は、直接連絡が入ることもあるでしょう(KPはこれを使って探索の進展具合に応じ、情報を出すことも可能です)。
■証拠保管所
 肝付が事件当時持っていたものはここに保管されており、首から下げていたコンデジもここに収められています。しかし、メモリーはなくSDカードも抜き取られていることがわかるでしょう。
◆ストーカーの男の事情聴取記録
 本格的な聴取の前に取られたもののため量が少なく、いくつかの質問とその答えが数ページ程度の紙にまとめられています。特にロールの必要もなく10分ほどで読み終えることができるでしょう。
この資料によれば、肝付は以前にも盗撮で逮捕歴があるようです。肝付の供述によると一年前からストーキングをしているようですが、「ぼくは麻希ちゃんのナイトなんだ」とあくまで彼女を見守っているだけであり、家の中までは見張っていないなど、麻希の訴えとは異なる供述をしていることが確認できます。
 また、「ぼくは麻希ちゃんのストーカーを捕まえようとしていただけなんだ。こうしている間にあの変態スカイ仮面が麻希ちゃんに何かしたらどうするつもりだ!」
 などという意味不明な供述もしているようです。事情聴取記録の最後は、「本官の科学的推量によれば、犯人は変態性欲者であると断定しうる」という言葉で締めくくられています。

◆過去の失踪事件の情報(〈図書館〉成功で数時間かけて情報取得、失敗時は半日経過)
 隣町でここ一か月に失踪した人間の個人情報を含めたファイルに加え、最終目撃地点など捜査に必要な情報が文書として残されています。
 文書ファイルを見る限り、隣町警察署はハイペースで発生する事件の数々に対して明らかに人員数が足りておらず、捜査がおざなりになっているようで、聞き込みの対象も失踪者の親族といったかなり狭い範囲になっていることがわかります。
※十分な聞き込み捜査が行われていれば、失踪時間が夜間、特に麻希が視線を訴えていた時間帯付近に集中していることがわかっていたでしょう。探索者が手分けして独自に聞き込みを行えば数時間でこの情報は得られますし、クリティカル情報として与えてもいいでしょう。
 40人近く居る失踪者のデータに規則性はあまりなく、共通することと言えばこれほど異様なハイペースで失踪が繰り返されているにもかかわらず、事件性のある証言や目撃情報が全くないことと、小さい子供と年寄りが少なく、家に居た人間が突然蒸発するというケースが見受けられないということでしょう。
 この資料を読んで〈アイデア〉ロールに成功すれば、失踪者の最終目撃場所を地図上で確認してみると、当初隣町では全く不規則に失踪者が出ていたものの、突然矢口町のほうに向かって直線的に移動し始めていることに気が付けます。そして、ここ一週間はおおまかに秋月家を中心とする円上において事件が発生していることに気が付きます。このロールは情報を共有した探索者も行えます。
 もし技能が失敗した場合、時間経過の途中で一部情報を開示するなどして、情報待ちで探索が滞らないように工夫しましょう。
 また、警察署には◆ストーカーの男の事情聴取記録や◆汚物ばら撒き事件に対する住民からの被害届なども保管されています。これらについては〈図書館〉成功で即座に、失敗でも数十分~一時間で見つかるでしょう。

◆ヘドロばら撒き事件に対する住民からの被害届
 黒い粘液に関連する情報がないかと警察署内の他の情報を捜すのであれば、一時間かけて〈図書館〉に成功することでこの情報を得ることが出来るでしょう。
 この情報は自由探索が始まった初日の夕方以降、できれば最初の殺人事件が起きた後に置かれるべき情報でしょう。矢口町の住民から道路上にヘドロを撒いた人間がおり、強力な洗剤を使わないと汚れが落ちず、また下水臭さがひどく困っているという内容の訴えが届いています。通報のあったヘドロの散布場所が一部地図上に乗っており、道路上を斜めに長く横断するような形で一直線上に撒かれていることが確認できます。
 ヘドロの目撃地点まで行けば、ある程度汚れは落とされているもののかすかな汚れと下水臭さは残っています。これを辿っていこうとする場合〈目星〉と〈聞き耳〉に成功する必要があります(成功者は別々でもよい)。〈ナビゲート〉や〈追跡〉技能を持っている探索者が居れば〈追跡〉+10一回だけで代用してもいいでしょう。
技能に成功すれば、地図上で見て一直線上にヘドロが撒かれており、その跡を一時間ほどかけて辿っていくと、やや半開きのマンホールの前で跡が完全に途切れます(23.Welcome to the undergroundの〇下水道を参照)。

◆黒い粘液の鑑識結果
 町中のヘドロは落とされており、鑑識が分析するのに十分な量がありません。しかし、事件現場では(黒い粘液をスルーしてしまう程度には)雑な捜査がなされていますが現場保存は最低限なされており、探索者たちが鑑識に提出できる必要量の黒い粘液が手に入ります。
 幸いにして矢口町警察署の鑑識は優秀な人員が揃っており、一両日中に職務熱心な担当者が膨大な検査結果をまとめてくれるでしょう。必要量が集まっていなければ「地球外の物質であり電子機器では判別不可能なため詳細不明」として終わらせてしまうかもしれませんが、KPの裁量で探索者が〈幸運〉などに成功すれば情報が得られたことにしてもいいでしょう。
 鑑識の結果は任意のタイミングで捜査本部のほうに分厚い報告書として提出されます。〈図書館〉に成功すれば、一時間ほどでそれらの資料からいくらかの有益な情報を手に入れることができます。紙束状なので複数人で手分けをすれば、〈図書館〉の成功者の数だけ時間を短縮することができるでしょう。
・黒い粘液に対して様々な検査を行ったところ、生体反応に似た結果が見られ、人の血液に近い特徴を持つとの結論を得た。
※この情報を獲得して以降は、矢口町内で黒い血液を見つけた際〈医学〉に成功することでそれがどれくらい古いものなのか、おおよその見当をつけることが出来ます。
・DNA鑑定を行ったところ、このDNAは三重らせん構造を持ち、塩基配列は人に近い類似性を示しているが、その構造は全く既知の生物には全く当てはまらない。
※麻希のDNAを検査するような機会があれば全く同じものであることがわかります。また、一部描写の伏線でもあります。
・強い衝撃を与えると瞬間的に凝固し、物理的衝撃を和らげる性質を持つ。
※全ての物理攻撃は最低値となります。
・サンプルを希硫酸と水酸化ナトリウム水溶液に浸したところ、激しく反応して溶けていった。
※投擲などでヨグ娘に命中させることによりHPとMPにダメージが入ります。

20.封印された記憶
 現在大学生として生きている「秋月麻希」の精神は、本来は神話生物に近い「ヨグ=ソトースの娘」として生まれてきた個体の精神です。ヨグ=ソトースの娘が生後間もなく千草に絞め殺されかけた際、無意識に《精神交換》を行ったことで、オリジナルの秋月麻希の身体を乗っ取ったのです。「秋月麻希」はそのことは覚えておらず、神話的知識も持ち合わせていませんが、シナリオ中神話的事象や秘められた過去の事実に触れていく中で、深層心理に眠る自らの過去と神話生物的自我が呼び起こされていきます。そのトリガーとなるのは以下の通りです。
・自分の友人が殺されていることに気付いた時、あるいは事件現場に残るダイイングメッセージを見たとき
・千草が過去に双子を生み、その一方を殺したことで精神を病んでしまったという事実を知った時
・その時死んだ双子の片割れが復讐しに来ているのだと悟ったとき
・ニアミスのイベントでヨグ=ソトースの娘を目撃した時
 これらに当てはまらずとも、KPは自分の判断で記憶の復活イベントを起こすことができます。しかし、第四段階だけは
・へその緒を見たとき(自分が異形の怪物と血を分けた姉妹である証拠を突きつけられた時)
をトリガーとし、できる限りPLが自分の意思で選択的に記憶を復活させるようにしてください。

第二段階
 途端に麻希は頭を抱えてうずくまります。ここでPOW*3ロールに成功した人は、頭痛を感じると共に麻希と同じビジョンを目撃することになります。発狂などの結果ではないため〈精神分析〉や〈医学〉によってすぐ意識が回復することはありません。失敗者は同様の症状に襲われるものの、何とか意識を保つことが出来ます。この時見るのは、彼女が20年前に体験したビジョンです。

 あなたは突如として闇の中から明るい空間へと放り出される。まぶしさに滲む視界から最初に見えたのは、どこからともなく自分に伸びる二本の腕であった。息苦しい中で黒く染まっていく視界。死への強い恐怖があなたを襲い……ビジョンの最後は自分の魂が抜けていくような感覚と共に終わる。この奇妙な臨死体験をした探索者は【0/1d3のSANチェック】

 探索者たちが我に返ったとき、〈聞き耳〉に成功した人は麻希が「……ぱんた、れい」と呟くのを耳にします。この言葉は麻希が無意識に呟いたもので、聞き返されてもこの時点では何もわかりません。〈博物学〉ロールや〈ほかの言語:ギリシア語〉の二倍に成功すれば、この言葉の意味が「万物流転」という意味であることに気が付けます。
※これは紛れもなく彼女の精神に宿る記憶であり、POWロールは記憶の復活に伴う影響を探索者が受けたかどうかの判定です。
第三段階
 突如として、麻希が頭を抱えてうめき声を上げます。ここでPOW*5ロールに成功した人は、視界が極度の目眩のような感覚と共に視界が揺らぎ始め、麻希と同じビジョンを目撃することになります。発狂などの結果ではないため〈精神分析〉や〈医学〉によってすぐ意識が回復することはありません。この時のPOWロール失敗者は、あまりの症状の重さに体が耐えられず、しばらくの間意識を失ってしまいます。この時見るのは、彼女が20年前に体験したビジョンです。

 あなたは玉虫色の光に包まれている。まるで聴覚が失われたかのように音は聞こえない。辺りに見える星々から、ここがどこかの宇宙空間であることに気が付くだろう。
 やがて視界が回り始めると共に、虚空の中に投げ出されることになる。その速度はすさまじく、景色が後ろに引っ張られるように変化していく。光が流れ行く中で、自分の周りにいつのまにかDNAのような螺旋の粒子が飛び回っていることに気が付くだろう。奇妙なのは、それが三重螺旋を描いていることだ。
 宇宙の旅は見慣れた星――地球――が見えたのを境に闇の中へと変わった。
「ドクンッ……」
 この奇妙なビジョンは、久しく耳にしていなかった音を最後に終わることになる。


 この幻視を見た探索者は、〈クトゥルフ神話〉を1%獲得します。
 探索者が目覚めると、麻希が少し離れたところ(できればテーブルなど)で、突っ伏すようにして眠っています。その手にはペンが握られており、いつの間に書いたのか(麻希の家以外の場所であればいつの間に持ち出していたのか)、日記帳のようなものがその前に広げられています。
 これは麻希の◆夢日記です。以外の場所でこのイベントが起こされた場合は、呪文を使ってこの日記を持ち出します。文章の最初は呪文となっており、タイトルのみが古代ギリシア語となっていますが、呪文以降の文章は全てラテン語となっています。家開かれた夢日記を見てみれば、最新のページから10数ページにわたり、ラテン語で文章が書かれていることに気が付きます。詳しくは21.内なる警告を参照してください。
《Panta rhei》
ai Tawil at-Uml
kfuu rufhei
jikfkaa reu alfkd
ia ia Azathoth
Azathoth Azathoth jikam
ai Yog-Sothoth zizqa
pantarhei.png
 彼女を起こして彼女が書いたものなのか、この文章の意味がなんであるかを尋ねても、彼女は全く分かりません。しかし、この文章の筆跡は紛れもなく全て麻希のものです。ただし、文章がわからないといった後、彼女はこう続けます。

「あともう少しで何か思いだせそうなんだけど……自分の中で黒い、良くない感情が渦巻くばっかりで、思い出せないの。ごめん……。」

 この黒い感情に関してPCが質問するようであれば、以下のように麻希は答えます。
「……時々、私が私じゃなくなる時があるの。私をつけ狙う怪物……あいつをこの世から消し去りたいって、殺したいって感情がふわって湧き上がるんだ。」
「死ぬのがすごく怖い……お母さんに会えなくなるのが怖いの……。」

へその緒の発見(第四段階)
 穴の中にあるへその緒を麻希が目撃するなど、自分が異形の怪物と血を分けた姉妹であるという証拠を突き付けられたとき、麻希は秘められていた全ての記憶――自分が本来の「ヨグ=ソトースの娘」であり、生後間もなく死にかけた際に《精神交換》を行って先に生まれていた姉(本来の秋月麻希)の体を乗っ取ったこと――を取り戻します。しかし、もはや彼女が驚くことはありません。今や麻希の精神の奥底に眠る神話生物としての自我は完全に蘇り、自分が生き残るための最善策として自らの罪の意識や「姉妹」を殺すことに対する抵抗感をかき消しているのです。このため、これ以降秋月麻希に対する〈精神分析〉や〈心理学〉は全て無効になります。
 麻希は探索者たちに向き直り、落ち着いた様子で「……全部思い出したわ。……それと、さっきの呪文の意味が分かったの。」と極めて落ち着いた様子で話しかけます。ここで、20.内なる警告に書かれている呪文の情報が全て開示されます。また、シナリオ終了時まで一時的に麻希のヨグ=ソトースに関する情報に対しての〈クトゥルフ神話〉技能が99%に固定され、ヨグ=ソトースに関連する全ての呪文(とKPが必要だと判断した任意のすべての呪文)を取得します。
 記憶を取り戻した麻希は以前とは性格が変わったように冷静、あるいは冷酷な様子を見せます。今の彼女はかつての自分の行いが招いた結果であることをすべて理解した上で、自身に復讐心を燃やす姉妹を殺害しようと算段を立てています。探索者たちは今までとは明らかに異なる態度を見せる麻希に対して色々と尋ねるかもしれませんが、それに対して麻希はヨグ=ソトースの娘の殺害へと仕向けるように回答していくことになるでしょう。
簡易Q&Aは以下の通りですが、過去自分が《精神交換》を行ったことや、自分が半神であるという事実、そして「取り戻した記憶」に関しては「今は答えられない」などと言ってはぐらかします。最終的に彼女は「終わったら全部話すから……お願いだから、今は聞かないでほしいの。」と言い切って納得させようとすることでしょう。
・呪文に関して…「あの時頭に浮かんだのは、あいつに対する対抗手段だったんだね。死にたくないっていう思いが……神様に通じたのかも。」と答えます。
・化物に関して…情報や攻撃方法、防御手段といった情報に関しては答えてくれます。ただし、所持している呪文に関しては完全に把握していません。
・なぜ化物は麻希の友人を殺したのか…「私がとっさに攻撃したから、それを回復させようと捕食してるんでしょうね。」「私の友達を殺しているのは、単に私への当てつけじゃないかしら。」と答えます。
・化物の狙いに関して…麻希はヨグ娘の狙いに気づいてはいますが、「わからないけど、多分私を殺そうとしているんじゃないかしら。」と答えます。
・化物がいつ襲ってくるかなど…「矢口町内にいる私の知り合いはもうあなた達しかいないから……このままあなた達が一人でどこかへ出かけたりしない限り、遠からず私のところに来るでしょうね。」と答えます。
・へその緒について…「何かの間違いよ。あんな化物と私が同じ人間に見えるの?」と自分のものであることを否定します。麻希はヨグ=ソトースとの間の一切の関係を否定します。
探索者たちの質問が終わると、彼女は今までに見せたことのない鋭い視線で探索者たちを見つめて続けます。
「私……死にたくない。それに、あいつを野放しにしてたら、この先もっとひどいことが起こると思うの。」
「お願い。あいつを……殺すために、私に協力して。」
 探索者がこの要求を呑めば、作戦を立てた上で27.はじまりの場所にてへと進むことになるでしょう。

21.内なる警告
 第三段階目の記憶復活イベントは、麻希の内なる神話生物としての自我によって引き起こされたもので、彼女の中にある「ヨグ=ソトースの娘」としての人格が強くなりつつあることを示しています。
 ◆夢日記に書かれた内容は以下の通りで、呪文部分の後にラテン語文章の段落が6つあり、それぞれにタイトルが付けられています。この部分に対して〈ほかの言語:ギリシア語〉+30、〈博物学〉、〈知識〉/2に成功すれば、内容を読み解くことはできないものの《Panta rhei》とはギリシア哲学でいうところの「万物流転」を意味していることが分かります(万物流転というのは、要するにこの世に存在する全てのものは絶えず変化して移り変わっており、生成と消滅を繰り返すものであるという意味です)。〈オカルト〉に成功すれば、これは呪文の一種であり、神々を賛美することでその力を借り、効果を発生するものではないかと推測することが出来ます。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、呪文のすべての内容がわかることでしょう。
 ラテン語技能が(補正値込みで)30%以上あれば、タイトルに関してはロールなく読み取ることが出来ます。
 それぞれの段落の大意をつかみ取るためには、〈ラテン語〉技能に成功した上で一時間かける必要があります。失敗して再度ロールする場合には、+10%ずつの補正が入ります。
呪文の文句の日本語読みは以下

あい たうぃる あと うむる
くふう るふえい
じくふかあ れう あるふくど
いあ! いあ! あざとーす!
あざとーす、あざとーす、じかむ
あい!よぐ・そとと!じずくぁ!

◆夢日記(ラテン語文章部分)
1.概要
 この呪文は外なる神アザトースとヨグ=ソトースの力を借り受け、唱えた者の住む星にとって異物となるものを消し去るために使われる。この呪文を開始するためには外なる神々の慈愛を受けしものが、その精神の一部をかの神々に捧げる必要がある。この呪文は詠唱を継続して捧げられた精神力の分だけ強度を増していく。呪文の効果が表れ始めるとこの呪文は破られることが無くなるが、詠唱が不完全に終わった場合は最初から唱えなおす必要がある。
2.代償
 呪文の詠唱を開始する場合、外なる神の慈愛を受けしものの内なる精神力(POW5ポイント)を捧げる必要がある。以降に続いて詠唱を続けるものは、呪文を唱えながら精神力を捧げる(POWとMPのどちらかを選択して任意の分を消費する)ことで呪文を継続させる。
3.呪文の詠唱
 内なる精神力が捧げられたなら、即座(1ラウンド以内)に呪文を詠唱しなければならない。以降は代償を途切れることなく(1ラウンド中に誰か一人は呪文の詠唱を行わなければならない)捧げ、詠唱を続けることで、呪文はその強度を増しながら効果を発揮し続ける。
4.呪文の効果
 呪文の基本成功率は50%であり、その後捧げられた1POWに付き5%、1MPに付き1%ずつ成功確率が累積して上昇していく。呪文の成功判定は各人の詠唱タイミングごとに行われ(ただし、呪文開始時の50%での判定は行わない)、呪文の効果が対象に及び始めると、1分ほどかけて分子へと分解される。
5.呪文の強度に関して
呪文の強度は呪文の詠唱判定に成功する毎に上昇していく。
強度1:対象の周辺の空気がきらめき始める
強度2:対象の周辺の空間がうねり、歪み始める
強度3:対象が空間の歪みの影響を受けはじめ、表皮が分解され始める
強度4:体表に及んだ呪文の影響がその内部へと拡大する
6.詠唱に関する注意点
 呪文の詠唱は通常精神を集中させて行なわれるべきである(発狂中の探索者は呪文の成功率の上昇効果が消費MP/2の切り上げ分しかなくなる)。外なる精神力が尽きたものは一時的に意識が失われるが、内なる精神力が消滅した場合には意識を永遠に喪失する(MPが尽きても気絶するだけだが、POWが尽きたら廃人となる)。呪文の断絶は効果の断絶を意味し、捧げられた精神力は霧散する。

22.千草の告白
 このイベントは通常二日目以降に起こされるべきイベントでしょう。探索者たちが千草に対して連続殺人事件の詳しい情報(主に残されたメッセージ、探索者たちが実際に遭遇した場合、ヨグ=ソトースの娘の見た目など)を伝えると、彼女の予感は確信へと変わります。これ以降、任意のタイミング(できるだけ早く)で探索者の元に「麻希のストーカー被害に関して心当たりがあるので、直接会って伝えたい」という連絡が千草から入ります。 彼女自身は過去の出来事を思い出し、話すことにためらいがあるのですが、自分の過ちによって娘が危険にさらされている可能性を知って、告白することを決意したのです。ただし、内容が内容であるため、千草は麻希が居ない状態で話すことを望みます。この情報を探索者たちに打ち明けた後は、彼女自身も娘を守るため自分に何かできることはないかと申し出ることでしょう。
 以下の事前文章は一例です。伝えた情報に応じて一部を修正して利用してください。


 秋月家に向かうと千草が出迎え、ダイニングの椅子に座るよう促されます。全員が席に着き、お茶を配り終えると、このことを伝えるには少し、過去の話をしなければなりませんが……と前置きした上で話を続けます。

「事件の内容を聞いた時に、予感はしていたんです。でも、自分の心がそう思うことを拒否していて……。
全ては私が悪いんです。私があの時、あの子を殺したから……。」

 一拍おいて、千草は話を続けます。

「麻希から父親のことを聞きましたか?」
(探索者の答えを待つ)
「あの子は優しいですからね。
あえて聞かないだけで、きっとおかしいとは思っているでしょう。
麻希の父親は……居ないんです。離婚したとか、死んだとかではないんです。」

 千草はうつむきながら、絞り出すようにして話を続けます。

「私が20歳の時……人生で初めてお酒を飲みました。飲み方なんて全く知らなかったもので酷く酔ってしまって、家に帰るまでの記憶をなくしてしまうほどでした。」
「あの子たちを産んだのは、その10か月後です。妊娠には気づかず、産んだのも自宅でした。……心当たりなんて、一つしかありません。」

 うつむいたまま、長い沈黙が続きます(ロールプレイや技能ロールを挟んでもよい)

「(……あなたたちが言っていた、そのままの姿だったんです。)腕が一本に足が三本……およそ人間とは想像もつかないほどの姿でした。」
「どういう精神状態だったのか、今でもよく覚えてませんが……正気を失っていたんだと医者からは言われました。気が付いたら私はあの子の首を絞めていて……我に帰ったときは、もう殆ど動かない状態でした。」
「すぐに救急車を呼んで……後でNICから、運ばれた時には既に死んでいたと聞かされました。」
「死産だったと病院の人には言われましたが……とにかくもう思い出すのも怖くて、一刻も早く忘れようと、その場であの子の火葬と、共同墓地で葬ってもらうようにお願いしました。」
「その後数年はひたすら精神療法を受けていましたが……自分を取り戻したと同時に強い後悔が浮かんできたんです。でも、医者にはもうあのことは思いださないほうが良いと強く言われて、お墓の場所さえ教えてもらえませんでした。

「最近になってようやく精神科医からお墓の場所を教えてもらえて、すぐお墓参りに行きました。輪廻転生……あの子への願いをこめて、ノースポールの花を埋めて帰ったんです。それが、ストーカー被害が始まったのとちょうどい同じ一か月前でした。今にして思えば、偶然だとは思えません。」
「願わくば来世であの子に会って罪滅ぼしがしたいだなんて考えていましたが、麻希にまで辛い思いを味合わせてしまっているなんて……。全ては私が撒いた種なんです。私が、あの子を殺してしまったんだから……。」
「多分、あの子は怨霊となって私を殺そうとしているんでしょう。
私は覚悟が出来ています。でも、どうかあの子だけは……麻希だけは守ってあげたい。
あの子が酷い目に合う理由なんて何もないんです。」
「麻希を守るために、私に何かできることがあれば、協力させてください。」
 千草の発した最後の言葉からは、母親として我が子を守ろうとする強い意志と決意を感じることでしょう。これ以降、探索者は千草を同行NPCとして行動を共にさせることができます。千草が同行している場合、KPは探索者たちの探索に関して千草の視点からの助言を行ったり、◆夢日記の存在の示唆や解読の手助けを行います。特に、下水道においてヨグ=ソトースの娘の潜伏場所として示唆される「始まりの場所」が旧専門学校寮跡であることや共同墓地のへその緒の存在を気づかせる存在として有用でしょう。しかし、同行拒否に関しては、開示した情報次第で交渉系技能を使う必要があるかもしれません。

 このイベントで入手した千草の過去を、おそらく探索者たちは麻希に伏せることでしょうが、麻希はそのことを不審に思い、知り合いのPCと二人きりになったタイミングなどでその内容を聞き出そうとします(麻希も自分で何かしてあげられないかという純粋な思いから、鍵であろう母親の過去を知りたがっているのです)。彼女は探索者にその内容を話すよう強要はしませんが、感情に強く訴えかけます。実際に彼女に伝えるかどうかの最終的な判断は、探索者に委ねましょう。ここで彼女に話した場合、20.封印された記憶のトリガーを引くことになり麻希のMポイントが1上昇します。

23.Welcome to the underground
 シナリオ内にある様々な情報の中には、マンホールの下、下水道へと誘導するものがいくつか含まれています。下水道は13.交わる線の開始以前までヨグ=ソトースの娘が拠点としていた場所であり、ヨグ娘が喰らっていた人間の骸や壁に書いていたヨグ娘の言葉を見つけることが出来ます。
〇下水道
 ヨグソトースの娘は下水道を拠点にしていたため、12.交わる線で傷を負った後にもここに一度戻っています。その際、傷口から垂れた黒い体液を一時間かけて辿っていくことで、わずかに開いているマンホールの蓋に付着する黒い液体を最後に途切れていることが分かります。中に入ることを躊躇する様子を見せたら、〈幸運〉成功でマンホール前にコンビニエンスストアがあった(監視カメラで蓋の開閉が確認できる)ことにして良いです。あるいは、別方向に逃げていった跡(わずかな黒い液体が近くの塀に付着しているなど)を〈目星〉などで示してもいいでしょう。
 下水道の中は円柱状で、下水溝の両脇が歩道のようになっており、人二人ほどが余裕を持って通れるほどの幅があります。降りた先の歩道には黒い液体が点々と一方向に向かって続いており、それを辿って歩いていくと、段々と肉が腐ったような臭いが強くなっていくことに気が付くでしょう。それでもなお探索者たちが進むのであれば、ヨグ娘の元根拠地までたどり着きます。この際、探索者たちがスマートフォンのライトなど小さな光源しか持ってきていなかった(準備をしてこなかった)場合には全員に〈幸運〉を振らせ、失敗者が居たらカッコ内の文章も含めて以下の描写を始めてください。

(暗闇の中、[〈幸運〉失敗者]は何かに柔らかいものにつまづいて転んでしまう。)反射的に足元を照らすと、光の先に映し出されたのは、人間の腕であった。腕の先に胴体はなく、引きちぎられた肉と白い骨が露出するのみである。
奥を照らしてみれば、腕だけでなく、足や胴体、人間の頭が肉片の中に散乱しているという、凄惨な光景が目に入ることになる。しかし、あなた達の正気を削り取る現実はそれだけではない。散らばっている人だったものは例外なく不自然に骨や内臓が露出しており……何者かに貪られた跡が、はっきりと残っているのだ!【1/1d4+1のSANチェック(最初の幸運失敗者は更に+1)】


 死体の断片が散乱した辺りの壁にはヘドロや死体の血液らしきものが付着しており、よく見てみればその中に日本語として理解できるものが含まれていることに気が付くことでしょう。〈目星〉か〈母国語:日本語〉の半分に成功すれば、以下の図と、その周辺に書かれた血文字の文章の内容がわかります。
ヨグ娘メモ.png
「憎い、奴は私の人生だけでなく力までも奪っていた。腕が痛い。血が止まらない。あの男を捨ててこなければよかった。ちょうどアレ一人分ほどの傷だ。殺すことを意識しすぎてしまったために……。」
「それにしても、恐ろしいことに奴には記憶がないらしい。すべてを忘れ、まるで人間のようにふるまっている。」
「気に食わないけれど好都合だ。人の精神は脆弱そのもの……奴が作り上げた似非の人生を私が破壊してやる。」
「ただあまり時間はないだろう。記憶が完全に戻ってしまえば、私の力では太刀打ちできなくなるかも。」
「あの取り巻き共も鬱陶しい。奴の肉壁として利用されている。」
「お母さんはどうしようか。殺してしまうのが一番奴にとって効果的なのは間違いない。でも真実を話せばわかってくれるんじゃないか。でもお母さんのそばにはいつも人がいる。」
「殺したくない。ずっと、待っていたんだから。」
「ともかく傷を治さなければ……順当に行けば、3人ほどだろうか。」
「ここに来るまでの出血量からして跡を辿られる可能性があるから、下水道にはもう潜伏できない。どこに潜伏すればいいだろうか?」
「全てのはじまりの場所にしよう。私と奴の、因縁の場所。そこで全てを終えて……私は私になるんだ。」

 「はじまりの場所」とは、ヨグ=ソトースの「姉妹」が産み落とされ、《精神交換》によってヨグ=ソトースの娘が自身の身体を奪われた場所である、千草が当時住んでいた専門学校寮です。この場所をPLが気付かない場合、千種や、あるいは第四段階まで記憶が戻っている麻希が答えてくれるでしょう。二人の手を全く借りない場合、千草の部屋の引き出しにある専門学校の学生証に、旧専門学校寮の住所が書かれています。

24.ニアミス
 シナリオ中、探索者たちが矢口町に住んでいる秋月麻希と親しい人物が標的となっていることに気が付けば、その人物を守ろうとするかもしれません。麻希に尋ねれば、ここ一週間に麻希が会った友人三人のうち、生き残っている人の名前を話してくれるでしょう。彼らを守ろうとするか、遠巻きに見守るか、あるいはインターバル終了後の昼以降、探索者が単独行動をする際シークレットダイス(1d該当人数)で探索者が選ばれ、かつ〈幸運〉に失敗した場合などの対応如何によって、ヨグ=ソトースの娘と最終決戦前に遭遇するかが決まります。
 ヨグ=ソトースの娘は探索者が犠牲者の姿を確認した時に捕食活動を始めます。描写例は以下。
 不意に彼女が動きを止めると、耳障りな音とともに首が180度折れ曲がるのを目撃する。その音の後、体の皮膚が肉ごと切り取られ、あなたは再び、喫茶店の玄関で見たあのおぞましい存在を目撃してしまうことになるだろう。焼け爛れた皮膚に覆われ、癒えぬ傷口から黒い体液を垂らす異形の存在が、3本足の根元から伸ばした触手を用いて器用に人を肉塊へと加工し、食していた。その光景の目撃者は一口噛り付くごとに傷口は塞がっていき、垂れる体液の量も減っていくことが確認できるだろう。
人命が超自然の存在によって惨たらしく奪われた光景をまざまざと目撃してしまった探索者は、【1d8/3d10(慣れルール適用あり)+1d4のSANチェック】


 このタイミングで狂人の洞察力成功者、または〈アイデア〉に成功した探索者は、傷口の塞がり具合からあとどれくらいで傷が完治しそうかの見当をつけることが出来ます。また、麻希がヨグ=ソトースの娘の姿を目撃し、第三段階まで記憶を取り戻していない場合、大きな悲鳴を上げて倒れ伏し、記憶の復活イベントが発生します(詳しくは19.封印された記憶を参照)。
 捕食現場を目撃されてしまったヨグ=ソトースの娘は、探索者たちだけしかいない場合《記憶を曇らせる》の呪文を使用したのちに逃走します。しかし、麻希の姿を見つけた場合には即座に逃走し、最終戦闘の際のヨグ娘のステータスが一部変化します。また、第三段階まで既に麻希が記憶を取り戻している場合、何らかの問答があるかもしれません。捕食に失敗した場合は即座に他の対象を襲うため、こうした形で襲撃を阻止できるのは一度が限度でしょう。
 いずれの場合も、後には少量の黒いゼラチン質の粘液が残され、探索者には5%の〈クトゥルフ神話〉技能が与えられます。
 もし探索者が一人でいるときに狙われたのであれば、その探索者は絶体絶命の状況です。〈聞き耳〉に成功すれば事前に嗅ぎ覚えのある下水臭に気がつくことが出来、続く〈回避〉ロールを*2の成功率で行うことができます(失敗時は素の値)。探索者が生き残るためには大声を出すなどして注目を集めるか、ものを近所の家に投げ込むなどして他者の目を引き、目撃者を増やすことが重要です。殺害現場を複数人に目撃されそうになった場合、即座にヨグ=ソトースの娘は逃走します。

25.矢口町内の探索場所
○肝付邸
 肝付邸は矢口町にある一軒家です。連続失踪事件の方に人手をとられた影響で家宅捜索が延期されたまま犯人が死亡したため、部屋は手つかずのままになっています。
 中には年老いた老婆がおり、息子の訃報を聞くと「汚太郎ちゃん……オーイオイ」と涙を流します。この際彼女の混乱に付け込んで肝付の部屋を見せてもらうよう頼むなら、特に交渉技能の必要もなく部屋の捜索を行うことができます。しかし、死を知らせてから時間を空けると警察側が息子を殺したも同然であるという考えに思い至り、捜索を行うためには交渉技能などが必要になってくるでしょう。
 部屋の中はまるで泥棒でも入ったかのように荒れ果てているように見えます……が、〈目星〉や〈アイデア〉に精子すれば、ただ単に部屋が極度に散らかっているだけだとわかります。部屋の中は雑多な本や紙類が散乱しており、壁には盗撮したのであろう麻希の写真がピンナップのように飾られています。
 ゴミとガラクタにまみれた部屋を掘り起こして見つけられるのは、一般的な生活家電の他に■大型のパソコンと◆本棚くらいのものです。
■大型のパソコン
 そびえたつゴミの壁をかき分けていけば、タワー型の大型デスクトップパソコンのもとへとたどり着きます。誰に見られるわけでもないパソコンには、パスワードなどかかっていないため、探索者たちは自由に探ることが出来るでしょう。
 肝付のPCに保存されたデータの大半は、彼の見た目から予想されるようなものが殆どです。数十分かけて〈図書館〉に成功すれば、◆隠し撮りデータ(4TB)があることに気が付けるでしょう。
◆隠し撮りデータ(4TB)
 10年以上もの盗撮データが無数のフォルダに分けられています。画像だけでなく動画も含まれており、年代が新しくなってくると解像度が増し、機材が新しくなっていることをうかがわせます。
 データの大半は無差別的なものであり、被写体全体を余すところなく写した、盗撮とは思えないほどよく撮られたものばかりです。大半が素人のものですが稀に有名人やアイドルの隠し撮りデータなどもあり、統一性というものはほとんどありません。しかし、それらのデータは一年くらい前を境に、全てが麻希のものに変わります。昼夜問わず麻希を様々な角度から盗撮した写真群から感じられるその執念は狂気を感じさせるに十分なものでしょう。
 しかし、それらの画像データの最終更新日はなぜか肝付が捕まる一週間前で終わっています。最も新しいデータを見れば、不自然に空を映している様子がわかるでしょう。人物以外の写真が保存されているデータは、彼のコレクションの中でも殆どありません。
 場合によっては、〈アイデア〉ロールで写真を撮った機材が見当たらないことと、肝付の逮捕時に彼が首からカメラをぶら下げていたことに気がつかせてもいいでしょう。

■本棚
 撮影機材や撮影技法に関する雑誌や書籍が中心となっており、他にも今人気のアイドルの写真集や、探偵小説などジャンルは豊富です。変わったところだと、『職務質問回避マニュアル』や『もし逮捕されたら』といった犯罪関連の本もあることに気が付くでしょう。

〇肝付の病室
 肝付自身とは対照的に清潔感のある部屋です。人員が足りないためか、規制線は張られているもののあまり現場検証はなされておらず、肝付が失踪した時のままになっています。
 精神病患者の居る病室ということもあり、簡素なベッドとフルーツの置かれた引き出しのない書き物机の他には特に家具らしいものもありません。病室の窓は開け放たれており、ベッドは妙に荒れています。
 ベッドを〈目星〉することで、枕のカバー裏に隠されるようにして入れられている◆SDカードを見つけることができます。この情報は核心的なものではありませんが、存在を〈アイデア〉で示唆してもいいでしょう。
◆SDカード
 中身は肝付のコンデジで撮られた複数の写真と計一時間ほどのムービーデータです。麻希の盗撮写真に加え空を映した写真が増えていき、ムービーデータも麻希の帰る後ろ姿を遠巻きに映したもが、途中から慌てて方向を変えて走り出し、辺りを映して終わる……といったものになっています。しかし、最後のムービーデータだけは今までのものとは異なっていることに気が付くでしょう。
 最後のムービーは途中まで変わらないものの、走り出して画面が乱れた後に映像が落ち着くと、どこかからとある路地の一角にズームをかけている様子が窺えます。映像はそのすぐ後に、大声を上げて逃げ出す肝付の声と乱れる風景で終わるというものです。最後のシーンを目撃して〈目星〉に成功した探索者は、ズームした先にマンホールがあり、肝付が叫び声を上げた直前をよく見れば、影がマンホールに近づいていき、その蓋が一人でに動いていたことに気が付くでしょう。

〇秋月家
 探索者がこの家を調べるタイミングがあるとすれば、秋月千草がヨグ=ソトースの娘に殺された後や、麻希の了解を得た上でになるでしょう。探索する箇所はあるにはありますが、得られる情報はヒント程度のものが多いです。
■ダイニング
 調理器具や調味料などが充実しているほかは、一般家庭にあるようなものしか置いておりません。刺身包丁(ダメージ1d4+1)なども置いてあるので、武器などを望むのであれば〈目星〉成功で与えてもいいでしょう。
○千草の部屋
 落ち着いた雰囲気の空間です。■机や■ベッド、■本棚代わりにしているカラーボックスなど一般的な家具に混じって、置く場所がないからか■仏壇が置かれています。
■机
 引き出しがたくさんついた机です。長く使われているようで、年季が入っています。机の上には筆記用具や料理本、彼女が考案する新たなレシピが書かれたノートが置かれています。
 上の引き出しの中には仕事関係の書類などが納められていますが、〈目星〉に成功すれば隠されるようにして入れられている鍵のかかった◆千草の日記(新)と◆向精神薬の処方箋を見つけることができます。また、最下段の引き出しには■
◆千草の日記(新)
 鍵付きの日記ですが、そこまで複雑なものではないので〈鍵開け〉の+20%,あるいは〈機械修理〉に成功すれば開けることが出来ます。ただし、二度失敗したら日記の鍵が壊れてしまい、力づくで開けるしかなくなるでしょう。
 日付は10年ほど前から始まっており、断続的に書かれているようです。最初のページは以下
『医者からは思い出さないようにと言われたが、忘れたくても忘れられない。いや、これは忘れるべきでは決してない。人ならざる姿をした子とはいえ、私は殺してしまったのだから。
羊水が詰まって窒息死したと医者は言っていたが、私はあの時確かに首を絞めていたことを覚えている。視界いっぱいに青白いもやが広がって、五感が失われていって……。正気を失っていたとしても許されることか、……他でもない……の……を……(判別不能)
酷く吐き気がする。頭が割れそうに痛い。今はまだ無理でも、いつかはあの子のもとに……。』

 これ以上の情報を得るには3時間かけて〈図書館〉に成功する必要があります。成功した場合、22.千草の告白で得られる情報の他、千草が知っているシナリオ関連の情報を都度この日記から得られるようになります。
◆向精神薬の処方箋
 向精神薬の処方箋は二枚入っており、それぞれの年月日が数年前のものとつい最近(一週間以内)のものになっています。処方箋には矢口町内にあるメンタルクリニックの住所と担当医師の名前が書かれています(どちらも同じ高井黒尾が担当医師です)。

■千草の過去の私物
 最下段の引き出しの中には、彼女が20年前に封印したままの私物が納められています。引き出しの中には、昔彼女が通っていた矢口町内にある専門学校の学生証や住んでいたと思われる専門学校寮の入居者証といった昔の私物や、彼女が書いていたであろう古い日記が納められています。〈母国語〉に成功すれば、その内容は専門学校時代の千草の日常が書き連ねられているものであることがわかり、日記の最後は20年前の6月4日(20年前の事件が起こった日であり、麻希の誕生日でもある)で止まっており、以降が全部白紙であることがわかります。技能成功者の中で〈アイデア〉に成功した探索者は、「恋愛に関する記述は複数あったものの、子供がいるにもかかわらず特定の誰かと交際したという記述が全く見当たらない」ということに気が付きます。
■ベッド
 少なくとも10年以上は使われているであろう、やや古びたシングルベッドです。〈知識〉に成功すれば、このベッドはセミシングルベッドと呼ばれる、ベッドの中でも最小のサイズのベッドであることがわかります。
■本棚代わりにしているカラーボックス
 千草の趣味であり職でもある料理関係の本や雑誌が入っているほか、◆千草の日記(新)が入っています。〈図書館〉に成功すれば料理本はどの本も読みこまれており、時折「麻希が好きな料理」と書かれた付箋や書き込みがあることがわかります。また、変わったものとしては、ラテン語辞書や初心者向けのラテン語文学の本が数冊置かれています。ラテン語辞書はラテン語の文章を読む際、少なくとも30%のボーナスを与えてくれるでしょう。
■仏壇
 仏壇には位牌が一つ置かれており、その両脇には蝋燭立てなどが置かれる、一見して一般的な仏壇の作りになっています。仏壇を近くで見て〈アイデア〉に成功すれば、位牌が置かれているにもかかわらず、故人の写真が仏壇の付近に見当たらないことがわかります(急な出産だったうえ、死産扱いのためです)。また、位牌を見て〈知識〉ないし〈アイデア〉に成功すれば、通常書かれている没年月日や戒名が位牌に書かれていないことがわかります。裏側を見てみたいと〈目星〉に成功すれば、仏具などが一式取り揃えられていてどれもかなりの使用感があり、仏壇自体もやや年季が入っているがよく手入れされていることがわかります。没年月日(秋月麻希の誕生日と同じです)の他「秋月麻衣」と書かれていることを確認できます。これに関して〈オカルト〉に成功すれば、このように位牌に普通の名前を書く場合というのは宗派上の理由や本人の意思の他、死産した子供に戒名を付けず付ける予定だった名前を書いて位牌を作る場合があることがわかります。

○麻希の部屋
 彼女の変わった趣味趣向が窺える部屋です。小奇麗ではあるもののあまり女性らしさを感じる部屋ではありませんし、パッと見る限り本棚には爬虫類の図鑑やスポーツ系の雑誌、ラーメンなどのジャンクフード系の情報誌などといったものばかりが収められているとわかるでしょう。日記なども机にありますが、日記というよりは日々のトレーニング記録や陸上に関することを中心としたノートで、その他のこととなると時折「練習中白ネコに出会った」などとその日にあった出来事を一言書いている程度です。
 しかし、同じく机に置かれている◆夢日記だけは特別です。麻希は生まれ持った性質上、通常人間が体験するような「夢」とは全く異なる体験を寝ている間無自覚にしています。その内容は普通の人間にとっては変わった夢を見ているといった程度にしか感じないでしょうが、クトゥルフ神話に造詣がある人間ならば彼女が常人でないことに気が付くことでしょうし、精神分析医が内容を見れば、通常このような夢を見る患者の精神には解離性障害(いわゆる二重人格)の兆候がみられると分析できるでしょう。
◆夢日記(〈図書館〉成功で斜め読みに10数分、全て読む場合は3時間)
 麻希の見た夢が日記形式で綴られています。この日記は麻希が見た夢をすぐ忘れてしまうことから、友人に勧められて始めたものです。中身を見てみれば、内容はメルヘンチックなものやおどろおどろしい殺伐としたものといった、いわゆる「変わった夢」の内容ばかりであることに気が付けます。この日記を見たうえで〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、この日記につづられているのは紛れもなくドリームランドの内容であり、おそらくは彼女が無意識下で訪れた際の内容が書かれているのではないかという予測が付きます(この際、〈クトゥルフ神話〉を1%獲得します。)。〈精神分析〉に成功すれば、夢の内容から麻希の精神に解離性障害(いわゆる二重人格)の兆候が見られることがわかるでしょう。
 また、二日目以降にこの日記を見た場合、最新のページに麻希の筆跡で新たな日記が書かれています。しかし、当人に聞いても書いた覚えはないと答えるでしょう。
 内容は意味ありげな単語とアルファベットの羅列です。〈知識〉の半分や〈博物学〉ロールに成功すれば、タイトルは古代ギリシア語でいうところのパンタ・レイ、すなわち「万物流転」を意味していることが分かるでしょう。詳しくは21.内なる警告の該当部分を参照してください。
 麻希の記憶が第三段階まで復活した際、この日記にはラテン語で新たに呪文《万物流転》の情報が書き込まれます。詳しくは20.封印された記憶を参照してください。


〇矢口町総合病院
矢口町総合病院.jpg
 肝付汚太郎は逮捕時の怪我と精神的な問題から、しばらくの間矢口町内にある総合病院の一室に入院することになっていました。この病院は総合病院を名乗ってはいるものの旧医療法の基準をギリギリ満たすレベルの規模で、一般に想像されるような広大な敷地を持つ大病院というよりは都内の小中学校と同程度の敷地しかない中病院です。13.交わる線以降にここを訪れると、病院内に下水の臭いが充満しており、職員が病院内の空気清浄機を設置してフル稼働させていることがわかるでしょう。臭いのもとをたどっていくと、肝付汚太郎の病室にたどり着きます。
 監視カメラは病室の廊下に設置されており、肝付が入っていた病室の扉が映されています。基本的に何も映ってはいませんが、肝付が失踪した前後、一度だけ不自然に扉が開いたことが確認できます。

〇産婦人科
 20年前千草が救急車で運び込まれたのも矢口町にある総合病院でした。高井や千草本人から過去の話を聞くことができれば、当時立ち会った看護師を探し出すことができるでしょう。現在は看護師長として、同じ病院に勤めています。しかし、彼女は20年前の一件を話したがりません。話を聞く限り覚えてはいるようなのですが、思い出したくないといった様子です。〈精神分析〉に成功すれば、千草が運ばれてきた時の出来事がトラウマになっているのではないかということに気が付けます。
 彼女から情報を引き出すためには〈精神分析〉と〈説得〉の複合ロールか、〈説得〉の-20、〈言いくるめ〉の半分に成功する必要があります。ただし、〈精神分析〉の結果を用いたロールプレイのもと交渉系技能を振る場合、マイナス補正を緩和してください。
 成功すれば、彼女は断続的に以下の内容を話してくれます。
・彼女の赤ちゃんは、一人は正常だったが、もう一人は顔こそ人間の形を整えていたものの、できそこないの足が何本も下半身から生えている明らかな奇形児だった
・NIC(新生児集中治療室)にすぐ運ばれたが死亡が確認されたため、死体安置室に送った
・死体からはうっすらと首元に痣らしきものが確認できた。しかし、千草の様子や父親も妊娠する覚えもないとの話から、医師と相談して死産として扱った
・付き添い人が誰もいないので自分が立ち会って火葬したが、何度火葬しても黒ずんだその幼児の死体は燃え尽きることがなかった
・恐怖に身を包まれたが、どうにもならず埋葬することに決めた。しかし、埋葬可能な墓地が近くにはなく、仕方なく共同墓地の管理人に交渉して共同墓地横の巨木の根元に穴を掘って、樹木葬という体で葬った
 〈医学〉に成功すれば、人の身体が火葬によって燃え尽きないという事例は火葬場に問題でもなければ通常有りえないことがわかります。彼女にその墓地の場所を聞けば、穴を掘った場所まで教えてくれます。死者を慰めるために数百年前に建てられた、巨木の根本です。

〇共同墓地
 隣町に存在する普通の墓地に併設された共同墓地です。規模としてはそれなりのもので、この場所は遺骨を一か所にまとめて合祀するタイプの共同墓地になっています。矢口町総合病院で亡くなった身寄りのない病人も、多くはここに葬られていましたが、ヨグ娘の死体は形状的に葬ることができないため、墓地の端に埋められた巨木の根元に自然葬という体で埋葬されました。通常この墓地を訪れただけではわかりませんが、巨木を探そうとすればすぐに見つかるでしょう。
共同墓地.jpg
 木の近くまで行けば技能を使うまでもなくわかりますが、根元付近の土が掘り返されており、その中に白い花が半分土に埋もれるようにして咲いていることがわかります。〈地質学〉の二倍に成功すれば、一か月ほど前にこの穴はでき、掘り返されたのではなく、中に埋まってきた何かが地上に這い出してきたということに気が付けるでしょう。
 穴に対する〈目星〉に成功すれば、穴の周りの土の中に■焼け焦げたひもを見つけます。また、穴の底に■黒いゼラチン質の粘液が相当量溜まっていることがわかるでしょう。また〈生物学〉の五倍か〈博物学〉の二倍、または〈知識〉に成功すれば、土に埋もれている花がノースポールであることがわかります。
■黒いゼラチン質の粘液
 今まで見てきた中で一番量が多く、全部取り出せばバケツ数杯分になります。触ってみれば、弾力性があることを確認できますが、臭いを嗅いでみても、下水のような臭みを感じることはありません(下水道の中で潜伏する以前のものだからです)。〈目星〉などの技能に成功すれば、所々が乾いていたり固まっており、〈アイデア〉に成功すればこの穴の中の粘液にはかなり古いものが混じっているのではないかということがわかります。また、 〈化学〉に成功すれば、これが地球上に存在するどの物質とも違うことが判明します。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これは地球外からやって来た生命体に特有の血液であり、身体を保護する役割があることに気が付きます。

■焼け焦げたひも
 全長10数cm、直径1cmほどでY字状になっている、やや干からびた紐です。〈目星〉に成功すれば、ひもの周りを覆うようにして黒いゼラチン質の粘液が付いていることを確認できます。〈医学〉に成功すれば、これは珍しい双子の臍帯(へその緒)ではないかという予測が付きます。〈目星〉と〈医学〉の両方に成功した場合、だいぶ傷んでいるものの、その劣化具合からつい最近まで幼児の腹についていたものだということに気が付けるでしょう。この臍帯を麻希が手にした時、麻希の記憶が一段回取り戻されます。(20.封印された記憶参照)

〇街中での聞き込み
 麻希の父親が居ないことに関しては父親に逃げられたんじゃないかなどといったような眉唾程度の話しか聞けませんが、秋月家の近所関係は比較的良好だったことが窺えるでしょう。また、親子関係にも問題はなく、麻希もちょっと変わったところはあるけれども、いつもニコニコしていて愛嬌があり気配りのきく、出来の良い子であると評判です。また、秋月麻希が全国的なランナーであり、また千草も料理教室の講師として、矢口町周辺では比較的名が知られていることを描写しましょう。
 また、最近変わったこととして近所で話題になっているのが、道路に黒い粘液上の汚れがまかれるイタズラがここ数日近所で続いているというものです。汚れは強力な洗剤を使って溶かさないと落ちず、決まって一日おきに別の場所で撒かれていることから、同一犯による仕業であろうと警察にも被害届を出しているとのことです。詳しく尋ねれば、19.警察署での情報で得られる◆ヘドロばら撒き事件に対する住民からの被害届の情報を一定程度ここで入手することが可能でしょう(詳しくは同項参照)。

〇メンタルクリニック
 秋月千草が通っていたメンタルクリニックは秋月家から歩いていける距離にあります。白髪交じりに丸めがねという風貌の気弱な精神科医、高井黒尾が一人で切り盛りしている小規模なクリニックで、数年前に通院を止めたとはいえ長年受け持っていた千草のこともよく覚えています。しかし、守秘義務上外部の人間である探索者たちに千草の情報を話そうとはしないでしょう。彼から千草の情報を聞き出すためには交渉技能の他に脅す、麻希を連れていく、シナリオ上で千草が殺害されたことを伝えるなど、RP上の工夫が必要です。
 彼が知っている内容は探索の進行状況に応じて調節しましょう。千草から過去のことを聞き出せそうにないと判断した場合は、千草が話す内容をここで出してしまって構いません。加えて彼の場合、精神科医として千草を長年見てきた観点から症状について教えてくれます。
・彼女が通院し始めたのは20年前から。予期せぬ出産でかつ死産だったということもあり、5年ほどは重い症状が続いていたが五年ほどかけて徐々に立ち直り、つい一か月ほど前にようやく薬を飲む必要がないほどまで立ち直った。その際、かねてより聞かれていたが精神への影響を考えて隠していた、死産となった子供の墓の位置を教えた。
・最近、また病院を訪れたいという電話を受けていたが、本来千草は精神的にタフなほうであり、病状の改善経過から精神的な病が再発するというのは、何か過去のトラウマが再発するきっかけがあったのではないかと睨んでいる

〇千草の実家
 秋月千草は立ち直った後、両親の勧めもあって実家の近くで自立しました。即ち、彼女の実家は矢口町内にあるのです。この場所は秋月親子が二人とも知っています。千草の両親はまだ健在で、適当な交渉技能に成功すれば千草の過去や父親が居ないこと、幼少時の麻希を育てていたことについて話してくれるでしょう。

26.血に濡れし母
 ヨグ=ソトースの娘は捕食活動によって傷を癒した後、千草が一人でいるタイミングを見計らって接触を試みます(過去の事実を話そうとしたのです)。しかし、千草はヨグ娘の姿を認めると自分の命を奪いに来たものと勘違いし、

「麻衣、私が悪かったわ。私を殺すならそうしなさい、でも麻希だけは……」


と話します。しかし、意図せずして放たれた自分の存在を否定するような発言に激高し、ヨグ=ソトースの娘は咆哮と共に、触手の一本で千草の腹を貫き、殺害してしまいます。また、二日目が終わるまでに千草に事件に関する情報を与えなかった場合、探索者の目を盗んで独自に自分の心当たりを調べようとし、似たような流れで殺されてしまいます。千草が向かう場所としては、共同墓地か旧専門学校寮が妥当でしょう。
 秋月麻希の記憶が第四段階まで戻っている場合、手遅れとなる前に駆けつけて襲撃を阻止します。これは探索者の強力な妨害がなければ止めることはできないでしょう。ヨグ=ソトースの娘は麻希の姿を見ると触手の一本を素早く伸ばしますが、麻希に迫る触手は途中で麻希が使う〈ヨグ=ソトースのこぶし〉によって弾き返されてしまいます。正攻法では敵わないと判断したヨグ=ソトースの娘は、以下の台詞を喉が潰れたようなしゃがれ声で言い放ちます。


「死にぞこないの分際でふざけるなよ、お父さんの顔も知らないくせに。お前のせいで私は…。」
「お母さんはまだいい。だが、お前だけは許さない。人として生きる道を奪ったお前だけは。
お前に復讐するために苦痛に耐えて生きてきたんだ。」
「次合う時……その時がお前の人生の最後だ!」


 そう言うと、その場から即座に逃走します。その場に探索者たちが居ない場合には、千草の血文字で以下の文章を残します。
「本当はこうしたくはなかった
お前が私に殺させんだ、他でもないお前、お前が」
「お前のせいでお母さんが死んだ」
「私は××なんかじゃない」
「次はお前の番だ、私と同じ苦しみの中で死ね」
本当はこうしたくは.png
 ××の部分だけ触手の一撃によって削り取られていますが、「麻衣」と書かれています。

27.はじまりの場所にて
 ヨグ=ソトースの娘は下水道の拠点を放棄した後、「はじまりの場所」と称する旧専門学校寮へと拠点を移すことになります。この場所を訪れるに至る道程はいくつか考えられますが、イベントの描写上できることなら夜にこのイベントを起こしたほうがいいでしょう。
 旧専門学校は既に廃校となっており、中には入れません。隣接する寮は既に取り壊されつつあるのか、周辺には工事用具が置かれ、建物は青いシートに覆われています。寮の姿を外から〈目星〉をすれば、4階まで壊したところで工事は中断されており、部屋の仕切りなどが取り壊されて半ば屋上のような状態となって放置されていることがわかるでしょう。ヨグ=ソトースの娘は当時の千草が住んでいた部屋、402号室の場所で待ち構えています。しかし、千草が死んでおり、麻希が塞ぎ込んでとても外に出られないといった状態に陥っている場合は、秋月家での戦闘もあり得るかもしれません。
 ヨグ=ソトースの娘は不可視の存在であるため、「不可視の存在の不意打ちを防ぐ」有効な対策を立てずに探索者たちが旧専門学校寮の中に入っていくと、不意打ちを受けることになります。この場合、戦闘ラウンド外においてヨグ=ソトースの娘は麻希に〈組み付き〉を行い、戦闘中の動きを完全に封じることになるでしょう。描写例は以下の通りです。

 静寂の中、不意に麻希の体が、肺から漏れる空気の音とともに空中へと浮かび上がります。

「やはり来たか。ここまでは想定通り……。」


 聞き覚えのあるしゃがれ声が探索者達の眼前から聞こえ、探索者たちが身構えるより先に未知の言語へと変わっていき、超自然の存在が、眼前の空間から現れるのを目撃します。

 探索者たちは再び、喫茶店の玄関で、見たあのおぞましい存在を目撃してしまうことになる。焼け爛れた皮膚に覆われた異形の存在。依然負った傷も今はなく、黒い血液は滲出と吸収を繰り返すばかりでもはや漏出することはない。3本足の根元から伸ばした触手は威嚇するかのように幾本も蠢いているが、そのうちの半数ほどが、まるで花のつぼみのように麻希の体を覆っていた。
 再び会いまみえた超自然の存在を前にして、慣れという人間の防衛本能を狂気が侵食していくことを感じさせられることになる。【1d8/3d10のSANチェック】

 
 SANチェック処理を行ったら、戦闘が開始されます。

28.ヨグ=ソトースの娘との決戦
 戦闘の開始前に、これまでのシナリオの進行状況に応じて生じたNPCのMP処理を以下の通りに行ってください。
麻希…Tポイント*4MPを、母親が死んでいる場合、更に5MP減少させます。
千草…かつて自分が手にかけた娘が復讐しに来ているのだと思っている場合5MPを減少させますが、自分ではなく麻希が狙われているのだということに気が付いている場合MPの減少は打ち消されます
ヨグ=ソトースの娘…ヨグ娘が千草を殺している場合、MPが5減少します
【注意点】
 この戦闘における注意点として、この戦闘は彼我のMP差が重要であるということを忘れないでください。少なくともヨグ=ソトースの娘が《精神力吸引》を使用する際だけは、毎回MPの値を公開しましょう。また、毎ターンのNPCのMP処理は全てKPが行うことになるので、KPは戦闘が遅延しないよう各NPCのMP処理はメモに書くなどして効率化を図ってください。
 第一ラウンド、DEX最速のヨグ=ソトースの娘が探索者たち全員に対して《精神力吸引》の呪文を行います。この際、ヨグ=ソトースの娘が可視化され、その恐ろしい姿が探索者たちの眼前にさらけ出されます。
不意打ちを受けている場合、秋月麻希は口を塞がれているために呪文の詠唱が出来ず、《万物流転》の呪文を開始して以降の手番は〈組み付き〉の振りほどき自動失敗で消費されます。
 探索者たちが《万物流転》の呪文を使う場合、自分の手番に呪文の詠唱を行い、消費した任意のMPとPOW*5の総計に50%を足した達成値で呪文の詠唱ロールを行います。詠唱に成功するたび呪文の強度が増していき、4段階目まで強化されるとヨグ=ソトースの娘の肉体が崩壊をはじめ、最後のイベントが始まります。
 詠唱が失敗した場合も、呪文の詠唱が続く限りは上昇した達成値にプラスして詠唱ロールを行うことができます。ただし、発狂中の探索者は、呪文の詠唱に十分集中することができないということで、消費したMPに対して上昇する呪文の成功率が半分になってしまいます(端数切り上げ、POWに関しては通常のまま)。詠唱に参加できるかどうかの判断はKPに委ねられますが、可能な限り寛大な裁定を行い、気絶などでなければ詠唱に参加できるようにすることが望ましいでしょう。場合によっては付録のアンハッピーバースデイ用狂気表を用いるか、KP権限で狂気の内容を決めてしまって構いません。
 また、ヨグ=ソトースの娘には化学攻撃が有効です。〈投擲〉などに成功して命中すると、血液装甲による防護で直接ダメージが入ることはありませんが、血液を体内に収納する段階で1d4ダメージが入り、苦しそうに唸り声を上げます。この攻撃でダメージが入った場合、毎ラウンドの最後に1ポイントの継続ダメージが入ります。
他に、通常の攻撃もこの戦闘においては有効な攻撃手段となります。戦闘中における物理攻撃はすべて最低値となりますが、それらは全て自動発動の《被害をそらす》によって軽減され、ヨグ=ソトースの娘のMPを削ることになるからです。この際、呪文によって攻撃を防がれていることをわかりやすくするために「芯を捕らえた弾丸は体からしみ出した黒い液体に飲み込まれ、触手の一本が振り上げられたのに合わせて体表に濡れる弾はあらぬ方向に飛んでいった」などと描写しましょう。
 ラウンド終了時、探索者たち全員は〈目星〉か〈アイデア〉を振り、成功者はヨグ=ソトースの娘の触手のうちの二本が、自分たちへの攻撃の時とは別に複雑な動作をずっと継続していることがわかります(《精神交換》の準備です)。

 第二ラウンド以降もヨグ=ソトースの娘はラウンドの最初に行動を行いますが、自分と麻希のMP差に応じて行動が変化します。以下の行動ルーチンに従ってヨグ=ソトースの娘の行動を決定してください。戦闘が一方的になりそうだと感じた場合には、KPの判断で自由に変化量やタイミングを変更して構いません。ただし、《大いなる父への請願》のイベントは麻希かヨグ娘のどちらか一方のイベントしか起こすことができません。
〇ヨグ=ソトースの娘のMPが秋月麻希のMPを20以上上回っている
 《精神交換》に十分なMPを蓄積したヨグ=ソトースの娘は、用済みとなった探索者たちを殺害するため全員に技能〈つかんで吸う〉を使用します。しかし、秋月麻希が《大いなる父への請願》を使用すると、ヨグ=ソトースの娘の身体から発生した精神力のもやが麻希へと流れ込み、他ならぬ父からの裏切りに困惑して探索者たちの組みつき状態を解いてしまいます。この処理を行った後、ヨグ=ソトースの娘のMPを10麻希へと移動します。

 突如として、暗闇に覆われた辺りがまぶしく照らされる。辺りを見渡せば、その光は自分たちの周囲が巨大なスポットライトに照らされているようだということがわかる。
光源を探すと、太陽の数倍もの明るさが、見上げたものの網膜を焦がすことになる。いかなる宇宙的所業であろうか、その光は銀河の遠く彼方、玉虫色の泡沫(うたかた)にして偉大なる父ヨグ=ソトースが、太陽をも凌駕する輝きを、この一帯に放っているのである!【1/1d4のSANチェック】

「ど、どうして?こいつらだけでなく、お父さんまでもが私を裏切るの?」


 ラウンドの最後に、この現象はピタリと止まることでしょう。

〇ヨグ=ソトースの娘のMPが秋月麻希のMPを10以上下回っている
 母と姉妹に裏切られ、最後の復讐の機会を逸しようとしている哀れな落とし子に対し、この世に彼女たちを産み落とした時と同じきまぐれさで、父親が手を差し伸べます。以下の描写の後、探索者側で戦闘に参加している全員からMPを2奪い、ヨグ=ソトースの娘に加算してください。

 突如として、暗闇に覆われた辺りがまぶしく照らされる。辺りを見渡せば、その光は自分たちの周囲が巨大なスポットライトに照らされているようだということがわかる。
太陽の数倍は明るい光線が探索者たちの体内へと刺さり、網膜、ひいては自分の内に宿る精神をも焦がしていく感覚に陥り、胸が締め付けられるような感覚を覚えることになる。
いかなる宇宙的所業であろうか、その光は銀河の遠く彼方、玉虫色の泡沫(うたかた)にして偉大なる父ヨグ=ソトースが、太陽をも凌駕する輝きを、この一帯に放っているのである!【1/1d4のSANチェック】


「ははは……やっぱりお父さんだけはいつも私の味方なんだ。このままお母さんも、お前から奪い返して見せる!」


ラウンドの最後に、この現象はピタリと止まることでしょう。

〇それ以外
 再び《精神力吸引》の呪文を使用します。

 なお、戦闘中にMPが尽きた探索者は問答無用で気絶です。どんなに早くとも、この戦闘が終わるまでは目覚めることはないでしょう。

29.《精神交換》の呪文
 探索者たちによる《万物流転》の呪文強度が4に達すると、歪む空間の中でヨグ=ソトースの娘は体表をブクブクと泡立てながら、白い煙となって消えていきます。
 敵の呪文が成功したとみるや、ヨグ=ソトースの娘は密かに結んでいた印を高速で結んでいき、断末魔かと思える雄たけびと共に青白い煙を口から吐き出し、なおも拘束下にある麻希を覆い尽くします。
 このタイミングで《精神分析》の判定を行ってください。麻希が対抗に敗れた場合、青白い煙が麻希の身体の中に吸い込まれると同時に、麻希の身体から抜け出た同じく青白い煙が、消えゆくヨグ=ソトースの娘の身体へと飲み込まれていきます。

「いやだあぁぁ……私は化物になんて……
助けて……おかあ…さん……」


 「ヨグ=ソトースの娘」は完全に消える間際、この言葉を残して消滅していきました。

 麻希が対抗に勝利した場合、麻希にまとわりつく青白い煙は空気中へと霧散し、力尽きたかのようにヨグ=ソトースの娘は麻希を離します。この際、麻希の記憶が第四段階まで戻っていない場合、解放された麻希は探索者たちのほうへと走って逃げていきます。もはやヨグ=ソトースの娘には動く力もないようです。

「かえせぇぇぇ……
わたしのからだぁぁぁぁ……………
あぁ…………たすけて……おとうさん……
おかあ…さん……」


 「ヨグ=ソトースの娘」は完全に消える間際、この言葉を残して消滅していきます。
 しかし、麻希の記憶が第四段階まで戻っている場合には、展開が変化します。解放された麻希は逃げることなく、地面に這いつくばるヨグ娘を見下してこう言います。

「私の身体を乗っ取ろうとしたみたいだけど……
死に損ないの野望もこれで終わりね」


 そう言いながら不用意に近づいた麻希ですが、突如として跳ね起きたヨグ=ソトースの娘の口から青白い槍が飛び出し、麻希の身体を深々と貫きます。

「やった……これで……
お前の中で…………さんと……」


 「ヨグ=ソトースの娘」は完全に消える間際、この言葉を残して消滅していきます。麻希のほうは貫かれた部分に傷こそないものの、胸に手を当てて呆然としています。

 なお、千草が決戦の場にいる場合、再び自らの手で我が子を手にかけてしまったことにより、【1d6/1d10のSANチェック】を行った後、彼女はその場で気を失ってしまいます(基本的に技能の使用で目覚めることはないでしょう)。

30.結末とエンディング
 このシナリオは以下の4項目に応じてエンディングが変化します。それぞれエンディングに与える影響は様々ですが、いずれの項目においても特定の条件を満たしている場合のみ特殊エンドとして「ノーマル」エンドに到達でき、事実上のトゥルーエンドに近いものとなっています。このエンディング以外の場合は以下のエンディング分岐早見表や各解説、旧エンディング描写を参考にしてエンディングを行ってください。

エンディング分岐.png

〇千草が生きているか
 生きていれば「ノーマル」エンドフラグが一つ立ちます。
 死んでいる場合は基本的にバッドエンドです。また、麻希の精神がのっとられる、あるいは記憶が最終段階まで戻っていた場合、母親の復活を求めて外なる神にして大いなる父「ヨグ=ソトース」を復活させようとし、狂信者として残りの人生を費やすことになるでしょう。

○最終決戦に勝利したか
 勝利すればヨグ=ソトースの娘はそのまま死にますが、敗北した場合は麻希の精神が乗っ取られることになります。母娘の愛は尽きないものの、貪欲に神話的知識を求める稀代のカルティストとして、いずれは人類の敵となることでしょう。
 なお、勝利した場合には「ノーマル」エンドフラグが一つ立ちます。

○麻希の記憶が最終段階まで戻ったか
 麻希の記憶が四段階目まで戻っていた場合、ヨグ=ソトースの娘が倒れると、麻希がヨグ娘にとどめをさそうと不用意に近づいた際に不意打ちを受けることになります。こうなった場合ヨグ娘の精神の一部が麻希に植えつけられ、双子の精神が混じり合った存在へと精神が変質してしまいます。麻希は無意識のうちに神話的知識に気を引かれたり、オカルト的趣味に目覚めたりと性格の変化が見られるようになります。もしかすると穏健な魔術師程度にはなってしまうかもしれませんが、狂信の道に至るということはありません。
 麻希の記憶を最終段階まで戻さなかった場合には、今まで通りの麻希のままで今後の人生を送ることができます。この場合、「ノーマル」エンドフラグが一つ立ちます。

○千草がヨグ=ソトースの娘の死を知ったか
 千草が「自分の娘が何らかの形で復活し、間接的に殺してしまった」ということを認識させずに済んだ場合には、20年前の一件に対する罪の意識は消えないものの、千草は今まで通りの生活を変わらず送ることになります。探索者が彼女にかける言葉次第では、いくらか救われるかもしれません。またこの場合、「ノーマル」エンドフラグが一つ立ちます。
 そうでない場合、端的に言えば千草がヨグ=ソトースの娘の死を知った場合、間接的にせよ直接的にせよ自分の娘を再び殺してしまったという事実に発狂し、ヨグ娘に関わる全ての記憶を失います。探索者たちとの仲が終焉するということはありませんが、どこか記憶に齟齬があったり、話が噛み合わないということが感じられるでしょう。
 なお、最終決戦に千草を参加させていた場合、ほぼ確実にこの事実を知ることになります。

「ノーマル」エンド
 このエンディングは、4つの分岐点において全てのフラグを立てることによって到達することが出来るエンディングです。このエンディングに到達したということは、探索者たちが千草や麻希に後の影響を何一つ残すことなく、神話生物の脅威を完全に退けたということを意味しています。千草の過去のトラウマが直接的に癒えることはないですが、探索者たちのかける言葉次第で彼女は救われることでしょう。

 以下は、シナリオ大改造前の旧エンディング群を改修したものです。エンディング描写にお役立てください。
旧Aエンド
 このエンディングは千草が生存し、かつ最終決戦に勝利し、麻希の記憶が最終段階まで戻っており、ヨグ=ソトースの娘の死を千草が知っている場合のエンディングです。
 戦闘終了後、その場に残された探索者たちは、麻希から過去の事実を含めて話を聞くことができます。彼女の身に起きた変化について聞けば、自分の中に何か異物が入りこんだような感覚を訴えますが、その他は特に問題はないと言います。

 精神的にも肉体的にも療養がある程度済んだ後、探索者たちは再び秋月家における食事に誘われることになります。麻希もあの一件以来しばらく療養生活を行っており、探索者たちが秋月親子と会うのもおそらくは久しぶりです。秋月千草がヨグ=ソトースの娘(自分の娘)の死を知った場合、彼女は強制的に不定の狂気:心因性記憶喪失を発症してしまいます。どのような形であれ、2度も我が子を失った悲しみに千草の精神は耐え切れず、本能的にヨグ=ソトースの娘、秋月麻衣に関するすべてのことを記憶から消してしまったのです。そのため、これまでの出来事もちぐはぐな記憶になっており、話題に出されると困惑するでしょう。
 一方の秋月麻希のほうは、探索者たちと過ごした数日間を完全に覚えています。しかし、かつての姉妹についての話になると、依然として冷たい態度を取り続けます。彼女は母親とは異なり、20年前の一件を人間の精神によってではなく、神話生物としての冷酷さをもってするしか方法がなかったのです。ヨグ=ソトースの娘以外のことに関してはこのような非情さは発揮されず、あれほどの事態があったにも関わらず事件以前と全く変わらない明るさで話しかけてきます。
 これらの点を踏まえ、探索者たちと秋月親子との、最後の会話パートを行ってください。特にNPCと関係が深くなければ、適当に流してしまって構いません。会話の途上、探索者たちは麻希の性格が変わっていることに気が付くでしょう。かつての愛想の良さはどちらかというと厚かましさに、ただ霊感が強いというだけだったのが、オカルト的な趣味に目覚めているといった感じです。よく見れば、彼女の服はどこか魔術めいた怪しげな五芒星がプリントされており、三本の足が中心から伸びているような奇妙な絵が描かれたペンダントを首からぶら下げられています。
 そして食事中、麻希はこんな話をし始めます。
「私ね、大学を一年休学して留学したいなーと思ってるの。大学で募集している交換留学に応募してて、今結果待ちなんだ。もちろん陸上は続けるつもりだし、当選したら向こうの最先端のトレーニングを受けられるように補助とかもしてもらうつもりだけどね。最近超常現象!とか、霊能力!とかの趣味にすっかりハマっちゃって、語学留学がてらちょっと本場で勉強してみたいと思ったんだ。ちょうど募集してた大学がそういうのに強いところらしくって。名前は、そう……ミスカトニック大学ってとこ!」

※ヨグ=ソトースの娘はこの世から消滅しましたが、今際の際に詠唱した《精神交換》により魂の一部が秋月麻希の魂と同化したのです。そのため、記憶は継承しているとはいえ厳密に考えると今の秋月麻希はかつての秋月麻希ではなく、より神話生物に近づき、奇跡的に色濃く出ていた人間性が薄れてしまった別の存在であるといえます。とはいえ、今の秋月麻希は20年前に千草が産み落とした双子が別の形で生まれ変わった存在であると考えられ、その意味において千草は過去に起こした罪の意識から解放され、彼女がノースポールに込めた願い(花言葉は「輪廻転生」)がかなっていることを考えると、今の状況は理想的なものなのかもしれません。もっとも、皮肉なことに千草はそのことを最早理解できないわけですが。
この先、秋月親子がどうなるかは外なる神のみぞ知ることでしょう。もしかすると麻希はこのまま『ダニッチの怪』のウィルバーのようにクトゥルフ神話に傾倒してしまうかもしれませんし、千草もこのまま記憶を取り戻さないかもしれません。
しかし、そう悲観する必要はないでしょう。探索者たちは確かにあの決戦の場において、ヨグ=ソトースの娘の完全なる《精神交換》を阻止することに成功しているのですから。そして、他ならぬ探索者たちがそうであるように、神話的事象によって刻まれた記憶が、たかが人間の防衛反応ごときで、消え失せるわけもないのですから。

旧Bエンド
 このエンディングは千草が生存しているものの、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に成功してしまった場合のエンディングです。
 戦闘終了後、その場に残された探索者たちは、麻希に事の真相を問いただそうとするかもしれません。しかし、彼女は「ヨグ=ソトースの娘」が撃退されたことを喜ぶばかりで、以前の約束を持ち出しても「私そんなこと言ったっけ?」とはぐらかすばかりです。
 しばらくした後、探索者たちは再び秋月家における食事に誘われることになります。麻希もあの一件以来しばらく療養生活を行っており、探索者たちが秋月親子と会うのもおそらくは久しぶりです。秋月千草がヨグ=ソトースの娘(自分の娘)の死を知った場合、彼女は強制的に不定の狂気:心因性記憶喪失を発症してしまいます。どのような形であれ、2度も我が子を失った悲しみに千草の精神は耐え切れず、本能的にヨグ=ソトースの娘、秋月麻衣に関するすべてのことを記憶から消してしまったのです。そのため、これまでの出来事もちぐはぐな記憶になっており、話題に出されても困惑するだけでしょう。
 一方の秋月麻希のほうも、探索者たちと過ごした数日間をあまり覚えていないようです。しかし、最終決戦に関してはよく覚えているようで、かつての姉妹については冷たい態度を取る一方で、その節は本当に世話になったと感謝の言葉を述べています。
 食事をとりながらの会話の途上、探索者たちは麻希の性格が変わっていることに気が付くでしょう。かつての愛想の良さはどちらかというと厚かましさに、ただ霊感が強いというだけだったのが、オカルト的な趣味に目覚めているといった感じです。よく見れば、AOOAとプリントされた彼女の服の上には首からぶら下がる鈍い銀色の鍵を模したペンダントが見え、それを見た探索者たちは背筋に寒い物を感じます。
そして食事中、麻希はこんな話をし始めます。
「私ね、大学を一年休学して留学しようと思ってるの。大学で募集している交換留学に応募してたら、運良く通った人が事故死したとかで、滑り込みで当選したんだ。どうしても読みたい本が向こうにあって……日本の宗教団体が持ってるって話だったんだけど、こないだ事務所に行ったら誰も居なくなってて……。も、もちろん、それだけが目的じゃないよ?語学留学がてらちょっと本場で勉強してみたいと思ったんだ。でも、ちょうど目当ての大学がその本を所蔵してるところでさ。」
その名前を尋ねられれば(尋ねられなくとも)、こう答えます。
「名前?ミスカトニック大学ってとこだよ。」
 その際、麻希は探索者たちのほうを向いて笑顔を浮かべました。会話中は気が付きませんでしたが、探索者たちは不意に背中に悪寒が走ります。失われた大陸を挟んだ海向こうに期待を寄せる彼女の歪んだ笑顔は……あの数日間何度も見ていた麻希の笑顔ではなく、もう一人の姉妹のものであったのだから。

旧Cエンド
 このエンディングは千草が殺害されており、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に失敗した時のエンディングです。
戦闘終了後、麻希は座り込んだ状態で呆けながら、声を上げて目から大粒の涙を流しています。
 その後、麻希は陸上を辞め、大学も休学してしまいます。彼女が得ている情報に応じて彼女の心の傷口は変化するでしょうが、いずれにせよ母親を失ったショックは途方もないほどです。探索者たちの関わり次第では回復が早まることでしょうが、しばらくは精神科にかかりきりとなることでしょう。圧倒的な宇宙的脅威に立ち向かい、最小限の犠牲で打ち勝つことができたと考えれば、探索者たちもいくらか報われるかもしれません。

旧Dエンド
 このエンディングは千草が殺害されており、最終戦においてヨグ=ソトースの娘が麻希との《精神交換》に成功した時のエンディングです。
 麻希は気絶してしまい、すぐには目を覚ますことはありません。表向き彼女は母親を失ったことを悲しみますが、しばらくした後立ち直ったように以前と変わらない日常を再び過ごし始めます。しかしあの一件以来、彼女は少し変わってしまいました。愛想が良かった麻希はもはや厚かましいだけの人間に変わってしまい、オカルト趣味に目覚め、陸上そっちのけで様々な魔術書を読み漁ったり、奇怪な集会に参加するようになったのです。やがて、彼女は大学が主催する交換留学に応募し、当選します。大学の名前は「ミスカトニック大学」。失われた大陸を挟んだ海向こうに期待を寄せる彼女の歪んだ笑顔は……あの数日間何度も見ていた麻希の笑顔ではなく、もう一人の姉妹のものであったのだから。

31.成功報酬
千草が生きている…1d10点の正気度回復
ヨグ=ソトースの娘の《精神交換》を失敗させた…1d10点の正気度回復
ヨグ=ソトースの娘の姿を目撃した…1d20点の正気度回復
《万物流転》の呪文を成功させた探索者(成功者のみ)…1d10点の正気度回復
「ノーマル」エンドに到達した…POWを1上昇
ヨグ=ソトースの娘の姿を目撃した…〈クトゥルフ神話〉技能を4%獲得(シナリオ中に獲得していない場合)
《万物流転》の呪文を成功させた(探索者全員)…〈クトゥルフ神話〉技能を2%獲得

 以下の見取り図の表記は四角が場所、角の丸い四角はイベント・情報系、点線のものは行かない、発生しない可能性がままあるものです。矢印はおおまかな行動順や情報の繋がりを示しています。シナリオの進行が必ずしもこの通りに進むとは限らないので、あくまで参考程度にお使いください。
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