秘密持ちシナリオ『犬鳴村某重大事件録』Ver1.3.0公開

秘密持ちシナリオ『犬鳴村某重大事件録』Ver1.3.0



※更新情報は思いっきりネタバレになってしまうためシナリオ最下部に移転しました。シナリオのワードファイルはこちらで配布しています。


1. はじめに
 このシナリオはクトゥルフ神話TRPGの秘密持ちシナリオと呼ばれる、特殊な形態のシナリオです。時代は昭和三年(1928年)1月22日日曜日、九州の山中にある犬鳴村と呼ばれる村を舞台とするクローズドシナリオで、予想セッション時間は探索者作成の時間を含まず10時間前後となります。探索がスムーズに進めば、もっと早い時間で終わる可能性もあるでしょう。現状PL人数は3~4人までですが、将来的には6人まで拡充できたらいいなと思っています。
 使用サプリは『マレウス・モンストロルム』、『クトゥルフと帝国』、『クトゥルフ・バイ・ガスライト』、『キーパーコンパニオン』ですが、最低限基本ルールブックさえあればプレイが可能な作りになっています。自由度の高いシナリオですので、大変でしょうがKPはしっかり読み込みをしておきましょう。一応回しやすいよう配慮して作ってあるつもりではありますが……。
 このシナリオのウリはクライマックスのド派手な戦闘でもあります。探索者サイドはシナリオ進行や行動次第で最大10人までNPCを引き連れて最終局面を戦うことになるほか、最大火力で10d6級の支援を受けられる場合があります。また、確率は低いですが、シナリオの進行によっては探索者同士の利害が決定的に対立し、PvPの様相を呈する場合があることもご了承ください。
※なお、このシナリオにおける一切の情報、地名、人名、歴史はだいたいフィクションです。犬鳴村ネタを知っていても有利に働いたり不利に働いたりすることはありません。



1.5.4人以外のプレイについて
 本シナリオは基本的に4人でのプレイを想定しており、推奨していますが、卓によっては人数が合わないということもあり得るでしょう。そんな方たちのために、3~6人でプレイする際のシナリオ運用についてこの項で提案したいと思います。※5~6人でのプレイについては調整中
○3人でのプレイについて
 この場合、HO2:内務省職員のハンドアウトを削除し、NPCの工藤新と統合することを勧めます。この場合HO1との対立軸がなくなってしまいますが、工藤の探索者たちに対する警戒レベルを上げ、持っている情報をHO1以外の探索者にだけなるべく渡すようにするなどの方法で、難易度を調整すればちょうどいいでしょう。
 また、特別ルールとしてシーン制を採用する場合、行動回数の調整のために個々人の行動に加えてパーティ全体の行動を一回分追加するといいでしょう。


2.シナリオ概要
 H県(ひゅくおかけん)内陸部の奥地にある「犬鳴村」。逃れてきた隠れキリシタンにルーツを持つこの村は江戸末期に発見されたが、キリスト教徒の保護を要求する西欧列強の圧力により、特別に自治を認められてきた。明治政府による近代化・中央集権化が進む中、特別自治区としてその存在と歴史を世間から隠されてきた犬鳴村は、いつしか権力からも忘れ去られた村となっていた。
 犬鳴村ではイエズス会の宣教師に扮して来日した不老不死の魔術師「アダムズ」によって、「いぶ様」と称されるイブ=ツトゥル(マレウス・モンストロルムP142)信仰が行われている。触れたものに急激な変化を与えるイブ=ツトゥルはイギリス本国におけるカルトを壮大な自滅に追い込んだが、アダムズだけは唯一良性の変異を与えられ、不老不死となったのである。潜在的には危険なカルトであるが、アダムズ自身の目的はあくまで信仰の維持にあり、帝国に仇なす意図は毛頭ない。過去の経験に学んだアダムズは安全な儀式方法を採用し、多数の(カルトの真実に触れていない)一般信徒と少数の妄信的なカルティストからなる教団「聖母の兄弟団」を犬鳴村に作り上げた。以来数百年間、犬鳴村ではアダムズによる統治のもと、安定的に信仰が維持され続けることになる。
 しかし、この村は遠く離れた東北のある事件―蔭洲升襲撃―をきっかけに帝国の目を引くことになった。この事件は帝国内に残る特別自治区の危険性を認識させ、国内統治を司る内務省は各地に残る特別自治区の解体に乗り出していくことを決定する。だが、内務省から通告された信仰の放棄を要求する勧告は、アダムズに破滅的な決断をさせるのに十分なものであった。
 アダムズは帝国の攻撃に備えて防備を固めると、イブ=ツトゥルの力を借りることで帝国に対抗しようとしており、探索者たちはそんな中に犬鳴村を訪れることになる。あるものは軍人として、あるものは内務省職員として、またあるものは魔術師として……。4人はそれぞれの目的を果たすべく、村に足を踏み入れる。


3.シナリオ背景
 1540年、イギリスの青年ウォーレン・アダムズはヘンリ8世の宗教改革と腐敗に満ちた教会組織への反発から、同志とともにキリスト教の古典に立ち返る日々を送っていた。志を同じくするリンカン大司教の庇護のもと晴耕雨読の日々を続ける彼らは、やがて一冊の本―『CTHAAT AQUADINGEN』―に出会うことになる。彼らはこの魔導書をカルト的に解釈し、「キリスト教イブ派」を名乗るイブ=ツトゥルのカルト「聖母の兄弟団」を成立させたのだ。
 やがてカルト教団は本拠であるリンカン大聖堂において「イブ=ツトゥル」と「バグ=シャース」の二神を召還したが、荒れ狂うバグ=シャースとイブ=ツトゥルによって教団は壊滅してしまった。しかし、アダムズだけはイブ=ツトゥルに不老不死の変化をもたらされ、致命傷を負いながらも生きながらえることになる。
彼はイブ=ツトゥルに見初められたものとして布教を続けたが、本国での布教活動を満足に行えない状況が続くことになる。そんな中、イエズス会の主導する宣教活動の情報が、アダムズの耳に入ることになった。
 イエズス会の宣教活動は世界中で大量のキリスト教徒を生んだ。宣教の波は日本にも押し寄せ、ザビエルを皮切りに多くの宣教師が来日し、キリスト教徒を増やすことになる。アダムズはその一人として、日本へと上陸することに成功したのである。アダムズは日本においてカルトの復活に成功したが、江戸時代に入るとほどなくキリスト教徒が迫害されるようになり、再びアダムズは追われる身となった。
 禁教令から逃れたキリスト教徒はいつしか「隠れキリシタン」と呼ばれるようになる。強い意志で信仰を保ち続けた「隠れキリシタン」達であるが、長きに渡り導き手が居ないことで、時代と共に土着信仰と結びつくなど変質してしまうことも多かった。そんな「隠れキリシタン」によって形成された犬鳴村も例に漏れなかったが、潜り込んだアダムズの主導により、段々とイブ=ツトゥルのカルトへと変質させられていくことになる。
 彼の広めた教えは具体的な教義もなく、創世記における「Eve」を全ての生命の母としてただ崇めるだけの特異なものであった。しかし、《溺者の夢》(神格との接触/イブ=ツトゥル)によってもたらされる霊験あらたかな体験は、ケルン大聖堂のパイプオルガンに勝るとも劣らない求心力を持っていた。純真な村人たちの殆どは疑うことなくカルトに魅入られ、教団の支配を受け入れることになる。やがて犬鳴村ではその信仰を、「いぶ教」と呼ぶようになった。
 アダムズは犬鳴村において復活させた「聖母の兄弟団」の幹部達を、《復活》によって蘇らせた事故死・刑死した村人たちから調達している。「いぶ様」の力によって蘇ったと信じ込む彼らは妄信的なイブ=ツトゥル信者となり、決して裏切ることのないアダムズの手足となるのだ。
 以来、噂を聞き付けてやって来た旅人や迷い込んだ猟師、山菜取りなどを取りこみながら、犬鳴村は存続してきた。幕末期には犬鳴村が発見されて最初の危機が訪れたが、「キリスト教徒」の保護を求める欧米列強に押し通される形で自治を認めることになった。こうした状況は日本が「帝国」と呼ばれる頃になっても続き、犬鳴村は帝国各地に設けられた特別自治区の一つとして、帝国の支配が及ばない地域となったのである。


4.NPC紹介
 そのほか、シナリオ内に神話生物のデータと一部NPCのデータを載せている。
ウォーレン・アダムズ(Warren Adams) 犬鳴村村長兼「いぶ教」司祭、あるいは赤毛の魔術師 400+
「イエス・キリストが神など……笑止千万。
父親も知れんアバズレの子を崇め奉る連中の気が知れんね。」

STR10 CON13 POW28 DEX10
APP13 SIZ15 INT17 EDU23 
HP13 MP28 DB+1d4 正気度0 
永久的狂気:「YIBB-TSTLL」信仰の維持
【戦闘技能】
魔力のこめられた杖90%、ダメージ1d4+db、攻撃回数1、耐久力10
魔力のこめられた儀式用の短刀25%、ダメージ1d4+1+db、耐久力8、装甲貫通
【その他の技能】
母国語:近世イギリス語80%、ほかの言語:日本語60%、ほかの言語:ラテン語60%、ほかの言語:近世ドイツ語30%、ほかの言語:近世フランス語30%、ほかの言語:近世スペイン語30%、心理学95%、精神分析80%、信用76%、目星80%、隠れる50%、聞き耳50%、歴史67%、クトゥルフ神話45%、キリスト教知識71%、犬鳴村を統治する96%
【所持品】
魔力のこめられた司教杖…80ポイントのMPが蓄えられた杖。杖に触れている人物が魔術を使用した場合、杖のMPが使用される。杖にMPが残っている場合、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。イブ=ツトゥルの像を用いればMPの補給が可能。
魔力のこめられた儀式用の短刀…イギリスから持ってきた聖遺物。5ポイント分のPOWと10ポイント分のMPが付与されている。普段は教会の倉庫にしまわれており、呪術を行う際稀に使用される。魔術によらない装甲を無視して攻撃することが可能であり、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。
【所持呪文】
《萎縮》(基本ルルブP252)、《犠牲者を魅了する》(同P255)、《記憶を曇らせる》(同P255)、《支配》(同P259) 、《消滅》(同P260)、《手足の萎縮》(同P272)、《ナーク=ティトの障壁》(同P274) 、《破壊》(同P277)、《被害をそらす》(同P278)、《復活》(同P279)、《古き印》(同P280) 、《夜鬼の召喚・従属》(同P283)、《ナイフに魔力を付与する》(同P285) 、《杖に魔力を付与する》(オリジナル) 、《門の観察》(基本ルルブP289)、《門の創造》(同P289)、《門の発見》(同P290)、ラテン語版『クタート・アクアディンゲン』に収録されているすべての呪文 (同P106)

 遠くイギリスからやってきて、この犬鳴村においてイブ=ツトゥル教団「聖母の兄弟団」を成立させた人物である。かつては故郷イギリスの聖職者であったが、『クタート・アクアデンンゲン』との出会いをきっかけにイブ=ツトゥル信者となり、本国で同志と共に「聖母の兄弟団」を結成した。本国で行った招来の儀式に際してかの神に直接触れ(1クリを出し)たことで不老不死となるが、他のカルティストたちはもれなく狂死するか廃人になってしまい、やがて彼は本国での布教活動をあきらめて新天地の日本にやって来たのだ。
 本国でカルトの壮大な自滅を経験し、「神に見初められた」と思い込んだ彼の目的は、あくまでイブ=ツトゥル信仰の維持に限定されている。犬鳴村のカルトにおける重要な儀式「祈りの日」のため常に13人以上の幹部層を維持することには気を配るが、カルトのコントロールを失うような信仰の拡大には乗り気でない。
 カルトの幹部に僧兵の格好をさせているのは、アダムズの素性と同時に《復活》によって生き返った人間たちの素性を隠すためである。異人であることを明らかに示す赤髪と緑色の目は僧兵服、そして老人を装った腰曲がりの姿勢によって隠しているが、わずかに見える顔の下半分からは色白の肌と顔面に走る大きな裂傷跡を確認できるだろう。

僧兵たち
「愚か者、ここは聖域だ!」
#1 STR7 CON8 POW8 DEX12 APP7 SIZ15 INT15 EDU12 HP12 MP8 DBなし
#2 STR11 CON13 POW10 DEX12 APP5 SIZ8 INT13 EDU16 HP11 MP10 DBなし
#3 STR9 CON13 POW11 DEX10 APP6 SIZ9 INT14 EDU17 HP11 MP11 DBなし
#4 STR8 CON8 POW8 DEX8 APP5 SIZ10 INT13 EDU15 HP9 MP8 DBなし
#5 STR8 CON9 POW5 DEX6 APP7 SIZ18 INT16 EDU10 HP14 MP5 DB+1d4
#6 STR14 CON10 POW10 DEX8 APP9 SIZ14 INT13 EDU13 HP12 MP10 DB+1d4.
永久的狂気:イブ=ツトゥル及びアダムズに対する陶酔
【戦闘技能】
手製の槍30%、ダメージ1d6+db、攻撃回数1、耐久力8
【その他の技能】
目星30%、聞き耳30%、回避30%
 僧兵は全員、犬鳴村におけるカルト「聖母の兄弟団」の幹部である。幹部同士はお互いのことを「兄弟」と呼び合い、村長のことを「司祭様」と呼称する。シナリオ開始時点で、僧兵は教祖を含めないで17人おり、比率としては男がやや多いものの、女性幹部も3割ほど居る。いずれの僧兵もアダムズの《復活》によって死から蘇っているため、《ナイハーゴの葬送歌》の影響を受ける。多くは《復活》直後か、幾度かの儀式を通じて正気度を全て喪失するため基本的に正気度は0である。しかし、《復活》によって再生した肉体は不死身ではないため、老化などによって再び死ぬし、その後はそのまま埋葬されて再度復活させられることはない。

工藤新(くどうあらた) 囚われの内務省職員
「俺の名は工藤新、内務省職員さ。」
STR11 CON13 POW12 DEX10
APP12 SIZ9 INT16 EDU20
HP12 MP12 DBなし 正気度55 
【戦闘技能】
ライフル40%、拳銃40%、組み付き60%、武道(柔道)60%、回避40%
【その他の技能】
図書館80%、目星51%、機械修理40%、信用45%、説得55%、ほかの言語(英語)50%、芸術(絵画)40%、経理30%、地質学60%、法律72%
 彼は一週間前この村に入り、特別自治区解体交渉をアダムズと行なっていた。しかし、信教の自由の放棄を迫る内容と、軍事力をちらつかせた彼の態度から交渉の余地がないと判断され、アダムズによって収容所へ送られることになる。SIZは9と体は小柄だが、頭脳はピカイチである。

金田一(かねだはじめ) 行方不明のジャーナリスト
「この村から脱出して見せる……金田の名にかけて!」
STR12 CON14 POW16 DEX13
APP14 SIZ14 INT15 EDU18
HP14 MP16 DBなし 正気度49
【戦闘技能】
拳銃60%、投擲60%、回避46%、ライフル40% 
【その他の技能】
鍵開け31%、写真術99%、図書館90%、言いくるめ60%、説得60%、母国語99%、心理学80%、歴史42%
 反政府ジャーナリストであり、現在は普通の写真家・写真屋を装いながら地下活動を行っている。一年前犬鳴村にやってきたが、そのまま捕らわれの身となった。彼の撮影した写真は探索者にとって重大な手掛かりとなる。ちなみに、彼の祖父は小作人の農民である。

塔馬想一郎(とうまそういちろう)35歳 犬鳴村のリーダー
「村人たちの取りまとめ役を務めております塔馬想一郎と申します。
名前は長いですから、名字で呼んでください。」

STR8 CON14 POW17 DEX9
APP16 SIZ11 INT18 EDU13
HP13 MP17 DBなし 正気度85
【戦闘技能】
投擲60%、回避58%、鍬80% 
【その他の技能】
応急手当55%、聞き耳65%、精神分析51%、製作:農具35%、信用80%、説得85%、医学30%
 塔馬想一郎は、一般の村人たちの信望厚いリーダー的存在の男性である。物腰は柔らかく温厚な性格で、犬鳴村に囚われた人々に対しても気遣った態度をとる。
 彼は表面的に感じられる以上に信心深い人間であり、「聖母の兄弟団」の支配にはその横暴さもさることながら、「信仰に篤く、品行方正な自身を教団幹部に加えない」という点から嫌っている。そのため、探索者たちがその支配を打ち破る術を持っていると知れば、喜んで協力を申し出る。

5.推奨技能
〇推奨技能
・戦闘技能…複数回の戦闘があります。
・隠密系技能…役立つ場面が結構あります。
・回避…当たると死ぬ攻撃があります。
・目星…探しどころはわりかしあります。
・各々のハンドアウトから必要と推測される技能

○ハンドアウト別推奨技能
HO1…銃火器以外の戦闘技能
HO2…説得
HO3…使命を達成して犬鳴村を脱出するために必要と思われる技能
HO4…ラテン語

6.ハンドアウト
 以下に示すのは各PLに配布するハンドアウトであるが、これらの情報を基に個別導入を行っても良い。
○HO1:大日本帝国軍人(職業:基本ルールブックより兵士)
 あなたは大日本帝国陸軍に属する軍人である(階級は最高でも大尉まで)。あなたはこの犬鳴村に、所属する久留米連隊の菅原大佐から直々に命令を受け、極秘任務のため派遣されて来た。
 あなたは以下の情報を事前に知っている。
・犬鳴村は帝国内に存在する特別自治区である。この村において帝国の法は通用しない。
・機密情報として、あなたは東北の特別自治区「蔭洲升」において邪教徒が反乱を起こした事件を知っている。このため、帝国は現在国家に害をなす存在として特別自治区の廃止を進めている。
・軍が掴んだ情報によれば、犬鳴村では邪教が崇拝されているらしい。現在内務省が交渉による解決を図っているが、軍は国家の安全を脅かす邪教徒を根絶やしにすべきと考えている。
 あなたは軍から以下の命令を受けている。
・軍上層部は内務省に先んじて、近日中に力による問題の解決を図る方針だ。あなたはその尖兵として村内への潜入任務を言い渡された。12時間ごとに定時連絡を行い、盆地周辺に居る通信小隊に内部の状況を報告すること(全体行動において隠密技能を使うか、個別行動をとること)。
・特別自治区の存在は帝国内における機密情報に分類される。また、「蔭洲升」の一件において、軍は邪教徒の用いる呪具が帝国に害を与えかねないと判断した。あなたはいち軍人として犬鳴村に関する記録物(写真や映像)に加え、邪教徒の信仰にまつわる(宗教的な)物品の外部への流出を防がなければならない。
 この探索者は以下の軍需物資を受け取ることができる。☆のついているものは必ず受け取らないといけないものである。
☆信号拳銃…赤、青、黄色の信号弾が二発ずつ支給される。武器として使う場合のダメージはルールブックのものと同等である。
☆九四式六号無線機…村内のどこからでも通信小隊と連絡を取ることができる。全体行動中に〈隠れる〉、〈忍び歩き〉などを使用するか、行動宣言によって探索者パーティから離れれば密かに通信できる。個別行動中に行ってもよい。(参考:ttp://www.日本の武器兵器.jp/part1/archives/492)
二十六年式拳銃(38口径リボルバー扱い)、桑原製軽便拳銃(32口径リボルバー扱い)、十四年式自動拳銃(32口径オートマチック相当)、南部式小型自動拳銃(22口径オートマチック相当、装弾数7)

○HO2:内務省職員(職業:特殊)
※このハンドアウトのベースは『クトゥルフと帝国』に記載されている職業「特高」のものを用いている。時代背景の説明などが面倒な場合はいわゆる「官僚」であるとして通してよい。職業技能は言いくるめ、鍵開け、聞き耳、心理学、説得、追跡、目星、任意の戦闘技能一つとする。
 あなたは内務省職員である。あなたは犬鳴村に、ダム建設のための交渉に赴いていた上司を追ってやって来た。
 あなたは犬鳴村に関して以下の情報を知っている。
・犬鳴村は帝国内に存在する特別自治区である。迫害された隠れキリシタン達の集落を起源に持つもので、その過酷な背景からキリスト教徒の保護を求める西洋諸国との密約によって保護することを義務付けられた。そうした事情から、この村においては帝国の法が通用しない。
・帝国は現在特別自治区の排除を進めており、一週間前交渉のためにあなたの上司に当たる上級職員が現地に向かっている。表向きはダム建設計画を口実に立ち退き交渉を行っているが、その内容はこれまで認められてきた自治権を廃止し、帝国の法の下に組み込むためのものである。
・職員が現地に向かって一週間近くが経過しているものの、交渉が難航しているのか今のところ連絡が来ていない。
 あなたは内務省から以下の命令を受けている。
・近年専横を深める軍が、犬鳴村に対する強硬策を取ろうとしているとの情報が入った。内務省としては、特別自治区の処遇に関して軍に主導権を奪われることは避けたいとの考えである。ひいては交渉条件を緩和し、どのような形であれ速やかに特別自治区解体に関する村人との合意を取り付けなければならない。あなたの任務はその旨を現地にむかった内務省職員「工藤新」に伝え、その職務遂行を助けることだ(このPCに交渉を取りまとめる権限はない)。
・特別自治区の存在は帝国内における機密情報に分類される。あなたはいち官吏として「地図にない村」の存在を示唆する宗教的な物品や記録物(写真や映像)の流出を防ぎ、その存在を世間から隠匿しなければならない。
 この探索者は以下の資料を持っている。
☆内務省からの命令書…上級職員に特別自治区解体交渉に関して自由裁量を与える旨が書かれている。
☆特別自治区解体同意書…内務大臣や内務次官のサインに加え、御名御璽(天皇のハンコ)が押されている。あなたはこの書類に住民代表の署名をもらって帰らなければならない。
☆犬鳴村周辺の地図…犬鳴村近辺の地図情報が描かれた地図である。村へと続くトンネルには犬鳴村の存在を示す看板があると書かれている。

○HO3:地下ジャーナリスト(職業:ジャーナリスト、あるいは表の職業として自由選択)
 あなたは帝国による弾圧を受ける中でも自由な報道活動を続ける、地下ジャーナリストだ。あなたは当局の目から隠れて行われた地下ジャーナリスト同士の会合で、かつての同僚でもある古くからの友人「金田一(かねだはじめ)」が、H県の「犬鳴村」と呼ばれる場所へ向かってから行方知れずとなっていることを知る。様々な思考を頭の中で巡らせながら、あなたは友人の足跡を追って犬鳴村へと向かうことを決めた。
 あなたは以下の情報を持っている。
・犬鳴村という場所は帝国の発行したいかなる地図にも存在しない。しかし、近隣に住む複数の猟師から、犬鳴村があるとされる場所に集落が形成されているとの噂を聞いている。
・地元住民によれば、犬鳴村があると目される周辺地域は森が深く迷いやすいほか、クマなどの凶暴な野生動物が居るために、毎年何人もの行方不明者が出ているという。
・近年、軍の専横や内務省による思想弾圧は過激さを増してきている。官憲や軍に自分の身分を知られることがないよう注意しなければならない。
 あなたは以下の目的を持っている。
・「金田一」は子持ちの妻帯者である。もし彼が生きて犬鳴村に居るのであれば連れて帰りたいと思っているし、もし死んでいた場合でも、何か形見となるようなものを持って帰りたいと思っている。
・闇に包まれた犬鳴村には、おそらく帝国政府がひた隠しにする秘密が存在していると思われる。あなたはジャーナリストとしてそれらを暴き、公開したいと考えている。
 また、この探索者は〈写真術〉の初期値が50%となるほか、取材用の道具として携帯用カメラとフィルムの現像に必要な道具一式が無条件で手に入る。

○HO4:魔術師の放浪者(職業:自由)
 あなたは魔術の心得を持つ放浪者である。あなたは自身のためだけに魔術を習得し、それによって生計を立てつつ各地を放浪している。あなたは数日前、呪文によって犬鳴村という地図にない秘境の存在を、H県でたまたま出会った政府職員から《支配》の呪文によって聞き出した。あなたはその政府職員に対して「今の会話を忘れるように」と《記憶を曇らせる》を使ったが、個人的に興味を持って訪れることに決めた。
 あなたは以下の目的を持っている。
・あなたの目的は自分の魔法技術を高めることにあり、犬鳴村を訪れるのも修行の一環である。俗世から離れた秘境に、オカルティズムはつきものである。あなたはこのシナリオを通して新たな魔術や、マジックアイテムを手に入れたいと考えている。
・魔術師にとって魔術の秘匿は重要な使命である。命の危険がある場合にはやむを得ないが、極力魔術や魔導書の流出は防がなければならない。
 また、あなたは以下の呪文を知っている。
《記憶を曇らせる》(基本ルルブP255)、《支配》(同P259)、《門の観察》(同P289)、《門の発見》(同P290)、《犠牲者を魅了する》(同P255)、《被害をそらす》(同P278)
 また、加えて、〈クトゥルフ神話〉と〈ほかの言語:英語〉、〈ほかの言語:ラテン語〉を30%ずつと、10ポイント分のMPが付与された魔術結晶を持っている。

7.本シナリオを回すにあたって
 本シナリオは秘密持ちシナリオである関係上、通常のシナリオとは異なる運用をしなければなりません。秘密持ちシナリオにおけるルールはこちらの記事を参照してください。また、このシナリオの秘密についてのアドバイスも付記しておきます。
7-1.このシナリオにおける秘密の扱いについて
 このシナリオは秘密持ちシナリオですが、HO間の対立構図は緩いものとなっており、秘密を殆ど明かした状態でも協力の余地が十分にあるほどです。当然「秘密」である以上そう簡単に自分から公開するということもないでしょうが、各PCが個別に得られる情報まで完全に秘匿されてしまうと、プレイングに遅滞を招く可能性がある可能性があることを念頭において回してください。

7-2.本シナリオにおける特殊ルール

 このシナリオを回すうえで提案する特殊ルールを以下に示します。KPの裁量で採用するかどうかを決定してください。特にシーン制の採用は様々な面から秘密持ちKPの負担を和らげますが、タイムキープができるのであれば採用せずともかまいません。
〇シーン制の採用
 本シナリオではクライマックスと導入を除き、探索者の行動をシーン制によって管理します。探索者は一日のうち午前中、午後、夜にそれぞれ一か所、探索場所を宣言することができます。同意があれば探索者は合同で行動できるため、一つのシーンで探索者たちは最大四回行動できるということになります。詳しくは、12.自由探索の開始を参照。

〇基本技能の変更
 また、徴兵により訓練を受けたということで、男性探索者のSIZ、CON、STRの合計が35以上の探索者は希望入隊していた場合、40以上の探索者は特別な理由がなければライフル技能の初期値を40%に変更し、これを職業技能として扱います。徴兵に取られなかった探索者は、この処理の代替として職業技能を一つ追加し、10ポイント追加の職業技能ポイントを割り振ってください。

○独自狂気の採用
 KPは狂気表によって示される狂気の内容が適当なものではないと判断した場合には、以下に示すシナリオ独自の狂気や、シナリオに準ずる自作の狂気を採用しても構いません。
1.使命への執念…命に代えても使命を遂行しようと行動するようになる。
2.バーサーカー…視界内の敵性対象を皆殺しにしようとする。
3.犬鳴村への憎悪…自分の命と国を危険にさらした犬鳴村に対する憎悪で心中が満たされる。

○汎用NPCの戦闘処理の簡略化
 このシナリオにおいては汎用ステータスを用いるNPCが複数存在しますが、KPは戦闘時に効率化が図れる場面では、同系統のNPCグループを一つのNPCとして処理して構いません。例えば、三匹の夜鬼が攻撃を行う場合、「一回で三つの対象を攻撃できる一匹のNPC」としてみなし、PLの〈回避〉処理を一斉に行わせるなどです。

8.導入~犬鳴村へようこそ~
8-1.犬鳴トンネルへ向けて
 時代は昭和三年(1928年)1月22日。探索者たちは一日に一本しか運行していない犬鳴村へと向かうバスに、同じタイミングで乗り合わせることになる。探索者たちだけを残し最後の客が下りてから十数分間、犬鳴村付近の停留所に到着するまで時間があるため、自己紹介を行ってもいいだろう(以降にも機会はある)。やがて探索者たちは明らかに人気がなく、付近に何もない山中の停留所で降りることなる。
 脳内地図に基づいて犬鳴村を目指す場合、10分ごとの〈ナビゲート〉に計3回成功するまでたどり着くことができない。実物の地図を頼りにする場合、技能を振る必要なく30分ほど獣道を歩いていくことで、犬鳴村に続く古びたトンネルまでたどり着ける。地図の情報はシナリオ上重要なので、KPは誰が地図を持っているかそれとなく強調すること。
 トンネル付近で〈目星〉に成功した探索者は、トンネル横に草木と汚れで隠れるようにして立っている◆看板を見つけることができる。
◆看板
kako-LuA3VWHjSiua73n62.png
 手書きで書かれた看板はそれなりに古く、少なくとも建てられてから数十年が経過していることがわかる。

8-2.犬鳴トンネルの先に
 トンネルを抜けた先は開けており、顔と体のほとんどを白い布で覆い、棒の先に刃を付けた手製の薙刀を手に持つ僧兵の格好をした人物が(以下、単に僧兵)仁王立ちしていることに気が付くだろう。探索者たちの姿を認めると、僧兵は村に入る意思を確認した後、全員に30%の〈目星〉によるボディチェックを行う。成功した対象者が銃火器を持っていた場合、このタイミングで没収されるほか、抜き身でライフルなどを持っていた場合無条件で没収される(〈隠す〉技能に成功していればいずれも没収を免れる)。これらの武器については、村を出る際に返すと告げられる。
 ボディチェックが終わると、僧兵は「村長のもとへと案内するからついてくるように」と告げる。しばらく歩いたのち、僧兵はここで少し待てと探索者に言い、一人崖の淵まで歩いていくと、手に持った薙刀を地面に突き立てて以下の文言(門を活性化させるための呪文である)を叫ぶ。

「ああ、我らが母よ!全知全能の神よ!
我らが村に新しき兄弟が参りましたことを、ご報告申し上げます!」

 
 客人が来たときはこうする決まりなのだと探索者たちに告げると再びついてくるよう促し、村へ続く長大な階段を下っていく。崖の淵までやってくれば、眼前には巨大なクレーターのような盆地が広がることになる。

【犬鳴村全景描写】
 そこには小規模な盆地が開けており、探索者たちの歩く先には下へと続く石造りの階段が見える。盆地の周りは急斜面になっており、高低差を考えてもまともな装備なしに下ることは自殺行為であることがわかるだろう。盆地には集落が形成されており、その中心には西洋風の建物が建っているのが見える。そこを中心として十字架のように四方へ伸びる通り沿いにはあばら家が林立しているほか、農地もあることがわかるだろう。

 このタイミングで◆犬鳴村のマップを公開すること。各数字の建物は以下の表と対応している。
①犬鳴村教会
②犬鳴村診療所
③犬鳴村墓所
④田畑
⑤犬鳴村倉庫
⑥犬鳴村収容所
⑦塔馬想一郎の家
⑧金田一の家

 また、階段を下る際探索者たちはMPを1点減少させた後POW*3、CON*3ロールを行う。POW*3ロールに失敗した探索者は階段を下っていく際精神的な不安感に襲われ、CON*3ロールに失敗した探索者は下り階段であるにも関わらず、マラソンを走った後のような疲労感を感じる。また、PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これらの違和感の正体が何らかの呪文の影響によるものであることもわかる。
◆犬鳴村のマップ
犬鳴村マップ.png
犬鳴村マプ.png

8-3.「教会」へ

 地上に到達すると、先導する僧兵は村の中心にある西洋風の建物に向けて歩いていく。木造のあばら家が建ち並ぶ通りに見える村人は老人と子供ばかりで、いずれも探索者たちにぎこちないながらも注目している様子だ。数人の子供がはしゃぎながら探索者たちの元に駆け寄ってくるが、先導する僧兵が忌々しげに子供を蹴り飛ばすと、祖父と思しき村人の元へと泣きながら戻っていく。
 村人たちへの〈心理学〉に成功すると、彼らは探索者たちの来報を少し喜んでいるようだが、同時にどこか憐みを覚えているようだということがわかる。〈人類学〉に成功すると、村人たちの服装はひと昔前(明治時代)と比べても明らかに古く、江戸時代初期のものであることがわかる。


9.「教会」にて
9-1.「教会」の概要
 この建物の詳しい内容に関しては15.犬鳴村教会を参照すること。上から見えた西洋風の建物は、木造の平屋ばかりの村の中において珍しい、頑丈な石造りの大きな建物である。教会の前には古い井戸があり、村人が水を汲んでいるのが目に入る。
 近づけば屋根の上にある折れた十字架の存在や、壁面にある剥がれた十字架跡の存在から、整備の行き届いていない教会らしいことがわかる。そのほか、教会の扉には◆かすれた紋章が描かれている。
 内装は教会にしてはこざっぱりとしており、ステンドグラスやオルガンといった教会に特徴的なものは存在していない(窓すらない)。床一面にはつぎはぎの絨毯が敷き詰められており、教会の奥にある説教壇の裏には全長2mほどの物体に覆いがなされているのが確認できる。
◆かすれた紋章
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 〈歴史〉か〈オカルト〉に成功した探索者は、これが近世日本に宣教師を送り込んでいたイエズス会の紋章であり、この建物がイエズス会員によって建てられたものであることがわかる。

9-2.「村長」との面会
 中には先導してきた僧兵と同じ格好の人間が10数人おり、大きな机に広げられた数枚の紙を囲んでなにやら話し込んでいる。探索者たちが教会内に入ると彼らは一斉に顔を向け、そのうち特に古びた僧兵服に身を包む僧兵(「ウォーレン・アダムズ」である)が村長であると名乗り、応対を始める。探索者たちが銃器を押収されていた場合、入り口から向かって左側にある部屋(教会倉庫)にしまわれたことを確認できる。
 村長は年寄りらしく、腰を深く曲げてぜんまいをかたどった金属製の杖をついているが、の体躯から若かりし頃はかなりの長身であったことがうかがえるだろう。身長差から目線の合わないその人物はかつて兵士か武士だったのか、目深に着込んだ僧兵服から顔に刻まれた痛々しい古傷がわずかに見える。この時〈オカルト〉、〈歴史〉に成功すれば、この杖がカトリック教会の司教が持つ司教杖であることがわかる。
 彼は村への数日間の滞在を許可する旨を告げ、村人たちに言えば泊めてくれるだろうから宿泊先を探すといいだろうと言って教会からはさっさと追い払おうとする(バスは1日に1往復分しかないため、探索者たちはほぼ確実に泊まることになります)。探索者たちが村長に何かを尋ねようとするならば、今は時間がないとしてグループの中で一人にだけ質問を許す。カルトの秘密に関わらないことであれば知っている範囲で答えるが、核心的な問いにはまともに取り合わない。
 また、このやりとりの間PC2のほか机の上の紙を気にする探索者は、内容までは見えないものの、直筆の文字が書かれた真新しい紙に大きなハンコが押されたものであることに気が付く。ここで〈知識〉または〈歴史〉*2ロールに成功すれば、そのハンコが御名御璽(天皇のハンコ)であることがわかる。また、この時PC1またはPC2がシークレットの〈アイデア〉ロールに成功した場合、その紙が内務省の内部文書の形式に則って作られたものであることまでわかる。

9-3.PC1、2がこの時に素性を明かした場合
 該当する人物は午後行動の間僧兵に呼ばれ、個別に村長と一対一で会話する機会を得る。これに応じなかった場合、探索者は夜行動の最後に探索者パーティの数+1人の僧兵に無理矢理収容所へと連れていかれ、村長と対面させられる(抵抗すれば戦闘となる)。
 基本的には村長の部屋で世間話を装って情報を引き出した後、村長が〈心理学〉によって嘘を見抜いた場合には《支配》によって無理矢理隠している内容を聞き出し、《記憶を曇らせる》によってその間の記憶を奪う。その後、《犠牲者を魅了する》によって探索者から意識を奪い、収容所送りになる(18.犬鳴村収容所を参照)。しかし、会話の中でPC2が村の信仰の維持に触れたのであれば、交渉技能に成功することで村長を納得させることができる。この場合収容所送りとはならず、夜に教会の右奥の部屋に来るよう告げる。
 また、仮に探索者が村長に対して物理的に危害を加えようとした場合、彼は《被害をそらす》によって攻撃を無効化しつつ、《破壊》の呪文を使用して探索者の動きを封じる。この場合も同様に収容所送りとなる。


10.自由探索の開始
 探索者たちが教会を出ると、以降は自由探索パートに入る。シーン制を採用している場合、以降このシナリオはクライマックスを除き、基本的に午前(早朝を含む)・午後・夜(夜中を含む)のシーンごとに分けられ、探索者たちは各シーンにおいて探索場所を宣言し、その場所で探索を行うことができる。ただし、移動距離や内容的に殆ど時間がかからないような行動の場合、問題がないとKPが判断すれば追加の行動を認めるなど、高度な柔軟性を維持しつつ柔軟に対応するべきであろう。宣言の順番は最初の自由行動時に1d100で決めてもらっても構わないし、面倒ならDEX順でもいい。ただし、有利不利があるため各シーンの順番は固定化しないこと。
 各シーンで探索場所を指定したプレイヤー(以下シーンPL)が許可すれば、シーンPL以外の探索者(以下シーン外探索者)も同じ場所の探索を行うことが可能となる。この場合、シーン外探索者は探索場所決定権を使用することなく探索を行うことができる。しかし、シーンPLが探索者の同行を拒否した場合、シーン外探索者がシーンPLの探索者と共に探索を行うことはできない。


11.犬鳴村の「いぶ教」信仰について
11-1.信仰の概要
 犬鳴村の信仰は江戸時代にウォーレン・アダムズが作ったもので、創世記において「Eve」として扱われる存在への信仰を基本として成り立っている。以下、このカルトを「いぶ教」と称する。
 「いぶ教」の内容は簡潔に言えば、「知恵の実を食べて全知全能・不老不死の存在となり、地上に生命を産み落としたEveを「いぶ様」と呼び、全ての生命の母として崇める」というものである。「いぶ様」は不老不死であるため、楽園を追放されてこの世で数多の生命を生み出した後、現在に至るまでこの世のどこかで生き続けていると信じられている。具体的な教義などは存在しないが、村における労働は「いぶ様」が楽園追放に当たって背負われた原罪をそそぐ行為であり、原罪が償われたとき再び「いぶ様」が目覚め、信者の前に現れるという共通認識がある。信者たちは来たる「復活の日」に全ての死者の復活と共に「いぶ様」が降臨することを夢見、日曜日に行われる教会での礼拝を続けている。

11-2.「いぶ教」の教えについて
 「いぶ教」についてのあらゆる疑問は村長がその都度答えるが、その全ては実在の原初キリスト教・ユダヤ教関係の文言をカルト的に解釈したものであり、相当な説得力を持つ。この事実については話を聞いたうえで〈歴史〉や〈オカルト〉、あるいは〈知識〉1/5ロールに成功することで気が付くことが出来る。
 また、「いぶ教」に関して歴代村長が日本語でしたためた◆犬鳴村聖書が、十数冊村内に出回っている。これは教会にも一冊置かれており、「いぶ教」に興味を示す探索者が居れば僧兵か村長が教会内倉庫から持ってきて貸し出してくれる。
◆犬鳴村聖書
 古めかしいものは非常に下手な日本語で書かれているが、版が新しくなるほどに改善されている(いずれも読み解くことは可能)。
 複数冊(最低でも3冊)見たうえで〈アイデア〉に成功すれば、うまい下手の差はあれど、どれも書いた人物は同じであることに気が付く。〈歴史〉や〈オカルト〉ロールに成功すれば、いずれの文章も恐らくなんらかの原典に乗っ取って書かれたものであるが、「いぶ」はともかく少なくとも「ばぐ」という天使の名前には全く心当たりがないことがわかる。PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これらの二神はクトゥルフ神話の神格を表すものではないかということに気が付く。内容は以下の通り。

『神は人を作り、「いぶ」と名付けて自らの仕事を手伝わせた。神は「いぶ」を楽園に置き、あらゆるものを食べていいと命じたが、知恵の木になる果実のみは「取って食べると死ぬであろう」として食べることを禁じた。
 しかし、天使の一人は神の嘘によって奴隷として使われる「いぶ」を哀れに思い、「いぶ」に知恵の木の真実を教えた。

「木の果実を食べてもあなたは死なない。老いることも死ぬこともなくなり、神のように全てを知ることができる。」

 それを聞いた「いぶ」は禁じられた果実を食べると、不老不死の力、そして神に等しい全知全能の知恵を手に入れた。
神々は怒り、神に反乱した「ばぐ」は天界から、「いぶ」は楽園から追放された。「いぶ」は神の呪いを受け、産みの苦しみを与えられた……。
 こうして「いぶ様」は全ての生命の母となり、この世に生きとし生けるものは「いぶ様」が背負いし原罪を分かち合わなければならない運命を背負った。人は労働の罰、地から食物をとる苦しみによって原罪を背負うことになる。
 「いぶ様」は不老不死であり、地上の生命を生み出した後この世のどこかで眠りについている。我ら「いぶ様」の子らは母の背負いし原罪をそそがねばならない。「原罪」が全て洗われたその日に「いぶ様」は顕現し、目覚めとともに全ての死者は復活する……。』

11-3.「いぶ教」における外部の人間の扱い
 犬鳴村に迷い込んだ人間は、教団側から「いぶ様に選ばれた(あるいは、この村に来ることを運命づけられた)人間」という扱いを受ける。そのため、村の外に出たいと申し出ても村を出ることは禁じられているとの一点張りであり、逆に「いぶ様の意に背けば天罰が下る」として恫喝する。脱出手段を握っているのは教団のみなので、基本的に外部の人間の悪あがきは度を越したものでなければ黙認される。たいていはやがて諦め、村での生活を受け入れるが、「いぶ教」に改宗する人間は少ない。

11-4.犬鳴村における宗教行為
○「祈りの日」
 幹部達は年に一度旧暦換算で新年最初の日(シナリオ上ではちょうど二日目に当たる)の夜に《溺者の招来(イブ=ツトゥルの招来/退散)》と《溺者の夢(イブ=ツトゥルとの接触)》の儀式を行う。この儀式を通じて幹部達は教会内にイブ=ツトゥルを顕現させ、家にこもる犬鳴村住人は閉じこもった家の中で「いぶ様」の幻影に祈りを捧げることになる。この神話的・霊的体験は「いぶ教」信仰に対する強力な求心力になっている。
 実際に儀式を執り行うのは村長と13人の僧兵だけであり、その他の僧兵は他の村人たちと同様に自宅で待機する(警戒態勢にある本シナリオでは門番として探索者たちの行く手を阻む)。クライマックスの儀式については26.イブ=ツトゥル招来の儀を参照すること。
○日曜礼拝
 信者たちは日曜の朝に教会で礼拝を行い、祈りを捧げた後に「いぶ様」像の足元にキスを行う(MPを捧げる、稀にPOWを吸われる)事で礼拝が終わる。度重なるこの礼拝のため、犬鳴村の高齢者たちは驚くほどにPOWが低い。なお、この時に捧げられたMPは夜鬼の従属や村長の杖に対するMPの補充など様々な魔術に用いられる。
○「奇跡」の演出
 そのほかの宗教的行為としては、教祖自らが時折行う「奇跡」の演出がある。《癒し》の呪文により、犬鳴村診療所でも手の終えない病気や怪我などを、「神の力」によって治療するものが代表例である。また、「聖母の兄弟団」の支配に反抗したものにはしばしば村長の呪文や夜鬼によって偽装した「神の怒り」、あるいは「天罰」が下されることがあり、これも信仰心を煽るのに一役買っている。

12.「聖母の兄弟団」とその犬鳴村支配に関する諸情報
 犬鳴村における「いぶ教」信者は僧兵の格好をした司祭兼村長「ウォーレン・アダムズ」以下17人の「聖母の兄弟団」幹部(僧兵)たちと、村人の殆どを占める一般の信者に分かれている。4.NPC紹介も参照し、以下にも記述のない部分はKPが適宜設定を作り、補完すること。
12-1.「聖母の兄弟団」司祭兼村長「ウォーレン・アダムズ」
 彼のバックグラウンドに関してはシナリオ冒頭を参照すること。性格は表面上温厚で村人たちから一定の支持を集めている。内実では教団の支配に逆らった住民を「天罰」に見せかけて痛めつけ、あるいは殺害しているが、基本的に「イブ様の子ら」と称する僧兵たちが汚れ役を引き受けているため村人たちの司祭に対する心証は悪化しない。また、司祭は教会の私室に住んでおり、理由なく教会を離れることはない。
 彼は強力な魔術師であり、脱出不可能な犬鳴村と「聖母の兄弟団」による盤石な支配があるため、滅多なことでは動じない。武器類を持ち出されたり倉庫を漁られたりすることも彼に取っては重要なことではないが、彼の杖と魔導書『クタート・アクアディンゲン』を持ち出された場合のみ、僧兵に捜索の指示を出し、探索者の元に差し向けるだろう。基本的に「祈りの日」当日は忙しいため基本的に司祭は教会から出ないが、探索者が彼の前に現れたなら別である。「いぶ様の御前においては嘘をつくことはできない」として《支配》の呪文を使用して盗んだ人物を聞き出し、3人以上の僧兵か、あるいは自分が直接持ち主の元に訪れて盗まれた物品を取り返す。場合によっては、警告の意味も込めて《萎縮》による「天罰」を下すこともあるだろう。彼が探索者を即座に殺すことはないが、明確な敵対行為を司祭の目の前で行った場合には、《手足の萎縮》を使用されたうえで犬鳴村収容所送りとなる。
 彼の目下の関心事は明晩に行われる運びとなる儀式の実施にあり、儀式の実施に必要な13人の僧兵の確保とナーク=ティトの障壁の破壊に注力している。そのため、僧兵の数の減少を感じ取れば、僧兵に二人以上の行動を義務付けるなどの自衛策・防衛策を講じさせるようになり、最終的には教会に引きこもらせる。それでも僧兵の数が足りなくなる場合には、犬鳴村墓所から死体を調達し、足りなくなった僧兵の分を埋め合わせる。

12-2.「聖母の兄弟団」幹部たち
 幹部の僧兵たちは全て司祭の《復活》の呪文によって生き返った、不慮の事故や「天罰」によって死亡した元村人である。彼らは司祭の正体と不老不死の能力を知っており、「いぶ様」と接触できる能力に心酔しているため、一切のことを疑問に思うことなく司祭の手足として動き、命を投げ出すことさえ厭わない。
 僧兵たちは司祭に従う忠実な狂信者であり、死からの復活を「いぶ様」の力によるものだと信じ切っている。反面、「いぶ様」の恩恵に預かっていない村人たちを侮蔑・嘲笑しており、非常に横暴な態度で接している。KPは表面上温厚な司祭に比べ、暴力的で村人から嫌われている僧兵たちという演出を行うこと。
 教団幹部は数人ごとに共同生活を送っており、基本的には村の外れ(付近に民家がない場所)に集住している。司祭の指示で姿を見られることがないよう注意して生活しているが、まともなカーテンもないので、密かに覗き見ればその素顔を確認することができる(事実、彼らの写真を密かに金田一が撮影している)。
 探索者は拷問や誘導尋問などによって彼らの知る情報や真実を知ることができるかもしれないが、僧兵の失踪を知られれば気づかれずに不意を打つ難易度は高くなる。また、僧兵たちは全員が◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)を持っている。◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)
 ラテン語版の該当部分をアダムズが日本語訳し、紙に記したものである。《溺者の招来》に関してはアダムズの経験を踏まえ、『クタート・アクアディンゲン』よりも踏み込んだ内容になっている。また、古いものは非常に下手な日本語で書かれているが、新しいものほど読みやすい字になっている(いずれも読み解くことは可能)。◆犬鳴村聖書を既に読んでいる場合、〈アイデア〉ロールに成功すれば書いた人物が同じであることがわかる。
 文章は《「いぶ様」の御真影》、《「ばぐ様」の招致》、《「いぶ様」将来の儀》という三つのセクションに分かれており、それぞれ《溺者の夢》(イブ=ツトゥルとの接触)、《大いなるものの招致》(バグ=シャースの招来)、《溺者の招来》(イブ=ツトゥルの招来/退散)の呪文を使用するのに必要な条件や呪文の文言が書かれているが、この文章から呪文そのものを習得することはできない。また、三つの呪文の中で、《「いぶ様」将来の儀》についてのみ以下の注意書きがなされている。
・「いぶ様」招来の儀は13人の信徒によって執り行われ、欠けることがあってはならない。
・招来の儀は新年最初の日の夜中に行われねばならない。
・招来の儀における詠唱は円陣の外で行い、「いぶ様」に触れることは許されない。神の寵愛を受けしもの以外が触れれば、その命を失うことになる。
 この文章についてPC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これが『クタート・アクアディンゲン』の呪文部分の一節を書きだしたものであり、各呪文の正確な日本語訳タイトルに加え、書きぶりからして最後の呪文に書かれた注意書きが筆者の体験に基づくものであるということがわかる。失敗しても、これは何らかの魔導書の一部を和訳したものであるということは分かる。

12-3.「いぶ教」の一般信者たち
 一般の村人に浸透しているのは表面的な要素のみであり、カルティストの邪悪な儀式に直接関わることもないし、その知識もない。彼らと「いぶ教」の間を繋ぐのは、11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてで挙げたような、司祭たちが行う宗教行為の数々である。彼らは狂信的ではないものの彼らなりの信心深さを見せ、信仰を否定されるような発言に対しては「自らを生んだ母に会いたいという感情は、人として自然なものではないですか?」などとして毅然と反論する。
 彼らは僧兵に対して反感を持ってはいるものの、教団に対して反旗を翻すという考えは現時点で持っていない。彼らが教団の支配に対して敵対的な行動を起こすとすれば、それは塔馬想一郎に扇動されるなどの特異なケースに限られる。
12-4.信者以外の犬鳴村住人
 基本的に外部から“入植”してきた人間がこれにあたる(生粋の犬鳴村住人は全員「いぶ教」教徒である)。改宗は強制されないが、僧兵たちからの嫌がらせを特に受ける立場にあるため、中には改宗してしまう人もいる。彼らは同じ境遇にある探索者たちに対して同情的であるが、同時に「聖母の信徒団」の危険性についても熟知している。そのため、探索者たちが彼らに協力を申し出た場合も即決は避け、塔馬想一郎の判断を仰ごうとする。彼らは塔馬から出された指示について、破滅的でない限りにおいては基本的に従う。

12-5.犬鳴村の統治体制
 犬鳴村では、司祭を長とした「聖母の兄弟団」を中心とする統治が行われている。単に宗教的権威だけでなく、村長の持つ土木・農業技術などの村の運営に必要な知識の独占も権力の源泉となっている。
 犬鳴村における生産計画は村長の指示のもと策定され、それに則って僧兵が村人たちを使役する形で実行されている。その他、村の運営に関して何らかの決定事項がなされた場合には村人代表(シナリオ時点では塔馬想一郎)に対して内容を伝え、それを口頭で各戸に伝えていくという形をとる。
 犬鳴村の村民たちは、村長の指示で日中は僧兵たち、夜間は夜鬼によって監視されている。僧兵は主に見回りを中心に、夜鬼はその隠密系技能を用いた盗み聞きや盗み見を行い、来訪者と接触する村人の監視や教団の支配に反抗的な住民の捜索を行っている。教団によって危険と判断された人物は「天罰」を受ける、僧兵によって収容所に送られるといった、様々な必要な措置を受けることになる。

12-6.村の脅威に対する警告
 収容所の囚人を(他人の手助けがあったとわかる形で)力づくで解放する、探索者たちによる僧兵の殺害が露見するなどシナリオ中何らかの形で探索者が村に敵対的な行動を取った場合、該当する探索者は村を巡回する僧兵に見つかると、「司祭様のもとに出頭するように」と告げられる。
 以降、司祭(村長)に遭遇すると探索者は「虚偽の返答にはいぶ様の天罰が下る」と前置きしたうえで詰問を行い、探索者が司祭の問いに嘘を話すと《萎縮》により5ポイントのダメージを無条件で受ける。該当する全員に対する詰問を終えると、「汝らの罪はもとよりいぶ様の背負いしもの……共にこの村で罪をそそぐ事だ」と言い残して去っていく。もし仮に二度目があるようなら、その場合は《手足の萎縮》が使用される。三度目には死が待っている。


13.犬鳴村の一般住人に関して
 老人・子供以外の犬鳴村一般住人は僧兵の監視のもと労働に従事しており、朝から夕方にかけて成人男性は農作業、女性は手織物を行っている。このため、探索者たちがこれらの住民に話しかけることを許されるのは基本的には日没後となる。世代間で得られる情報に差があることをKPは強調し、PLに気づかせること。二日目は労働が行われないため、探索者たちは街行く村人たちに、任意のタイミングで行動手番を消費せず聞き込みを行うことができる。

13-1.犬鳴村住人の概要
 犬鳴村の人口は教団幹部を含めず150人ほどであり、その割合は老人子供がそれぞれ15%ずつで、残りは労働が可能な成人男女となっている。過半数以上は犬鳴村で生まれた生粋の村人であるが、残りは村外から犬鳴村の噂を聞きつけるなどして村内に入り、この村から出ることができなくなった旅行者、元近隣住民などで占められている。また、女性の不足が見込まれる場合には、村長が外から幼女を数人さらってくることで辻妻を合わせている。
 この村の時計は江戸時代以来止まったままであるため、KPが江戸時代の風俗やその延長上に即したRPを行えるのであれば、是非行うべきである。外部との交流が遮断されている犬鳴村では娯楽なども江戸時代と変わらぬ水準にあり、読み古された『東海道中膝栗毛』などが親しまれているかもしれない。
 一般村民の生活・信仰面では塔馬想一郎という壮年の男性がリーダー的役割を果たしており、探索者は彼と交渉を行うことで住民と協力できるかもしれない(彼については23.塔馬想一郎との奇妙ではない共闘を参照)。また、PC2が村長との協力を断念していたなら、KPは彼がPC2の目的にそぐう人物であることをアピールすること。

13-2.犬鳴村住人から得られる情報
 これらのほか、塔馬想一郎からはすべての世代が持つ情報を得ることができる。この項で得られる情報のうち探索者が聞き逃したものは、汎用情報として別の機会に出してもよい。
〇共通で得られる情報
・〈幸運〉ロールに成功すれば、その村人は◆犬鳴村聖書を持っている(11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてを参照)。
・5%の確率で、話している村人は四肢の一つを失っている。付近に複数人の村人が居れば、四肢を失っている村人が居る確率は5%の人数倍になる。
・「祈りの日」が明日行われる情報(PLの驚きを誘うためある程度じらしてから出すこと)。
・この村は教会によって支配されており、教会の長である司祭が代々村長も兼ねている。
・村長(=司祭)や僧兵の素顔は誰も見たこともないが、村長は自分たちの知る限り代替わりしていないと思われること。
・金田一の居住地について。

〇老人たちから
 村に居る老人は僧兵たちに対する恐怖が身に染みついているため、「教会」の不利になることは詳細を一切語らない。探索者たちが家に泊めてくれるよう頼んでも、「年寄りではおもてなしもできないから、若い人に頼んでくれ」と言って断る(“天罰”を受けるリスクを負いたくないのだ)。しかし、犬鳴村の歴史については話してくれるし、11-1.信仰の概要にかかれているようなことを教えてくれる。
 彼らと話をした探索者は〈心理学〉か〈精神分析〉に成功すれば、老人たちが精神的にひどく摩耗している(POWが低い)ことがわかる。〈精神分析〉に成功していれば、このような精神力の消耗は普通の生活を送っていればあり得ないということがわかる。場合によっては、POWが0となり、うわごとのように「いぶ様」とつぶやくだけの老人もいるかもしれない。

 以下は、彼らが話す犬鳴村の歴史である。
・江戸の禁令から逃れてきた人々がこの犬鳴村という集落を形成し、教会を中心に家々が作られていった。
・異国からやって来た「あだむず」という人物が村人たちを導き、「いぶ様」の教えを村人たちに説いて回った。
・以来、「あだむず」のもたらした聖書は各時代の教祖によって読み継がれ、寸分の狂いもなく信仰が守られ続けている。

〇大人たちから
 日中、犬鳴村に住む成人男女は基本的に労働へと駆り立てられている。そのため、よほどうまく立ち回りをしなければ初日の夜以降にしか話を聞くことができない。初日の昼間に彼らと会話を行おうとすると、見張りの僧兵が住民を殴り倒して持ち場へと戻す。

 彼らは最初老人たちと同様に「教会」の不利になることを話さないが、有効な〈信用〉ロールや〈説得〉、あるいは〈値切り〉に成功することで教会に対する様々な不満(☆の情報)を彼らから聞き出すことができる。このロールはタバコやキャラメル、酒といった嗜好品を相手に与えることで成功値を大幅に上昇させることができる。

・司祭様は本当に神の寵愛を受けており、彼が見せた数々の奇跡は村人を救ってきた。向かいの家の子供が柏崎医師の手に余るほどの大病を患った時も、司祭様の祈祷で急速に回復した。
・司祭様は教会内にいることが多く住民との交流はあまりないが、宗教家としての知識は随一である。儀式や礼拝を行う中心人物であり、基本的には温厚な性格をしている。
☆僧兵は信仰心にとても篤いが、一般の村人たちに対しては非常に差別的な態度をとる。「貴様らはいぶ神の加護を受けていない」と暴言を吐かれた人もいれば、暴力を振るわれた人もいる。
☆僧兵は顔を隠しているため素顔はわからないが、少なくとも一般の村人が僧兵になるというケースは聞いたことがない。
☆教祖の支配は温厚なものだが、逆らう者にはしばしばいぶ神から「天罰」が下る。四肢を失うこともその一つだし、天罰が下る光景を自身も何度か見てきた。今こうして喋っていることも、神に知られたらどうなることやら。
☆外界のことは知らないが、外からやってきた人を強引に住まわせるというのはいかがなものか。望郷の念に駆られている人を何人も知っている。
 探索者が一通り話を聞いた後、〈目星〉に成功すれば監視を行う夜鬼の姿に気が付く。以下の描写を行った後、SANチェックを行うこと。探索者が他人に注意を向けさせるような言動を行うと、夜鬼は飛んで逃げてしまう。

 ふと窓の外に目をやると、暗い犬鳴村の風景の中に、丸く、黒い影を見る。窓枠の上から延びるその影は気味の悪いことに、まるで屋根の上から室内を窺っているようにも見えることだろう。
 しかし、やがて探索者は影の背後にはためく、黒い翼の存在に気が付くことになる。そう、これは影ではない……黒い無貌の存在が、あなたたちを監視していたのだ!【0/1d3のSANチェック】


〇子供たちから
 犬鳴村の子供はその無邪気さから老人や、あるいは成人たちすら喋らないことを探索者に伝えてくれるかもしれない(実際、日中働いている大人や老人たちより子供たちは多くのことを見聞きしている)。具体的な情報は基本的にもたらさないが、探索者にとって有益な情報のありかを示唆してくれることだろう。情報収集がうまくいってないと判断した場合、KPは子供を利用してPLや探索者に情報を与えても良い。このことによって子供が死ぬことはない。

14.陸軍部隊と連絡を取る
 シナリオ開始時、犬鳴村付近に居る陸軍部隊は探索者たちとの無線通信を担当する通信小隊だけである。そのため、初日から二日目の朝にかけてPC1が通信で物資の補給を要請したとしても、彼らの装備品の一部を分けてもらうにとどまる。また、夜間は夜鬼による監視が村全域に行き届いているため、夜中に物資補給を行おうとする場合夜鬼に襲われた日本兵が物資とともに落下することになるかもしれない。
 通信小隊は上方から犬鳴村全体を窺える位置におり、探索者が頼めば彼らが得られうる情報を受け取ることができる。しかし、細かな情報を得るためには事前の指示が必要になるほか、他の仕事もあるため作業量には限界がある(彼らは砲兵用の測量を行っている)。

 一度目の探索者の要請を受け、カルトの存在が確認できたなら、菅原大佐の上司(連隊を統轄する第12師団の師団長)に当たる牟田口中将は独断で200人規模の混成中隊を盆地周辺に派遣し、包囲する形で臨戦態勢に入るよう命令する。この事実は基本的に二度目の通信を行った際に直接中将の口からPC1に明かされ、探索者に彼らを誘導して狂信者達を全滅させよと命令する。

「片田舎の土民共など帝国将兵にかかれば鎧袖一触よ。
我が精鋭の火力を示威すれば、奴らは震え上がることだろう。」


 この時〈アイデア〉、または〈心理学〉ロールに成功すれば、この措置は牟田口中将が独断で行ったものであり、芳しい成果が得られなかった場合、自分に責任を押し付けられる可能性があることに気が付く。これらの情報は遅くとも二日目の朝に出されるべき情報であるため、初回の通信が昼に行われなかった場合には最初の通信時にこのことを伝えてよい(あるいは、発光信号による通信の催促を行うなど)。
 中隊の包囲が完了すれば、陸軍部隊から様々な戦術的な支援を受けることができる(24.第1大隊混成中隊による支援を参照)。


15.犬鳴村教会
犬鳴村マップ2.png
15-1.教会に入る
 教会の外壁には歪な星の形の紋様が大きく彫り込まれている。〈目星〉や〈考古学〉*2などに成功すれば彫り口の劣化がほとんどないことから最近彫り込まれたことがわかるほか、不可思議なことに奇妙な輝きを放っていることがわかる。このことに気が付いた探索者は【0/1のSANチェック】。
 住民に尋ねれば一週間ほど前から教祖と僧兵がナイフ(教会の倉庫にあるものだ)を使って外壁に掘り込みを入れていたとの証言が得られる。PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば100ポイント分の魔術障壁であることがわかるし、失敗しても魔術障壁であることは理解できる。
 日中、教会には門番の僧兵が必ず外に2人居る。教会への興味を示したり、変に怪しいそぶりを見せたりしない限りはそのうちの1人の監視のもとで教会の中を見ることができる。ただし、二日目の午後からは教会内で儀式の準備が本格的に行われ始めるため、探索者たちが教会の中に入ることはできなくなる。しかし、僧兵の服を用いて〈変装〉する場合は別である(場合によっては〈変装〉技能を使わずとも何とかなるかもしれない)。
 監視役の僧兵に質問を行っても教会の不利になるような質問にはまともに取り合わず、はぐらかすことに終始する。自分たちの信仰にまつわることなら教えてくれるが、村人が話す以上の内容を彼らが喋ることはない。

 探索者が初日の夜教会に侵入しようとした場合、夜鬼が70%の〈目星〉に成功すればそのまま〈忍び歩き〉を行い、それにも成功した場合は不意打ちの状態から戦闘となる(SANチェックや描写などはルルブ参照)。

夜鬼(基本ルルブP193)
STR15 CON11 POW9 DEX15
SIZ12 INT5 HP12 MP9 DB+1d4
【戦闘技能】
組み付き40%
【その他の技能】
忍び歩き90%、目星70%

 夜鬼は組み付き後の派生行動でSTR対抗による抑え込みを選択し、次ラウンドで1d10mの高さから対象を落下させる(落下のダメージについては基本ルルブP62参照)。耐久力が0になると夜鬼はドリームランドへと逃げ帰り、17.コウモリの襲撃イベントは発生しなくなる。銃火器を使用しなければ周辺住民から少し注目を受けるだけですむが、発砲音などを出した場合村長からの詰問をうけることになる。この場合、村長などに見つからず教会を探索するためには、隠密系技能を使用するかしばらく時間を置かなければならない。

15-2.教会内の様子
 導入の訪問から時間が空いている場合、もう一度9.「教会」にての描写を読み上げること。教会の床に敷かれているつぎはぎの絨毯は古いものの空いた穴の補修跡が数多く見られ、きちんと手入れがなされていることがわかる。教会の奥には説教壇があり、そこには◆一冊の皮装丁の本が置いてある(手に取ろうとした場合、僧兵から「教会の人間以外が触れることは禁じられている」と制止される)。また、説教壇の背後には覆いのかかった物体のほか、その両脇に部屋が二つあることが確認できる。僧兵に頼めば少し覆いを外して■イブ=ツトゥルの像の下部を見ることができる。
 夜に教会を訪れた場合、灯りなどは付けられていないため内部は真っ暗である。村長の部屋からわずかに明かりが漏れているほか、〈目星〉に成功することで絨毯の穴から漏れるうっすらとした光に気が付くことができる。絨毯を剥がした下には巨大な古き印に似た星形の魔法陣と、その外周にまた別の円陣が彫り込まれている。PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、これは《ナーク=ティトの障壁》と呼ばれる防護呪文に用いられる円陣の内側に、何らかの神格を召喚するための魔法陣が描かれているということがわかる。失敗しても、二種類の魔法陣が描かれていることがわかる。

◆一冊の皮装丁の本
 皮の装丁に『CTHAAT AQUADINGEN』というタイトルが書かれている。手にした人間が〈アイデア〉に成功すれば、この本の表紙は汗をかいているかのようにしっとりと湿っていることに気が付き、【0/1のSANチェック】を行う。また、〈医学〉に成功すれば、この本の想定は人間の皮でなされているという事実に気が付き、【1/1d3のSANチェック】を行う。
 中身はラテン語で書かれてあり、内容は基本ルールブック及びサプリ『キーパーコンパニオン』のデータに準ずる。内容を研究するには相当な時間がかかるが、〈図書館〉ロール(ラテン語技能がなくとも良い)か読み込まれている部分を探すなどの宣言があれば、効率よくシナリオに必要な呪文部分(20.金田一が持っている情報にある◆ラテン語の文章と同等のものとして扱う)のほか、イブ=ツトゥル、バグ=シャースに関する情報の書かれている場所を見つけることができる。該当部分の解読には〈ほかの言語:ラテン語〉ロールに成功する必要がある。

『グレート・オールド・ワン「バグ=シャース」―闇とともに来る大いなるもの―、外なる神「イブ=ツトゥル」―忍耐強きもの―、彼らは溺者と呼ばれる存在であり、その体液はあらゆるものを溺れさせ、死に至らしめる。犠牲者が死から逃れるためには、その体液を取り除く以外に方法はない。
 バグ=シャースは哀れな犠牲者に覆い被さり、「キス」を与えてその体液で包む。バグ=シャースの体液は犠牲者を溺れさせるほか、死者を復活せしめ、その支配下に置く性質がある。このグレート・オールド・ワンは魔力のこめられた古き印の影響を強く受けるし、力の五角形に弱い。また、このグレート・オールド・ワンは光に弱く、わずかな光源をも嫌い襲い掛かる。
 イブ=ツトゥルは触れたものに激烈な喪失もしくは変化を与える。この外なる神は自ら動くことをしない。そのいくつもの乳房に群がる無数の夜鬼と神の血液たる黒き柔和な破片「ザ・ブラック」、そして闇とともに来る大いなるものを従えて神の意を実現する。この外なる神はナーク=ティトの障壁の内側においてその能力を制御されるが、その力を全て抑えるということは決してないし、かの神の機嫌を損ねることは殆どの場合死を意味する。』


■イブ=ツトゥルの像
 この像は過去数百年にわたり村人たちのMPやPOWを吸収し続けており、事実上無尽蔵のMP・POW貯蔵庫となっている。イブ=ツトゥルに関する禁じられた知識を持つ(イブ=ツトゥルにまつわる呪文を知っている)人間がその像に触れている間、呪文の使用者は像に蓄えられたMPとPOWを利用することができる。
 僧兵から見せてもらえるのは、覆いをまくって見える像の下部のみである。僧兵の制止を振り切って覆いを外した場合、殴られる(〈回避〉ロール可)。めくられた覆いからはマントを羽織った漆黒の立像を覗かせることになる。〈目星〉に成功すれば、表面に塗られている塗料は全くもって不可解な未知のもの(実際には地球上に存在しない物質)であるが、内部の材質は木であることがわかる。この塗料は水などの液体によって多少洗い流すことができる。PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、表面の塗料は何らかの神話生物の分泌液(ザ・ブラック)であることがわかる。失敗しても、これは地球外からやって来た物質であろうことが推測できる。
 この像に触れたり、像に対して〈目星〉などを使用する探索者がいれば自動失敗扱いのPOW対抗ロールの後1d20をロールし、1から19が出たらMP、20が出たらPOWを1d3ポイント喪失する。このギミックでPOWを喪失した探索者か〈クトゥルフ神話〉を20%以上持つ探索者がこの光景を目撃すると、この像は触れるもののMPかPOWを吸収し、溜め込む性質を持っていることがわかる。
 夜に忍び込んだり、制止する僧兵を振りきって無理矢理覆いを外すなどすれば、像の全容が明らかになる。その場合の描写は以下の通り。

 覆いの中から現れたのは黒く光る、大柄の立像であった。黒いマントを羽織り、目をつぶる異様な容貌のその像は、人とも、既知の神話の神々とも異なる姿をしている。その威容は見るものを圧倒すると同時に、感覚を狂わせるような禍々しさと狂気を孕んでいた。【0/1d4のSANチェック】

 〈オカルト〉に成功すれば、この像は女性をイメージして作られているものではあるようだが、少なくともキリスト教とは全く関係のないものであることがわかる。〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、この像はニャルラトホテプの娘にして外なる神の一柱と呼ばれているイブ=ツトゥルを模したものであり、内部に多量の精神力(POWとMP)を溜め込み、その奉仕者(イブ=ツトゥルにまつわる呪文を知っている人間)が呪文に使用できるようになっていることがわかる。失敗しても、これは狂信者が用いるPOW・MP貯蔵庫であることは分かる。

15-3.倉庫と村長の部屋
○教会の倉庫
 教会にある部屋のうち、左側は倉庫で右側は教祖の部屋となっている。倉庫は埃っぽいが比較的整理されており、最近物を動かした形跡がある。〈目星〉に成功すれば、■魔力の付与された儀式用の短剣と◆Warren Adamsの日記が手に入るほか、犬鳴村来訪者から押収した武器類(探索者のものも含む)、NPCの持ち物、1d6本の一三年式村田銃(基本ルルブの45口径マーティニ=ヘンリー・ライフルに相当)、1d3本の38口径(9mm)リボルバー、また倉庫にありそうなもので適当なものを見つけさせてもよい。ただし、犬鳴村の倉庫は一般世間の倉庫とは異なることに注意すること。
○村長の部屋
 教祖の部屋は清貧さを象徴するように持ち物らしい持ち物を持っていない。書き物机には近代イギリス英語で書かれ、中に「Warren Adams」と署名の入った古い聖書が埃を被って置かれているほか、◆数冊の読みこなされた洋書が何冊か置かれている。また、机の上には日本語でこまごまとした文字が書かれた板が置かれており、この板を見るのであれば犬鳴村の統治計画に関する様々な記述がなされていることがわかる。日中村長はこの部屋と教会内を行き来しているが、夜になると基本的には自室から出なくなり、夜中の12時頃に就寝する。
 村長の就寝中に忍び込めば、その素顔を確認することができる(NPC紹介参照)。彼は粗末なベッドで寝ており、■司教杖はベッドに立てかけられるようにして置かれている。これを気付かれずに持っていくためには〈忍び歩き〉か〈隠す〉のロールに成功する必要がある。村長の持ち物が持ち去られた場合、彼は警戒するものの応急的にMP20・POW3を蓄える杖を作成して代用し、すぐに取り返そうとはしない(一般人には扱えないものだし、取り返すチャンスはこの先いくらでもあると考えているからだ)。彼は自分の持ち物を取り返すのに積極的にはならないが、探索者が隙を見せれば取り返そうとする。
■魔力の付与された儀式用の短剣
 ダメージ1d4+1+dbの小型ナイフとして使用できる。刃こぼれは全くなく、銀色に光る刀身は氷のように冷たく、曇りが全くない。〈化学〉の2倍か〈博物学〉ロールに成功すれば、このナイフは純銀でできているらしいことがわかる。〈考古学〉か〈オカルト〉に成功すれば、宗教改革の進む16世紀イギリスにおいて行方不明になっていた聖遺物の一つ(聖剣)だとわかる。
 このナイフは魔術によらない装甲を無視して攻撃することが可能であり、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。この短剣はあらゆる魔術の媒介として使用することが可能であり、任意で呪文に用いることのできる5ポイント分のPOWと20ポイント分のMPが付与されている。この事実は〈クトゥルフ神話〉に成功することで理解することができるし、失敗しても魔力が付与されていることはわかる。

◆Warren Adamsの日記
 「Warren Adams」という名前が書かれたかなり古い日記であり、劣化により読み解ける部分は限られている。が、それ故〈ほかの言語:英語〉が30%以上あれば読み解くのにロールは必要ない(時間はいくらかかかる)。時間を早めたい場合、〈ほかの言語:英語〉の技能ロールに成功すれば殆ど時間をかけずに探索を再開させることができる。
 この文章の内容を把握したうえで〈歴史〉、〈オカルト〉ロールに成功すれば、日記の記述と同じ1549年に当時世界最大であったリンカン大聖堂の尖塔が崩落し、少数派キリスト教の信徒たちが全滅した事件が実際にあったことを思い出す。
 なお、文中の「いぶ様と同じとなった」という文言は、アダムズが不老不死になったと自認したことを示す。この推測に必要な情報が集まったとKPが判断すれば、この情報を〈アイデア〉ロールなどによって与えてもよい。
○1540年某月某日
 ヘンリー8世の打ち立てたイギリス国教会の浸透による教会の腐敗は深刻だ。司教達は七つの大罪を平気で犯し、特権を笠に無知蒙昧な民を搾取している。(中略)……私は良識ある信徒たちを集め、聖書を再解釈する集会を定期的に行うことを決めた。
○1543年某月某日
 我々は国教会に支配されたロンドンを離れ、同じ志を持つリンカン司教の下に拠点を置いて活動を開始した。……
○1547年某月某日
 同志の一人が持ちよった『CTHAAT AQUADINGEN』は、数年間にわたる我々の研究に解を導いてくれた。中には悪魔と思しき冒涜的な版画がいくつも掲載されており、同志の精神を蝕んだために見ることを禁じたが……。この本が示す「YIBB-TSTLL」は、音韻の一致から、創世記における「Eve」の変形であることは明らかであり、「Bugg-Shash」とは「Eve」に知恵の実の秘密を授けたルシファー、サタンを指している。そして、この聖書が示す内容は……この「Eve」こそが我らの信仰すべき神であることを示している!
 ……我々はここに「聖母の兄弟団」を結成し、新たな信仰を打ち立てたことを宣言する。この書にある秘術を用い、我らが母を現世へと迎えることに決めた。
○1549年某月某日
 我々は数年の修行ののち、『CTHAAT AQUADINGEN』に書かれた方法に従ってイブ=ツトゥル神と、その天使たるバグ=シャースを呼び寄せた。儀式は成功した……しかし、イブ神の周囲に張られた結界が怒れるバグ様によって破壊されてしまったことで、悲劇は起こった。我々は歓喜してイブ神に駆け寄ったが……私のように神の寵愛を受けぬものは触れた途端に発狂するか、崩落した尖塔の下敷きとなって死んだ。
 私も顔面に大きな裂傷を負い、致命傷をいくつも受けた。しかし、私はこうして生きて筆を取っている……私はイブ様と同じとなったのだ!今や教団は壊滅したが、イブ様に見初められた私は信仰を続けなければならない……!
○1551年某月某日
 国教会の弾圧に加え、愚鈍で不誠実な農民たちの白痴さも相まって布教活動は行き詰った。イブ様にお会いするため必要な13人の教団幹部を養成することなどできそうにない……。私は新天地を目指すべく、故国を離れることに決めた。大陸にはかつての私と同じ志を持つイエズス会が活動していると聞く。まずは彼らを頼りにしよう……。

◆数冊の読みこなされた洋書
 これらはすべて魔道書であり、教祖の所持する呪文の中で『クタート・アクアディンゲン』に収録されていない1d3つの呪文がランダムに記載されている。使用言語も教祖の所持言語の中からランダムで決定する。

■司教杖
 ぜんまいを模した金属製の杖であり、触るとかなり冷たく感じる。年代物らしいが、不思議と劣化がない。〈オカルト〉、〈歴史〉に成功すれば、これはカトリック教会の司教が持つ司教杖であることがわかる。また、PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、この杖に80ポイントのMPが封入されていることがわかる。失敗しても魔力が付与されていることは分かる。所持者はこの杖のMPを用いて呪文を使用することができる。この杖は魔術と、魔力の付与されていないすべての攻撃から影響を受けない。

15-4.教会の防衛体制
 村長は工藤新の「私が帰らねば、帝国はこの村を攻撃することだろう」という発言から遠からず犬鳴村が攻撃されることを想定し、有事の際には教会に立てこもり抗戦できるよう、教会の外壁に耐久力100点分の防護を与えている。この防護は小銃の一斉射など口径の小さい弾丸では破ることはできず、四一式山砲による砲撃か、多量の爆薬による同一個所の発破などによって破ることができる。教会の弱点は入口の扉である。両開きの扉は儀式が始まると閉じられるが、その耐久力は10点であり探索者が容易に破壊することができる。状況によってはバリケードが張られる可能性もあるが、その場合でも最大で20点程度にしかならない。
 日中は基本的に門番が二人教会の前に立っているが、日本軍が間近に迫っていることに気が付けば日中の門番が三人に増員される上早期警戒役として周囲を警戒する僧兵が一人配置され、襲撃を察知すれば銃声や鏑矢などの方法で教会内部に合図を送る。
 日没後は一体の夜鬼が村内を監視し、門番の役割も果たす。初日の夜に夜鬼が探索者たちによって倒された場合、朝になるまで教会を守るものはいなくなる。「祈りの日」のみ、夜鬼は教会の屋根の上に張り付いたまま動かなくなるため(イブ=ツトゥルの乳房に吸い付くため、招来の瞬間を心待ちにしているのだ)、儀式に参加しない僧兵が教会の外で門番の役割を果たす。クライマックスにおける戦闘処理は24.第1大隊混成中隊による支援以降を参照すること。


16.その他の犬鳴村各所
 そのほか、犬鳴村収容所については別途章を設けてある(18.犬鳴村収容所を参照)。
16-1.犬鳴村診療所
 犬鳴村に唯一存在する医療機関である(地図上の②にある)。村人たちは重宝しているが、僧兵たちは村長の《癒し》によって事足りているため利用することはめったにない。置かれている医療器具は使い込まれたものばかりだが、医療系技能に成功すれば出口のない村の割には十分過ぎるほど薬品類がそろっていることがわかる(柏崎医師が所望した医療品を「聖母の兄弟団」が外部から調達している)。そのため、この場所で〈医学〉ロールに成功した場合、耐久力の回復量が1点多くなる。
 ここの診療所を切り盛りしているのは壮年の男性医師「柏崎屋良野」である。彼は10年以上前に犬鳴村を訪れた赤十字の医師で、僻地における治療を積極的に行う中で村に囚われてしまった。村にとっても貴重な人材であるため、労働義務もなく待遇は比較的良い。この点は本人も自覚しており、探索者の助けになるような情報を与えてくれる可能性が高く、よほどのことがなければそれによって殺されるようなこともない(釘は刺される)。
 また、犬鳴村診療所には最近農作業中に大けがをした村人が一人入院している。彼は村長から《癒し》の呪文を受けているため、回復が異常なスピードで進んでいる。KPは伏線としてこの村人を使い、彼の口から村長の起こす「奇跡」についての情報を渡すこと(11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてを参照)。

柏崎 屋良野(やらの) 42
STR13 CON15 POW12 DEX9
APP10 SIZ13 INT12 EDU17
HP14 MP12 DB+1d4 正気度50 
【戦闘技能】
医療用メス55%1d4+db、ライフル40%
【その他の技能】
応急手当90%、医学60%、回避45%、歴史30%

16-2.犬鳴村墓所
 盆地の崖に沿うようにして二重円を描くように設けられており、ちょうど◎のようになっている(地図上③である)。その数は数百にも及び、外側が古い墓、内側はより新しい墓という並びである。死体処理は信仰に依らずもっぱら埋葬であり、墓には名前と没日が彫られた石碑が各々設けられている。
 探索者がこの場所から得られる情報としては、この村にやって来たとされる宣教師「あだむず」や素性の知れない僧兵たちの墓がないこと、あるいは(金田の写真に収められた)僧兵と目される村人の墓に死体が入ってないということである。〈目星〉に成功すれば、一部の墓の土が新しくなっていることに気が付く(役目を終えた僧兵が再び元の場所へ埋葬されたのだ)。PLが気付かなければ、この僧兵と墓のトリックについて〈アイデア〉ロールにより気づかせてよい。

16-3.田畑
 犬鳴村田畑は犬鳴村入口から見て最奥に存在する(地図上④)。近くまで行けば、どこからか引いてきているのか農業用水がしっかりと確保されていることがわかる。その他、僧兵や犬鳴村住人が時折出入りする犬鳴村倉庫の存在も目に留まるだろう。日中、この場所には5人前後の僧兵がいる。
 日の昇っている間は村人たちが農作業を行っており、村人たちに話しかけようとすると僧兵に煙たがられる。犬鳴村田畑は良質な肥料を用いていることもあり、村内の人口を賄えるだけの生産量を誇っている。また、木綿や麻なども栽培されており、村内で加工され村内で利用されている。
 〈地質学〉ロールに成功すれば、農業用水の引き方からしてこの崖の上に川があるのではないかということに気が付く。〈生物学〉あるいは〈博物学〉ロールに成功すれば、用いられている肥料は到底この村内で調達できるような代物ではないことがわかる。
※正直細かいことは考えていませんので、現実的に矛盾点などがあれば世界の方をシナリオに合わせてください。

16-4.犬鳴村倉庫
 小さな家一軒ほどの大きさを誇る蔵であり、田畑の近くに建てられている(地図上⑤)。この倉庫には日中必ず一人の僧兵が門番として外に配置されている。
 中に入って確認してみれば、農業用の肥料を始め、種もみ、燃料用の薪など村の生活・農作業に必要なものが保管されていることがわかる。〈アイデア〉に成功すれば技術レベルや外観からして明らかに村外から持ち出されたものが多く収納されているが、その量からして入口のないこの村に運び入れることはもちろん、国道から犬鳴村に至るあの不整地を踏破して持ってくることすら不可能であるということに気が付く。
 ここで《門の発見》の呪文を使用すると、倉庫の一角にある不自然な空きスペースの床に描かれた、《門》の働きをする歪な星型の魔法陣を発見することができる。この《門》は双方向に移動ができる上、複数の場所に繋がる種類の特別な《門》である。この《門》は最後に移動を行った場所と双方向でつながり、現在はちょうど倉庫近くの崖上に繋がっている(川付近、特に決めていないが農業用水・生活用水路の調整用的な用途をイメージ)。
 《古き印》の作成方法を理解したPCが1MPをコストに支払うことで、《門》を活性化させることができる。入村時に僧兵が喋っていた文言(忘れている場合、〈アイデア〉の半分に成功すれば思い出すことができる)を唱え、地面を叩くことで、片道正気度1点のコストを支払うことで活性化された《門》を利用することができる。
 しかし、《門》による移動を目撃した人物は、この世の踏み入られざる領域に入り込んだことを明確に認識してしまい、【0/1d2のSANチェック】を行うことになる。探索者たちと犬鳴村にいるNPCたちはクトゥルフ神話の知識に触れているため、慣れのルールが適用されてこれ以降の正気度喪失は起こらない。しかし、神話的知識の一切ない日本兵は探索者たち以上の精神的ショックを受ける(このことは〈アイデア〉などに成功すればわかる)。
 なお、この《門》は倉庫内の〈目星〉に成功することでも、「不自然に空いたスペースに描かれた星形の魔法陣」という形で見つけることができる。〈クトゥルフ神話〉の二倍に成功すれば、この魔法陣が非活性状態の《門》であることに気が付く。


16-5.空き家
 犬鳴村は最盛期から人口を減らしていることもあり、外周に近い家はいくつか空き家になっている。その中の一つには村長が密かに用意した《消滅》の呪文に用いられる箱が置かれている(28.村長の逃走と戦闘を参照)。箱には古き印が刻まれており、探索者達が空き家をすべて見て回るなどという宣言を行って数時間(一手番)かければ、〈目星〉に成功することで見つけることができるし、シナリオの成り行きによっては別の流れで見つかることがあるかもしれない。

16-6.犬鳴村外周
 20mはある切り立った崖に囲まれており、まともな装備なしに崖を登り切るためには複数回の〈登攀〉ロールが必要であるほか、失敗すると登っている地点から落下する。上からロープを垂らすなど補助がある状態であれば一回のロールに成功するだけで登り切ることができるし、命綱があればダメージを軽減できる。しかし、昼間に登攀を試みる場合、ほぼ確実に僧兵には露見して妨害を受けるし、夜に登ろうとする場合いかなるタイミングにおいても夜鬼の妨害を受け、補助を行った人物ともども地面に落下する。

16-7.犬鳴村への階段
 犬鳴村への階段は《門の創造》によって作られた幻想である。時限的に門の効果は消滅し、一方通行であるためにこの門を逆に辿って村を出ることは不可能である。
 探索者達は村に入ってから一時間程度、あるいは探索者がこの村の異常性に気が付くまでの間、この階段を利用できる。しかし、犬鳴村の危険性を感じ、探索者たちがこの村から脱出を図ろうとする頃には、この村にやって来た時確かに下っていったはずの階段は、跡形もなく完全に消え失せてしまっていることがわかる。村内に閉じ込められた事実に気が付いた探索者は【0/1d3のSANチェック】を行う。
 《門の発見》の呪文を使用すれば、ちょうど探索者が歩いていた崖の淵に非活性状態の《門》を発見することができる。僧兵が上に居た以上、このことは「階段」のほかにもこの村に出入り口が存在していることを示す情報でもあるが、PLが気付かなかった場合には〈アイデア〉ロールで情報を伝えること。



17.コウモリの襲撃
 このイベントは基本的に夜行動の終了時に発生する。以下に続くイベントの流れは、既にPC3が金田一に会っている場合を想定している。PC3が夜中までに金田一に会っていない場合、探索者に村の情報を漏らした村人が助けを求めながら駆けてくるイベントに変化する。この場合も〈忍び歩き〉以下の処理は通常通り行うこと。夜鬼が既に倒されている場合、このイベントは発生しなくなる。
17-1.金田一青年の事件
 夜の自由行動を終えた後、宿泊先となる予定の家に向かう途中でこのイベントは発生する。その時、村人の一人が探索者たちの前に飛び出してくる。見た目は30台の若い男性で、(1930年代当時で)現代風の格好をしているようだ。PC3は、彼が探し求めていた金田一であることに気が付く。
 彼は探索者達に助けを求めて叫ぶが、夜鬼の90%の〈忍び歩き〉ロールを行い成功すると、不意打ちの形で空から一匹の黒く巨大なコウモリに似た生物が地上に舞い降り、彼を抱えて空高く垂直に上昇していく。この時とっさに彼の足首を掴むなどの宣言があれば、STR20との対抗ロールに成功することで彼を助けることができる。このロールには二人まで協力が可能である(金田一がCON*3ロールに失敗することで何かを失うかもしれないが、KPの判断で無理やり三人目の協力者が乱入することを可能としてもよい)。襲撃が失敗した場合、夜鬼は住人が集まり始める前に逃げ出す。よく見ることができなかったとはいえ、未知の生物との遭遇という衝撃的な体験をした探索者は【0/1d3のSANチェック】を行う。
 対抗ロールに失敗した場合、トゲの付いた尾と不快に曲がる角を持つ無貌のコウモリは音もなく上昇していき、やがて上空で彼を手放す。彼をキャッチするにはDEX*3に成功する必要があり、かつその探索者は落下ダメージ1d20を彼と分かち合わなければならない。失敗すれば、男は頭から落下してその中身を地面にまき散らすことになる
 このイベントにおいて〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、襲ってきたクリーチャーが夜鬼と呼ばれる奉仕種族の神話生物であり、何者かによって召喚され、特定の命令に従って行動しているのだということがわかる。

17-2.金田が死んだ場合
 異形に遭遇し、人のむごたらしい死にざまを目撃した探索者は【1d2/1d8のSANチェック】を行う(PC3のみ【1d4+1/2d6のSANチェック】を行う)。死体は僧兵によって犬鳴村墓所に埋葬されることになる。しかし、翌日彼が埋葬された墓の場所に行ってみると、その場から死体がなくなっていることがわかる。彼は《復活》の呪文により蘇らされ、探索者に打ち明けた内容と彼が知っている情報について聞き出そうとした村長の命を受け、犬鳴村収容所にて苛烈な拷問を受けているのだ。探索者によって助け出されたのであれば、村長が黒幕であり、魔術師であることを言い残して再び死亡する(適当なSANチェックを行うこと)。
17-3.収監
 コウモリの襲撃を受けると、やがて何事かと村人が集まってくる。しばらくすると、僧兵たちを引き連れて村長もやってくることだろう。金田が死んでしまっている場合、すぐにその場を離れなかった探索者は殺人の嫌疑をかけられるかもしれない。交渉系技能のロールなどに失敗して自分の無実を立証できなかった探索者は、犬鳴村収容所(18.犬鳴村収容所参照)へと収監されることになるかもしれない。この場合、収容された探索者は救出されるか脱出するまで収容所の中で過ごすことになる。シーン制を採用している場合、収容所に居る探索者に救出される見込みがあるなら自動的に彼らの手番は後回しになる。


18.犬鳴村収容所
18-1.施設概要
 地図上では⑥が犬鳴村である。この場所は犬鳴村において問題を起こした人間や、外部からやって来た危険人物、あるいは常軌を逸した人物などを隔離しておくための場所である。探索者が犬鳴村にとって危険な人物であると判断された場合はここに収監される可能性がある。また、ここには内務省職員「工藤新」が監禁されている。
  探索者が収監される際、持ち物のうち拳銃や刃物などの武器類は完全に没収され、犬鳴村教会の倉庫で保管される。その他の荷物は収容所の看守室に保管され、牢内へと持ちこめるものは事前に〈隠す〉ロールに成功したものか、持ち込めるだけの十分な理由がつけられる物品に限られる(下着や入れ歯など)。
 犬鳴村住人はこの場所の存在に関して新参者には口外しないよう厳命されているため、基本的にこの施設に関して何もしゃべることはない。唯一犬鳴村診療所の柏崎医師のみが「僧兵の居る施設には近づかないように」と匂わせるほか、幼い子供からかすかに証言が得られる程度である。しかし、村の外れにポツンと存在するこの施設の存在は、否応なしに探索者の目を引くことだろう。

18-2.収容所の警備体制
 探索者が収容所の中に入った時か、窓から中の様子を窺うと宣言があったタイミングで犬鳴村収容所のマップを開示すること。
犬鳴村マップ3.png
 収容所は石造りになっており、出入り口は一つしかない。中には看守室の他に大きな牢屋が一つあり、鉄格子の扉によって廊下と区切られている。収用所には牢屋内と通路上に鉄格子のはめられた窓が一つずつ存在し、看守の僧兵が外に1人必ず立っている。加えて、村内を巡回する僧兵が数十分毎に収容所の近くを通る(時間をかけているようなら遭遇させてもいいし、隠密系技能がなく暇を持て余しているような探索者に対処させるのも良いだろう)。
 牢屋の扉をSTR対抗で無理やりこじ開ける場合、5分ほどかけてSTR30との対抗ロールに成功する必要がある(このロールには内と外から3人ずつ協力できる)。〈鍵開け〉を使用する場合、ヘアピンなどを使って1d6ラウンドほどで開けられるだろう。
 牢屋の鍵は看守が持っているが、探索者が見張りの僧兵を引き付けるなどの動きをした場合には、看守室にあったことにしても良い。その際には、◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)も看守室においておくといいだろう(12-2.「聖母の兄弟団」幹部たちを参照)。
 また、牢屋の中にある小窓から筆記用具と紙をそこから与えることで、筆談が出来るかもしれない。彼の知っている情報に関しては19.工藤新が持っている情報を参照すること。

18-3.収容されている工藤新について

 内務省職員「工藤新」は一週間前犬鳴村にやってきており、特別自治区解体交渉を村長と行っていた。しかし、政府が信仰の停止を条件から外す気がないと判断した村長は《犠牲者を魅了する》を使用し、以降彼は犬鳴村収容所で監禁されることになったのだ。彼から得られる情報に関しては19.工藤新が持っている情報を参照すること。また、彼はシナリオ開始前にPC4と会っており、同項にはそのことについても書かれている。
 工藤は絶望的な状況にあるが、収容所に入れられて日が浅いこともあり未だ生きながらえている。彼は衰弱している上に受けた暴行の手当てを受けていないため、耐久力が半分に低下している上、医療系技能ロールは一回限りしか行うことができない。治療を試みた後犬鳴村診療所などで一日安静にしていれば、1d2点耐久力を回復する。《癒し》の呪文をかけられている場合、治療の有無にかかわらず一日安静しているだけで耐久力が最大まで回復する。この時、適切な治療が行われている場合には耐久力の回復はさらに早まる。
 探索者の中に軍人や内務所職員が紛れていることが発覚し、その探索者が収容所に居ない場合、あるいは探索者との筆談が発覚した場合彼への拷問が開始される。数時間程度であれば耐えられるが、長引くと彼は自死してしまう。拷問が行われている事実は悲鳴により容易に判明する。


19.工藤新が持っている情報
 工藤新は教祖が何らかの手段で自分の意識を失わせたことと、彼の監禁前後に「聖母の兄弟団」側が漏らした以下の断片的な情報を持っている。そのほか、PCが犬鳴村住民から得ていない情報について彼の口から話してしまってもよい(実際、彼はすぐに収容所送りになったわけではないため、住民からある程度の情報を得ていてもおかしくはない)。彼が〈アイデア〉に成功すれば、交渉が破談に終わった原因が信仰の自由の停止にあったことに思い至る。この成功率は、探索者から得た犬鳴村の情報によって上昇することだろう。

・村長との会話中に突然昏倒し、意識を失う直前「あと一週間遅ければ間に合わなかったが……やはり私は神に愛されているのだ。」という声を聞いた。
・「私が戻らねば帝国はこの村を攻撃するだろう」と看守を脅したが、「教祖様はいぶ神が降臨し、我ら信徒を幕府の魔手から守り給うと仰せられた。神の怒りを受けるのは貴様らのほうだ。」と返された(ついでにボコられた)。

 また、シナリオの進行に応じて犬鳴村周辺における軍の展開が始まると、彼は収容所の鉄格子越しに軍の展開を察知する(やることもないのでよく窓の外を見ているのだ)。複数人のPCが犬鳴村に来ている事実を知ると、PC2に対して以上の事実と、軍の手のものが紛れ込んでいる可能性を警告する。
 なお、PC4の探索者が犬鳴村の情報を聞き出した相手というのが、この工藤新である。PC4の探索者はそのことに無条件で気が付くほか、工藤新がPC4に初めて会った際「あなた……どこかでお会いしませんでしたか?」と尋ねる(基本的に思い出すことはない)。


20. 金田一が持っている情報
 金田一の住所は住民に尋ねればすぐに判明する(地図では⑧の家である)。彼は犬鳴村の外れのほうに家をあてがわれており(中心部は生粋の犬鳴村住人が代々住んでおり、新参者は基本的に村の外れに住まうことになる)、中を探せば予備のフィルムや現像に必要な物品一式が入った取材用のバッグ、フィルム入りのカメラや◆金田の手帳を見つけることができる。少なくとも手帳に関しては隠されているため、〈目星〉ロールを行わなければ見つかることはない。
 PC3以外の探索者が金田に会った場合、〈説得〉か有効な〈信用〉に成功しなければ彼から情報を得ることができない。PC3を含めた状態で初めて彼に接触した場合、喜びをにじませながらも玄関で自分のカメラとフィルムをPC3に託し、真剣な面持ちでもと来た道を引き返すようにと告げる。この時点で彼に理由を尋ねても「今だけは答えられない」「次会う時に全て話す」と決して答えることはなく、「上方に気を付けろ」とだけ言う。探索者が食い下がる場合、彼は荷物を押し付けて扉をしめ切ってしまう。
 彼に対する〈心理学〉に成功すれば、彼は死と、何かより恐ろしいものに怯えているようだと感じ、失敗したとしても彼が怯えていることは明らかに分かる。彼は刻み込まれた恐怖心から家を離れようとしないが、〈説得〉や〈精神分析〉に成功すれば無理矢理連れて行くことも可能である。この時、彼とともに村の入り口に行くなど村の秘密を知られてしまうような行動をとれば、彼はのち夜鬼によって襲われることになる(17.コウモリの襲撃イベントを参考にすること)。
 金田一は手持ちのカメラを使って複数枚の写真を撮っており、それらは◆年初の儀式、◆ラテン語の文章、◆僧兵の写真に分けられる。機転を利かせてフィルムを現像せずに隠しておいたため、カメラの扱いを理解していない僧兵たちと村長に没収されることなく今も家の中に保管されている。KPが望むなら一部フィルムは押収され、教会倉庫に置いてあることにしても良いだろう。

 金田が生きている場合には彼が写真の現像を行ってくれる。しかし、彼が死んでしまった場合には探索者たちが〈写真術〉か〈化学〉ロールによって現像を行わなければならない。このロールは協力者が居る場合、KPの裁量で技能値の合算でロールを行うことができるなどの補助を加えても良い。失敗時には得られる情報に欠落が生じたり、一部が漠然としたものになる。

 現像には一時間近くかかり、その間部屋の中は真っ暗に締め切られた状態になる。この時探索者たちの代表者に何回か〈幸運〉を振らせ、失敗時には巡回の僧兵をぶつけると良いだろう。僧兵を追い返すには、〈言いくるめ〉が最も有効だろう。

◆金田の手帳
 また、金田の手帳にはPC3の名前が(直接記者であるとはわからない形で)何度か書かれている。生存時に彼がこの手帳を手放すことはないが、死亡時にはこの手帳からPC3が怪しまれるかもしれない。手帳の発見時、PC3がシークレットの〈アイデア〉ロールに成功すれば、この可能性について気が付くことができる。

◆年初の儀式
 これは昨年教会で行われた《溺者の招来》の呪文を使用した儀式の様子を収めたものである。床に描かれた歪な五芒星を中心に置いた円から淡い光が壁のように天井へと伸びており、教会の天井にも届くほど巨大な黒い影がその中にたたずんでいる。〈アイデア〉に成功すれば、不思議なことにその背丈は教会の天井をだいぶ超えているようだということに気が付く。
 ピントが完全にはあっておらず、写真いっぱいに写っているものの正体はいまいちわからないが、その存在感は見るものを圧倒し、精神を蝕む瘴気を孕んでいる。この写真を見た探索者は【1/1d3のSANチェック】
 円の外側にはあの白装束の人間たちが10人以上立っていることが確認できる(はっきりと人数を確認された場合にのみ、「13人」と答えること)。PC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、写真に写っている魔法陣が異形を召喚すると同時に、封じ込める効力を持っていることがわかる。失敗しても、魔術に用いられる魔法陣であることは分かる。

◆ラテン語の文章(『クタート・アクアディンゲン』の呪文部分)
 特に読み込まれ、書き込みがあった部分(呪文に必要な部分)が写真として納められている。全てラテン語で書かれており、10%以上〈ほかの言語:ラテン語〉技能を持っている人は呪文の各タイトルをロールなしで読むことができる。呪文の内容を理解するためには〈ほかの言語:ラテン語〉に成功する必要がある。この時、INT*3ロールに成功すれば、その呪文を完全に習得できる。内容を理解している人物が他者に教えることで、セッション中においてのみその呪文を使用できるようになる。
〇《溺者の夢》(コスト:1MP*対象となる人数)
・この呪文を使用することで、イブ=ツトゥル神と精神的に接触することができる。
・この呪文は外なる神が信者に向けて使用することもあるし、司祭が外なる神と信者とを仲介する目的でも使うことができる。
〇《ナイハーゴの葬送歌》(コスト:12MP、1d6正気度)
・この呪文は死より蘇りしものを精神力で打ち勝つ(POW対抗ロールに勝利する)ことで元の姿に帰す呪文であり、詠唱後ただちに効果が発動する。
・コストを倍以上支払うことで、その倍数に応じて対象の数を増やすことができる。
〇《大いなるものの招致》(バグ=シャースの招来)(コスト:1POW、10MP)
・この魔術は大いなるもの、バグ=シャースをこの世に呼び寄せるものである。
・大いなるものは呼び覚まされると、周囲の存在を攻撃する。故に、大いなるものは古き印の内側で召喚するか、その守護を受けた者が呼び寄せるべきである。
・大いなるものは光を非常に嫌う。故に、この呪文は完全な暗闇の中で行われなければならない。
〇《溺者の招来》(イブ=ツトゥルの招来/退散)(コスト:10POW、100MP、退散の呪文のコストは出現状態に応じて変動)
・この魔術は溺者と呼ばれる外なる神「イブ=ツトゥル」を顕現させるために使う。
・溺者の招来はこの呪文を知る人間を半数以上含む13人により、新年最初の日の夜に行われる。
・イブ=ツトゥルは触れたものに加護を与える。
・溺者の招来場所はナーク=ティトの障壁の内側にすべきである。
〇《古き印》(コストPOW2)
・この世ならざる存在が忌み嫌う印を生み出す呪文である。
・様々な魔術の中に織り込まれて効果を発揮するし、この印だけでも効果を発揮する。
 しかし、《古き印》の創造方法と効果を理解するためには〈アイデア〉ロールに成功する必要がある。また、〈クトゥルフ神話〉に成功することで、《古き印》を苦手とする神格を地面に描いた中に閉じ込められる可能性に気が付く。

◆僧兵の写真
 どこかの部屋の中を撮影したもののようで、顔の覆いを外した数人の僧兵の姿を確認できる。探索者たちには見当もつかないが、村人に見せれば映っている人物が過去この村で一度死んだ人間であることが判明する。この事実に気が付いた探索者は【1/1d4+1のSANチェック】


21. 新年の朝
21-1.「祈りの日」
 探索者が朝起きれば、日曜礼拝の日でもないのに住民たちが教会へぞろぞろと向かっているのがわかる。村人に話を聞けば今日は「祈りの日」であり、それにあたっての日であるために労働がないのだということを話す(11-4.犬鳴村における宗教行為を参照)。教会の近くでは僧兵が大声で住民を誘導しており、「今日は司祭様より重大な宣託がある故、参加者以外にも今日話すことを伝えるように」との旨を話す。
 「祈りの日」では「日没後決して明かりをつけないこと」を厳命され、日没後用意されるかがり火なども用意することを禁じられる(バグ=シャースの召喚に備えているのだ)。住民に話を聞けば、このような命令に前例がないことはすぐにわかる。探索者がこの儀式に潜りこめば、『クタート・アクアディンゲン』を盗み取ることができるかもしれない。

21-2.天罰
 探索者が金田か村人から村の秘密を聞き出していた場合、このイベントが発生する。情報を漏らした人物に司祭が懺悔を迫り、否定する人物には天罰(5ポイントのMPを使用した《萎縮》の呪文である)が下ることになる。この時発生する悲鳴は村中に響き渡るため、探索者は技能を使用することなく気が付くだろう。後で教会に居た人物に何があったのか尋ねれば、「『いぶ様』の像の前で司祭に嘘を追及された村人から焦げたような臭いが漂い、苦しみ始めた。天罰に違いない。」という旨を話す。
 このエピソードを聞いたPC4が〈クトゥルフ神話〉に成功すれば基本ルールブックにある《萎縮》の呪文の内容に加え、その際のMP対抗ロールに自動成功していることまでわかる。失敗しても呪文による攻撃であることはわかる。

21-3.帝国への宣戦布告
 村長は村人を犬鳴村教会に集めると、説教壇に立って帝国への宣戦布告演説を始める。必要な情報を探索者が得ているのであれば、この言葉の意味を理解することだろう。

「いぶ様に産み落とされし神の子らよ。我らの信仰が今、存亡の危機に立たされておる。」
「彼奴らは……邪なる“幕府”の手のものは、300年の時を経てまた、我らの信仰を廃そうとこの地に近づいておるのだ。」
「そこで、我ら『聖母の兄弟団』は今日の祈りの日に際し、いぶ様とばぐ様に嘆願することを決めた。二柱の力をお借りし……信仰の敵を討ち果たすのだ!」


22.教団による儀式の準備
 「聖母の兄弟団」は二日目の午後から教会内で、《溺者の招来》の儀式の準備を行う。通常「祈りの日」の準備は敷かれているつぎはぎの敷物を脇に寄せ、床に描かれた《ナーク=ティトの障壁》と《溺者の招来》に必要な二重の魔法陣を露わにするだけでこの準備は終了する。
 しかし、今回の儀式に際しては司祭の指示で《ナーク=ティトの障壁》の魔法陣(床に深く焼きこみを入れる形で描かれている)を僧兵たちが破壊している。こうすることで「イブ=ツトゥル」の制約を外し、犬鳴村への攻撃を企てる帝国に対抗しようという腹積もりなのである。この作業は騒音を伴うため、探索者が察知する可能性は十分にある。

 また、儀式が行われる夜夜鬼たちは監視任務を放棄して教会の屋根にへばりつき、じっと待機している(イブ=ツトゥルの乳房に真っ先に吸い付こうと待ち構えているのだ)。そのため、夜の間なら住民が夜大規模な移動を行っても見つかることはないし、日本軍の接近に気が付くこともない。


23.塔馬想一郎との奇妙ではない共闘
23-1.塔馬想一郎について
 塔馬想一郎は生活面における村人たちのリーダーであり、彼の説得に成功すれば、探索者達は村人と協力関係を結ぶことができる。彼は立場上犬鳴村の村人たちが持つすべての情報を持っており、それまでに取りこぼした情報を与えてくれるかもしれない。彼は教団に対して人一倍警戒しており、探索者との会話に臨む際は(犬鳴村では珍しい)カーテンをしっかり閉め、そのうえで雑談を装いながら紙を渡し、筆談による会話を促す(処理上は普通に話してよい)。
 彼は神を奉ずる信仰心について教団のカルティストたちと変わらない強さを誇るが、僧兵による暴力的な支配を快く思っておらず、粗野で身元が不祥な人間を幹部に仕立て上げている村長のやり方に内心反発している(彼は信仰信の篤さを幹部登用の指標にすべきと……はっきり言えば自分が教団幹部になりたいと思っている)。
 PC2が教団殲滅に力を貸す代わり、教団なき後の村を指導してほしいと取引を持ちかければ技能を使う必要もなく承諾するし、教団のやり方を批判するなどして〈説得〉を試みる場合にもファンブルさえ出さなければ殆ど成功する程度のボーナスを得ることができる。しかし、住民たちを用いた作戦の実行については、以下に書くように別途交渉が必要な場合がある。

23-2.共闘を要請した場合
 「聖母の兄弟団」との戦いで共闘を要請した場合、老人の助けなどで若い人手が必要なため、戦闘などの実力行使には自分しか人員を割けないと答えるほか、柏崎医師を救護班として連れていくことが可能である。彼は基本的に戦闘の最後に行動し、医療系技能を使用する。他に、塔馬を住民側に残す(戦闘に参加させない)ためには〈説得〉-10に成功する必要がある。適切な理由付けができればこのマイナスは相殺される。
 その他、探索者が望めば住民避難の細かい指示も出すことができる。特に指示がなければ、最も安全と思われる犬鳴村田畑とは反対側の崖付近へと密かに避難する。


24.第1大隊混成中隊による支援
 展開を終えた軍は以降、PC1の要請に応じて様々な支援を行えるようになる。探索者は日没前に要請しておけば、薄暮れ時にこっそりと装備品を受け取ることができることを伝えること。
 展開する日本軍部隊の人員の内訳としては直接戦闘に当たるライフル兵が100人近く、残りは砲兵のほか、伝令や通信、補給を行う諸兵科となっている。ただし、砲兵の展開には時間がかかり(射線を確保するため、密かに森を切り開いているのだ)、どうあがいても日没までかかってしまう。
 ライフル兵の配置や補給は午後から10名構成の分隊単位で順次完了する。そのため、探索者の判断次第では儀式が始まる日没前に彼らを利用しようとするかもしれない(30、その他のパターンを参考に)。

24-1.犬鳴村襲撃
 PC1は犬鳴村襲撃の指揮官として、彼らを含めた作戦を立てなければならない。この作業にはPC1が秘密を明かした探索者も含まれるだろう。
 各兵科の基本攻撃方針は以下に示してある通りだが、一定程度の軍事的合理性に基づく作戦提案を探索者たちが行えば、柔軟に受け入れる。犬鳴村に下りたって以降ライフル兵たちと探索者たちは連携をとることができなくなるため、基本的には探索者たちが修正した作戦に沿って攻撃を行うことになる。

24-2.ライフル兵による支援

 ライフル兵は特に探索者の指示がなければ、分隊ごとに村を包囲する形で展開し、僧兵による警戒が解かれる日没と同時に犬鳴村に下りたって戦闘を行う(目視による狙撃は人の区別が困難であるうえ、狂信者を殲滅できないためだ)。その後ライフル兵は事前に得ている情報をもとに「敵」とされる相手を倒しつつ、本丸である教会を目指そうとする。
 ライフル兵は状況に応じて、最適と思われる方法で戦闘を行う。明らかな狂信者や異形を相手に彼らがためらうことはないが、明らかに正気を保っている人間相手に攻撃する場合、最初のみ成功率が半減する。
 ライフル兵は38式歩兵銃を装備し、近接戦闘が見込まれる場合には銃剣を装備して対応する(着剣状態では射撃と刺突の両方が可能)。主なライフル兵のステータスは以下の通り。

日本軍ライフル兵
STR15 CON16 POW14 DEX12
APP11 SIZ14 INT12 EDU12
HP15 MP14 DB+1d4 現在正気度50
武器:
38式歩兵銃 60% 2d6+3 耐久値12 故障ナンバー00 装弾数5発 ラウンド1/2
銃剣による刺突 60% 1d6+db 射程タッチ 耐久値10 
技能:
登攀90%、忍び歩き75%、水泳55%、戦場を駆ける72%、員数を合わせる(〈隠す〉技能に相当)92%、愛国心83%

 このステータスは基本的に共通のものであるが、探索者が特定の技能に秀でた人材を求めるような場合には、KPの判断によりステータスを現実的な範囲内で変更してよい。

 彼らは基本的に、バグ=シャースの粘液によって復活したゾンビや、姿を現しつつあるイブ=ツトゥルの懐から無尽蔵に現れる夜鬼への対応に追われることになる。そのため、探索者が教会に突入するのに合わせて目的地までたどり着けるのは、わずかに1d4+1人がそれぞれ1d3ラウンドかけて五月雨式にやってくるだけである。そんな彼らも、教会付近で探索者たちと合流できなければ教会に突入して狂死するか、あるいは村長や神話生物から返り討ちにされることになる。

24-3.砲兵による支援

 中隊は四一式山砲一門を装備する砲兵隊を随伴している。四一式山砲は毎ラウンドの開始時に命中率95%の砲撃を行い、それ以外のデータはルールブックの75㎜野砲に準じる。夜戦時にはライフル兵たちの降下支援として榴弾を教会に向けて一発放ち、ライフル兵たちが地上に降り立つと照明弾を打ちあげ、ライフル兵たちの犬鳴村襲撃を支援する(そのあとは引き続き教会に向けて榴弾を射撃する)。
 特に指示がない場合、まずはライフル兵たちの犬鳴村への降下を手助けするために照明弾を打ち上げて明かりを確保し、以降は本丸である教会に向かって直接榴弾による攻撃を行う。しかし、照明弾が撃ち落とされてしまった場合には不発と勘違いしてもう一度照明弾を撃つ。教会砲撃時に、教会入り口にいる探索者たちへの巻き添えは起こらないが、その他のシチュエーションでは砲弾片が落下する可能性があることに注意すること。
 砲兵の行動の指定は無線による指示か事前の作戦協議によって行うことができ、バグ=シャースとの戦闘を支援してもらう、教会に榴弾を撃ってもらい、イブ=ツトゥル召喚の阻止を試みる、あるいはダム作戦を発動させるという様々な役割を果たす。砲兵は犬鳴村の周辺からやや離れたところから曲射を行うため、SAN値減少による影響やためらいによる成功率の減少はない。また、よほどのことがない限り夜鬼から攻撃されることもない。攻撃目標の変更を行う場合には射角調整などに1ラウンド以上かかる(KPの裁量で調整してもよい)。


24-4.オペレーション・「DAMU」

 犬鳴村周辺の地理情報(付近に川があるという情報)を知っている探索者が砲兵の存在を知り、〈アイデア〉ロールに成功すれば、崖に対して榴弾を撃ち込むことで、川を意図的に決壊させて村を水没させることが可能なのではないかという考えに行き当たる。もちろん、水に飲まれる自分たちは〈水泳〉ロールに失敗し続ければ危険な状態に陥ることは容易に想像がつくし、村人への対応も行わなければ甚大な被害が出ることもわかる。崖に対して100ポイント以上のダメージを与えることができれば、川の水が徐々に犬鳴村を飲み込んでいくことになる。この作戦を実行した場合の処理については、30.その他のパターンを参照すること。


25.大いなるものの招致
 15-4.教会の防衛体制、26.イブ=ツトゥル招来の儀も併せて参照すること。
 「いぶ様」招来の儀式の際、何か障害になるような動きが発生すれば、門番役の僧兵が即座に合図(ライフルを発砲するのかもしれないし、鏑矢を使うのかもしれない)を行う。すると、アダムズの手で即座に《大いなるものの招致》の呪文が発動され、以下の描写ののちに【1d6/1d20のSANチェック】を行う。この合図は手榴弾などの強力な武器により僧兵が即死する場合でも死の間際に行われるが、この場合四肢をもぐなどして僧兵の死体がゾンビ化しないようにすること。
 犬鳴村教会倉庫から魔力のこめられた儀式用の短刀が奪われていない場合、僧兵の一人はその短刀を装備して〈小型ナイフ〉40%の技能で戦闘を行う。

 僧兵が興奮した声で最後の文言を唱え終わると、空間から染み出すようにして、その存在がやってきた。
 ゼリーのような、黒い粘液の球体に、多くの口と無数の目を備え、その場にいる人間を舐めるように見回していく。やがて姿を完全に表すと、粘着質にぬめる唇の群れがヘドロじみた唾液を垂らし、口笛を吹きながら、狂気のさえずりをあたりに注ぎ始めた……。
 

 基本的に召喚されたバグ=シャースは何の抑制も受けていないため、僧兵たちを攻撃対象に含めて戦闘を行う。探索者たちが視界内にいなければ、その後は更なる生贄を求め、犬鳴村に居る人間たちに対して攻撃を行う。ただし、教会はイブ=ツトゥルの像が存在しているため、バグ=シャースの攻撃を受けることはない。

25-1.バグ=シャースとの戦闘

 バグ=シャースのステータスは以下の通りである。詳しくは『マレウス・モンストロルム』を参照すること。
バグ=シャース 大いなるもの(マレモンP233)
STR50 CON45 POW25 
DEX10 SIZ65 INT15
移動6 耐久力55 
武器:覆い被さる 60%、キス 自動成功、投げキッス 特殊
装甲:火と電気、魔術か魔力を付与された武器、および光によってのみダメージを受ける。
呪文:《神格との接触/イブ・ツトゥル》、およびキーパーが望むだけの呪文

 バグ=シャースを物理的に撃退しようとする場合、主な攻撃方法とダメージ量の例は以下の通りである。
信号拳銃…〈拳銃〉に成功すれば1d3ラウンドの間1d3の継続ダメージ
たいまつ…〈投擲〉に成功すれば1d6ダメージ
周辺が燃えている…1ラウンドごとに1d6ダメージ
ランタンの明かり…1ラウンドごとに1d3ダメージ
カメラのストロボ照射…〈写真術〉ロールに成功すれば1ラウンドごとに3d6ダメージ、失敗時は1d6ダメージ
吊光弾…1ラウンドごとに3d10ダメージ
四一式山砲の至近弾・命中弾…爆発時の光により1d6ダメージ

 また、魔術的な方法でバグ=シャースに対処することも可能である。バグ=シャースに退散の呪文は存在しないが、地面に書かれた《古き印》の中に閉じ込めることでかのグレート・オールド・ワンを完全に封じ込めることができる。非活性状態の古き印の中に誘い込み、魔力を込めればバグ=シャースを魔術的に封印するなどが考えられるだろう。ただし、古き印を地面に描くのに1ラウンドを要し、うまく誘い込むためには〈回避〉によってキスによる攻撃を避けなければならない。
 封じ込められたバグ=シャースは以降、単なる正気度喪失の大きいゴスペラーズとなり、シナリオに大きな影響を与えなくなる(目撃時の正気度喪失は通常通り発生する)。

25-2.バグ=シャースの行動ルーチン
 バグ=シャースは自身を攻撃するものに攻撃を行う。吊光弾が打ちあげられている場合、探索者がバグ=シャースを攻撃するなどして足止めしない限りバグ=シャースは上空にある吊光弾を攻撃して無力化してしまう。バグ=シャースが吊光弾に対する攻撃を行う場合、80%の確率で命中する分泌液を体内から発射する(投げキッス)。後述の投げキッスも同様であるが、バグ=シャースは投げキッスを行ったラウンドに追加して行動を行うことができる。
 バグ=シャースが人間に攻撃する場合は基本的に60%の覆いかぶさりしか行わない。この攻撃対象は自身を攻撃してきた人間の中からランダムに決定し、その周囲に居る人物全員を対象に取る(煩雑さを避けるため省略してよいが、『マレウス・モンストロルム』の記述に従って、複数人が攻撃を受ける場合対象以外の犠牲者はDEXの低い順に、一人ずつ覆いかぶさりの成功率を10%ずつ減少させてもよい)。
 覆いかぶさりが成功した場合、1d2によって6d6ダメージ(犠牲者が複数いる場合算出ダメージは分散する)か〈組みつき〉を選択する。〈組みつき〉時にはSTR50(犠牲者が複数いる場合STRは分散する)と犠牲者のSTRとの対抗ロールを行い、失敗した場合にはバグ=シャースのキスを受けて“溺れ”状態になる。“溺れ”状態は〈応急手当〉ないし〈医学〉ロールに成功するか、大量の流水を浴びることによって回復することができる。
 耐久力が半分以下になってから行動ラウンドを迎えると、バグ=シャースは空高く舞い、分泌液を村中にばらまいた後(投げキッス)再び戦闘態勢を取る。この不快な分泌液は生きている人間には効果がないものの、素早く地面に浸透し、埋葬された村人たちの何割かをゾンビとして蘇らせる。ゾンビは肉を求めて動き出すが、基本的には犬鳴村に降り立った日本軍のライフル兵と交戦することになる。

25-3.バグ=シャースとの戦闘を避ける
 日本兵にかなりの被害が及ぶものの、探索者は必ずしもバグ=シャースを撃退する必要はない。召喚時には教会の入り口を塞いでいる形になるため、即座に教会内に押し入ろうとすると、60%の覆いかぶさる攻撃を一度受けることになるが、バグ=シャースがその場を離れた後であればロールの必要なく教会へと突入することができる。ただし、一定ラウンドごとにゾンビ化した僧兵が襲い掛かってくることに注意すること。
探索者の目の前でバグ=シャースが召喚された場合、僧兵が襲われている隙にどこかへ隠れることができる。探索者たちが戦闘に入らなければ、バグ=シャースは吊光弾や銃弾を浴びせる日本兵を攻撃する。

25-4.ゾンビとの戦闘
 バグ=シャースの粘液は死者を粘液によって覆われたゾンビとしてただちに蘇らせる。僧兵がバグ=シャースのキスを受けた場合、1d6ラウンド後にゾンビとなる。ゾンビを見た際のSANチェックは通常通り行う(一体のゾンビを見た際の減少値は1/1d6である)。
 教会の前には井戸があるため、ここにゾンビを落としたり、井戸から汲んだ水をゾンビにかけたりすることにより、体を覆う粘液が一部流され、ゾンビの動きを止めることができるかもしれないし、ダメージが入るかもしれない。また、ゾンビとしてのステータスは生前のものを引き継ぐがDEXは半分に低下する。新鮮な死体であるために装甲はないものとするか、探索者達に余裕があるようなら通常通り全ての武器による攻撃を半分として良い。


26.イブ=ツトゥル招来の儀
26-1.招来の儀の開始
 日没後しばらくしてから儀式を行うのが常であるが、襲撃が始まったことを察知すれば即座に儀式を開始する。儀式の終了タイミングは開始から1d4+2ラウンドである。儀式が始まると教会の上部が巨大な《門》となってドリームランドと空間的につながり、イブ=ツトゥルの姿を儀式の進行度に比例して徐々に現していく。以下は描写である。

 村の中心にある教会風の建物が、変化を遂げていた。尖塔は黒い渦に飲み込まれて消え、やがて屋根自体をすっぽりと飲み込んでいく。そしてその非日常的な光景を目撃した探索者は……その渦の中心から放たれる、吐き気を催す圧力を感じ取ることになる。

 この《門》に対する物理的な攻撃は一切の意味を持たない。儀式の光景を外部から目撃した場合は【1/1d4のSANチェック】を行う。また、犬鳴村外周部にまだ日本兵がいる場合、《門》を通して垣間見える異界の姿を目撃することにより、半数近くが狂気に陥る。

26-2.招来の儀を阻止する
 探索者が儀式途中の教会に踏み込むと、奥にあった像の覆いが外されており、その姿とうり二つの存在が教会へと降り立とうとしていることに気が付く。教会内の像を見たことのある探索者は、まさにあの像が模した存在そのものが現れようとしていることがわかる。教会に入った探索者は儀式の進行度に準じて手加減を加えたSANチェックを行い、正気度を減少させること。
 教会内では13人の僧兵が等間隔に円陣の周りに立って呪文を詠唱しており、村長こと「ウォーレン・アダムズ」はイブ=ツトゥル像に手をかけ、奪われていなければ『クタート・アクアディンゲン』と司教杖を手に佇んでいる。侵入者を見つければ《萎縮》の呪文を詠唱し始め、2ラウンド目の終了時にランダムな対象を破壊して黒焦げにする。HOの救出対象以外のNPCを引き連れていた場合、事前に詠唱を済ませていたということで、教会内に侵入してきた瞬間にNPCの一人を破壊して黒焦げにし、再び詠唱を始める。基本的にアダムズが像に触れている際の《萎縮》は即死攻撃となるが、慈悲深いKPなら呪文によるダメージを1d100か1d20で決定したり、死ぬ間際の行動を認めても良いだろう。
 僧兵たちは回避以外の行動をとることができないが、村長に対する攻撃は全てイブ=ツトゥル像に込められたMPを利用した《被害をそらす》によって無力化される。僧兵たちのうち誰か一人でも死亡、あるいは気絶した場合、儀式は失敗してイブ=ツトゥルがこの世に顕現することはなくなる。なお、手榴弾などの範囲攻撃が命中した場合、散らばっている僧兵たちの何人に命中したか、1d3で決定する。
 また、探索者たちは儀式途中に《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を用いることでも召喚を阻止できる。この場合、退散の呪文に必要なコストは召喚に必要なコストを現在出現しているイブ=ツトゥルの割合に合わせたぶんになる。呪文の発動タイミングはラウンド最後であるが、詠唱中に詠唱者が死亡するなどして足りなくなった場合には、呪文は失敗する。

26-3.「ザ・ブラック」の襲撃
 イブ=ツトゥルの召喚に失敗したことを悟ると、僧兵たちは絶望のあまり呆然とその場に立ち尽くす。そんな中、召喚されつつあったイブ=ツトゥルの半身が、黒い紙吹雪のような形をとってひらひらと僧兵たちの体を覆い、彼らを「溺れ」状態に陥らせる。基本的にこの「ザ・ブラック」による襲撃で僧兵たちは全滅するが、村長だけは《消滅》の呪文によって難を逃れる(28.村長の逃走と戦闘を確認)。
 探索者は〈目星〉ロールを行い、成功者はザ・ブラックが舞う教会の中で、村長の姿が消えている事実に気が付くことができる。また、この時〈幸運〉に失敗した探索者は、不運にもザ・ブラックが降りかかってしまう。〈回避〉に成功しなければ僧兵たち同様ザ・ブラックが体表を覆い、「溺れ」のルールに従ってダメージが発生していく。ザ・ブラックについての情報は27.「いぶ様」の降臨を参照すること。


27.「いぶ様」の降臨
27-1.イブ=ツトゥルの召喚
 儀式の阻止が間に合わなかった場合、イブ=ツトゥルは抑制のない状態で完全に召喚されてしまう。この姿は教会の外からでも確認できる(SIZは52もあるため、教会内に姿が収まることはない)ため、その姿を目撃した日本兵たちの多くは狂気に陥る。この光景を目撃した探索者は以下の描写を読み上げたのち、【1d6/1d20のSANチェック】を行う。

教会には、大きく膨らんだマントをうねらせる、巨大な人型の存在―イブ=ツトゥル―が鎮座していた。マントからは無数の黒い乳房が垣間見え、それらには有翼の、爬虫類じみた無貌の生き物―夜鬼―が群がっている。やがて、不快にぬめった、漆黒の顔に位置する双眸の瞳が開かれると、自己を見上げる矮小な存在たちに胸の悪くなる目線を向けた……。  

 司祭はイブ=ツトゥル像に手をかけた状態で満足げに佇んでいるが、イブ=ツトゥルが召喚されると周りにいた僧兵たちは興奮を抑えきれず、たまらず神のもとへと駆け寄っていく。この光景を見てPC4、あるいは《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を知っている探索者が〈アイデア〉に成功すると、大量のPOWとMPを消費しているはずなのに司祭を含む僧兵たちに全く憔悴した様子が見られないことから、何らかの方法で別のところからMPとPOWを調達したのではないかという発想に至る。また、追加で〈クトゥルフ神話〉(過去に像を調べていれば成功率二倍)に成功すれば、この像がMPとPOWを溜め込んでおり、自由に魔術に使えるようになっているということまでわかる。
 僧兵たちはイブ=ツトゥルの体に触れると瞬時に狂死するか、あるいは錯乱して自ら死を選んだり、奇声を上げながら床に頭を打ち付けるなどの奇行を行うようになる。そんな僧兵たちを尻目に村長はイブ=ツトゥルと対話を行い、探索者たちを撃退する助力を乞う。悠久の時に漂う存在にとって瞬きにも満たぬ時とはいえ、数百年にわたる信仰と捧げられた精神力は、かの神の持つ絶大な力に比した“微力”を差し述べるに足るものであった。

27-2.イブ=ツトゥル&村長との戦闘
 イブ=ツトゥルのステータスは以下のとおりである(『マレウス・モンストロルム』の当該ページより一部編)。

イブ=ツトゥル 忍耐強きもの(マレモンP142、または基本ルルブP208)

STR40 CON48 SIZ52 INT60
POW65 DEX16耐久力50 DB+5d6
移動0
武器:タッチ 100% ダメージ 何らかの激烈な喪失もしくは変化
ザ・ブラック100% ダメージ 窒息
装甲:12ポイントのマント及び1ラウンドに5耐久力を再生
呪文:《ザ・ブラックの召喚》、《夜鬼の召喚/従属》、《バグ=シャースの招来》
《ザ・ブラックの召喚》…イブ=ツトゥルの血液たる「ザ・ブラック」を召喚し、意のままに操る

 イブ=ツトゥルは移動力が0であるため、その場から一歩も動くことはない。まずこの神は《ザ・ブラックの召喚》を使用して教会外にいる人間たちを襲わせる。教会内に探索者たちが残っている場合、1d3ラウンド後に1d6体の人間を襲えるだけのザ・ブラックを教会内に召喚して攻撃させる。「ザ・ブラック」のデータは以下の通りで、攻撃対象はランダムに選択される。ただし、《古き印》を持っている人間が狙われることはない。

ザ・ブラック イブ=ツトゥルの血液
DEX3 HP1 
武器:取り付き 100% 対象を溺れ状態にする。行動は可能だが詠唱は不可能であり、全身タイツ状態なので視界も奪われる(誘導に従って動くことは可能)。
装甲:魔力を付与されている武器、《古き印》、《イブ=ツトゥルの招来/退散》、大量の流水による攻撃以外は無効

 〈クトゥルフ神話〉の2倍に成功すればザ・ブラックがイブ=ツトゥルの血液であり、《イブ=ツトゥルの招来/退散》を唱えることで1ラウンドにつき1MP消費することで一人分のザ・ブラックを退散させることが可能であることに気が付く。このロールは気が付くまで毎ラウンド行うことができる。また、古き印を押し付けることでも1ラウンドに1人溺れ状態を解除することができる。
 村長は教会にあるイブ=ツトゥル像のそばから動くことなく、満面の笑みでひたすらにイブ=ツトゥルへの讃歌(讃美歌を冒涜的に変えたもの)を口ずさみ続ける。しかし、探索者が教会内で戦う意思を見せた場合、探索者の方へと接近して戦闘能力が最も高いと思われる人物に《手足の萎縮》を使用して攻撃する。

27-3.探索者の行動
 探索者がとりうる方法は、ここに至ってはあまり多くない。一つは、イブ=ツトゥルの像まで駆けていき、像の力を利用して《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を使用することである。イブ=ツトゥルの脇を通り抜ける際、巨大な手によるタッチから逃れて像までたどり着くためには、1ラウンドかけて〈回避〉かDEX*3のロールに成功しなければならない。退散の呪文は詠唱を開始したラウンド終了時に完了し、それに伴うコストやロールは必要ない。この時、探索者が哀れにも《萎縮》の犠牲者になった場合には、その人物がPOW*5ロールに成功すれば「身を焦がしながらも、絶命する前に外なる神を退散させることに成功した」ということにしてもよい。神の撃退を目の当たりにした村長―アダムズ―は絶望し、去りゆくイブ=ツトゥルとともにドリームランドへと渡っていく。
 考えられる二つ目の方法としては、イブ=ツトゥル像の力を借りずに《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を複数人で唱えるというものである。この場合、POWとMPの消費は通常通り行うことになる。一度教会の外に出て、ザ・ブラックに襲われる人々を助けたうえで呪文を唱えることもできるし、教会内で即座に唱えることも可能である。ただし、村長の《萎縮》や《手足の萎縮》により詠唱中にコストが支払えなくなった場合、呪文は自動失敗となり支払ったPOWとMPも返ってこない。ただし、呪文の対象者が探索者であった場合には、上にあげたPOW*5ロールの処理を行ってよい。村長の反応については同上である。
 三つ目の方法としては、75mm砲によって川の決壊作戦を発動させることである。大量の流水によってザ・ブラックの犠牲者は溺れ状態から回復され、ザ・ブラック自体も消滅する。この場合村長は敗北と村の全滅を悟り、《門の創造》の呪文を使用してどこか別の新天地(おそらくはイギリス)へと逃亡する。


28.村長の逃走と戦闘
28-1.逃走する村長
 村長は儀式の失敗を悟ると《消滅》の呪文を使用し、変装した後状況に応じて《門》のある場所まで突破を試みるか、避難する住民に紛れようとする。彼の狙いは再建後の犬鳴村で密かにカルトを再興することであり、そのために必要な行動をとる。探索者たちが消えた村長を探そうとする場合、KPは単独で行動する村長と遭遇するシチュエーションを設定するよう努めること。
 赤毛を隠すため、村長は頭を血で偽装した布で覆う、泥と土にまみれて露出した白い肌をごまかす、杖を服の内側に隠すなどの偽装を行う。しかし、目の色や目を引く長身、何より持っている杖の存在は完全にごまかせないため、探索者がその正体を見破る可能性はある。彼の正体を見抜けるかどうかは、その時点までの探索度合いによるだろう。村長が姿を見破られたと確信した場合、彼は正体を明かして探索者たちを皆殺しにしようとする。

28-2.村長を比較的安全に無力化する
 探索者たちが村長を安全に無力化するためには村長が自身の正体を見抜かれたと気が付く前に不意を打つことが必要である(ただし、〈心理学〉に長けた彼を欺くのは難しい)。
 しかし、条件さえそろってしまえば距離をとった後に41式山砲で撃ってもらう、ライフル兵や探索者たちによる一斉射撃を行うなど様々な方法がとれるだろう。崖から突き落とすなども有用な方法であるが、村長がフル充填の杖を持っている場合《被害をそらす》を使用するため、完全に不意を打てない場合はダイス目によっては削り切れない可能性がある点に注意すること。

28-3.村長と戦闘する

 正面から戦えば甚大な被害が想定されるが、シナリオ進行上戦闘になってしまう可能性は十分にあるだろう。村長は戦闘の際、以下に示す3パターンの行動を基本的にとる。KPはこれらをランダムに決定するか、適当と思われる行動を選択して実行すること。戦闘バランスを考慮して、以下に上げる以外の行動をとってもよい。なお、《門の創造》による脱出には、最低でも2ラウンドいっぱいかかる。
 村長は自身への攻撃を全て《被害をそらす》によって受け流しつつ攻撃を行うが、合理性に反すると判断した場合は別の行動もとりうる。旗色が悪くなったと判断すれば、夜鬼を利用して戦闘から離脱する(その後、《門の創造》によって逃げ出す)。
①ランダムな対象に《手足の萎縮》を使用する。失わせる四肢は最も有効な部位を指定する。
②《支配》の呪文を使用し、ランダムな対象を操って行動させる。
③夜鬼を1d4体召喚し、戦わせる(一体につき1MPを消費)。この夜鬼は村長の命令により尾による打撃(30% 1d6+db)による攻撃を行い、村長の戦闘離脱後も攻撃を続ける。夜鬼のステータスは以下。

アダムスの召喚した夜鬼
STR11 CON10 POW4 DEX12
SIZ17 INT3 HP14 MP4 DB+1d4
武器:
尾による打撃30% 1d6+db

 村長は不老不死であるため、耐久力1が以下になることはない(気絶はする)。しかし、頭をつぶす、言葉を発せないよう舌を切り取るなどの方法で無力化することは十分に可能であるほか、猿轡を噛ませて拘束したうえで日本軍に引き渡すなどの方法もあるだろう。


29.エンディング描写
 各PCの個別エンディングはHOに基づいてそれぞれ行うこと。描写の基準としては成功報酬の項目を参考にするとよい。
 以下に上げるのは、全員のエンディングが終わったのちに読み上げられることを想定した描写である。
――かくして、地図にない村、犬鳴村における一大事件は幕を閉じた。
 いち軍人が政府の方針に逆らい、国内において独断で軍事行動を起こしたという事態は、政府内で波紋を呼ぶことになる。だが、首謀者が新補職(天皇が任命する役職)でもある中将であり、軍部の擁護もあったことから、この出来事は「犬鳴村某重大事件」として極秘裏に処分される……はずであった。
 しかし、同年に中国東北部……満州の地で発生した関東軍による謀略―満州某重大事件―により、犬鳴村の一件はなし崩し的にうやむやになってしまう。やがて、事件関係者に対する聞き取り調査が足早に行われ、そのまま事件の幕引きが図られることになった。
関係者の発言は支離滅裂なものばかりであり、相互矛盾も多く指摘された。しかしながら、幕引きを急ぐ官僚たちはこれらを検証することもなく、そのまま一編の報告書としてまとめることにしたのであった。

『犬鳴村某重大事件録』
犬鳴村某重大事件録.png

 後世の歴史家を悩ませるこの事件の真相を知るものは、探索者たちだけである。


30.その他のパターン
○ダム作戦―Operation “DAMU”―
 場合によっては、最初からダム作戦を決行しようと検討するかもしれない。事前に指示を出しておけば、工兵の爆破作業により川の決壊に必要なダメージ量が50になる。村人たちの生命に気を払うのであれば、〈アイデア〉ロールによって村内のほとんどの建物が木造である(水に浮く)ことに気づかせてもいいだろう。この発想に基づいて事前に住民に指示を出していれば、基本的にダム作戦により住民が死亡することはない。
 この場合、教会が完全に水没したタイミングでイブ=ツトゥルが召喚され、その姿が水面上に露わになる(教会に居る僧兵たちはイブ=ツトゥルに触れたのちもれなく死亡、村長は〈水泳〉ロールを使用して逃げ出す)。
 この場合、探索者たちは屋根を渡り歩いてできるだけ多くの住民を巻き込んで退散の呪文を唱えるか、〈水泳〉ロールを繰り返しながら教会へと戻り、像を使って退散の呪文を行うかといった選択を迫られることになるだろう。屋根にいる村人の数は1d10人といった形で決めてもいいし、人がたくさんいる屋根に乗りたいなどと宣言があれば〈幸運〉ロールを要求してもいい。KPはPLの提案に応じて盛り上がる処理と妨害をすること。
 犬鳴村外周にいる日本兵はイブ=ツトゥルの懐から現れる夜鬼と「ザ・ブラック」への対処に追われ有効な援護は行えないが、砲兵は健在であるためイブ=ツトゥルの装甲と再生能力を差し引いたダメージが通る。減少した耐久力に比例して退散の呪文に要するコストを減らすこと。

○夕方作戦―Operation “NIGHTFALL”―

 場合によっては、探索者たちは砲兵の配備やライフル兵の配置が完全に終わる前から攻撃を仕掛けようとするかもしれない。この場合、60人ほどのライフル兵がまだ明るいうちに崖を下ってくることになるが、察知した教団側が召喚した複数体の夜鬼の妨害を受けることになり、無事地上に降り立てる人員は10人にまで減少する。
 この場合、村長と僧兵たちは教会に陣取り、像が溜め込んだほぼ無尽蔵のMPをフル活用して徹底的に抗戦を続ける。正面扉は閉じられ、以降は内側から開けられない限り外壁と同じ扱いになる(内側から魔術障壁を創造したということにしてよい)。
 こうした状況の場合、搬入した爆薬により教会の壁面を一部爆破して突破口を開き、不意を突いて攻撃を仕掛けるという作戦などが考えられる。しかし、一度の爆発で壁面を崩せるという保証はないし、準備している間は五月雨式に襲い掛かる夜鬼に対処しなければならないだろう。場合によっては、どこかに籠城して砲兵の展開を待つという選択肢もありうる。
 とここまで書いたものの、神格が出てこないと正直盛り上がりに欠けるので、KPの判断で下記の「門作戦」をベースに展開を変更してよい。

○門作戦―Operation “GATE”―
 犬鳴村倉庫の《門》を利用できるようになれば、探索者はこれを利用して周囲に展開するライフル兵を呼び込もうとするかもしれない。しかし、戦闘を間近に控えた緊張状態にあるうえ神話的事象に耐性のない日本兵は、門による移動を目撃する過程で一時的に取り乱し、《門》に発砲を加えて破壊してしまう。何人の日本兵が《門》を渡れるかは、1d6で決めてもいいし、POW*5ロールに何連続で成功するかといった形で決めてもいい。
 銃声が聞こえると、「聖母の兄弟団」は一気に儀式を行う態勢に入る。バグ=シャースも召喚されるが、光を嫌うバグ=シャースは召喚者を殺した後で森の中に逃げ込み、展開する日本兵たちに襲い掛かる。また、夜鬼の大群が《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文によりドリームランドとつながった門から溢れ出してくることだろう。
 慌てて教会に向かう探索者たちがバグ=シャースの姿を目撃できたかは、〈幸運〉や〈目星〉によって決定される。バグ=シャースの姿を目撃しなかったとしても、犬鳴村の空を悪魔が覆い、日本兵たちとの交戦が行われている、まさしく地獄絵図のような光景を目撃した探索者には、d10級のSANチェックが待っている。また、教会への道中ではゾンビ化した僧兵と夜鬼を倒さないといけなくなるかもしれない。
 以降の展開は、変則的ながらシナリオで想定されているルートと同じものになるだろう。KPは状況に合わせ展開を修正して対応すること。

○探索者大戦争―Investigators’ Great War―
 PC2と工藤が村の危険性を無視して村長との間で目的の交渉を取りまとめた場合、「狂信者」の排除を掲げるPC1とは決定的に対立することになる。工藤が〈アイデア〉に成功していなければ当てもなく交渉を行うことになるが、地雷を踏まないように会話をしていれば、PC2も〈アイデア〉によって村長が信仰の維持を求めていることに気が付くだろう。この点さえ確約されれば、〈説得〉あるいは〈値切り〉に成功することで村長は自治権さえも放棄する。
 このときPC1が自分の使命達成を諦めるのであれば問題はないが、そうでない場合PC2とPC1は使命をかけて命がけの争いをすることになるだろう。この場合、村長の手引きによってPC2だけに犬鳴村脱出の計らいをしてくれる(工藤は事実上の人質兼調整役として村に残る)。しかし、シナリオ中に脱出を試みても周囲を包囲する日本兵に攻撃され、引き返さざるを得なくなるだろう。
 残りのPCも、村からの脱出手段を得ていない場合には生き残るための算段をしなければならない。村側と日本軍側のどちらかにつくというのも手だし、戦闘中どこかに隠れるという選択肢も考えられるだろう。〈隠れる〉ロールに成功していれば、少なくとも誰かに見つけられるということはないが、ダム作戦発動時にどうなるかはわからない。
 探索者と村長が手を組めば、少なくとも日本軍の一個中隊と張り合えるだけの戦力となりうるだろう。KPは最大限シチュエーションを盛り上げつつ、一方的な展開にならないよう調整しながら探索者大戦争を演出すること。村内には教団に反発する塔馬想一郎一派と、身に染みた恐怖とすり減った精神から教団になびく一派が存在しているため、彼らを演出に使用することもできる。


31.成功報酬
○共通正気度回復報酬
犬鳴村のカルト支配を打ち崩した…1d6点
バグ=シャースを撃退した…1d8点
イブ=ツトゥルを退散させた…1d20点
イブ=ツトゥルの召喚を阻止した…1d10点
村長を無力化した…1d20点
村長を取り逃がした…-1d6点
○神話技能報酬
イブ=ツトゥルの姿を目撃した…5点
バグ=シャースの姿を目撃した…3点
夜鬼の姿を目撃した…1点
(PC4以外)呪文を使用した…1点

なお、各ハンドアウトの個別報酬については採用の可否をKPに一任する。以下はポイント制とした際の評価基準の例である。
○HO1
犬鳴村の狂信者を滅ぼした…+1
犬鳴村の住民に軍が危害を加えなかった…+1
情報の流出を防いだ…+1
犬鳴村に関する物証が流出した…‐1
○HO2
犬鳴村の交渉を最後まで取りまとめられた…+2
犬鳴村の情報の流出を防いだ…+1
犬鳴村に関する物証が流出した…‐1
○HO3
金田一に関する物品の入手に失敗した…‐1
金田一の形見を持って帰った…+1or生還させた…+2
犬鳴村に関する伝聞情報を公開した…+1 or物証を公開した…+2
○HO4
呪文を入手した…+1
呪文の流出を防いだ…+1
呪文が流出した…‐1
マジックアイテムを手に入れた…+1
○共通
神格を独力で退散させた…+2

【更新情報】
Ver1.1.1…犬鳴村マップを修正
Ver1.2.1…1.5.4人以外でのプレイについてを追加、1.はじめに、4.NPC紹介、8.導入~犬鳴村へようこそ~、9.教会にて、10.自由探索の開始、11.犬鳴村の「いぶ教」進行について、12.「聖母の兄弟団」とその犬鳴村支配に関する諸情報、13.犬鳴村の一般住人に関して、14.陸軍部隊と連絡を取る15.犬鳴村教会、16.その他犬鳴村各所、17.コウモリの襲撃、18.犬鳴村収容所、19.工藤新が持っている情報、20.金田一が持っている情報、22.教団による儀式の準備、24. 第1大隊混成中隊による支援、25. 大いなるものの招致、30. その他のパターンを修正しました。
Ver1.2.2…20.金田一が持っている情報内にある《ナイハーゴの葬送歌》のコストと呪文内容の記入漏れを修正しました。
Ver1.2.3…HO1、HO2の使命を一部修正。7.本シナリオを回すにあたって、24.第1大隊混成中隊による支援、30.その他のパターンを若干加筆。23.塔馬想一郎との奇妙ではない共闘に農民のNPCデータを追加しました。
Ver1.3.0…二回目のテストプレイとフォロワーさんからの質問、回された方からの情報を基に全体的なブラッシュアップを行いました。




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