一般シナリオ版『犬鳴村某重大事件録』Ver1.4.0

 このシナリオは同じタイトルの秘密持ちシナリオ『犬鳴村某重大事件録』を一般シナリオ用に改変、修正したものです。同シナリオの黒幕含む重大なネタバレが多く含まれるため、もしプレイする可能性がある場合は閲覧をご遠慮ください。シナリオは秘密持ち版と比べてより複雑に、難しくなっており、場合によっては秘密持ちシナリオを経験したPLが遊んでも楽しめるかもしれません。
 こちらはさばかんさんに作っていただいたリプレイ動画となります。旧バージョンの秘密持ちシナリオによるセッションですが大筋は変わりませんし、何よりさばかんさんのキーパリングは実際に回すうえでの参考になるかと思います。

 シナリオについて質問などがある人はコメント欄やツイッターのDM、ないしは質問箱のほうからどうぞ。ワード版のシナリオは以下からダウンロードしてください。
【配布用】一般シナリオ版『犬鳴村某重大事件録』Ver1.4.0.docx
 では、以下シナリオです。



 好評発売中!再来週くらいに『アカシック13』とも比較した、簡単な紹介記事を書こうかと思います。

一般シナリオ版『犬鳴村某重大事件録』Ver1.4.0


1.はじめに
 このシナリオはクトゥルフ神話TRPGのシナリオです。時代は昭和三年(1928年)、時期は3月になります。九州の山中にある犬鳴村と呼ばれる村を舞台とするクローズドシナリオで、予想セッション時間は探索者作成の時間を含まず7~9時間前後を想定しています。
 主な使用サプリは『マレウス・モンストロルム』、『クトゥルフと帝国』、『キーパーコンパニオン』ですが、最低限基本ルールブックさえあればプレイが可能な作りになっています。導入以降は自由度の高いシナリオですので、大変でしょうがKPはしっかり読み込みをしておきましょう。一応回しやすいよう、全体的にKPの対応力を向上させるような作りを意識しています。
 このシナリオのクライマックスは最大で神格が二柱召喚され、10d6級火力が登場するド派手な戦闘となり、戦略性も求められます。探索者たちは現地に存在するNPCと協力し、あるいは対立しながら最終局面を戦うことになるでしょう。展開やKPの采配によってかかる時間は前後しますが、一時間くらいはかかることを想定しておくべきです。結末は探索者の行動に応じ、様々なものとなるでしょう。
※なお、このシナリオにおける一切の情報、地名、人名、歴史はだいたいフィクションです。犬鳴村ネタや旧陸軍軍人知識、三大推理漫画を知っていても有利に働いたり不利に働いたりすることはありません。


2.シナリオ概要
 H県(ひゅくおかけん)内陸部の奥地にある、崖に囲まれた村「犬鳴村」。400年前にイエズス会の宣教師に扮して来日した不老不死の魔術師「アダムズ」率いるイブ=ツトゥル教団「聖母の兄弟団」の支配するその村へ、様々な理由から探索者たちは訪れることになる。
 探索者たちは最初客人としてもてなされるが、その村への入り口は《門》の呪文によって作られた幻想であり、この村に閉じ込められたことに気が付く。探索者たちはこの村を脱出するため、村内における探索を続けることだろう。
 そんな中、犬鳴村を警備する夜鬼の襲撃によって、犬鳴村へと日本兵が落下してくる。1928年2月に実施されるアメリカのインスマス襲撃計画は軍部を刺激し、一部軍人たちの独断により犬鳴村襲撃計画が始動しつつあったのだ。
 アダムズは呪文によってその計画を聞きだすと、自身の信奉する「イブ=ツトゥル」と“天使”「バグ=シャース」の力を借りることで帝国に対抗しようとする。教団の秘密を暴き、日本兵と協力して教団を倒すか、住民ごと村を水底に沈める決断をするか、はたまた敵わないと判断して両者の間を取り持ち、争いの回避を試みるか。このシナリオにおける探索者達の運命は様々なものになるだろう。彼らは無事この事件を生き残り、「犬鳴村某重大事件」の生き証人となれるだろうか?


3.シナリオ背景
 1540年、イギリスの青年ウォーレン・アダムズはヘンリ8世の宗教改革と腐敗に満ちた教会組織への反発から、同志とともにキリスト教の古典に立ち返る日々を送っていた。志を同じくするリンカン大司教の庇護のもと晴耕雨読の日々を続ける彼らは、やがて一冊の本―『CTHAAT AQUADINGEN』―に出会うことになる。彼らはこの魔導書をカルト的に解釈し、「キリスト教イブ派」を名乗るイブ=ツトゥルのカルト「YIBB’S BROTHERS」を成立させたのだ。
 やがて「YIBB’S BROTHERS」は本拠であるリンカン大聖堂において「イブ=ツトゥル」と「バグ=シャース」の二神を召還したが、荒れ狂うバグ=シャースとイブ=ツトゥルによって教団は壮大な自滅を遂げた。しかし、アダムズだけはイブ=ツトゥルに不老不死の変化をもたらされ、致命傷を負いながらも生きながらえることになる。彼はイブ=ツトゥルに見初められたものとして布教を続けたが、様々な理由から本国での布教活動は捗らなかった。そんな中、イエズス会の主導する宣教活動の情報が、アダムズの耳に入ることになる。

 イエズス会の宣教活動は世界中で大量のキリスト教徒を生んだ。宣教の波は日本にも押し寄せ、ザビエルを皮切りに多くの宣教師が来日し、キリスト教徒を増やすことになる。アダムズはその一人として、日本へと上陸することに成功したのである。しかし、江戸時代に入るとほどなくキリスト教徒が迫害されるようになり、アダムズも追われる身となった。
 禁教令から逃れたキリスト教徒は世間から隠れ、いつしか「隠れキリシタン」と呼ばれるようになった。そんな「隠れキリシタン」達によって形成された集落の一つが、犬鳴村である。しかし、強い意志で信仰を保ち続けた「隠れキリシタン」達であるが、長きに渡り導き手が居ないことで、時代と共に土着信仰と結びつくなど変質してしまうことも多かった。犬鳴村も例に漏れず、潜り込んだアダムズの主導により、段々とイブ=ツトゥルのカルトへと変質させられていくことになる。
 彼の広めた教えは具体的な教義もなく、創世記における「Eve」を全ての生命の母としてただ崇めるだけの特異なものである。しかし、《溺者の夢》(神格との接触/イブ=ツトゥル)によってもたらされる霊験あらたかな体験は、ケルン大聖堂のパイプオルガンに勝るとも劣らない求心力を持っていた。純真な村人たちの殆どは疑うことなくカルトに魅入られ、《復活》によって蘇った事故死・刑死した村人たちを幹部とする「聖母の兄弟団」の支配を受け入れることになる。やがて犬鳴村ではこの信仰を、「いぶ教」と呼ぶようになった。

 潜在的には危険なカルトであるが、アダムズ自身の目的はあくまで信仰の維持にあり、帝国に仇なす意図は毛頭ない。過去の経験に学んだアダムズは安全な儀式方法を採用し、多数の(カルトの真実に触れていない)一般信徒と少数の妄信的なカルティストからなる教団による統治システムを犬鳴村に作り上げた。「いぶ様」の力によって蘇ったと信じ込む幹部達は妄信的なイブ=ツトゥル信者となり、決して裏切ることのないアダムズの手足として動き、以来数百年間犬鳴村ではアダムズによる統治のもと、安定的に信仰が維持され続けることになる。
 犬鳴村が発見された幕末期には最初の危機が訪れたが、「キリスト教徒」の保護を求める欧米列強に押し通される形で自治の継続を認められることになった。こうした状況は日本が「帝国」と呼ばれる頃になっても続き、犬鳴村は帝国各地に設けられた特別自治区の一つとして、帝国の支配が及ばない地域となったのである。明治政府による近代化・中央集権化が進む中、特別自治区としてその存在と歴史を世間から隠されてきた犬鳴村は、いつしか権力からも忘れ去られた村となっていた。
 しかし、遠くアメリカで行われた狂信者に対する殲滅作戦―インスマス襲撃―の情報が日本に入ると、状況は変化する。陸軍の一部強硬派が犬鳴村を危険視し、密かに村への襲撃計画を実行に移そうとしていたのだ。“不平等条約”という負の遺産を清算せんと鼻息荒い軍部の陰謀が渦巻く中、探索者たちは犬鳴村へと囚われることになるのである。


4.NPC紹介
 そのほか、シナリオ内に神話生物のデータと一部NPCのデータを載せている。基本的にこのシナリオにおけるNPCの戦闘技能は基本戦闘ルールを前提にしたものであるため、〈回避〉と行動の両方が可能などのハウスルールを採用している場合には命中率を適当に上方修正してよい。
ウォーレン・アダムズ (Warren Adams) 犬鳴村村長兼「いぶ教」司祭、あるいは赤毛の魔術師 400+
「イエス・キリストが神など……笑止千万。
父親も知れんアバズレの子を崇め奉る連中の気が知れんね。」
STR10 CON13 POW28 DEX10
APP13 SIZ15 INT17 EDU23 
HP13 MP28 DB+1d4 正気度0 
永久的狂気:「YIBB-TSTLL」信仰の維持
【戦闘技能】
魔力のこめられた杖90%、ダメージ1d4+db、攻撃回数1、耐久力10
魔力のこめられた儀式用の短刀25%、ダメージ1d4+1+db、耐久力8、装甲貫通
【その他の技能】
母国語:近世イギリス語80%、ほかの言語:日本語60%、ほかの言語:ラテン語60%、ほかの言語:近世ドイツ語30%、ほかの言語:近世フランス語30%、ほかの言語:近世スペイン語30%、心理学95%、精神分析80%、信用76%、目星80%、隠れる50%、聞き耳50%、歴史67%、クトゥルフ神話45%、キリスト教知識71%、犬鳴村を統治する96%
【所持品】
魔力のこめられた司教杖…80ポイントのMPが蓄えられた杖。杖に触れている人物が魔術を使用した場合、杖のMPが使用される。杖にMPが残っている場合、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。イブ=ツトゥルの像を用いればMPの補給が可能。
魔力のこめられた儀式用の短刀…イギリスから持ってきた聖遺物。5ポイント分のPOWと10ポイント分のMPが付与されている。普段は教会の倉庫にしまわれており、呪術を行う際稀に使用される。魔術によらない装甲を無視して攻撃することが可能であり、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。
【所持呪文】
《萎縮》(基本ルルブP252)、《犠牲者を魅了する》(同P255)、《記憶を曇らせる》(同P255)、《支配》(同P259) 、《消滅》(同P260)、《手足の萎縮》(同P272)、《ナーク=ティトの障壁》(同P274) 、《破壊》(同P277)、《被害をそらす》(同P278)、《復活》(同P279)、《古き印》(同P280) 、《夜鬼の召喚・従属》(同P283)、《ナイフに魔力を付与する》(同P285) 、《杖に魔力を付与する》(オリジナル) 、《門の観察》(基本ルルブP289)、《門の創造》(同P289)、《門の発見》(同P290)、ラテン語版『クタート・アクアディンゲン』に収録されているすべての呪文 (同P106)

 遠くイギリスからやってきて、この犬鳴村においてイブ=ツトゥル教団「聖母の兄弟団」を成立させた人物である。かつては故郷イギリスの聖職者であったが、『クタート・アクアデンンゲン』との出会いをきっかけにイブ=ツトゥル信者となり、本国で同志と共に「聖母の兄弟団」を結成した。本国で行った招来の儀式に際してかの神に直接触れ(1クリを出し)たことで不老不死となるが、他のカルティストたちはもれなく狂死するか廃人になってしまい、やがて彼は本国での布教活動をあきらめて新天地の日本にやって来たのだ。
 本国でカルトの壮大な自滅を経験し、「神に見初められた」と思い込んだ彼の目的は、あくまでイブ=ツトゥル信仰の維持に限定されている。犬鳴村のカルトにおける重要な儀式「祈りの日」のため常に13人以上の幹部層を維持することには気を配るが、カルトのコントロールを失うような信仰の拡大には乗り気でない。
 カルトの幹部に僧兵の格好をさせているのは、アダムズの素性と同時に《復活》によって生き返った人間たちの素性を隠すためである。異人であることを明らかに示す赤髪と緑色の目は僧兵服、そして老人を装った腰曲がりの姿勢によって隠しているが、わずかに見える顔の下半分からは色白の肌と顔面に走る大きな裂傷跡を確認できるだろう。

僧兵たち
「愚か者、ここは聖域だ!」
#1 STR7 CON8 POW8 DEX12 APP7 SIZ15 INT15 EDU12 HP12 MP8 DBなし
#2 STR11 CON13 POW10 DEX12 APP5 SIZ8 INT13 EDU16 HP11 MP10 DBなし
#3 STR9 CON13 POW11 DEX10 APP6 SIZ9 INT14 EDU17 HP11 MP11 DBなし
#4 STR8 CON8 POW8 DEX8 APP5 SIZ10 INT13 EDU15 HP9 MP8 DBなし
#5 STR8 CON9 POW5 DEX6 APP7 SIZ18 INT16 EDU10 HP14 MP5 DB+1d4
#6 STR14 CON10 POW10 DEX8 APP9 SIZ14 INT13 EDU13 HP12 MP10 DB+1d4
永久的狂気:イブ=ツトゥル及びアダムズに対する陶酔
【戦闘技能】
手製の槍50%、ダメージ1d6+db、攻撃回数1、耐久力8
手製の弓40%、ダメージ1d6+1/2db、攻撃回数1、耐久力4
【その他の技能】
目星40%、聞き耳30%、回避30%、また70%の確率でそれぞれの僧兵は30%の〈ほかの言語:ラテン語〉を持っている。
【所持呪文】
《被害をそらす》(同P278)、
 僧兵は全員、犬鳴村におけるカルト「聖母の兄弟団」の幹部である。幹部同士はお互いのことを「兄弟(ブラザー)」と呼び合い、村長のことを「司祭様」と呼称する。シナリオ開始時点で、僧兵は教祖を含めないで17人おり、比率としては男がやや多いものの、女性幹部も3割ほど居る。いずれの僧兵もアダムズの《復活》によって死から蘇っているため、《ナイハーゴの葬送歌》の影響を受ける。多くは《復活》直後か、幾度かの儀式を通じて正気度を全て喪失するため基本的に正気度は0である。しかし、《復活》によって再生した肉体は不死身ではないため、老化などによって再び死ぬし、その後はそのまま埋葬されて再度復活させられることはない。

工藤新(くどうあらた) 陸軍少尉、あるいは空の神兵
「俺の名は工藤新、陸軍少尉さ。」
STR15 CON15 POW14 DEX11(6)
APP12 SIZ9 INT19 EDU18
HP14(7) MP14 DBなし 正気度64 
【戦闘技能】(クトゥルフと帝国の〈武道〉はルールが特殊なので、持っていない場合は〈マーシャルアーツ〉に置き換えてください)
ライフル70%、銃剣70%、拳銃50%、組み付き70%、武道(柔道)60%、回避40%
【その他の技能】
登攀90%、忍び歩き75%、水泳55%、心理学70%、機械修理80%、信用45%、言いくるめ55%、ほかの言語(英語)50%、地質学30%、変装72%
【所持品】
十四年式自動拳銃(32口径オートマチック相当)、信号拳銃(赤、青、黄色の信号弾が二発ずつ)、九四式六号無線機、
38式歩兵銃(ライフル) 2d6+3 耐久値12 故障ナンバー00 装弾数5発 ラウンド1/2、
銃剣による刺突 1d6+db 射程タッチ 耐久値10 
 将校斥候として犬鳴村に対する偵察を行っていたが、夜鬼の襲撃を受けて犬鳴村へと落下してくる。足が折れているためDEXは半分に下がるが、適切な治療を受ければ辛うじて杖をついて歩けるようになる。SIZは9と体は小柄だが、頭脳はピカイチである。

毛利大五郎 陸軍上等兵、クッション材
ステータスは一般の日本兵のものを流用する。
 工藤新は彼がクッションとなったために即死を免れた。シナリオの展開によっては生き返る。隊内ではおっちゃんと呼ばれている。

金田一(かねだはじめ) 狂気に陥ったジャーナリスト
「この村から脱出して見せる……金田の名にかけて!」
STR12 CON14 POW16 DEX13(10)
APP14 SIZ14 INT18 EDU18
HP14 MP16 DBなし 正気度49
【戦闘技能】
拳銃60%、投擲60%、回避46%、ライフル40% 
【その他の技能】
鍵開け31%、写真術99%、図書館90%、言いくるめ60%、説得60%、母国語99%、心理学80%、歴史42%
 1、2か月ほど前にこの村を訪れた探索者パーティ唯一の生き残りである。職業は反政府ジャーナリストであり、政府の陰謀を暴きに犬鳴村へやってきたが、「祈りの日」に脱出する途上不定の狂気を発症し、いぶ教狂信者となっている。彼の撮影した写真は探索者にとって重大な手掛かりとなるだろう。ちなみに、彼の祖父は小作人の農民である。

塔馬想一郎(とうまそういちろう)35歳 犬鳴村のリーダー
「村人たちの取りまとめ役を務めております塔馬想一郎と申します。
名前は長いですから、名字で呼んでください。」
STR8 CON14 POW17 DEX9
APP16 SIZ11 INT18 EDU13
HP13 MP17 DBなし 正気度85
【戦闘技能】
投擲60%、回避58%、鍬80% 
【その他の技能】
応急手当55%、聞き耳65%、精神分析51%、製作:農具35%、信用80%、説得85%、医学30%、ほかの言語:ラテン語30%
 塔馬想一郎は、一般の村人たちの信望厚いリーダー的存在の男性である。「いぶ様」を模した黒塗りの肌と漆黒のローブは異様だが、物腰は柔らかく温厚な性格をしており、犬鳴村に囚われた人々に対しても気遣った態度をとる。
 彼は村長と同等かそれ以上に信心深い人間であり、「聖母の兄弟団」の支配にはその横暴さもさることながら、「信仰に篤く、品行方正な自身を教団幹部に加えない」という点から嫌っている。探索者たちが現状を打破できると考えれば、彼は探索者たちに協力してくれるだろうが、説得に失敗すれば彼は明確な敵となる。


※オプションNPC
 このNPCを使うと探索者が村に閉じ込められたと認識するタイミングを、KPの手で操作することができます。村長と言い争う描写をした後騒ぎ立てながら村への階段へと向かい、その場で死亡するといった方法が考えられるでしょう。また、三人プレイの場合には技能面で不安になることもあるでしょうから、お助けNPCとして生存させ、同行させるのもいいでしょう。技能面は自由に振ってください。

湖畑小作(こはたしょうさく)
「この人物はフィクションであり、実在の人物、団体とは何の関係もありません」
STR14 CON13 POW14 DEX8
APP13 SIZ14 INT12 EDU16
HP14 MP14 DB+1d4 正気度70 



 実在の人物、団体とは何の関係もない架空の人物。7.YOUは何しに犬鳴村へ?の「思想統制から逃れてきた」と同じ理由で犬鳴村にやって来た。

5.推奨技能
 まあこのシナリオは基本的な技能さえあれば割と何とかなりますので、推奨技能を提示しなくてもバランスの取れたパーティを作ってもらえるなら、大丈夫じゃないかなと思います。変に縛るのも良くないので、準推奨の上から三番目以降は提示しなくてもいいかもしれません。
〇推奨技能
・戦闘技能…行動次第で回避は可能ですが、複数回の戦闘可能性があります。クライマックスには不可避の戦闘がありますが、戦闘役以外も仕事ができます。シナリオ内では銃器も手に入りますが、銃器技能しかないと困ることもあるでしょう。
・目星…探しどころはわりかしあります。
・精神分析…このシナリオは発狂してる人もする人も多いです。
・オカルト…普段以上に役立つ場面が結構あります。
・機械修理…役立つ場面が結構あります。このシナリオでは簡易的な鍵開けとしても使えます。
・隠密系技能各種…役立つ場面が結構あります。
・言いくるめ、値切り…役立つ場面が結構あります。
・高い正気度…DEAD or MAD

〇準推奨技能
・ほかの言語(ラテン語)…魔導書の類を自力で読むことができます。
・ほかの言語(英語)…英語の文章や単語を自力で読むことができます。
・回避…当たると死ぬ攻撃があります。
・化学…普段よりは使える場面があります。
・変装…多少振っておきたい場面があるでしょう。
・心理学…使いたい場面はあるでしょう。
・写真術…普段よりは使える場面があります。
・医療系技能…持っておいて損はないでしょう。
・図書館…普段より使える場面はないです。
・歴史…普段よりは使える場面があります。


6.本シナリオにおける特殊ルール・設定変更案
 そんなに大きな影響はないので、気に入らなければ採用しなくてもいいです。
〇基本技能の変更
 徴兵により訓練を受けたということで、男性探索者のSIZ、CON、STRの合計が35以上の探索者は希望入隊していた場合、40以上の探索者は特別な理由がなければライフル技能の初期値を40%に変更し、これを職業技能として扱います。徴兵に取られなかった探索者は、この処理の代替として職業技能を一つ追加し、10ポイント追加の職業技能ポイントを割り振ってください。

○独自狂気の採用
 KPは狂気表によって示される狂気の内容が適当なものではないと判断した場合には、以下に示すシナリオ独自の狂気や、シナリオに準ずる自作の狂気を採用しても構いません。
普通の日本人…忠君報国(天皇に忠誠を誓い国に報いるの意)の念にかられる。
バーサーカー…視界内の敵性対象を皆殺しにしようとする。
犬鳴村への憎悪…自分の命を危険にさらした犬鳴村に対する憎悪で心中が満たされる。

○汎用NPCの戦闘処理の簡略化
 このシナリオにおいては汎用ステータスを用いるNPCが複数存在しますが、KPは戦闘時に効率化が図れる場面では、同系統のNPCグループを一つのNPCとして処理して構いません。例えば、三匹の夜鬼が攻撃を行う場合、「一回で三つの対象を攻撃できる一匹のNPC」としてみなし、PLの〈回避〉処理を一斉に行わせるなどです。

○シナリオ開始日時の変更
 以前のVer.ではシナリオ二日目の日時を旧暦の1月1日に合わせ、探索者が訪れた次の日の夜がちょうど「祈りの日」の行われるタイミングであるという設定でした。しかし、作者が「ご都合主義すぎるかな」と思ったため、今回の更新では後ろの方に時期をずらしています。しかし、この新暦と旧暦のギミックはわりかしPL受けがいいので、取り入れたいと思った場合はシナリオ開始日時を1月22日に設定し、元探索者たちが犬鳴村を訪れたタイミングを適当にずらしてください。

7.YOUは何しに犬鳴村へ?
 犬鳴村は地図にも載っていない秘境であるため、探索者がこの場所を訪れるのには何かしらの理由があるだろう。以下に上げるのはその例である。最初の探索パートをパーティとして過ごせるような理由であれば、なんでもよい。
うわさを聞き付けた
 H県山中には、誰にも知られていない集落があるという噂が周辺村落の山菜取りや猟師の間でなされている。しかし、その周辺では人の叫び声が聞こえたり、何人か行方不明者を出していることもあり、誰もそのうわさを確認するものはいないとのことだ。探索者はその持ち前の豪胆さを持って、その真実を確かめに行くのだろう。

行方不明者の捜索に
 H県では長年幼い子供を中心として行方不明者が定期的に発生していたが、探索者が彼らの共通点や目撃証言を洗い出したところ、九州地方のとある山中へ赴いていたことが多いということがわかった。どうもその山中では人食い人種の集落があるなどの噂があり、肝試し感覚で訪れる人物もいるらしい。探索者は行方不明者の痕跡を探すため、その場所へと赴くことになる。

オカルト的興味から
 九州の山中にある古びたトンネルの周辺は知る人ぞ知るオカルトスポットとして有名であり、その先には気の狂った狂人たちが住まう村があり、その村を訪れたが最後、彼らに襲われて殺されてしまうとのことだ。オカルト好きな探索者は、この噂の真実を確かめるために九州の山中に足を運びこむことになる。

民俗学的見地から
 探索者はH県におけるフィールドワークの最中に、現地住民から九州山中に集落があるという噂を聞いた。どうやらその噂を精査すると、未発見の集落である可能性が高いことがわかった。このことは、民俗学者にとって調べるに値するに魅力的な話だろう。

歴史学的見地から
 あなたは江戸初期に起こったキリシタン迫害について研究を進めるうち、隠れキリシタンの一団が筑前国の山中に潜伏したという古い古文書を発見した。もしかすると、この場所には未発見の隠れキリシタン集落があったのかもしれない。あなたは歴史学者として、この噂の真偽を確かめに行くことになる。

思想統制から逃れてきた
 あなたはキリスト教徒、あるいはキリスト教系新興宗教の信奉者であるが、官憲によって不敬罪の容疑をかけられ、逃亡している最中である。あなたは逃亡している最中、同志からH県の山中には政府の圧政から逃れ、信徒同士で自治を行うキリスト教徒の村があるという話を聞いたことを思い出す。あなたは潜伏生活を続けるよりはと、その村があるとされるところへ向かうことに決めた。

迷い込んだ
 H県山中の一角は地元住民の間で「神隠しに遭う」「熊が出る」「死んだ人間の怨霊が出る」と不吉な噂であふれているが、それ故人の手によって荒らされていないということでもある。山で生業を営む探索者はその点に着目して犬鳴村周辺へと迷い込み、好奇心から犬鳴村に入り込むということは十分あり得るだろう。


8.導入前半~犬鳴村へようこそ~
8-1.犬鳴トンネルへ向けて
 時代は昭和三年(1928年)3月。探索者たちは一日に一本しか運行していない犬鳴村へと向かうバスに、同じタイミングで乗り合わせることになる。探索者たちだけを残し最後の客が下りてから十数分間、犬鳴村付近の停留所に到着するまで時間があるため、自己紹介を行ってもいいだろう(以降にも機会はある)。やがて探索者たちは明らかに人気がなく、付近に何もない山中の停留所で降りることなる。
 そこから30分ほど獣道を歩いていくことで、犬鳴村に続く古びたトンネルまでたどり着ける。トンネル付近で〈目星〉に成功した探索者は、トンネル横に草木と汚れで隠れるようにして立っている◆看板を見つけることができる。
◆看板
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 手書きで書かれた看板はそれなりに古く、少なくとも建てられてから数十年が経過していることがわかる。

8-2.犬鳴トンネルの先に
 トンネルを抜けた先は開けた野原になっており、顔と体のほとんどを白い布で覆い、棒の先に刃を付けた手製の薙刀を手に持つ僧兵の格好をした人物が(以下、単に僧兵)仁王立ちしていることに気が付くだろう。探索者たちの姿を認めると、僧兵は村に入る意思を確認した後、全員に50%の〈目星〉によるボディチェックを行う。成功した対象者が銃火器などの武器類を持っていた場合、また抜き身でライフルなどを持っていた場合はそれらを無条件で没収される(〈隠す〉技能に成功していればいずれも没収を免れる)。これらの武器については、村を出る際に返すと告げられる。
 ボディチェックが終わると、僧兵は「村長のもとへと案内するからついてくるように」と告げる。しばらく歩いたのち、僧兵はここで少し待てと探索者に言い、一人崖の淵まで歩いていくと、歪な星のような文様の刻まれた岩の前で立ちどまる。そして手に持った薙刀を地面に突き立てると、以下の文言(門を活性化させるための呪文である)を叫ぶ。

「ああ、我らが母よ!全知全能の神よ!
我らが村に新しき兄弟が参りましたことを、ご報告申し上げます!」

 客人が来たときはこうする決まりなのだと探索者たちに告げると再びついてくるよう促し、村へ続く長大な階段を下っていく。崖の淵までやってくれば、眼前には巨大なクレーターのような盆地が広がることになる。

【犬鳴村全景描写】
 そこには小規模な盆地が開けており、探索者たちの歩く先には下へと続く石造りの階段が見える。盆地の周りは急斜面になっており、高低差を考えてもまともな装備なしに下ることは自殺行為であることがわかるだろう。盆地には集落が形成されており、その中心には西洋風の建物が建っているのが見える。そこを中心として十字架のように四方へ伸びる通り沿いにはあばら家が林立しているほか、村の一角には農地もあることがわかるだろう。

このタイミングで◆犬鳴村のマップを公開すること。各数字の建物は以下の表と対応している。
①犬鳴村教会
②犬鳴村診療所
③犬鳴村墓所
④田畑
⑤犬鳴村倉庫
⑥犬鳴村収容所
⑦塔馬想一郎の家
⑧金田一の家
⑨復活の間
⑩元探索者たちの拠点

 また、階段を下る際探索者たちはMPと正気度を1点減少させた後POW*3ロールを行う。POW*3ロールに成功した探索者は階段を下っていく際、マントを羽織った黒い存在と不快な視線を向ける黒い球体がぼんやりと脳裏に浮かぶ。
◆犬鳴村のマップ
犬鳴村マップb.png

8-3.「教会」へ
 地上に到達すると、先導する僧兵は村の中心にある西洋風の建物に向けて歩いていく。木造のあばら家が建ち並ぶ通りに見える村人は老人と子供ばかりで、時折家の戸の奥に若い女性の姿を認めることができるだろう。数人の子供がはしゃぎながら探索者たちの元に駆け寄ってくるが、先導する僧兵が忌々しげに子供を蹴り飛ばすと、祖父と思しき村人の元へと泣きながら戻っていく。
 村人たちへの〈心理学〉に成功すると、彼らは探索者たちの来報を少し喜んでいるようだが、同時にどこか憐みを覚えているようだということがわかる。村人たちの服装はひと昔前(明治時代)と比べても明らかに古く、〈人類学〉に成功すると服装のレベルが江戸時代初期のものであることがわかる。


9.導入後半~「教会」にて~
9-1.「教会」の概要
 この建物の詳しい内容に関しては15.犬鳴村教会を参照すること。上から見えた西洋風の建物は、木造の平屋ばかりの村の中において珍しい、頑丈な石造りの大きな建物である。教会の前には古い井戸があり、村人が水を汲んでいるのが目に入る。
 近づけば屋根の上にある折れた十字架の存在や、壁面にある剥がれた十字架跡の存在から、整備の行き届いていない教会らしいことがわかる。そのほか、教会の扉には◆かすれた紋章が描かれている。教会にはいるタイミングで、◆教会のマップを開示する。

【教会内の描写】
 内装は教会にしてはこざっぱりとしており、ステンドグラスやオルガンといった教会に特徴的なものは存在しておらず、そもそも窓すらない。床一面にはつぎはぎの絨毯が敷き詰められており、教会の奥にある説教壇の裏には全長2mほどの物体に覆いがなされているのが確認できる。

◆かすれた紋章
567px-Ihs-logo.svg.png
 〈歴史〉か〈オカルト〉に成功した探索者は、これが近世日本に宣教師を送り込んでいたイエズス会の紋章であり、この建物がイエズス会員によって建てられたものであることがわかる。

◆教会のマップ
犬鳴村マップ2.png

9-2.「村長」との面会
 中には先導してきた僧兵と同じ格好の人間が数人おり、机を挟んでなにやら話し込んでいる。探索者たちが教会内に入ると彼らは一斉に顔を向け、そのうち特に古びた僧兵服に身を包む僧兵(「ウォーレン・アダムズ」である)が村長であると名乗り、応対を始める。探索者たちが銃器を押収されていた場合、入り口から向かって左側にある部屋(教会倉庫)にしまわれたことを確認できる。
 村長は年寄りらしく、腰を深く曲げてぜんまいをかたどった金属製の杖をついているが、その体躯から若かりし頃はかなりの長身であったことがうかがえる。垣間見えるその肌は不健康に青白く、身長差から目線の合わないその人物はかつて兵士か武士だったのか、目深に着込んだ僧兵服からは顔に刻まれた痛々しい古傷がわずかに見える。この時〈オカルト〉か〈歴史〉に成功すれば、この杖がカトリック教会の司教が持つ司教杖であることがわかる(詳しくは15.犬鳴村教会を参照)。
 彼は村への数日間の滞在を許可する旨を告げ、村人たちに言えば泊めてくれるだろうから宿泊先を探すといいだろうと言う(バスは1日に1往復分しかないため、探索者たちはほぼ確実に泊まることになります)。探索者たちが村長に何かを尋ねようとするならば、今は村の統治に関する話し合いの最中だから、夕方以降に自分の部屋を尋ねてくれと話す。
 教会を出ると、以降は自由探索パートに入る。


10.シナリオのタイムスケジュール
 このシナリオはおおむね、①導入~②犬鳴村侵入・探索~③階段の消失・脱出手段の模索~④儀式阻
止・クライマックスへ~⑤エンディングという形で展開していく。これらを以下のタイムスケジュールの中で進行していくのが基本的な流れとなる。
【初日】
・午後4時ごろ…探索者たちが犬鳴村到着
・午後6時ごろ…犬鳴村田畑から村人が帰ってくる
・午後9時ごろ…警戒中の夜鬼が偵察中の日本兵の将校斥候部隊を襲撃、毛利大五郎と工藤新が犬鳴村に落下する
・午後9時~10時ごろ…僧兵・村長たちが落下イベントの処理を行う。
・午後10時ごろ…村長が犬鳴村教会に帰る
【二日目】
・午前7時ごろ…村長による“幕府”への宣戦布告
・午後6時くらい…儀式の準備完了、日本軍の四一式山砲の射撃準備完了

 また、以下はシナリオの簡易フローチャートである。
犬鳴村某重大事件録フローチャート.png

11.犬鳴村の「いぶ教」信仰について
 犬鳴村の信仰は江戸時代にウォーレン・アダムズが作ったもので、創世記において「Eve」として扱われる存在への信仰を基本として成り立っている。以下、このカルトを「いぶ教」と称する。
11-1.信仰の概要
 「いぶ教」の内容は簡潔に言えば、「知恵の実を食べて全知全能・不老不死の存在となり、地上に生命を産み落としたEveを「いぶ様」と呼び、全ての生命の母として崇める」というものである。以下は住民に尋ねるなどして知ることのできる情報である。
◆「いぶ教」の概要
 全ての生命の母「いぶ様」は今なおこの世のどこかで生き続け、眠りについていると信じられている。具体的な教義などは存在しないが、村における労働は「いぶ様」が楽園追放に当たって背負われた原罪をそそぐ行為であり、原罪が償われたとき再び全ての死者の復活と共に「いぶ様」が目覚め、信者の前に現れるという共通認識がある。信者たちは教会で日曜礼拝を行い、年初に行われる「祈りの日」には「いぶ様」の姿を垣間見ることができる。

11-2.「いぶ教」の教えについて
 「いぶ教」についてのあらゆる疑問は村長がその都度答えるが、その全ては実在の原初キリスト教・ユダヤ教関係の文言をカルト的に解釈したものであり、相当な説得力を持つ。この事実については話を聞いたうえで〈歴史〉や〈オカルト〉、あるいは〈知識〉1/5ロールに成功することで気が付くことが出来る。
 また、「いぶ教」に関して歴代村長が日本語でしたためた◆犬鳴村聖書が、十数冊村内に出回っている。これは教会にも一冊置かれており、「いぶ教」に興味を示す探索者が居れば僧兵か村長が教会内倉庫から持ってきて貸し出してくれる。
◆犬鳴村聖書
 古めかしいものは非常に下手な日本語で書かれているが、版が新しくなるほどに改善されている(いずれも読み解くことは可能)。複数冊(最低でも3冊)見たうえで〈アイデア〉に成功すれば、うまい下手の差はあれど、どれも書いた人物は同じであることに気が付く。
 〈歴史〉や〈オカルト〉ロールに成功すれば、いずれの文章も恐らくなんらかの原典に乗っ取って書かれたものであるが、「いぶ」はともかく少なくとも「ばぐ」という天使の名前には全く心当たりがないことがわかる。内容は以下の通り。

『神は人を作り、「いぶ」と名付けて自らの仕事を手伝わせた。神は「いぶ」を楽園に置き、あらゆるものを食べていいと命じたが、知恵の木になる果実のみは「取って食べると死ぬであろう」として食べることを禁じた。
 しかし、天使の一人は神の嘘によって奴隷として使われる「いぶ」を哀れに思い、「いぶ」に知恵の木の真実を教えた。

「木の果実を食べてもあなたは死なない。老いることも死ぬこともなくなり、神のように全てを知ることができる。」

 それを聞いた「いぶ」は禁じられた果実を食べると、不老不死の力、そして神に等しい全知全能の知恵を手に入れた。
 神々は怒り、神に反乱した「ばぐ」は天界から、「いぶ」は楽園から追放された。「いぶ」は神の呪いを受け、産みの苦しみを与えられた……。
 こうして「いぶ様」は全ての生命の母となり、この世に生きとし生けるものは「いぶ様」が背負いし原罪を分かち合わなければならない運命を背負った。人は労働の罰、地から食物をとる苦しみによって原罪を背負うことになる。
 「いぶ様」は不老不死であり、地上の生命を生み出した後この世のどこかで眠りについている。我ら「いぶ様」の子らは母の背負いし原罪をそそがねばならない。「原罪」が全て洗われたその日に「いぶ様」は顕現し、目覚めとともに全ての死者は復活する……。』

11-3.「いぶ教」における外部の人間の扱い
 犬鳴村に迷い込んだ人間は、教団側から「いぶ様に選ばれた(あるいは、この村に来ることを運命づけられた)人間」という扱いを受ける。そのため、村の外に出たいと申し出ても「いぶ様のお気持ちに反する」の一点張りであり、逆に「いぶ様の意に背けば天罰が下る」として恫喝する。脱出手段を握っているのは教団のみであり、村としてもむやみに人口を減らしたくないため、基本的に外部の人間の悪あがきは度を越したものでなければ黙認される。たいていは「天罰」によって痛い目を見た後で村での生活を受け入れるが、発狂でもしていなければ改宗するということはない。

11-4.犬鳴村における宗教行為
○「祈りの日」
 幹部達は年に一度旧暦換算で新年最初の日の夜に《溺者の招来(イブ=ツトゥルの招来/退散)》と《溺者の夢(イブ=ツトゥルとの接触)》の儀式を行う。この儀式を通じて幹部達は教会内にイブ=ツトゥルを顕現させ、家にこもる犬鳴村住人は閉じこもった家の中で「いぶ様」の幻影に祈りを捧げることになる。この神話的・霊的体験は「いぶ教」信仰に対する強力な求心力になっている。導入のPOW*3ロールに成功した探索者がこの話を聞けば、自分たちの脳裏に浮かんだ二柱のうち一柱が「いぶ様」なのかもしれないという発想に至る。
 実際に儀式を執り行うのは村長と13人の僧兵だけであり、その他の僧兵は他の村人たちと同様に自宅で待機する(警戒態勢が敷かれる本シナリオでは門番として探索者たちの行く手を阻む)。クライマックスの儀式については26.イブ=ツトゥル招来の儀を参照すること。
○日曜礼拝
 信者たちは日曜の朝に教会で礼拝を行い、祈りを捧げた後に「いぶ様」像の足元にキスを行う(MPを捧げる、稀にPOWを吸われる)事で礼拝が終わる。度重なるこの礼拝のため、犬鳴村の高齢者たちは驚くほどにPOWが低い。なお、この時に捧げられたMPは夜鬼の従属や村長の杖に対するMPの補充など様々な魔術に用いられる。
○「奇跡」と「天罰」の演出
 村長の持つ呪文を通じて行われるこれらの演出は、「『いぶ様』に見初められたもの」としての村長の権威と村の支配基盤の源泉の一つである。《癒し》の呪文により、犬鳴村診療所でも手の終えない病気や怪我などを、「神の力」と称して治療する、「聖母の兄弟団」の支配に反抗したものには《萎縮》や夜鬼によって「天罰」を下すといった具合で行われ、これも信仰心を煽るのに一役買っている。探索者がこれらを村人の前で実演するなどしてこれらのトリックを暴けば、犬鳴村における「聖母の兄弟団」の支配は揺らぐことになるだろう。


12.「聖母の兄弟団」とその犬鳴村支配に関する諸情報
 犬鳴村における「いぶ教」信者は僧兵の格好をした司祭兼村長「ウォーレン・アダムズ」以下17人の「聖母の兄弟団」幹部(僧兵)たちと、村人の殆どを占める一般の信者に分かれている。4.NPC紹介も参照し、以下にも記述のない部分はKPが適宜設定を作り、補完すること。
12-1.「聖母の兄弟団」司祭兼村長「ウォーレン・アダムズ」
 彼のバックグラウンドに関しては3.シナリオ背景を参照すること。性格は表面上温厚であり、前項で説明した○「奇跡」と「天罰」の演出を通じ、「『いぶ様』の寵愛を受けるもの」として村人たちから支持を集めている。
 司祭兼村長は教会の私室に住んでおり、理由なく教会を離れることはない。彼は強力な魔術師であり、脱出不可能な犬鳴村と「聖母の兄弟団」による盤石な支配があるため、滅多なことでは動じないが、彼の杖と魔導書『クタート・アクアディンゲン』を持ち出された場合、そして「復活の間」に侵入された場合だけは別である(20.村の警戒と探索者への対応、15.復活の間を参照)。
 基本的に司祭は教会から出ないが、警戒態勢にある中で探索者が彼の前に現れたなら別である。「いぶ様の御前において嘘をつくことはできない」として密かに《支配》の呪文を使用すると、必要な情報や探索者の正体を聞き出した後に必要な行動をとる。場合によっては警告の意味も込めて《萎縮》による「天罰」を下すこともあるだろうし、明確な敵対行為を司祭の目の前で行った場合には、《手足の萎縮》を使用されたうえで犬鳴村収容所送りとなるかもしれない。村にとって不都合な情報は《記憶を曇らせる》によって記憶から消してしまうことも十分あり得る。ただし、全ての人類の罪は元来「いぶ様」のものとされているため、

「汝らの罪はもとよりいぶ様の背負いしもの……共にこの村で罪をそそぐ事だ」

などとして基本的に村人たちの前で即座に殺すことはない。探索者が村長の強さを理解していなかったり、「無能」と罵ったりと驕り高ぶっているようなら、村長をパトロールに参加させて探索者たちのもとに出向き、呪文を使用しても構わないだろう。

 村長の就寝中に忍び込めば、その素顔を確認することができる。彼の素顔を見た上で〈アイデア〉か〈人類学〉の5倍に成功すれば、この人物は日本人ではないのではないかという発想に至る。■司教杖はベッドに立てかけられるようにして置かれているが、これを気付かれずに持っていくためには〈忍び歩き〉か〈隠す〉のロールに成功する必要がある。この杖が持ち去られた場合、取り返すまでの間彼は応急的にMP20・POW3を蓄える杖を作成して代用する。

12-2.「聖母の兄弟団」幹部たち
 幹部の僧兵たちは全て司祭の《復活》の呪文によって生き返った、不慮の事故や「天罰」によって死亡した元村人である。彼らは司祭の正体と不老不死の能力を知っており、「いぶ様」と接触できる能力に心酔しているため、一切のことを疑問に思うことなく司祭兼村長の手足として動き、命を投げ出すことさえ厭わない。
 僧兵たちは司祭に従う忠実な狂信者であり、死からの復活を「いぶ様」の力によるものだと信じ切っている。反面、「いぶ様」の恩恵に預かっていない村人たちを侮蔑・嘲笑しており、非常に横暴な態度で接している。KPは表面上温厚な司祭に比べ、暴力的で村人から嫌われている僧兵たちという演出を行うこと。
 教団幹部は数人ごとに共同生活を送っており、基本的には村の外れ(付近に民家がない場所)に集住している。司祭の指示で姿を見られることがないよう注意して生活しているが、まともなカーテンもないので、密かに覗き見ればその素顔を確認することができる(事実、彼らの写真を密かに金田一が撮影している)。
 探索者は拷問や誘導尋問などによって彼らの知る情報や真実を知ることができるかもしれないが、僧兵を殺害すれば遠からず村の警戒態勢が強化されることになる。また、僧兵たちは全員が◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)を持っている。
◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)
 ラテン語版『クタート・アクアディンゲン』の《溺者の招来》をアダムズが日本語訳し、紙に記したものであり、アダムズの経験を踏まえた内容になっている。古いものは非常に下手な日本語で書かれているが、新しいものほど読みやすい字になっている(いずれも読み解くことは可能)。◆犬鳴村聖書を既に読んでいる場合、〈アイデア〉ロールに成功すれば書いた人物が同じであることがわかる。
〇《「いぶ様」将来の儀》(コスト:10POW、100MP、退散の呪文のコストは出現状態に応じて変動)
・「いぶ様」招来の儀は13人の信徒によって執り行われ、欠けることがあってはならない。
・招来の儀は原則として新年最初の日の夜中に行われねばならない。
・招来の儀における詠唱は必ず障壁を成す円陣の外で行うこと。神の寵愛を受けしもの以外が触れれば、その命を失うことになるため、「いぶ様」に触れることは許されない。
 〈母国語:日本語〉に成功すれば、書きぶりからしてこの文章は筆者の体験に基づいて書かれた文章ではないかと推測できる。〈オカルト〉に成功すれば、これは何らかの魔導書の一部を和訳したものであるということが分かる。

12-3.「いぶ教」の一般信者たち
 一般の村人に浸透しているのは表面的な要素のみであり、カルティストの邪悪な儀式に直接関わることもないし、その知識もない。彼らと「いぶ教」の間を繋ぐのは、11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてで挙げたような宗教行為の数々である。彼らは彼らなりの信心深さを見せ、自分の信仰を否定するような発言に対しては「自らを生んだ母に会いたいという感情は、人として自然なものではないですか?」などとして毅然と反論する。
 彼らは僧兵に対して反感を持ってはいるものの、教団に対して反旗を翻すという考えは持っていない。彼らが教団の指示に背くとすれば、それは塔馬想一郎に扇動される、KPの裁量が発動するなどのケースに限られる。

12-4.犬鳴村の統治体制
 犬鳴村では、司祭を長とした「聖母の兄弟団」を中心とする統治が行われている。単に宗教的権威だけでなく、村長の持つ土木・農業技術などの村の運営に必要な知識の独占も権力の源泉となっている。
 犬鳴村における生産計画は村長の指示のもと策定され、それに則って僧兵が村人たちを使役する形で実行されている。その他、村の運営に関して何らかの決定事項がなされた場合には村人代表(シナリオ時点では塔馬想一郎)に対して内容を伝え、それを口頭で各戸に伝えていくという形をとる。
 犬鳴村の村民たちは、村長の指示で日中は僧兵たち、夜間は夜鬼によって監視されている。僧兵は主に見回りを中心に、夜鬼はその隠密系技能を用いた盗み聞きや盗み見を行い、来訪者と接触する村人の監視や教団の支配に反抗的な住民の捜索を行っている。教団によって危険と判断された人物は「天罰」を受ける、僧兵によって収容所に送られるといった、様々な必要な措置を受けることになる。


13.犬鳴村の一般住人と彼らから得られる情報
 老人・子供以外の犬鳴村一般住人は僧兵の監視のもと労働に従事しており、朝から夕方にかけて成人男性は農作業、女性は手織物を行っている。このため、探索者たちがこれらの住民に話しかけることを許されるのは基本的には日没後となる。世代間で得られる情報に差があることをKPは強調し、PLに気づかせること。二日目は労働が行われないため、探索者たちは任意の村人たちに聞き込みを行うことができる。

13-1.犬鳴村住人の概要
 犬鳴村の人口は教団幹部を含めず150人ほどであり、その割合は老人子供がそれぞれ15%ずつで、残りは労働が可能な成人男女となっている。殆どは犬鳴村で生まれた生粋の村人であり、村外出身者は一定数居るものの、身に染みた恐怖と絶望から村の中に溶け込み、原住民として振る舞っている。
 この村の時計は江戸時代以来止まったままであるため、KPが江戸時代の風俗やその延長上に即したRPを行えると面白いだろう。外部との交流が遮断されている犬鳴村では娯楽なども江戸時代と変わらぬ水準にあり、例えば読み古された『東海道中膝栗毛』などが親しまれているかもしれない。
 一般村民は犬鳴村に関する様々な基本情報のほか、探索者たちにとって有益となる断片的な情報を持っている。彼らの持つ情報を全て聞き出すのは難しいかもしれないが、ここで取りこぼした情報は後にも得ることができる。
 また、彼らの生活・信仰面では塔馬想一郎という青年がリーダー的役割を果たしている。探索者は彼と交渉を行うことで住民をコントロールできるし、元探索者が残した外国語辞書で学んだ知識から魔導書や日記の解読を手伝ってもくれる(彼については23.塔馬想一郎との普通の共闘を参照)。

 犬鳴村住人に接触する場合、以下の適当な遭遇ロールを行うこと。
・〈幸運〉ロールに成功すれば、その村人は◆犬鳴村聖書を持っている(11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてを参照)。
・5%の確率で、その場にいる村人の一人は四肢の一つを失い粗末な義手、義足を付けている。付近に複数人の村人が居れば、一人の欠損者に遭遇する確率は累積して上昇する。

13-2.犬鳴村住人と会話をする
〇老人たちと
 村に居る老人は10%の確率でPOWか正気度が0であり、「いぶ様」の狂信者(ただし、神話的にも探索者に対しても害をなすことはない)となっているため、時折思いだしたように「いあ……いぶ様……」と呟いたりする。複数人の老人が居れば、一人の狂信者に遭遇する確率は累積して上昇する。
 老人たちと話をした探索者が〈心理学〉か〈精神分析〉に成功すれば、老人たちが精神的にひどく摩耗している(POWが低い)ことがわかる。〈精神分析〉に成功していれば、このような精神力の消耗は普通の生活を送っていればあり得ないということまでわかる。
 彼らは僧兵たちに対する恐怖が身に染みついているため、「教会」の不利になることは詳細を一切語らない。探索者たちが家に泊めてくれるよう頼んでも、「年寄りではおもてなしもできないから、若い人に頼んでくれ」と言って断る(“天罰”を受けるリスクを負いたくないのだ)。

〇大人たちと
 日中、犬鳴村に住む成人男女は基本的に労働へと駆り立てられている。そのため、よほどうまく立ち回りをしなければ初日の夜以降にしか話を聞くことができない。初日の夕方に彼らと会話を行おうとすると、見張りの僧兵が住民を殴り倒して持ち場へと戻す。

 彼らは最初老人たちと同様に「教会」の不利になることを話さないが、有効な〈信用〉ロールや〈説得〉、あるいは〈値切り〉に成功することで教会に対する様々な不満(☆の情報)を彼らから聞き出すことができる。このロールはタバコやキャラメル、酒といった嗜好品を相手に与えることで成功値を大幅に上昇させることができる。

 探索者が一通り話を聞いた後、〈目星〉に成功すれば監視を行う夜鬼の姿に気が付く。以下の描写を行った後、SANチェックを行うこと。探索者が他人に注意を向けさせるような言動を行うと、夜鬼は飛んで逃げてしまう。

 ふと窓の外に目をやると、暗い犬鳴村の風景の中に、丸く、黒い影を見る。窓枠の上から延びるその影は気味の悪いことに、まるで屋根の上から室内を窺っているようにも見えることだろう。
しかし、やがて探索者は影の背後にはためく、黒い翼の存在に気が付くことになる。そう、これは影ではない……黒い無貌の存在が、あなたたちを監視していたのだ!【0/1d3のSANチェック】

 このイベント終了後、しばらくした後「いぶ様よりお告げがあった」として(夜鬼の通報を受けて)村長が来訪し、《萎縮》により「教会」の不利となる発言をした村人の耐久力が5ポイント減少する。その体内から発せられる焦げ付く臭いとその異様な苦しみはまさしく「天罰」のように感じられ、この光景を目撃した探索者たちは【1/1d4+1のSANチェック】を行う。この際の発狂は、「恐怖心に駆られて犬鳴村から逃げ出そうとする」に固定される。

〇子供たちから
 犬鳴村の子供はその無邪気さから老人や、あるいは成人たちすら喋らないことを探索者に伝えてくれるかもしれない(実際、日中働いている大人や老人たちより子供たちは多くのことを見聞きしている)。具体的な情報は基本的にもたらさないが、探索者にとって有益な情報のありかを示唆してくれることだろう。情報収集がうまくいってないと判断した場合、KPは子供を利用してPLや探索者に情報を与えても良い。犬鳴村の子供たちは全員倫理という特殊装甲を持っているため、このことによって子供が傷つけられることはない。

13-3.犬鳴村住人から得られる情報
 探索者たちが塔馬想一郎と協力関係を結べれば、ここにある全ての情報を得ることができる。☆の付いた情報を聞きだすためには大人たちを懐柔するか、脅迫するといった工夫が必要になる。ただし、抵抗する彼らに無理矢理情報を吐かせようとするなど騒ぎ立てた場合、パトロール中の夜鬼によって住民が口封じに殺害されてしまう可能性がある。

夜鬼(基本ルルブP193)
STR15 CON11 POW9 DEX15
SIZ12 INT5 HP12 MP9 DB+1d4
【戦闘技能】
組み付き40% 高所からの落下(落下のダメージについては基本ルルブP62参照)
【その他の技能】
忍び歩き90%、目星70%、聞き耳70%

 この項で得られる情報のうち探索者が聞き逃したものは、汎用情報として別の機会に出すか、元探索者達の拠点にメモとして残っていたということにしてもよい。聞き出した情報量が不十分であるとKPが判断すれば、村人側から追加でいくつか喋らせてしまってよい(面倒なら全部出してしまってもよい)。

・全ての住民の居住地について
・◆犬鳴村の歴史について
・◆「いぶ教」の概要について(11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてを参照)
・この村は教会によって統治されており、教会の長である司祭が代々村長も兼ねている。
・村長(=司祭)や僧兵の素顔は誰も見たこともない
・11-4.犬鳴村における宗教行為から「祈りの日」、「日曜礼拝」のことについて
・村長は教会内にいることが多く住民との交流はあまりないが、宗教家としての知識は随一である。儀式や礼拝を行う中心人物であり、基本的には温厚な性格をしている。
☆僧兵は信仰心にとても篤いが、一般の村人たちに対しては非常に差別的である。「貴様らはいぶ神の加護を受けていない」と言い、暴力を振るわれる。
☆僧兵は顔を隠しているため素顔はわからないが、少なくとも一般の村人が僧兵になったという話を聞いたことがない。
☆11-4.犬鳴村における宗教行為から「『奇跡』と『天罰』の演出」について。

◆犬鳴村の歴史
・江戸の禁令から逃れてきた人々がこの犬鳴村という集落を形成し、教会を中心に家々が作られていった。
・異国からやって来た「あだむず」という人物が村人たちを導き、「いぶ」神の教えを村人たちに説いて回った。
・昔は「いえす」という人物を崇めていた人物もいたが、「あだむず」が「『いえす』は神の下僕に過ぎず、『いぶ』神の御力により生き返ったに過ぎない」と論破した。
・村人たちは「あだむず」が見せた数々の奇跡を目の当たりにし、「いえす」を崇めるものに天罰が下ると、やがて村に「いえす」を信じるものはいなくなった。
・以来村では「いぶ様」が崇められ、「あだむず」のもたらした聖書が各時代の司祭によって読み継がれており、数百年間寸分の狂いもなく信仰が守られ続けている。


14.犬鳴村教会
 犬鳴村教会は地図上①にある。
14-1.教会に入る
 日中は門番の僧兵が必ず外に2人おり、夜間には1体の夜鬼が警備についている(データについては前項を参照)。
 初日の昼に限り、変に怪しいそぶりを見せたりしない限りはそのうちの1人の監視のもとで教会の中を見ることができる。監視役の僧兵に質問を行っても教会の不利になるような質問にはまともに取り合わない。「いぶ教」に関することは教えてくれるが、11-1.信仰の概要に書かれている以上の内容を彼らが喋ることはない。

14-2.教会内の様子
 導入の訪問から時間が空いている場合、もう一度9.導入後半~「教会」にて~の描写を読み上げること。説教壇に近づけば◆一冊の皮装丁の本が置いてあることに気が付くが、手に取ろうとした場合僧兵に「教会の人間以外が触れることは禁じられている」と制止される。また、説教壇の背後には覆いのかかった物体のほか、その両脇に部屋が二つあることが確認できる。僧兵に頼めば、少し覆いを外して■イブ=ツトゥルの像の下部を見ることができる。この時、探索者たちは僧兵から像に触れながら祈りを捧げるよう勧められるが、応じる場合は下記の■イブ=ツトゥルの像の項を参照すること。

◆一冊の皮装丁の本
 皮の装丁に『CTHAAT AQUADINGEN』というタイトルが書かれている。手にした人間が〈アイデア〉に成功すれば、この本の表紙は汗をかいているかのようにしっとりと湿っていることに気が付き、【0/1のSANチェック】を行う。また、〈医学〉に成功すれば、この本の想定は人間の皮でなされているという事実に気が付き、【1/1d3のSANチェック】を行う。
 中身はラテン語で書かれてあり、内容は基本ルールブック及びサプリ『キーパーコンパニオン』のデータに準ずる。内容を研究するには相当な時間がかかるが、〈図書館〉ロール(ラテン語技能がなくとも良い)か読み込まれている部分を探すなどの宣言があれば、効率よくシナリオに必要な呪文部分(19.金田一についてにある◆ラテン語の文章と同等のものとして扱う)のほか、イブ=ツトゥル、バグ=シャースに関する情報の書かれている場所を見つけることができる。該当部分の解読には〈ほかの言語:ラテン語〉ロールに成功する必要がある。

 グレート・オールド・ワン「バグ=シャース」―闇とともに来る大いなるもの―、外なる神「イブ=ツトゥル」―忍耐強きもの―、彼らは溺者と呼ばれる存在であり、その体液はあらゆるものを溺れさせ、死に至らしめる。犠牲者が死から逃れるためには、その体液を取り除く以外に方法はない。
 バグ=シャースは哀れな犠牲者に覆い被さり、「キス」を与えてその体液で包む。バグ=シャースの体液は犠牲者を溺れさせるほか、死者を復活せしめ、その支配下に置く性質がある。このグレート・オールド・ワンは魔力のこめられた古き印の影響を強く受けるし、力の五角形に弱い。また、このグレート・オールド・ワンは光に弱く、わずかな光源をも嫌い襲い掛かる。
 イブ=ツトゥルは触れたものに激烈な喪失もしくは変化を与える。この外なる神は自ら動くことをしない。そのいくつもの乳房に群がる無数の夜鬼と神の血液たる黒き柔和な破片「ザ・ブラック」、そして闇とともに来る大いなるものを従えて神の意を実現する。この外なる神はナーク=ティトの障壁の内側においてその能力を制御されるが、その力を全て抑えるということは決してないし、かの神の機嫌を損ねることは殆どの場合死を意味する。

■イブ=ツトゥルの像
 この像は木像にイブ=ツトゥルの血液「ザ・ブラック」を塗料として塗り上げたものである。過去数百年にわたり村人たちのMPやPOWを吸収し続けており、事実上無尽蔵のMP・POW貯蔵庫となっている。イブ=ツトゥルに関する禁じられた知識を持つ(イブ=ツトゥルにまつわる呪文を知っている)人間がその像に触れている間、呪文の使用者は像に蓄えられたMPとPOWを利用することができる。この像の耐久力は溜め込まれたMPとPOWの合計値と等しく事実上破壊することは不可能であるが、水などの液体によって表面の塗料を洗い流し、無力化することができる(ただし基本的にはごく一部になるだろう)。〈目星〉に成功すれば、表面には何か塗料が塗られているようだが、その性質は触れたものの皮膚に虫の這うような感覚を与える不快なもの(実際には地球上に存在しない物質)を感じる。
 僧兵から見せてもらえるのは、覆いをまくって見える像の下部のみである。僧兵の制止を振り切って覆いを外した場合、全体像を見ることができるが殴られる(〈回避〉ロール可)。そのほか、夜忍び込んだ際に覆いを外すなどすれば、像の全容が明らかになる。描写は以下の通り。

 覆いの中から現れたのは黒く光る、大柄の立像であった。黒いマントを羽織り、目をつぶる異様な容貌のその像は、人とも、既知の神話の神々とも異なる姿をしている。その威容は見るものを圧倒すると同時に、感覚を狂わせるような禍々しさと狂気を孕んでいた。【0/1d3のSANチェック】

 この像に長時間触れたり、接吻を行ったり、像に対して〈目星〉などを使用する探索者がいれば、自動失敗扱いのPOW対抗ロールの後1d20をロールする。この時、1から19が出たらMP、20が出たらPOWを1d3ポイント喪失する。このギミックでMPを喪失した探索者はこの像がMPを溜め込んでいることに気が付き、POWを喪失した探索者か〈クトゥルフ神話〉に成功した場合には、この像のすべての性質を知ることができる。この事実は狂人の洞察力を発揮した「金田一」と村長が知っている。
 また〈オカルト〉に成功すれば、この像は女性をイメージして作られているものではあるようだが、少なくともキリスト教とは全く関係のないものであることがわかる。

14-3.倉庫と村長の部屋
○教会の倉庫
 教会にある部屋のうち、マップ左側が倉庫となっている。倉庫は埃っぽいが比較的整理されており、最近物を動かした形跡がある。〈目星〉に成功すれば、一人が成功するごとに一つずつ■魔力の付与された儀式用の短剣と◆Warren Adamsの日記、◆数十枚の写真、押収された探索者の武器類、1d6本の一三年式村田銃(基本ルルブの45口径マーティニ=ヘンリー・ライフルに相当)、1d3本の38口径(9mm)リボルバーのいずれかを手に入れる(いずれも弾は装填してある分だけ)。また、17.落下のイベント後には日本兵の武器が教会倉庫に加えられる。この判定は何回でも行うことができるが、96以上の出目を出して失敗した場合、大きな音を立ててしまう。
 上記の他、倉庫にありそうなもので適当なものを見つけさせてもよい。ただし、物資に乏しい犬鳴村の倉庫は一般世間の倉庫とは異なるため、探索者に取って有用そうなものは過去犬鳴村に迷い込んできた人達の持ち物に限られるだろう。

○村長の部屋
 教会にある部屋のうち、マップ右側が村長の部屋となっている。村長の部屋は清貧さを象徴するように持ち物らしい持ち物を持っていない。書き物机には近代イギリス英語で書かれ、中に「Warren Adams」と署名の入った古い聖書が埃を被って置かれている。また、机の上には日本語でこまごまとした文字が書かれた板が置かれており、内容を見れば犬鳴村の統治計画に関する様々な記述がなされていることがわかる。
 日中村長はこの部屋と教会内を行き来しているが、夜になると基本的には自室から出なくなり、遅くとも夜中の12時頃には就寝する。村長の就寝中に忍び込めば、その素顔を確認することができる(NPC紹介参照)。彼は粗末なベッドで寝ており、■司教杖はベッドに立てかけられるようにして置かれている。これを気付かれずに持っていくためには〈忍び歩き〉か〈隠す〉のロールに成功する必要がある。この杖が持ち去られた場合、彼は応急的にMP20・POW3を蓄える杖を作成して代用して使用する。

■魔力の付与された儀式用の短剣
 ダメージ1d4+1+dbの小型ナイフとして使用できる。刃こぼれは全くなく、銀色に光る刀身は氷のように冷たく、曇りが全くない。〈化学〉の2倍か〈博物学〉ロールに成功すれば、このナイフは純銀でできているらしいことがわかる。〈考古学〉か〈オカルト〉に成功すれば、宗教改革の進む16世紀イギリスにおいて行方不明になっていた聖遺物の一つ(聖剣)だとわかる。
 このナイフは魔術によらない装甲を無視して攻撃することが可能であり、魔力を付与された武器以外のダメージを受けない。この短剣はあらゆる魔術の媒介として使用することが可能であり、任意で呪文に用いることのできる5ポイント分のPOWと20ポイント分のMPが付与されている。

◆Warren Adamsの日記
 「Warren Adams」という名前が書かれたかなり古い日記であり、劣化により読み解ける部分は限られている。が、それ故〈ほかの言語:英語〉が30%以上あれば読み解くのにロールは必要ない(時間はいくらかかかる)。時間を早めたい場合、〈ほかの言語:英語〉の技能ロールに成功すれば殆ど時間をかけずに探索を再開させることができる。
 この文章の内容を把握したうえで〈歴史〉、〈オカルト〉ロールに成功すれば、日記の記述と同じ1549年にイングランド東部リンカンシャー州において発生した大嵐によって一帯の人口が激減し、当時世界最大であったリンカン大聖堂が崩壊、そこを拠点としていた少数派キリスト教の信徒たちが全滅した事件が実際にあったことを思い出す。
 なお、文中の「いぶ様と同じとなった」という文言は、アダムズが不老不死になったと自認したことを示す。この推測に必要な情報が集まったとKPが判断すれば、この情報を〈アイデア〉ロールなどによって与えてもよい。
○1540年某月某日
 ヘンリー8世の打ち立てたイギリス国教会の浸透による教会の腐敗は深刻だ。司教達は七つの大罪を平気で犯し、特権を笠に無知蒙昧な民を搾取している。(中略)……私は良識ある信徒たちを集め、聖書を再解釈する集会を定期的に行うことを決めた。
○1543年某月某日
我々は国教会に支配されたロンドンを離れ、同じ志を持つリンカン司教の下に拠点を置いて活動を開始した。……
○1547年某月某日
 同志の一人が持ちよった『CTHAAT AQUADINGEN』は、数年間にわたる我々の研究に解を導いてくれた。この本が示す「YIBB-TSTLL」は、音韻の一致から創世記における「Eve」の変形であることは明らかであり、「Bugg-Shash」とは「Eve」に知恵の実の秘密を授けたルシファー、サタンを指している。そして、この聖書が示す内容は……「YIBB-TSTLL」こそが我らの信仰すべき神であることを示している!
 ……我々はここに「聖母の兄弟団」を結成し、新たな信仰を打ち立てたことを宣言する。この書にある秘術を用い、我らが母を現世へと迎えることに決めた。
○1549年某月某日
 我々はイブ=ツトゥル神と、その天使たるバグ=シャースを呼び寄せた。儀式は成功した……しかし、イブ神の周囲に張られた結界が怒れるバグ様によって破壊されてしまったことで、悲劇は起こった。我々は歓喜してイブ神に駆け寄ったが……私のように神の寵愛を受けぬものは触れた途端に発狂するか、崩落した尖塔の下敷きとなって死んだ。
 私も顔面に大きな裂傷を負い、致命傷をいくつも受けた。しかし、私はこうして生きて筆を取っている……私はイブ様と同じとなったのだ!教団なき今、私がイブ様の信仰を続けなければならない……!
○1551年某月某日
 国教会の弾圧に加え、愚鈍で不誠実な農民たちの白痴さも相まって布教活動は行き詰った。イブ様にお会いするため必要な13人の教団幹部を養成することなどできそうにない……。私は新天地を目指すべく、故国を離れることに決めた。大陸にはかつての私と同じ志を持つイエズス会が活動していると聞く。まずは彼らを頼りにしよう……。

◆数十枚の写真
 金田一が撮影し、現像した写真が保管されているが、◆ラテン語の文章(『クタート・アクアディンゲン』の呪文部分)の写真だけは湿気により読み取ることが不可能になっている。〈アイデア〉に成功すれば、この写真は少なくともここ数か月の間に現像されたものであることがわかる。〈アイデア〉の半分以下の値で成功していれば、この写真には日本語ではない文章が写されていたのではないかと推測できる。

■司教杖
 ぜんまいを模した金属製の杖であり、触るとかなり冷たく感じる。年代物らしいが、不思議と劣化がない。〈オカルト〉、〈歴史〉に成功すれば、これはカトリック教会の司教が持つ司教杖であることがわかる。それぞれの1/5以下の値で成功していれば、その司教杖がリンカン司教のものであることもわかる。杖には80ポイントのMPが封入されており、所持者はこの杖のMPを用いて呪文を使用することができる。この杖は魔術と、魔力の付与されていないすべての攻撃から影響を受けない。


15.復活の間
15-1.復活の間の概要
犬鳴村マップ4.png
 復活の間は村の外れ(地図上⑨)にある、防音を重視した石造りの小さな建物である。この場所は村長が《復活》の呪文を行う場所であり、僧兵たちからは「いぶ様」の力が宿る神聖な祭殿であると認識されている。そのため、生き帰りを果たした時を除き、僧兵ですら決して入ることを許されていない。僧兵の調達(=《復活》の詠唱)を行う際には、ある種の儀式として僧兵全員がこの建物を囲うように立ち、「いぶ様」への讃歌を口ずさむ。
 復活の間は村の統治システムの根幹をなす場所であり、その護衛としてはグレート・オールド・ワン「バグ=シャース」が封印されている。もし侵入が発覚した場合、余裕があれば《支配》によって情報の洩れ具合を確認した後《記憶を曇らせる》によって記憶を消去する。しかし、場合によってはそんな余裕もなく侵入者の殺害にかかる可能性も十分にあるだろう。侵入した形跡を残さなければ問題はないが、KPはこの場所を探索するリスクについて必ず警告しておくこと。

15-2.建物の外観
 石でできた4畳半ほどの小さな平屋の建物であるが、隙間なくびっしりと大小さまざまな石が詰められており、頑丈さを重視した教会や収容所とは少し建築方法に違いが見られる。〈アイデア〉に成功すれば、これが防音を重視した作りなのではないかという発想に至る。
 中へと続く扉には鍵がかかっており、STR15との対抗ロールに成功して鍵を破壊するか、1d6ラウンドかけて〈鍵開け〉か〈機械修理〉に成功して鍵を開けなければ中へ入ることはできない。鍵を閉める際には同様のロールがもう一度必要となる。扉に対する〈聞き耳〉に成功すれば、中からかすかに歌声のようなものが聞こえることがわかる。〈聞き耳〉が1/5以下の値で成功していた場合、加えて死臭も漂っていることがわかる。
 扉を開けると、中には活性状態の《古き印》の描かれた地下室への扉がある。その扉を開くとしばらく下り階段が続いており、奥には10m四方ほどの地下空間が広がっている。

15-3.地下室に潜むもの
 地下室へと近づくにつれて死臭の度合いはひどくなり、不快なさえずりのような歌声も大きくなってくる。階段を下りている途中で〈目星〉に成功すれば、ところどころに白い粉が落ちているのがわかる。この粉を調べて〈知識〉ロールに成功すれば、この粉が塩に似ていることがわかる。〈知識〉ロールで1/5以下を出すか、〈化学〉の5倍に成功すれば、この物質が塩であることが確定する。
 地下室は10m四方の立方体に近い作りになっており、床いっぱいに活性状態の《古き印》が描かれている。入り口から向かって両側の壁沿いには棚が置かれ、正面の壁には何やら壁画のようなものが描かれている。光源をもって地下室に侵入すると、今まで聞こえていた歌声が突如として乱れ始め、名状し難いうめき声のようなものに変わっていく。このタイミングでPOW*3ロールに成功すれば、地下室の空気が変化し、地球の重力が数倍になったようなけだるさと圧力を感じ始める。しばらくすれば地下室にバグ=シャースが現れ、探索者たちに襲い掛かる(26.大いなるものの解放を参照)。

15-4.復活の間にて
 バグ=シャースを撃退するか《古き印》を所持している場合、バグ=シャースに襲われずに部屋内を探索することができる。グレート・オールド・ワンに慣れのルールを適用することは適当ではないと思われるが、適用する場合には正気度の減少値を半分の値にする。
 一方の棚にはラベルの張られたビンが20数本置かれている。半数ほどは封がされて、中に白い粉が入っているが、残りは封が開けられており、中身は完全に空である。ラベルには「Custodes」という単語と共に日本語で人名が書かれている。〈ほかの言語:ラテン語〉に成功すれば、この語が「護衛」という意味であることがわかる。人名は事故死・刑罰死した犬鳴村住民のものであり、死体を塩に還元したものである。この時点で探索者が死亡している場合、ラベルの一つにはその名前も書かれていることだろう。
 もう片方の棚には、数冊の読みこなされた写本が何冊か置かれている。これらはすべて魔術の研究ノートであり、魔道書の写本部分も多くを占めており、村長の所持する呪文の中で『クタート・アクアディンゲン』に収録されていない呪文について記載されている。それぞれ研究には数十週以上の時間が必要であるが、〈ほかの言語:英語〉または〈ほかの言語:ラテン語〉ロールによって最低でも一時間かけて斜め読みに成功すれば、《萎縮》に加えて読める範囲で村長の持っている呪文を知ることができる。斜め読みをしたうえで〈アイデア〉に成功すれば、《萎縮》という呪文の内容は「天罰」と同じものであることがわかる。
 突き当りの壁には赤黒い血液で「Mortem et resurrectionem vaticinati」と書かれており、その下には以下の文字が書かれている。
fig57254_01.png
この短い文に対する〈ほかの言語:ラテン語〉技能に成功すれば、その意味が「死と復活」であるとわかる。〈ほかの言語:英語〉に成功することでも、「resurrectionem」という単語が「復活」という意味の単語と似ていることに気が付く。

 〈オカルト〉に成功すれば、この二つの記号が左から順に龍の頭と尾を表しており、逆の効果を持つ二つの呪文なのではないかという発想に至る。また、ラテン語版『クタート・アクアディンゲン』を読んだことのある人物は、〈アイデア〉に成功することで右側の文章とほぼ同じ内容の呪文(《ナイハーゴの葬送歌》である)があったことを思い出す。失敗したとしてもどこかで見たことがあることくらいはわかっていいだろう(PLが思いついた場合、探索者も気が付いたということにしてよい)。
 INT*3ロールに成功すれば、この二つの文章の正しい読み方について理解することができる。〈ほかの言語:ラテン語〉技能を20%以上持っている人物は、このロールを省略することができる。

15-5.呪文を唱えた場合
 探索者がこの場で左側の文章を読み上げるなどした場合、《復活》の呪文が発動する。この場合、コストを支払った後不完全な状態で毛利大五郎がこの世に呼び覚まされる。以下の描写を読み上げること。

 片方の呪文を唱え終えたとき、室内の空気が……空気の流れが変化した。足元から渦を巻くように空気が噴き上がったかと思うと、地面に散らばっていた白い粉が煙を伴って巻き上がり、探索者たちの視界を一瞬奪い去る。視界が晴れたとき、その目の前に現れた、焦点の合わぬ目を向ける男の姿は……崖下で見た、落下死した男のものであった!【1/1d10のSANチェック】

 このSANチェックで発狂した探索者は、恐怖から逃れたい一心で壁の右側の文章を読み上げることになる。不完全な状態で生き返った毛利大五郎は、奇声を上げながら探索者達に襲い掛かってくる。


16.その他の犬鳴村各所
 これらのほか、犬鳴村収容所、復活の間については別途章を設けてある(18.犬鳴村収容所を参照)。
16-1.犬鳴村診療所
 犬鳴村に唯一存在する医療機関である(地図上の②にある)。村人たちは重宝しているが、僧兵たちは村長の《癒し》によって事足りているため利用することはめったにない。置かれている医療器具は使い込まれたものばかりだが、医療系技能に成功すれば出口のない村の割には十分過ぎるほど薬品類がそろっていることがわかる(柏崎医師が所望した医療品を「聖母の兄弟団」が外部から調達している)。そのため、この場所で〈医学〉または〈薬学〉ロールに成功した場合、耐久力の回復量が1点多くなる。
 ここの診療所を切り盛りしているのは壮年の男性医師「柏崎屋良野」である。彼は10年以上前に犬鳴村を訪れた赤十字の医師で、僻地における治療を積極的に行う中で村に囚われてしまった。村にとっても貴重な人材であるため、労働義務もなく待遇は比較的良い。この点は本人も自覚しているため、探索者の助けになるような情報をそれとなく与えてくれる(釘は刺されるが、よほどのことがなければそれによって殺されるようなことはない)。
 また、犬鳴村診療所には最近農作業中に大けがをした村人が一人入院している。彼は村長から《癒し》の呪文を受けているため、回復が異常なスピードで進んでいる。このことは適当な医療技能に成功すればわかるだろう。KPは伏線としてこの村人を使い、彼の口から村長の起こす「奇跡」についての情報を渡してもよい(11.犬鳴村の「いぶ教」信仰についてを参照)。

柏崎 屋良野(やらの) 42
STR13 CON15 POW12 DEX9
APP10 SIZ13 INT12 EDU17
HP14 MP12 DB+1d4 正気度50 
【戦闘技能】
医療用メス55%1d4+db、ライフル40%、回避45%
【その他の技能】
応急手当90%、医学60%、歴史30%

16-2.犬鳴村墓所
 盆地の崖に沿うようにして二重円を描くように設けられており、ちょうど◎のようになっている(地図上③である)。その数は数百にも及び、外側が古い墓、内側はより新しい墓という並びである。死体処理は信仰に依らずもっぱら埋葬であり、墓には名前と没日が彫られた石碑が各々設けられている。
 探索者がこの場所から得られる情報としては、この村にやって来たとされる宣教師「あだむず」や素性の知れない僧兵たちの墓がないこと、あるいは(金田の写真に収められた)僧兵と目される村人の墓に死体が入ってないということである。〈目星〉に成功すれば、一部の墓の土が新しくなっていることに気が付く(役目を終えた僧兵が再び元の場所へ埋葬されたのだ)。PLが気付かなければ、この僧兵と墓のトリックについて〈アイデア〉ロールにより気づかせてよい。

16-3.田畑
 犬鳴村田畑は犬鳴村入口から見て最奥に存在する(地図上④)。近くまで行けば、どこからか引いてきているのか農業用水がしっかりと確保されていることがわかる。その他、僧兵や犬鳴村住人が時折出入りする犬鳴村倉庫の存在も目に留まるだろう。日中、この場所には5人前後の僧兵がいる。
 日の昇っている間は村人たちが農作業を行っており、村人たちに話しかけようとすると僧兵に煙たがられる。犬鳴村田畑は良質な肥料を用いていることもあり、村内の人口を賄えるだけの生産量を誇っている。また、木綿や麻なども栽培されており、村内で加工され村内で利用されている。
 〈地質学〉ロールに成功すれば、農業用水の引き方からしてこの崖の上に川があるのではないかということに気が付く。〈生物学〉あるいは〈博物学〉ロールに成功すれば、用いられている肥料は到底この村内で調達できるような代物ではないことがわかる。
※正直細かいことは考えていませんので、現実的に矛盾点などがあれば世界の方をシナリオに合わせてください。

16-4.犬鳴村倉庫
 小さな家一軒ほどの大きさを誇る蔵であり、田畑の近くに建てられている(地図上⑤)。この倉庫には日中必ず一人の僧兵が門番として外に配置されている。
 中に入って確認してみれば、農業用の肥料を始め、種もみ、燃料用の薪など村の生活・農作業に必要なものが保管されていることがわかる。〈アイデア〉に成功すれば村では調達できないものが多く保管されているが、この量の物資を国道から犬鳴村に至るあの不整地を踏破して持ってくることは不可能であるということに気が付く。
 倉庫内の〈目星〉に成功すると、不自然に空いたスペースに描かれた「歪な星形の魔法陣」を見つけることができる。〈アイデア〉に成功すれば、これが村の入り口にあった岩に刻まれたものと同じものであることがわかる。

 これは非活性状態の《門》であり、双方向に移動ができる上、複数の場所に繋がる種類の特別な《門》である。この《門》は最後に移動を行った場所と双方向でつながり、現在はちょうど倉庫近くの崖上に繋がっている(川付近、特に決めていないが農業用水・生活用水路の調整用的な用途をイメージ)。
 《古き印》の作成方法を理解したPCが1MPをコストに支払うことで、《門》を活性化させることができる。入村時に僧兵が喋っていた文言(忘れている場合、〈アイデア〉の半分に成功すれば思い出すことができる)を唱え、地面を叩くことで、片道正気度1点のコストを支払うことで活性化された《門》を利用することができる。
 しかし、《門》による移動を目撃した人物は、この世の踏み入られざる領域に入り込んだことを明確に認識してしまい、【0/1d2のSANチェック】を行うことになる。探索者たちと犬鳴村にいるNPCたちはクトゥルフ神話の知識に触れているため、慣れのルールが適用されてこれ以降の正気度喪失は起こらない。しかし、神話的知識の一切ない日本兵は探索者たち以上の精神的ショックを受ける(このことは〈アイデア〉などに成功すればわかる)。

16-5.空き家
 犬鳴村は最盛期から人口を減らしていることもあり、外周に近い家はいくつか空き家になっている。その中の一つには鍵がかけられており、中には村長が密かに用意した《消滅》の呪文に用いられる箱が置かれている(28.村長の逃走と戦闘を参照)。箱には古き印が刻まれており、探索者達が空き家をすべて見て回るなどという宣言を行って数時間(一手番)かければ、〈目星〉に成功することで見つけることができるし、シナリオの成り行きによっては別の流れで見つかることがあるかもしれない。

16-6.犬鳴村外周
 20mはある切り立った崖に囲まれており、まともな装備なしに崖を登り切るためには複数回の〈登攀〉ロールが必要であるほか、失敗すると登っている地点から落下する。上からロープを垂らすなど補助がある状態であれば一回のロールに成功するだけで登り切ることができるし、命綱があればダメージを軽減できる。しかし、昼間に登攀を試みる場合、ほぼ確実に僧兵には露見して妨害を受けるし、夜に登ろうとする場合いかなるタイミングにおいても夜鬼の妨害を受け、補助を行った人物ともども地面に落下する。

16-7.犬鳴村への階段
 犬鳴村への階段は《門の創造》によって作られた幻想である。時限的に門の効果は消滅し、一方通行であるためにこの門を逆に辿って村を出ることは不可能である。
 探索者達は村に入ってから一時間程度、あるいは探索者がこの村の異常性に気が付くまでの間、この階段(門)を利用できる。しかし、犬鳴村の危険性を感じ、探索者たちがこの村から脱出を図ろうとする頃には、この村にやって来た時確かに下っていったはずの階段は、跡形もなく完全に消え失せてしまっていることがわかる。村内に閉じ込められた事実に気が付いた探索者は【1/1d6のSANチェック】を行う。
 このことを村長に尋ねると、

「光栄に思うといい、外への階段が消えたということは……そなたらがいぶ様に見初められたことを示しているのだ。」
「この村で余生を過ごすことだ。空き家がいくつかあるから、住む家を決めるとよかろう。」

と言い残して去っていく。村の外へ出たいなどという要望は、全て「いぶ様の意思」を盾に却下される。

16-8.元探索者たちの拠点
 地図上では⑩の位置にある。空き家のうち一つを金田たち旧探索者パーティが拠点として利用していた場所であり、一見するだけでは普通の空き家と変わらない。この場所の情報を手に入れるのは、探索が中盤以降に差し掛かったタイミングが理想的である。住民の誰かから情報を聞き出すのかもしれないし、戸口についた血に目が留まるのかもしれないし、金田が何かの拍子に思い出すのかもしれない。
 この場所には現探索者たちが取りこぼした情報をメモとして残しておいてもいいし、◆Warren Adamsの日記のような情報を読み解ける状態で置いておいても良い(ただし、『クタート・アクアディンゲン』は除く)。また、取りこぼした情報のほかに◆犬鳴村に関する一考察、◆元探索者の日記がある。あまり無条件に情報を出しすぎても興を削ぐので、〈目星〉成功者の数だけ情報を渡すといった形にすると良いだろう。

 また、探索者たちがラテン語の文章の解読、とりわけ《イブ=ツトゥルの招来/退散》の解読に手間取っている場合、◆犬鳴村に関する一考察に以下の文章も追加する。
○僧兵が持っていた紙について
 あの紙の呪文は「いぶ様」とやらを呼ぶことについてしか書かれていなかったが、インスマスのダゴン秘密教会で得た情報によれば、たいていの招来の呪文は退散の呪文と同じ効果を持っているはずだ。「祈りの日」に行われているのが奴ら以上におぞましい行為であるとするなら、この呪文が役に立つのかもしれない。

◆犬鳴村に関する一考察(これはただの裏話なので無条件で出してよい)
 旧幕臣の外交担当経験者から聞いた話だが、彼によると開国に際して要求されたキリスト教徒の保護に関する補足事項に、隠れキリシタンの村落に対する自治の容認という項目があったとのことだ。西欧列強にとってみればそれは植民地化の布石であったのだろうが、当時の外交担当者の尽力もあり、不平等条約における秘密項目の中で「自治の継続を日本国政府は容認する」という文言に落ち着いたらしい。そしてその文言は、日清日露の条約改正を経ても今なお残存しているとか。トンネルの横にあった看板……あれはこの村のどの物品よりも出来が良く、この村の人間が設置したものであるとは考えにくい。看板の古さから逆算すれば、もしかするとこの村は国から自治権を認められた隠れキリシタンの村落なのかもしれない。今なお不平等条約が残存しているとすれば、なんと嘆かわしいことであろうか。

◆元探索者の日記
 表紙には「Diary」と書かれており、裏には「明智小五」と書かれている。〈母国語:日本語〉ロールに成功すれば、数十分ほどで日記の内容を斜め読みできる。一年前の(犬鳴村を訪れた際の)記述だけ読み解きたいと宣言があれば、特に技能ロールは必要ない。この本を読み終えた探索者は、かつて自分たちのようにこの村を訪れたものの悲惨な末路を自分たちの境遇に重ね、【0/1d3のSANチェック】を行う。また、必要な情報を得たうえで〈知識〉の1/5か〈歴史〉ロールに成功すれば、新暦の1928年1月22日とは旧暦の12月30日であり、新暦の1928年1月23日は旧暦の1月1日であったことがわかる。
 なお、この日記の前半にはアメリカのインスマスという街を好奇心で訪れ、酷い目にあったという出来事が書かれている。この部分を〈母国語:日本語〉に成功して熟読すれば、深きものやダゴン秘密教団に関する知識を深め【1/1d4のSANチェック】を行い、ただちに〈クトゥルフ神話〉を失った正気度分獲得する。
1928年1月19日
 父親の消息に関するうわさを聞き付けた私は、同じく村に興味を持つ仲間たちと共に犬鳴村へ向かうことにした。依然訪れた漁村では酷い目にあったのに懲りないやつだと金田から言われたが、自分達が言えた口かという反論で場は笑いの渦に包まれた。

1928年1月20日
 ぬかった……!どういうカラクリか知らないが、村へと降り立った階段が一夜のうちに消えてしまっていた。村長からは平然と居住地を選ぶように言われたが、こうやってこの村は人口を維持してきたのだろう。この村から脱出する手立てを考えなければ……。

1928年1月21日
 剣持警部が死んだ。昨夜聞こえた銃声は彼のものだったようだ。彼は村長の寝首を掻こうとしたらしいが、朝見たのは黒こげのミイラと化した警部の姿であった。村長の僧兵服は頭のあたりが血で滲んでいたが、どうやら仕留め損ねたらしく平然と歩いている。曰く、警部には「天罰」が下ったとのことだが……。あの村と同じく、超自然的な力がこの村には存在しているようだ。

1928年1月22日
 朝起きると、七瀬が消えていた。寝る前に彼女が気にしていたあの防音性の建物の前まで行ってみると、備え付けられていた鍵が開けられていた。しかし私には、恐らくは彼女を飲み込んだであろうその中へと、足を踏み入れる勇気はなかった……。夜のうちに潜入して殺されてしまったのだろうか。おそらくは、私たちに危険が及ばないよう配慮して……。

 住民の話によれば、どうも明日の夜には「祈りの日」とやらが行われるという。おそらくはあの像のモチーフとなった、醜悪な「神」とやらを呼び寄せるのであろう。金田との話し合いの結果、この村の危険性を外部に伝えるため儀式の様子を写真に収め、手作りの登攀用具を使って誰か一人でもこの村を脱出し、助けを呼ぼうということになった。座して死を待つよりはこの方が良いだろう。重要な儀式の最中ともなれば、警備も手薄となるはずだ。

日時不明(極めて乱れた文字で書かれている)
 全ては失敗に終わった。金田は左腕を失って狂気に陥り、私も利き腕を失ってしまった。見つかれば私は殺されるだろう。この村は……いや奴はあまりにも強大すぎた。インスマスの連中などとは比べ物にならないほどに……。
我々の集めた情報同様、この日記も拠点に隠し、私は井戸に身を投げることにする。せめて死体を辱められることだけは避けたい。願わくば、我々の仇を取らんとするものの助けとなることを祈る……。


17.落下
17-1フォーリン・ダウン
 このイベントは初日の夜に発生する。探索者たちが〈聞き耳〉に成功すると、村の一角から男の悲鳴と何か重いもの落ちてきた音が聞こえてきたとわかる。
 探索者たちがすぐさま向かうと宣言すれば、僧兵や村長たちに先んじて現場へ向かうことができる。この時〈目星〉に成功すれば、黒い巨大なコウモリの姿(彼らを崖の淵から落下させた夜鬼)を垣間見ることになり、【0/1のSANチェック】を行う。
 崖下にはカーキ色の軍服を着た一人の日本兵が倒れており、確認すれば死んでいることがわかる。現場には二人分の背嚢(リュック)や装備品が散らばっており、その近くには足の骨を折る重傷を負った日本兵「工藤新」が潜んでいる。探索者たちがすぐさま駆けつけた上で〈追跡〉の二倍か〈目星〉に成功すれば、彼を見つけることができる。

17-2.日本兵「工藤新」
 工藤新は近々行われる犬鳴村襲撃に備え、偵察を行っている最中に夜鬼の襲撃を受けて犬鳴村へと落下してきた。彼は落下時の怪我のため、耐久力とDEXが半分に下がっている。
 軽度の狂気症状と探索者たち(あるいは犬鳴村住人)への不信感から、〈言いくるめ〉か有効な〈信用〉、〈精神分析〉に成功しなければこのタイミングで彼の身分とその目的を聞き出すことはできない。彼は僧兵が来る直前、「部下に連絡しなければ……」と言って背嚢に手を伸ばす。

17-3.僧兵たちの到着
 僧兵たちは一度村長のもとに赴いて判断を仰ぎ、その上で現場に向かう。そのため、探索者たちが最速で現場に向かった場合、僧兵たちの到着には猶予がある。このわずかな間で工藤の身を隠すには、〈隠す〉を使用したり、おぶった状態で〈忍び歩き〉をする、彼と一緒になって〈隠れる〉を使用するなど、隠密系技能に成功するしかない。
 僧兵たちは現場に到着すると周辺に落ちている装備品を拾い集め、柏崎医師を呼んで日本兵の生存確認を行わせる。工藤新がいる場合、村長はその場で《癒し》の呪文を使用し、その後装備品は基本的に教会の倉庫に、死体は復活の間に、工藤新は犬鳴村収容所へと送られる。その後村長は犬鳴村収容所へ向かい、工藤新に対する詰問を行う(すなわち、犬鳴村教会に侵入するチャンスである)。
 探索者が目につく範囲で日本兵の持ち物を入手していることがわかれば、僧兵たちに返すよう要求される。拒否すれば、村長が《支配》の呪文を使用して取り返す。

17-4.村長による詰問
 犬鳴村収容所に移された工藤は村長から詰問を受け、《支配》の呪文によって犬鳴村襲撃計画の存在を村長に漏らすことになる。村長はそれを受け、翌日の夜に《ナーク=ティトの障壁》の魔法陣を破壊した状態で《イブ=ツトゥルの招来退散》の儀式を実施することを決意する。
 もし探索者たちが工藤を匿っていた場合、村長は復活の間において毛利大五郎を蘇らせ、同様の手法で情報を引き出す(工藤を捕らえている場合でも情報の正確さを確かめるため同じことを行う)。


18.犬鳴村収容所
18-1.施設概要
 地図上では⑥が犬鳴村収容所である。この場所は犬鳴村において問題を起こした人間や、外部からやって来た危険人物や狂人を隔離しておくための場所であり、探索者が犬鳴村にとって危険な人物であると判断された場合はここに収監される可能性がある。
 囚人は収監される際持ち物を全て没収され、武器類は犬鳴村教会の倉庫で、その他は収容所の看守室に保管される。牢内へと持ちこめるものは事前に〈隠す〉ロールに成功したものか、持ち込めるだけの十分な理由がつけられる物品に限られる(下着や入れ歯など)。
 犬鳴村住人はこの場所の存在に関して新参者には口外しないよう厳命されているため、基本的にこの施設に関して何もしゃべることはない。金田を正気に戻せば彼から聞きだすことができるが、その他は唯一柏崎医師や幼い子供がそれとなく話す程度である。しかし、村の外れにポツンと存在するこの施設の存在は、否応なしに探索者の目を引くことだろう。

18-2.収容所の警備体制
 探索者が収容所の中に入った時か、窓から中の様子を窺うと宣言があったタイミングで犬鳴村収容所のマップを開示すること。
犬鳴村マップ3.png
 収容所は石造りになっており、出入り口は一つしかない。中には看守室の他に大きな牢屋が一つあり、鉄格子の扉によって廊下と区切られている。
 収用所には牢屋内と通路上に鉄格子のはめられた窓が一つずつ存在し、看守の僧兵が昼は外に、夜は看守室に必ず一人居る。加えて、村内を巡回する僧兵が数十分毎に収容所の近くを通る(時間をかけているようなら遭遇させてもいいし、隠密系技能がなく暇を持て余しているような探索者に対処させるのも良いだろう)。
 牢屋の扉をSTR対抗で無理やりこじ開ける場合、5分ほどかけてSTR30との対抗ロールに成功する必要がある(このロールには内と外から3人ずつ協力できる)。〈鍵開け〉を使用する場合、ヘアピンなどを使って1d6ラウンドほどで開けられるだろう(〈機械修理〉で試みる場合、構造がやや複雑になっているので成功率が半分になる)。
 牢屋の鍵は看守が持っているが、探索者が見張りの僧兵を引き付けるなどの有効な動きをした場合には、看守室にあったことにしても良い。その際には、◆手書きの文章(『クタート・アクアディンゲン』の日本語訳)も看守室においておくといいだろう(12-2.「聖母の兄弟団」幹部たちを参照)。また、牢屋の中にある小窓から筆記用具と紙を与えることで、中にいる人物と筆談が出来るかもしれない。

18-3.工藤新収容後について
 工藤新が「落下」のイベントの際僧兵に発見されていれば、彼は僧兵に担がれてこの収容所に送り込まれることになる(17-4.村長による詰問を参照)。
 情報を聞き出した後、彼は収容所に入れられたまま放置される。探索者たちが接触することは可能だが、筆談するなどの工夫をしなければ、収容所を警備する僧兵の〈聞き耳〉ロールを行い、成功時には探索者たちの存在が発覚する。この後僧兵がどうするかはKPの手に委ねられるが、戦闘が発生する可能性は高いだろう。
 収容されている工藤新は自分の救出か、それが難しい場合は自分の持ってきた無線機を使用して外周にいる仲間と連絡を取るよう要請してくる。ただし、彼は無線機がどこに保管されているか知らないことに注意すること。彼の素性や目的などの情報は、彼を救出するか有効な〈信用〉技能ロールの成功、あるいは探索者が犬鳴村住人でないことを証明できなければ話すことはないだろう。
 看守室には工藤の持っていた九四式六号無線機が保管されており、探索者が〈機械修理〉に成功するか、工藤が90%のロールに成功すれば犬鳴村付近に潜伏する通信小隊と連絡を取り合うことができる。詳しくは24.犬鳴村襲撃計画を参照すること。


19.金田一について
 金田一は数か月前にこの村を訪れた探索者パーティの一人である。彼らは村の前に敗れ去り死亡したが、金田一だけは左腕を失いながらも「いぶ様」を妄信する不定の狂気に陥ったため、唯一村長に見逃されて生き残った。彼の住所は住民に尋ねればすぐに判明するし、KPの手で遭遇させてもよい(地図では⑧の家である)。

 彼の家に赴けば、明らかに異常な様子は見て取れる。しかし、生え抜きの犬鳴村住人は彼を狂人とはみなしておらず、あくまで熱心な「いぶ教」徒としてみなしている。このことは、探索者達にこの村への不信感を抱かせるかもしれない。以下は描写例である。

 金田の家の内部には、彼の抱える狂気そのものが現出していた。壁という壁はマントを羽織った黒い存在と無数の目と口に覆われた球体の絵で埋め尽くされ、その隙間を埋めるように「いぶ様」「Eve」「ばぐ様」「いあ いあ」といった神を称える文字で埋め尽くされている。黒く染められた壁が放つその圧は、探索者たちに名状し難き恐怖を刻み付けることになる……。【1/1d4+1のSANチェック】

 彼は極度の恐怖から、絶対的な存在へ陶酔することで自分の精神を保っている。彼に対する〈精神分析〉に成功すれば症状を和らげ、探索者たちとの会話が可能になるが、村長や教団の正体といった重要な事柄は狂気と《記憶を曇らせる》の影響で忘れてしまっている。
 彼の家の中には予備のフィルムや現像に必要な物品一式を含むカメラセットが保管されている。彼の狂気が回復していない場合、〈目星〉ロールに成功すれば見つけることができる。写真は没収されてしまっている(犬鳴村教会の倉庫に保管されている)が、補完されているフィルムにはまだデータが残っている(僧兵たちは最新機器であるカメラの構造まで理解できなかったのだ)。
 金田が正気を取り戻していれば写真の現像を補助してくれる(補正値は自由)が、そうでない場合には探索者たちが〈写真術〉か〈化学〉ロールによって現像を行わなければならない。このロールは協力者が居る場合、KPの裁量で技能値の合算でロールを行うことができるなどの補助を加えても良い。失敗時には得られる情報に欠落が生じたり、一部が漠然としたものになる。
 現像には一時間近くかかり、その間部屋の中は真っ暗に締め切られた状態になる。KPが望めば探索者たちの代表者に何回か〈幸運〉を振らせ、失敗時には巡回の僧兵をぶつけると良いだろう(実際に発生する酢酸の臭いはきついものがある)。僧兵を追い返すには、〈言いくるめ〉が最も有効である。
 写真の内容は◆年初の儀式、◆ラテン語の文章、◆僧兵の写真に分けられる。

◆年初の儀式
 これは昨年教会で行われた《溺者の招来》の呪文を使用した儀式の様子を外から収めたものである。入り口から覗くのは床に描かれた歪な五芒星を中心に置いた円から淡い光が壁のように天井へと伸びている光景であり、教会の天井が消失し、人間の背丈の4倍近くにもなる巨大な黒い影がたたずんでいる様子が写っている。
 ピントが完全にはあっておらず、写真いっぱいに写っているものの正体はいまいちわからないが、その存在感は見るものを圧倒し、精神を蝕む瘴気を孕んでいる。この写真を見た探索者は【1/1d3のSANチェック】

◆ラテン語の文章(『クタート・アクアディンゲン』の呪文部分)
 特に読み込まれ、書き込みがあった部分(呪文に必要な部分)が写真として納められている。全てラテン語で書かれており、10%以上〈ほかの言語:ラテン語〉技能を持っている人は呪文の各タイトルをロールなしで読むことができる。呪文の内容を理解するためには〈ほかの言語:ラテン語〉に成功する必要がある。この時、INT*3ロールに成功すれば、その呪文を完全に習得できる。内容を理解している人物が他者に教えることで、セッション中においてのみその呪文を使用できるようになる。
〇《溺者の夢》(コスト:1MP*対象となる人数)
・この呪文を使用することで、イブ=ツトゥル神と精神的に接触することができる。
・この呪文は外なる神が信者に向けて使用することもあるし、司祭が外なる神と信者とを仲介する目的でも使うことができる。
〇《ナイハーゴの葬送歌》(コスト:12MP、1d6正気度)
・この呪文は死より蘇りしものを精神力で打ち勝つ(POW対抗ロールに勝利する)ことで元の姿に帰す呪文であり、詠唱後ただちに効果が発動する。
・コストを倍以上支払うことで、その倍数に応じて対象の数を増やすことができる。
〇《大いなるものの招致》(バグ=シャースの招来)(コスト:1POW、10MP)
・この魔術は大いなるもの、バグ=シャースをこの世に呼び寄せるものである。
・大いなるものは呼び覚まされると、周囲の存在を攻撃する。故に、大いなるものは古き印の内側で召喚するか、その守護を受けた者が呼び寄せるべきである。
・大いなるものは光を非常に嫌う。故に、この呪文は完全な暗闇の中で行われなければならない。
〇《溺者の招来》(イブ=ツトゥルの招来/退散)(コスト:10POW、100MP、退散の呪文のコストは出現状態に応じて変動)
・この魔術は溺者と呼ばれる外なる神「イブ=ツトゥル」を顕現させるために使う。
・溺者の招来はこの呪文を知る人間を半数以上含む13人により、新年最初の日の夜に行われる。
・イブ=ツトゥルは触れたものに加護を与える。
・溺者の招来場所はナーク=ティトの障壁の内側にすべきである。
〇《古き印》(コストPOW2)
・この世ならざる存在が忌み嫌う印を生み出す呪文である。
・様々な魔術の中に織り込まれて効果を発揮するし、この印だけでも効果を発揮する。
 しかし、《古き印》の創造方法と効果を理解するためには〈アイデア〉ロールに成功する必要がある。また、〈クトゥルフ神話〉に成功することで、《古き印》を苦手とする神格を地面に描いた中に閉じ込められる可能性に気が付く。

◆僧兵の写真
 どこかの部屋の中を撮影したもののようで、顔の覆いを外した数人の僧兵の姿を確認できる。探索者たちには見当もつかないが、村人に見せれば映っている人物が過去この村で一度死んだ人間であることが判明する。この事実に気が付いた探索者は【1/1d4+1のSANチェック】。


20.村の警戒と探索者への対応
 17.落下のイベントが発生すれば、「聖母の兄弟団」は第一段階の警戒態勢に入ることになる(探索者たちがアグレッシブな場合には、警戒態勢が早期に敷かれるかもしれない)。警戒下の僧兵は鏑矢を装備し、戦闘が発生した場合には最初のラウンドの行動で鏑矢を放ち、村中に異変の発生を知らせる。このほか、探索者たちの村の物品に対する窃盗行為や、僧兵の警備対象となっている場所への侵入者が発覚した場合、あるいは僧兵の死体が発見された場合には、警戒態勢がさらに強化され、巡回する僧兵が三人一組で行動するようになる。もし探索者たちの殺人行為や村と教団に対する明確な敵対行為が発覚した場合、村の警戒態勢は最高の警戒態勢に入る。村長の対応については12-1.「聖母の兄弟団」司祭兼村長「ウォーレン・アダムズ」を参照すること。
 警戒態勢にある中で探索者がとった「聖母の兄弟団」にとって好ましくない行為が発覚した場合、上手い言い訳をするか〈言いくるめ〉などに成功しなければ、僧兵は探索者たちを拘束して犬鳴村収容所へ収容しようとする。その後、任意のタイミングで最大5点までの「天罰」が収容された探索者に下り、状況に応じて《支配》など任意の呪文を使用する。『クタート・アクアディンゲン』と司教杖を盗んだことが発覚した場合には、さらに苛烈な状況に陥ることだろう。復活の間への侵入が発覚した場合は15.復活の間を参照すること。
 僧兵が三人以上殺害されると、僧兵たちは全員教会の中に入って防衛体制を敷くようになる。僧兵の数が儀式を行う人数に満たない場合は15.復活の間を参照すること。


21.“幕府”への宣戦布告
 二日目の早朝、教会の近くでは僧兵が大声で「今日は司祭様より重大な宣託がある故、住民は教会に集まるように」との旨を話す。
 村長は集まった村人たちを前に説教壇に立つと、幕府の軍勢が犬鳴村に向かっており、敵に対抗するために「いぶ様」と「ばぐ様」の力を借りることに決めたという旨を高らかに宣言する。必要な情報を探索者が得ているのであれば、この言葉の意味を理解することだろう。以下は描写例である。

「いぶ様に産み落とされし神の子らよ。我らの信仰が今、存亡の危機に立たされておる。」
「彼奴らは……邪なる幕府の手のものは、300年の時を経てまた、我らの信仰を廃そうとこの地に近づいておるのだ。」
「そこで、我ら『聖母の兄弟団』は今日の祈りの日に際し、いぶ様とばぐ様に嘆願することを決めた。二柱の力をお借りし……信仰の敵を討ち果たすのだ!」

 その後、今夜は「日没後決して明かりをつけないこと」を厳命され、通常は日没後用意されるかがり火なども用意することを禁じられる(バグ=シャースの召喚に備えているのだ)。住民に話を聞けば、このような命令に前例がないことはすぐにわかる。


22.教団による儀式の準備
 二日目の午前中になると、村長と僧兵たちはイブ=ツトゥル、バグ=シャース招来に関する打ち合わせを行い、午後からは教会内で儀式の準備を行い始める。
 通常《溺者の招来》の呪文を使用する際の「祈りの日」の準備は、教会の床に敷かれているつぎはぎの敷物を脇に寄せ、床に描かれた《ナーク=ティトの障壁》と《溺者の招来》に必要な二重の魔法陣を露わにするだけで終了するが、今回の儀式に際しては村長の指示で《ナーク=ティトの障壁》の魔法陣を僧兵たちが破壊している。こうすることで「イブ=ツトゥル」の制約を外し、犬鳴村への攻撃を企てる帝国に対抗しようという腹積もりなのである。この作業は騒音を伴うため、探索者が察知する可能性は十分にある。
 この作業の間、教会に僧兵以外が立ち入ることは許されない。探索者が教会に入るためには、〈変装〉技能に成功する必要があるだろう。僧兵の服を用いて〈変装〉する場合は+50の補正が入る。KPの判断では別の処理も考えられるだろう。

23.塔馬想一郎との普通の共闘
 塔馬想一郎は「いぶ様」を模して肌を黒く染め、黒いマントを羽織っている青年である。彼のこの異様な容貌は彼なりの「いぶ様」への信仰心を表すものであり、他の村人たちはむしろ彼を尊敬している。彼の探索者達に対する態度もいたって丁寧である。
23-1.塔馬想一郎について
 彼は生活面における村人たちのリーダーであり、非教団幹部の中で最も教団に近い人物でもある。彼は立場上犬鳴村の村人たちが持つすべての情報を持っており、それまでに取りこぼした情報を与えてくれるかもしれない。一般シナリオにおける彼はラテン語・英語解読要員、情報提供役としての役割がある。しかし、探索者たちが外国語技能を持っているような場合、特に聞き込みにおいて工夫をしないような場合には、あえて彼をシナリオに出す必要もないかもしれない。
 彼は教団を人一倍警戒しており、探索者との会話に臨む際は(犬鳴村では珍しい)カーテンをしっかり閉め、そのうえで雑談を装いながら紙を渡し、筆談による会話を促す(処理上は普通に話してよい)。
 彼は神を奉ずる信仰心について教団のカルティストたちと変わらない強さを誇るが、僧兵による支配を快く思っておらず、粗野で身元が不祥な人間を幹部に仕立て上げている村長のやり方に内心反発している(彼は信仰信の篤さを幹部登用の指標にすべきと……はっきり言えば自分が教団幹部や司祭になりたいと思っている)。しかし、彼は一種のサイコパスに近い精神構造をしており、彼の内心を窺うためには〈心理学〉を1/5以下の出目で成功しなくてはならない。彼の精神構造については〈精神分析〉に成功すれば窺い知ることができる。

23-2.共闘を要請した場合
 彼に事情を打ち明け、教団殲滅に力を貸してほしいと申し出るなら、〈説得〉か〈値切り〉に成功する必要がある。この時彼は条件として以下の三点を挙げる。
・教団なき後の指導者として自分を据えること(10%)
・必ず村長を殺害すること(10%)
・村における「いぶ教」信仰の維持(40%)
 彼はタフなネゴシエイターであり、自身の置かれている弱い立場を感じさせることのない態度で交渉に臨む。これらの条件を一つ削るたび、カッコ内の数自分成功率が減少する。この交渉は有効な〈信用〉技能に成功することや、RPや提示する情報によって成功率が上昇する。極めて重要な場面であるため、基本的には素の値で成功率95から99を目安に惜しみなくボーナスを与えるよう努力すること。

23-3.共闘に成功した場合
 彼は一年前の探索者の持ち物からラテン語辞典を密かに入手しており、独学でラテン語学んでいた(『クタート・アクアディンゲン』に使われている文字だとわかっているのだ)。そのため、探索者が彼との協力関係を築ければ、魔導書の翻訳を頼むことができる。この場合、呪文を解読する度彼はINT*1ロールを行い、成功時には呪文を習得する。彼がいかなる呪文を習得したとしても本シナリオに影響はないが、彼が生き残り新犬鳴村の指導者となったとき、新たな火種となる可能性は残る。
 また、「聖母の兄弟団」との戦いで共闘を要請した場合、老人の助けなどで若い人手が必要なため、戦闘などの実力行使には自分しか人員を割けないと答えるほか、柏崎医師を救護班として連れていくことが可能である。彼は基本的に戦闘の最後に行動し、医療系技能を使用する。他に、塔馬を住民側に残す(戦闘に参加させない)ためには〈説得〉-10に成功する必要がある。適切な理由付けができればこのマイナスは相殺される。
 その他、探索者が望めば住民避難の細かい指示も出すことができる。特に指示がなければ、最も安全と思われる犬鳴村田畑とは反対側の崖付近へと密かに避難する。

23-4.共闘に失敗した場合
 このことは、塔馬に計画の失敗を予感させたか、あるいは共闘するリスクと得られるメリットが釣り合わないと感じさせたかである。この場合、彼は探索者たちから得た全ての情報を、隙を見て村長に伝えようとすることになる。探索者は彼を殺害するか、拘束する必要に迫られるだろう。


24.犬鳴村襲撃計画
 九四式六号無線機の起動に成功すると、村の付近に潜伏している犬鳴村襲撃司令官「一林清直(いちばやしきよなお)」大尉と連絡を取り合うことができるようになる。一林大尉は司令部からの伝言として現在の状況を報告することを要請し、また犬鳴村襲撃作戦は一週間以内に発動される見込みであることを伝える。賢明な探索者であれば、どのような形であれ彼らを利用しようと考えるだろう。

24-1.襲撃計画を早める
 探索者達が今日の夜に襲撃を実行してほしいと伝えると、一林大尉が少し困った様子を見せる。〈心理学〉に成功すれば、彼はこの作戦について探索者の知らない事実を知っており、内心作戦実行をためらっているのではないかと感じる。この点を問いただすか〈言いくるめ〉ロールに成功すると、実はこの犬鳴村襲撃計画は陸軍省と天皇の裁可を得ておらず、一部軍人たちが独断で進めているものであるという事実が判明する。そのため、探索者が襲撃計画の繰り上げを要請する場合、通信手の中継によって犬鳴村後方にいる現地責任者「牟田ロ廉也(むたろれんや)」少佐と交渉しなければならない。
 襲撃計画の繰り上げを要請するためには、〈説得〉ロールが必要である。“戦果”や“名誉”をチラつかせて頼み込む場合には、〈値切り〉、〈言いくるめ〉などのロールも可能になるし、+補正も入るだろうだろう。ただし、合理的思考と愛国的精神が重要視される軍隊においては、オカルト的な理由づけによる説得が逆効果であることに注意すること。このロールは犬鳴村に関する新たな情報が手に入るたび、何度でも挑戦することができる。

24-2.襲撃準備
 急な作戦変更に現場は混乱するが、最終的には二日目の夜までにライフル兵が100人近く、他には砲兵のほか、伝令や通信、補給を行う諸兵科を伴う混成一個中隊が犬鳴村周辺への展開を終えることになる。ライフル兵の配置や補給は午後から10名構成の分隊単位で順次完了するが、砲兵の展開は射線確保のため密かに森を切り開かなければならず、どうあがいても日没までかかってしまう。探索者の判断で日没前に攻撃を仕掛けさせようとする場合には30、その他のパターンを参照すること。
 また、探索者はこの時物資を要求しておけば、夕方の薄暮れ時にこっそりと受け取ることができる。ただし、極秘の作戦計画という性質上、しかも準備が整っていないという現状から、受け取れる物資は基本的に一人手榴弾一個、弾薬なども1~2マガジン分などと限られることになるだろう。それ以上の物資や大量の爆薬などかさばる武装を望む場合、夜鬼に発見される可能性が〈目星〉の値を基準として上昇する。

24-3.ライフル兵による支援
 各兵科の基本攻撃方針は以下に示してある通りだが、作戦結構までに一定程度の軍事的合理性に基づく作戦提案を探索者たちが行えば、軍は柔軟に受け入れる。なお、犬鳴村に下りたって以降ライフル兵たちと探索者たちは連絡を取り合うことができなくなることに注意すること。
 ライフル兵は分隊ごとに村を包囲する形で展開し、僧兵による警戒が解かれる日没と同時に犬鳴村に下りたって戦闘を行う(目視による狙撃は人の区別が困難であるうえ、狂信者を殲滅できないためだ)。その後ライフル兵は事前に得ている情報をもとに「敵」とされる相手を倒しつつ、本丸である教会を目指そうとする。
 ライフル兵は38式歩兵銃を装備し、近接戦闘が見込まれる場合には銃剣を装備して対応する(着剣状態では射撃と刺突の両方が可能)。彼らは状況に応じて、最適と思われる方法で戦闘を行う。明らかな狂信者や異形を相手に彼らがためらうことはないが、明らかに正気を保っている人間相手に攻撃する場合、最初のみ成功率が半減する。
 主なライフル兵のステータスは以下の通り。

日本軍ライフル兵
STR15 CON16 POW14 DEX12
APP11 SIZ14 INT12 EDU12
HP15 MP14 DB+1d4 現在正気度50
武器:
38式歩兵銃 60% 2d6+3 耐久値12 故障ナンバー00 装弾数5発 ラウンド1/2
銃剣による刺突 60% 1d6+db 射程タッチ 耐久値10 
技能:
登攀90%、忍び歩き75%、水泳55%、戦場を駆ける72%、員数を合わせる(〈隠す〉技能に相当)92%、愛国心83%

 このステータスは基本的に共通のものであるが、探索者が特定の技能に秀でた人材を求めるような場合には、KPの判断によりステータスを現実的な範囲内で変更してよい。

 彼らは基本的に夜鬼の群れや、バグ=シャースの粘液によって復活したゾンビへの対応に追われることになり、探索者のもとへとたどり着けるのは、わずかに1d4人がそれぞれ1d3ラウンドかけて五月雨式にやってくるだけである。

24-4.砲兵による支援
 中隊は四一式山砲一門を装備する砲兵隊を随伴している。砲兵は毎ラウンドの開始時にダメージ10d6、命中率95%の砲撃(事前に砲兵用の測量を済ませてある)を行い、それ以外のデータはルールブックの75㎜野砲に準じる。四一式山砲は犬鳴村の周辺からやや離れたところから曲射を行うため、SAN値減少による影響やためらいによる成功率の減少はなく、よほどのことがない限り夜鬼から攻撃されることもない。攻撃目標の変更を行う場合には射角調整などに1ラウンド以上かかる(KPの裁量で調整してもよい)。
 特に指示がない場合、まずはライフル兵たちの犬鳴村降下を手助けするために吊光弾(照明弾)を打ち上げて明かりを確保し、以降は本丸である教会に向かって直接榴弾による攻撃を行う。この攻撃対象は探索者の指示に応じて変更することができる。
 戦術的には夜襲であるため、バグ=シャースによって吊光弾が撃ち落とされてしまった場合でも、探索者の指示がない限り追加で吊光弾を撃つことはない(あくまで降下支援用なのだ)。なお、教会砲撃時入り口付近にいる探索者たちへの巻き添えは起こらないが(砲兵は側面の壁を砲撃している)、その他のシチュエーションでは付近に砲弾片が落下する可能性があることに注意すること。
 
24-5.オペレーション・「DAMU」
 犬鳴村周辺の地理情報(付近に川があるという情報)を知っている探索者が砲兵の存在を知り、〈アイデア〉ロールに成功すれば、崖に対して榴弾を撃ち込むことで、川を意図的に決壊させて村を水没させることが可能なのではないかという考えに行き当たる。もちろん、水に飲まれる自分たちは〈水泳〉ロールに失敗し続ければ危険な状態に陥ることは容易に想像がつくし、村人への対応も行わなければ甚大な被害が出ることもわかる。崖に対して100ポイント以上のダメージを与えることができれば、川の水が徐々に犬鳴村を飲み込んでいくことになる。この作戦を実行した場合の処理については、30.その他のパターンを参照すること。


25.イブ=ツトゥル招来の儀
 26.大いなるものの解放も併せて参照すること。
25-1.招来の儀の開始
 日没後しばらくしてから儀式を行うのが常であるが、襲撃が始まったことを察知すれば即座に儀式を開始する。儀式の終了タイミングは開始から1d4+2ラウンドである。儀式が始まると教会の上部が巨大な《門》となってドリームランドと空間的につながり、大量に飛来する夜鬼が周囲に展開し、おそらくは村に降り立とうとしている日本兵たちに襲い掛かる。以下は描写である。

 村の中心にある教会風の建物が、変化を遂げていた。尖塔は黒い渦に飲み込まれて消え、やがて屋根自体をすっぽりと飲み込んでいく。その渦は数十体もの異形のコウモリを吐き出し、ライフルの雨が降る中、村の外周に向かって飛び立っていく。この非日常的で異常な光景を目撃した探索者はさらに……その渦の中心から放たれる、吐き気を催す圧力を感じ取ることになる。

 この《門》に対する物理的な攻撃は一切の意味を持たない。儀式の光景を外部から目撃した場合は【1/1d4のSANチェック】を行う。また、犬鳴村外周部にまだ日本兵がいる場合、《門》を通して垣間見える異界の姿を目撃することにより、一割ほどが狂気に陥る。

25-2.招来の儀を阻止する
 教会の前には儀式を行っている13人を除き、その時点で生き残っている僧兵が全員陣取っている。基本的には彼らを全員殺害しなければ中へ入ることはできないだろう。
 探索者が儀式途中の教会に踏み込むと、奥にあった像の覆いが外されており、その姿とうり二つの存在が教会へと降り立とうとしていることに気が付く。教会内の像を見たことのある探索者は、まさにあの像が模した存在そのものが現れようとしていることがわかる。教会に入った探索者は儀式の進行度に準じて手加減を加えたSANチェックを行い、正気度を減少させること。

 教会内では13人の僧兵が等間隔に円陣の周りに立って呪文を詠唱しており、その中の一人は奪われていなければ『クタート・アクアディンゲン』を手に持ち、像に触れながら詠唱を行っている。詠唱中でも、僧兵たちは詠唱を中断することなく《被害をそらす》の使用と回避行動ができる。
 僧兵たちのうち誰か一人でも死亡、あるいは気絶した場合、儀式は失敗してイブ=ツトゥルがこの世に顕現することはなくなる。手榴弾などの範囲攻撃を行う場合、散らばっている僧兵たちの何人に命中したかは1d3といった形で決定する。
 また、探索者たちは儀式途中に《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を用いることでも召喚を阻止できる。この場合、退散の呪文に必要なコストは召喚に必要なコストを現在出現しているイブ=ツトゥルの割合に合わせたぶんになる。退散の呪文の発動タイミングはラウンド最後であるため、詠唱中に詠唱者が死亡するなどして足りなくなった場合には呪文は失敗する。

25-3.「ザ・ブラック」の襲撃
 イブ=ツトゥルの召喚に失敗したことを悟ると、僧兵たちは絶望のあまり呆然とその場に立ち尽くす。そんな中、召喚されつつあったイブ=ツトゥルの半身が門の消滅によって分断され、黒い紙吹雪のような形をとってひらひらと僧兵たちの体を覆い、彼らを“溺れ”状態に陥らせる。基本的にこの「ザ・ブラック」による襲撃で僧兵たちは全滅する。
 「ザ・ブラック」は瞬く間に教会全体へ広がり、探索者達はその場から逃れなければならなくなる。〈幸運〉に失敗した探索者は、不運にも教会から脱出する前にザ・ブラックが降りかかってしまうことになる。〈回避〉に成功しなければ僧兵たち同様ザ・ブラックが体表を覆い、“溺れ”のルールに従ってダメージが発生していく。ザ・ブラックの犠牲者になっている人物は動けるものの全身タイツのような状態になり視界を奪われるため、他の人間の補助がない限り〈幸運〉に成功しないと入口の方向に逃げ出すことができない。他の人物が補助に入る場合、DEXの平均値で対抗ロールの判定を行う。逃げ出した後は扉を閉めさえすればひとまずザ・ブラックによる被害が拡大する心配はなくなる。
ザ・ブラックについての情報は27.「いぶ様」の降臨を参照すること。


26.大いなるものの解放
 25.イブ=ツトゥル招来の儀も併せて参照すること。
26-1.バグ=シャースの解放とゾンビの召喚
 村長は儀式が始まると教会を抜け出し、復活の間のバグ=シャースを開放しに向かう。杖は持っているものの、杖には頼らず普通に走って向かうため、1ラウンドもすればその場からいなくなる。復活の間にたどり着いた村長は地下室への入り口と地下室にある《古き印》を破壊し、バグ=シャースを村に解き放つ。このタイミングはイブ=ツトゥルの召喚が阻止されるか、退散させられた後になるだろう。封印を解いた後の村長の動きは別項を参照すること。
 以下はバグ=シャース登場時の描写例である。バグ=シャースを目撃した際は【1d6/1d20のSANチェック】となっている。

 その存在は、石でできた小屋の真上に、空間から染み出すようにしてやってきた。
 ゼリーのような黒い粘液の球体に、多くの口と無数の目を備え、その場にいる人間を舐めるように見回していく。やがて姿を完全に表すと、粘着質にぬめる唇の群れがヘドロじみた唾液を垂らし、口笛を吹きながら、狂気のさえずりをあたりに注ぎ始めた……。
 バグ=シャースのステータスは以下の通りである。詳しくは『マレウス・モンストロルム』を参照すること。

バグ=シャース 大いなるもの(マレモンP233)
STR50 CON45 POW25 DEX10
SIZ65 INT15 移動6 耐久力55 
武器:覆い被さる 60%、キス 自動成功、投げキッス 特殊
装甲:火と電気、魔術か魔力を付与された武器、および光によってのみダメージを受ける。
呪文:《神格との接触/イブ・ツトゥル》、およびキーパーが望むだけの呪文

 バグ=シャースは次元の制約に囚われないため、《古き印》のくびきから脱した瞬間に犬鳴村の地上へと飛び出す。しかし、犬鳴村の地上へと飛び出したバグ=シャースは吊光弾によるダメージをただちに受け、村全体に向けて自身の分泌液を体内から発射し、吊光弾を無条件で打ち落とす。その後、バグ=シャースの体液は村の周囲に埋葬された死者を粘液に覆われたゾンビとしてただちに蘇らせ、肉を求めて(恐らくは日本兵のほうに)動き出す。タイミング的には、迫りくる夜鬼の集団をしのぎ終えた日本軍のライフル兵たちと交戦することになるだろう。
 探索者たちは四方から発せられる亡者のうめき声と日本兵たちの悲鳴を聞き、【0/1d3のSANチェック】を行う。僧兵の死体についての処理はKPに任せるが、復活させる場合はそれぞれにつき1d6ラウンド後くらいを目安とするといいだろう。ゾンビとしてのステータスは生前のものを引き継ぐが、DEXは半分に低下する。新鮮な死体であるために装甲はないものとしてもよい。ゾンビを近くで見た際のSANチェックは通常通り行う(一体のゾンビを見た際の減少値は1/1d6である)。教会の前には井戸があるため、ここにゾンビを落としたり、井戸から汲んだ水をゾンビにかけたりすることにより、体を覆う粘液が一部流され、ゾンビの動きを止めることができるかもしれないし、ダメージが入るかもしれない。

26-2.バグ=シャースの行動ルーチン
 バグ=シャースが地上に姿を現した後は、自身に対して攻撃を行う存在のいる空間において無差別に(僧兵も含めて)攻撃を加える。探索者たちが応戦しなければ、村の周囲で戦う日本兵たちに襲い掛かる。人間に攻撃する場合、基本的には60%の覆いかぶさりしか行わず、対象は自身を攻撃してきた人間の中からランダムに決定し、その周囲に居る人物全員を対象に取る(煩雑さを避けるため省略してよいが、『マレウス・モンストロルム』の記述に従って、複数人が攻撃を受ける場合対象以外の犠牲者はDEXの低い順に、一人ずつ覆いかぶさりの成功率を10%ずつ減少させてもよい)。
 覆いかぶさりが成功した場合、1d2によって6d6ダメージ(犠牲者が複数いる場合算出ダメージは分散する)か〈組みつき〉を選択する。〈組みつき〉時にはSTR50(犠牲者が複数いる場合STRは分散する)と犠牲者のSTRとの対抗ロールを行い、失敗した場合にはバグ=シャースのキスを受けて“溺れ”状態になる。“溺れ”状態は〈応急手当〉ないし〈医学〉ロールに成功するか、大量の流水を浴びることによって回復することができる。
 また、ラウンド終了時に吊光弾が存在している場合、通常の行動とは別に80%の確率で命中する分泌液の射出(バグ=シャースの投げキッス)を行い、命中した場合撃墜する。なお、教会はイブ=ツトゥルの像が存在しているため、中にいる人物がバグ=シャースの攻撃を受けることはない。

26-3.バグ=シャースと戦闘する
 バグ=シャースを物理的に撃退しようとする場合、主な攻撃方法とダメージ量の例は以下の通りである。探索者の発想に応じて柔軟に対応し、ダメージを算定すること。また、基本的に召喚時は無条件で(吊光弾により)3d10ダメージ受けることを忘れないようにすること。
信号拳銃…〈拳銃〉に成功すれば1d3ラウンドの間1d3の継続ダメージ
たいまつ…〈投擲〉に成功すれば1d6ダメージ
周辺が燃えている…規模に応じて1ラウンドごとに1d3~6ダメージ
ランタンの明かり…1ラウンドごとに1d3ダメージ
カメラのストロボ照射…〈写真術〉ロールに成功すれば1ラウンドごとに3d6ダメージ、失敗時も1d6ダメージ
吊光弾…1ラウンドごとに3d10ダメージ
四一式山砲の至近弾・命中弾…爆発時の光と爆炎により1d6ダメージ

 吊光弾が落とされた後、再度の打ち上げを要請する場合は無線機による連絡が必要となる。

 また、こうした物理的な方法以外にも、魔術的な方法でバグ=シャースに対処することも可能である。バグ=シャースに退散の呪文は存在しないが、地面に書かれた《古き印》の中に閉じ込めることで完全に封じ込めることができる。この作戦は『クタート・アクアディンゲン』に書かれた同神格の項を読んだ探索者が〈アイデア〉に成功することでも気が付くことができる。具体的には、地面に描いた非活性状態の《古き印》の中にバグ=シャースを誘い込み、タイミングを合わせてPOWを込めるといった具合だろう。ただし、通常古き印を地面に描くのには1ラウンドを要し、うまく誘い込むためには〈回避〉によってキスによる攻撃を避けなければならない。
 封じ込められたバグ=シャースは以降、単なる正気度喪失の大きいゴスペラーズとなり、シナリオに大きな影響を与えなくなる(目撃時の正気度喪失は通常通り発生する)。

26-4.バグ=シャースとの戦闘を避ける
 探索者は必ずしもバグ=シャースと直接戦闘する必要はない。ただし、その場合日本兵は全滅に近い打撃を受けることになるだろう。この場合、バグ=シャースの攻撃によって崩された包囲網から突破してきたゾンビや、おそらくは入口付近にある僧兵の死体が一定ラウンド後にゾンビ化し、探索者たちに襲い掛かってくるかもしれないし、もしかすると村長ことアダムズと戦う羽目になるかもしれない。村人たちや日本兵を見捨てて村からの脱出を図る場合は、日本兵が使った降下用のロープが役に立つだろう。

27.「いぶ様」の降臨
27-1.イブ=ツトゥルの召喚
 儀式の阻止が間に合わなかった場合、イブ=ツトゥルは抑制のない状態で完全に召喚されてしまう。この姿は教会の外からでも確認できる(SIZは52もあるため、教会内に姿が収まることはない)ため、その姿を目撃した日本兵たちの多くは狂気に陥る。この光景を目撃した探索者は以下の描写を読み上げたのち、【1d6/1d20のSANチェック】を行う。

 教会には、大きく膨らんだマントをうねらせる、巨大な人型の存在―イブ=ツトゥル―が鎮座していた。マントからは無数の黒い乳房が垣間見え、それらには有翼の、爬虫類じみた無貌の生き物―夜鬼―が群がっている。やがて、不快にぬめった、漆黒の顔に位置する双眸の瞳が開かれると、自己を見上げる矮小な存在たちに胸の悪くなる目線を向けた……。

 イブ=ツトゥルが召喚されると周りにいた僧兵たちは興奮を抑えきれず、たまらず神のもとへと駆け寄っていく。この光景を見て《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を知っている探索者が〈アイデア〉に成功すると、大量のPOWとMPを消費しているはずなのに司祭を含む僧兵たちに全く憔悴した様子が見られないことがわかる(イブ=ツトゥル像からMPとPOWを調達したのだ)。この発想に至った探索者が像の秘密を知らない場合、さらに追加で〈アイデア〉(過去に像を調べていれば成功率+20)に成功すれば、この像がMPとPOWを溜め込んでおり、自由に魔術に使えるようになっているということまでわかるということにしてもよい。
 僧兵たちはイブ=ツトゥルの体に触れると瞬時に狂死するか、あるいは錯乱して自らの目をえぐり出す、奇声を上げながら床に頭を打ち付けるなどの奇行を行うようになる。やがてそんな僧兵たちにイブ=ツトゥルが100%のタッチを行うと、その体は人体の根源―すなわち塩の山―へと変化する。この光景は【1/1d6のSANチェック】相当の出来事であるが、KPの裁量で慣れのルールを適用して省略してよい。

27-2.イブ=ツトゥルとの戦闘
 イブ=ツトゥルのステータスは以下のとおりである(『マレウス・モンストロルム』の当該ページより一部編)。

イブ=ツトゥル 忍耐強きもの(マレモンP142、または基本ルルブP208)
STR40 CON48 SIZ52 INT60
POW65 DEX16耐久力50 DB+5d6
移動0
武器:タッチ 100% ダメージ 何らかの激烈な喪失もしくは変化
ザ・ブラック100% ダメージ 窒息
装甲:12ポイントのマント及び1ラウンドに5耐久力を再生
呪文:《ザ・ブラックの召喚》、《夜鬼の召喚/従属》、《バグ=シャースの招来》
《ザ・ブラックの召喚》…イブ=ツトゥルの血液たる「ザ・ブラック」を召喚し、意のままに操る

 イブ=ツトゥルは移動力が0であるため、その場から一歩も動くことはない。まずこの神は《ザ・ブラックの召喚》を使用して教会外にいる人間たちを襲わせる。教会内に探索者たちが残っている場合、1d3ラウンド後に1d6体の人間を襲えるだけのザ・ブラックを教会内に召喚して攻撃させる。「ザ・ブラック」のデータは以下の通りで、攻撃対象はランダムに選択される。ただし、《古き印》を持っている人間が狙われることはない。

ザ・ブラック イブ=ツトゥルの血液
DEX3 HP1 
武器:取り付き 100% 対象を“溺れ”状態にし、DEXを一時的に3減少させる(この効果は攻撃を受けるごとに累積する)。行動は可能だが詠唱は不可能であり、全身タイツ状態なので視界も奪われる(誘導に従って動くことは可能)。
装甲:魔力を付与されている武器、《古き印》、《イブ=ツトゥルの招来/退散》、大量の流水による攻撃以外は無効

 〈アイデア〉に成功すれば、イブ=ツトゥルによって生み出されたものならば、《イブ=ツトゥルの招来/退散》を唱えることで撃退できるのではないかという発想に至る。1ラウンドにつき1MP消費することで一人分の「ザ・ブラック」を退散させることができる。このロールは気が付くまで毎ラウンド行うことができる。また、《古き印》を押し付けることでも1ラウンドに1人”溺れ”状態を解除することができる。イブ=ツトゥルが撃退された場合、召喚された「ザ・ブラック」も同時に消滅する。

27-3.探索者の行動
 探索者がとりうる方法は、ここに至ってはあまり多くないだろう。シナリオ上で想定している行動は以下の三つである。
 一つは、イブ=ツトゥルの像まで駆けていき、像の力を利用して《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を使用することだ。イブ=ツトゥルの脇を通り抜ける際、巨大な手によるタッチから逃れて像までたどり着くためには、1ラウンドかけて〈回避〉かDEX*3のロールに成功しなければならない。退散の呪文は詠唱を開始したラウンド終了時に完了し、それに伴うコストやロールは必要ないが、そばを通り抜けて呪文を唱え終えるには最短でも2ラウンドかかるだろう。
 この時、探索者が哀れにもタッチの犠牲者になった場合には、その人物がPOW*5ロールに成功すれば「身に起こる激烈な変化に耐え、絶命する前に外なる神を退散させることに成功した」ということにしてもよい。この時、神の撃退を目の当たりにした村長―アダムズ―は絶望し、《門の創造》を使用して去りゆくイブ=ツトゥルとともにドリームランドへと渡っていく。
 考えられる二つ目の方法としては、イブ=ツトゥル像の力を借りずに《イブ=ツトゥルの招来/退散》の呪文を複数人で唱えるというものである。この場合、POWとMPの消費は通常通り行うことになる。一度教会の外に出て、ザ・ブラックに襲われる人々を助けたうえで呪文を唱えることもできるし、教会内で即座に唱えることも可能である。ただし、詠唱中にコストが支払えなくなった場合、呪文は自動失敗となり支払ったPOWとMPも返ってこない。
 三つ目の方法としては、75mm砲によって川の決壊作戦を発動させることである。無線機が使える状態にあるか、KPは確認を行うこと。作戦が成功すれば、大量の流水によってザ・ブラックの犠牲者は”溺れ”状態から回復され、ザ・ブラック自体も消滅する。この場合アダムズは敗北と村の全滅を悟り、《門の創造》の呪文を使用してどこか別の新天地(おそらくはイギリス)へと逃亡する。


28.村長の逃走と戦闘
28-1.逃走する村長
 村長は儀式の失敗を悟ると《消滅》の呪文を使用し、変装した後状況に応じて《門》のある場所まで突破を試みるか、避難する住民に紛れようとする。儀式が失敗に終わった後の彼の狙いはこの場をやり過ごし、再建後の犬鳴村で密かにカルトを再興することであり、そのために必要な行動をとる(長年かけて作り上げてきた犬鳴村を捨て去るのはやはり惜しいのだ)。探索者たちが消えた村長を探そうとする場合、村長と遭遇するシチュエーションを設定するよう努めるべきだろう。タイミングが早ければ早いほど、村長が単独で行動している可能性は高くなる。
 赤毛を隠すため、村長は頭を血で偽装した布で覆う、泥と土にまみれて露出した白い肌をごまかす、杖を服の内側に隠すなどの変装を行う。しかし、目の色や目を引く長身、何より持っている杖の存在を完全にはごまかせないため、探索者がその正体を見破る可能性はある。彼の正体を見抜けるかどうかは、その時点までの探索度合いによるだろう。村長が姿を見破られたと確信した場合、彼は探索者たちを皆殺しにしようとするか、夜鬼の背に乗って逃げようとする。

28-2.村長を比較的安全に無力化する
 探索者たちが村長を安全に無力化するためには村長が自身の正体を見抜かれたと気が付く前に不意を打つことが必要である(ただし、〈心理学〉に長けた彼を欺くのは難しい)。
 しかし、条件さえそろってしまえば距離をとった後に41式山砲で撃ってもらう、ライフル兵や探索者たちによる一斉射撃を行うなど様々な方法がとれるだろう。崖から突き落とすなども有用な方法であるが、村長がフル充填の杖を持っている場合《被害をそらす》を使用するため、ダイスの出目によっては耐久力を削り切れない可能性がある点に注意すること。

28-3.村長と戦闘する
 正面から戦えば甚大な被害が想定されるが、シナリオ進行上戦闘になってしまう可能性は十分にあるだろう。村長は戦闘の際、以下に示す3パターンの行動を基本的にとる。KPはこれらをランダムに決定するか、適当と思われる行動を選択して実行すること。戦闘バランスを考慮して、以下に上げる以外の行動をとってもよい。なお、《門の創造》の使用は最低でも2ラウンドいっぱいかかり、その間無防備になるため戦闘中には使用しない。。
 村長は自身への攻撃を全て《被害をそらす》によって受け流しつつ攻撃を行うが、合理性に反すると判断した場合は別の行動もとりうる。旗色が悪くなったと判断すれば、夜鬼を利用して戦闘から離脱する(その後、《門の創造》によって逃げ出す)。
ランダムな対象に《手足の萎縮》を使用する。失わせる四肢は最も有効な部位を指定する。
《支配》の呪文を使用し、ランダムな対象を操って行動させる。
夜鬼を1d4体召喚し、戦わせる(一体につき1MPを消費)。この夜鬼は村長の命令により尾による打撃(30% 1d6+db)による攻撃を行い、村長の戦闘離脱後も攻撃を続ける。夜鬼のステータスは以下。

アダムスの召喚した夜鬼
STR11 CON10 POW4 DEX12
SIZ17 INT3 HP14 MP4 DB+1d4
武器:
尾による打撃30% 1d6+db

 村長は不老不死であるため、耐久力1が以下になることはない(気絶はする)。しかし、頭をつぶす、言葉を発せないよう舌を切り取るなどの方法で無力化することは十分に可能であるほか、猿轡を噛ませて拘束したうえで日本軍に引き渡すなどの方法もあるだろう。


29.エンディング描写
 以下に上げるのは、セッションの最後に読み上げられることを想定した描写例である。特に軍の動向などに応じて、内容は変化することだろう。探索者があえて軍の手を借りないなどの措置を行ったなら軍の伸張に歯止めをかけられるし、仮に日本軍が壊滅的な被害を被ったならば、軍の権威は著しく傷つくことになる。史実の日本は「満州某重大事件」において関東軍の暴走を止められなかったが、「犬鳴村某重大事件」の結果如何では歴史を変えることができるかもしれない。探索者の行動に応じて得られた結果に着目して描写を行い、セッションを締めること。

――かくして、地図にない村、犬鳴村における一大事件は幕を閉じた。
 いち軍人が政府の方針に逆らい、国内において独断で軍事行動を起こしたという事態は、政府内で波紋を呼ぶことになる。だが、首謀者が新補職(天皇が任命する役職)でもある中将であり、軍部の擁護もあったことから、この出来事は「犬鳴村某重大事件」として極秘裏に処分される……はずであった。
 しかし、同年に中国東北部……満州の地で発生した関東軍による謀略―満州某重大事件―により、犬鳴村の一件はなし崩し的にうやむやになってしまう。やがて、事件関係者に対する聞き取り調査が足早に行われ、そのまま事件の幕引きが図られることになった。
 関係者の発言は支離滅裂なものばかりであり、相互矛盾も多く指摘された。しかしながら、幕引きを急ぐ官僚たちはこれらを検証することもなく、そのまま一編の報告書としてまとめることにしたのであった。

『犬鳴村某重大事件録』
犬鳴村某重大事件録.png

 後世の歴史家を悩ませるこの事件の真相を知るものは、探索者たちだけである。


30.その他のパターン
○ダム作戦―Operation “DAMU”―
 いざという時に発動が可能なこの作戦だが、場合によっては最初からダム作戦を決行しようと検討するかもしれない。事前に指示を出しておけば、工兵の爆破作業により川の決壊に必要なダメージ量が50になる。この作業と村人たちの生命に気を払うのであれば、〈アイデア〉ロールによって村内のほとんどの建物が木造である(水に浮く)ことに気づかせてもいいだろう。この発想に基づいて事前に住民に指示を出していれば、基本的にダム作戦により住民が死亡することはない。
 この場合、教会が完全に水没したタイミングでイブ=ツトゥルが召喚され、その姿が水面上に露わになる(教会に居る僧兵たちはイブ=ツトゥルに触れたのちもれなく死亡、村長は〈水泳〉ロールをして逃げ出す)。
 探索者たちは屋根を渡り歩いてできるだけ多くの住民を巻き込んで退散の呪文を唱えるか、〈水泳〉ロールを繰り返しながら教会へと戻り、像を使って退散の呪文を行うかといった選択を迫られることになるだろう。屋根にいる村人の数は1d10人といった形で決めてもいいし、人がたくさんいる屋根に乗りたいなどと宣言があれば〈幸運〉ロールを要求してもいい。KPはPLの提案に応じて盛り上がる処理と妨害をすること。
 犬鳴村外周にいる日本兵はイブ=ツトゥルの懐から現れる夜鬼と「ザ・ブラック」への対処に追われ有効な援護は行えないが、砲兵は健在であるためイブ=ツトゥルの装甲と再生能力を差し引いたダメージが通る。減少した耐久力に比例して退散の呪文に要するコストを減らすこと。

○夕方作戦―Operation “NIGHTFALL”―
 場合によっては、探索者たちは砲兵の配備やライフル兵の配置が完全に終わる前から攻撃を仕掛けようとするかもしれない。この場合、60人ほどのライフル兵がまだ明るいうちに崖を下ってくることになるが、攻撃を察知した教団側が召喚した複数体の夜鬼の妨害を受けることになり、無事地上に降り立てる人員は半数ほどに、降下後には遅れながらも続々召喚されていく夜鬼たちとの戦闘のため、儀式が終わるまでに探索者のもとへとたどり着けるのは2d4人ほどに減少する。
 正面扉は即座に閉じられ、村長がその前で侵入者を迎撃する構えをとる。僧兵たちは教会内でイブ=ツトゥル招来の儀式を開始するが、初動が遅れるために詠唱終了までにかかる時間が1ラウンド伸び、教会の門番の数も減少する。
 探索者たちは村長を含む門番をできるだけ早く殲滅し、耐久力10の扉を破壊して儀式を阻止しなければならないだろう。日本兵がやってくるタイミングはそれぞれにつき1d6ラウンド後になる。

○門作戦―Operation “GATE”―
 犬鳴村倉庫の《門》を利用できるようになれば、探索者はこれを利用して周囲に展開するライフル兵を呼び込もうとするかもしれない。しかし、戦闘を間近に控えた緊張状態にあるうえ神話的事象に耐性のない日本兵は、門による移動を目撃する過程で一時的に取り乱し、《門》に発砲を加えて破壊してしまう。何人の日本兵が《門》を渡れるかは、1d6で決めてもいいし、彼らがPOW*5ロールに何連続で成功するかといった形で決めてもいい。
 銃声が聞こえると「聖母の兄弟団」は一気に儀式を行う態勢に入り、村長はバグ=シャースの解放に向かうこの時も初動の対応が遅れるため、儀式に必要なラウンド数は1ラウンド伸びる。変則的ながらシナリオで想定されているルートと同じものになるが、日が落ちる前に解放されたバグ=シャースは光を嫌い、森の中に逃げ込んで展開する日本兵たちに被害を及ぼす点が異なる。慌てて教会に向かう探索者たちがバグ=シャースの姿を目撃できたかは、〈幸運〉や〈目星〉によって決定されるだろう。バグ=シャースの姿を目撃しなかったとしても、空を悪魔が覆い、銃弾が飛び交う地獄絵図の戦場を目撃した探索者には、【1/1d10級のSANチェック】が待っている。

○反乱―Rebellion―
 復活の間にある情報を入手すれば、犬鳴村の統治の根幹である僧兵のトリックや「天罰」の真実について知ることができる。探索者はもしかするとこの情報を用いて、村長の支配の欺瞞について村人たちに触れ回るかもしれない。村人たちがこのことを信じるかどうかはまちまちであるが、村長が神の名を騙っているという話が与える動揺から、少なくとも村の支配を揺るがすのに十分な内容であることは確認できる。この情報を塔馬に吹き込めば、村全体を巻き込んだ反乱の機運を巻き起こすことになるだろう。
 アダムズはイブ=ツトゥルを召喚することで自身が「真に神に愛されている」ことを強く示すことで疑惑を払拭しようとするが、探索者たちが首尾よく動けばそれも不可能になるだろう。そうなった場合、彼は《門の創造》か、召喚した夜鬼の背に乗って逃げ出そうとする。それを阻止しようとする場合には、戦闘が発生する。

○ラブ&ピース作戦―Operation “LOVE & PEACE”―
 探索者によっては、村と軍との間で和解の道を探ろうとするかもしれない。村長はたしかにカルトの信奉者であるが、これまで世間に(あまり)害をなしてこなかったし、おそらくはこれからもそうであるからだ。また、現地司令官の一林大尉は非戦派であり、正式な裁可を得ていない作戦計画ということもある。このため、一林大尉とアダムズないし塔馬との間で休戦協定を結び、この事実を世間に公表して既成事実化すれば、少なくとも犬鳴村が軍に蹂躙されることはなくなる。この作戦が成功するかどうかはKPの裁量とPLのアイデアに委ねられるが、主に交渉技能が必要になるだろう。

○探索者大戦争―Investigators’ Great War―
 探索者の間で意見が分かれるのならば、殺し合うのもいいだろう。クトゥルフ神話TRPGは協力し合うゲームだが、たまには殺し合ってもいいのではないか。PLは各々の陣営に分かれてやりたいことを決め、KPはそれに応じてクライマックスの処理を行うこと。

31.成功報酬
○共通正気度回復報酬
殺害した夜鬼と僧兵一人につき1点
犬鳴村のカルト支配を打ち崩した…1d6点
バグ=シャースを撃退した…1d8点orバグ=シャースを無力化した…1d6点
イブ=ツトゥルを退散させた…1d10点orイブ=ツトゥルの召喚を阻止した…1d6点
アダムズを無力化した…1d10点
アダムズを取り逃がした…-1d6点
○神話技能報酬
イブ=ツトゥルの完全な姿を目撃した…5点
イブ=ツトゥルの部分的な姿を目撃した…3点
バグ=シャースの姿を目撃した…3点
夜鬼の姿を目撃した…1点
呪文を使用した…1点



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