『ゲームシナリオのためのクトゥルフ神話事典 知っておきたい邪神・禁書・お約束110』紹介記事

 さて、今週はひょんなことから手に入れた『ゲームシナリオのためのクトゥルフ神話事典 知っておきたい邪神・禁書・お約束110』という本を紹介しようと思います。この本は以前別の記事で紹介した『図解 クトゥルフ神話』と同じ作者さんの森瀬繚氏が書いており、本書の構成も似通った部分があります。

『邪神の世界を素因数分解する!』

 アマゾンの商品説明の頭に書かれている、この本のキャッチフレーズです。なんとなく気に入ったので引っ張ってきました。同サイトにおけるこの本の商品説明はほぼ目次を網羅しているため、それについてはこちらを見て頂くとして、今回はこの本の内容を中心に私なりに紹介していこうかと思います。

 なんとなくわかるかと思いますが、扱っている内容に関しては割と同じものが多いです。しかし、この本が『図解』シリーズと異なるのは、タイトル通り「クトゥルフ神話を作品に取り入れる」という視点から多くのことが説明されていることでしょう。出典に関してもわかりやすく明記されており、クトゥルフ神話TRPGのシナリオを書くという観点から見ると非常に有用だと思います。
 文字による解説に力が入れられているため、『図解』シリーズと比べると図による解説や絵は少ないです。しかし、各ページの始まりにややタッチの異なる挿絵が入っているため、新たな素材として使える点でも嬉しい仕様になっています。
 強いて言えば、クトゥルフ神話知識がまっさらな人や文字が苦手な人などがより見やすい(理解しやすい)という点では『図解』シリーズのほうに軍配が上がるかなとも思います。個人的にはこちらも十分初学者向き足りえる内容だとは思いますが、ある程度の知識がないとこの本の真価は発揮できないだろうとも思います。

 さて、ここからは本の中身を紹介していきましょう。この本は全六章構成となっており、第一章が『暗黒の神話大系』と題してクトゥルフ神話の誕生から発展の歴史、物語群としての世界観や特徴を紹介しています。
 いかにしてクトゥルフ神話という体系的な作品群が発展していったかに関しての簡単な解説は『図説』シリーズの方でもなされていましたが、この本の第一章に関してはただ内容を深くするだけにとどまらず、クトゥルフ神話作品の「テンプレート」を複数ページにわたって解説することで、作品の雰囲気というものを定式化して客観的にわかりやすくし、シナリオ執筆者がそれらを意図的にストーリー上で反映しやすくなっています。CoCプレイヤーにもおなじみの「事件の導入」「狂信者」「探索者」に関しても、直接その単語は出てきませんが解説されています。

 続く第二章『邪なる神々』、第三章『異形の存在』、第四章『旧き神々』は、クトゥルフ神話TRPGとしておなじみの神々と神話生物が紹介されています。それぞれがおおよそ見開き1ページを使って解説されており、大まかな構成としては前半部分で取り上げられている神話生物の概要や能力、特徴などが書かれており、後半部分がより深く突っ込んだ内容が書かれている……といった形が多いです。
 具体的にはその神話生物がクトゥルフ神話作品群の中でどのように描かれてきたのか、過去の作品群の中での他の神話生物との関わりはどうだったかなど、ストーリーやシナリオフックとして発展させやすく書かれています。単純に珍しく、情報に乏しい神話生物に関して原作の内容を通じた解説がなされるだけでなく、このようなクトゥルフ神話体系を俯瞰した視点からの解説は非常に有用ですし、他者がおいそれと真似できるものではないでしょう。
 また、それぞれのページを見れば驚くことでしょうが、この本の著者はまるでクトゥルフと名の付いたものをすべて読破しているかのように、ありとあらゆる「原作」を引用して紹介しています。この「原作」に関して言うと、既訳作品はもちろん未訳作品に加えて日本でしか発表されていない(であろう)作品も多く含んでいるほか、神話生物を登場させた一般作品についてもしばしば言及されているため、逆引き辞典としての価値も非常に高いと言えます。また、構成上クトゥルフ神話を作品に組み込んだ実例が示されている点に関しても、実際のシナリオ作りの助けになるでしょう。

 第五章『禁断の物品』に関しても大まかな構成は第二章~四章と同じですが、アマゾンの商品紹介に書かれている魔導書の他に、クトゥルフ神話作品に登場するアーティファクト群についてもこの章で書かれていることを指摘しておきます。具体的に列挙すると、「銀の鍵」「輝くトラペドヘゾロン」「バルザイの円月刀」「アルハザードのランプ」「レンのガラス」「セクメトの星」「ニトクリスの鏡」「ド・マリニーの掛け時計」「夢のクリスタライザー」「ゾン・メザマレックの水晶」「旧き印」です。

 最後の第六章では、『恐怖の在り処』と題してクトゥルフ神話ゆかりの土地について解説されています。基本的には地球上の各地にスポットライトを当てて書いており、第二~五章と違って実在の土地を取り上げているため基本的な説明に割く文量が減り、全体として章に割り当てられているページは少ないものの情報が濃縮されています。地球外の星々に割かれているページは4ページ、その他は幻夢境が2ページと、『図解』シリーズに比べてもわりかし少なめになっています。しかしながら、特に地球外の星々の項に関してですが、箇条書きを駆使して最小限のページで最大限の情報量が得られる構成となっており、内容的には物足りなさを感じることはありませんでした。

 全体としてみると、2000円ほどでこれだけの情報量とクオリティは非常にコストパフォーマンスがよろしいなというのが率直な感想です。もちろんこの本はクトゥルフ神話TRPGのサプリではないため、内容を全てCoCのシナリオ作成に役立てるということはできません。本全体を通してシナリオ作成のことを意識して作られているとともに、既存のクトゥルフ神話関連作品を常に例示して解説されているため、これ一冊読み終えるころには「自分でもクトゥルフ神話作品を作れそう」と思ってしまうほどにクトゥルフ神話のイロハを理解してしまっていることでしょう。単純にマレウス・モンストロルムやキーパーコンパニオンのような公式サプリや既存のクトゥルフ神話関連書籍にとは異なる切り口から解説しているという点だけでも買う価値があると思います。

 といったところで今週の記事は終了です。別に作者様からツイッターでいいねをもらったから提灯記事を書いているとかではないのであしからず。それなりにクトゥルフ神話TRPGサプリもクトゥルフ神話関連書籍を見漁ってきましたが、やはりサプリの方ではゲームそっちのけでがっつりこの本のような内容を書くわけにもいかないでしょうから、KPやシナリオ執筆者はこういった本(あるいは原作)で保管する必要があるなあと思いました。まあ、書くシナリオの内容次第ですけどね。
 来週(今週末)は暫定ですが『クトゥルフ・バイ・ガスライト』の紹介記事を書く予定でいます。また来週(今週末)お会いしましょう。


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