クトゥルフ神話TRPGサプリ『インスマスからの脱出』紹介記事

「……滅びつつあり、半ば捨て去られたインスマスとその住人に関する暗い伝説があった。1850年ごろに行われていた恐ろしい交易の話、交配した漁港の古い家計には『どこか人間と違った』奇怪な要素が混じっている話などがあった。昔のニューイングランド人のみが思いつくことが出来、しかるべき畏敬の念を持って繰り返すような話である」
――H.P.ラヴクラフト



はじめに
 さて、今週はサプリ『インスマスからの脱出』の紹介記事です。冒頭の文章はカバーの裏面に書かれている文章であり、原作小説の一節ですね。ラブクラフトはマサチューセッツ州北東部のニューベリーポートへの旅行をきっかけに同じくマサチューセッツ州北部の漁村「インスマス」を舞台とした中編小説を生み出しました。その知名度たるや「クトゥルフ」や「ニャルラトホテプ」といった有名な神格に勝るとも劣らないでしょう。
 この『インスマスからの脱出』はラブクラフトの「インスマスを覆う影」など原作小説をもとにしており、文字通りラブクラフトが描写した全ての場所に加え、ダーレスの作品からも一部描写及び筆者の創作を取り入れて構成しています。その情報量は膨大であり、いかにクトゥルフ神話に精通している人であっても、基本的にこの本が情報面で有用性を損なうことは決してないと思われます。
 サプリの構成としては、最初のほうで20数ページにわたってインスマスの歴史や風土、1920年代における状況の解説がなされ、続いて50ページほどのインスマス各所の解説がNPCのステータス付きで入ります。その後は収録されている3本のシナリオページとなるんですが、驚くことにこのサプリは索引除く全173ページ中、P73~164がシナリオ部分となっています。また、巻末にはインスマスを舞台とした12本のシナリオフックと、インスマス全体の地図が載せられています。

サプリ紹介
 さて、ここからはサプリ各部分の紹介に入っていきたいと思います。まず最初に前半の部分ですが、ここでは主にインスマスの成り立ちから始まりこの町はどのような場所なのか、何が起き、どのようにして探索者達が登場する1920年代の状況になったのかが解説されています。オーベット・マーシュ船長から始まるマーシュ一族が登場する以前のこともまとめられていますし、インスマスシナリオを回すうえでは十分な程度に情報量がありますので、インスマスシリーズの原作を読んでいない方や、読んだことはあるがあまり内容を覚えていないという方でも、付属シナリオを回す際などに知識不足で困るということはなくなると思います。むしろ、このサプリを買って読んでしまうことによって逆に今後インスマスシナリオをPLとして参加する際に知識がありすぎて新鮮味がなくなってしまう可能性に注意すべきでしょう(この点から、このサプリはKPを主にやる人向けな面があります)。
 続いてインスマス各所の解説ですが、端的に言えばギルマン・ハウス・ホテルから悪魔の岩礁までといったところでしょうか。私も原作を読み漁っているというわけではないので確実なことは言えませんが、恐らく余すところなくインスマス各所の解説がなされているのではないかと思います。場所によって解説の詳しさはまちまちですが、重要なところほどしっかり書かれているので、シナリオ中PLから尋ねられた際に困ることはあまりないでしょう。ありがたいのが、NPCの多くにステータスや所持技能などが一緒に書かれているところですね。インスマスを舞台とするシナリオによってはこれらが必要になることもあるでしょうから、重宝すると思います。


サプリ内シナリオ紹介
 このサプリには、インスマスを舞台とした3本のシナリオが収録されておりますが、これらについてもネタバレにならない程度に紹介します。
 まず一本目が、短~中編シナリオである『クロフォードの遺産』です。このシナリオはインスマス入門編とでもいうべきシナリオで、インスマスの外からやって来た探索者がインスマスの闇の一端に触れることになるシナリオとなっています。良くできたシナリオだとは思いますが、あくまで導入的な位置づけのシナリオであり、純粋な面白さには少しかける部分があるような気がします。
 続いて二本目が、サプリのタイトルにもなっている長編シナリオ『インスマスからの脱出』です。このシナリオはまあタイトルの通りというと身も蓋もないですが、明確に探索者がインスマスの闇に関わるシナリオです。このシナリオは、恐らく多くの人が後述する『インスマス襲撃』に繋がるキャンペーンの一シナリオとしてプレイすることになると思われる、インスマス全体を舞台としたシナリオとなっています。このシナリオあっての『インスマス襲撃』と言っても過言ではないでしょう。現代日本とは違う殺伐とした町が舞台ですし、危険度も非常に高いものとなっていますが、その分クリアできた時のやりがいは素晴らしいものになるのではないかと思います。このタイトルを聞くと原作のあの話を思い浮かべる人が居るかと思いますが、あの作品の焼き回しというわけではないのでご安心を。しかし、クライマックスを主導する役目は他のPLに委ねるのが良いかと思います。
 最後のシナリオは『インスマス襲撃』ですが、まずみなさんに聞いてもらいたいのはこの品路のページ数です。なんとP104~P164の61ページがこのシナリオ一つに費やされているのです。最初私がこれを確認した時は思わず笑いがこみ上げてきました。肝心の内容はというと、これもまた文字通り、これまでインスマスの闇に関わってきた探索者たちと海兵隊が一緒になってインスマス襲撃に参加するというシナリオです。このシナリオは特殊な構成となっていて、パートが大きく3つに分かれており、それぞれに6つの場面があることから、PL一人当たり探索者を2~3人持っていく必要があります。これは、場面ごとにシーンを分けることになるため、探索者がその場面に居ない場合NPCを動かしてもらうことになってしまうのと、このシナリオの危険度が非常に高いことが理由です。回した人曰く、「このシナリオには強力な戦闘技能や銃火器よりも装甲車を持っていくべき」とのことです。中点としては、一度このシナリオをプレイしてしまうと、インスマスの様子がすっかり様変わりしてしまうという点が挙げられます。まあ単発でやる場合には特に気にしなければいいんですが、キャンペーンの締めくくりにやることになるのではないかなと思いますから、早々にこのシナリオをプレイしてしまうとインスマスを渡り歩いてきた探索者をインスマスで使いにくくなってしまうというジレンマが起こる可能性があるので、この点を理解しておくといいかもしれません。
 
おわりに
 最後に私からこのサプリのシナリオを用いたキャンペーンについて一つ思ったことを書いて終わりにしようと思います。私は当初このサプリに付属している3つのシナリオをつなげたキャンペーンをやろうという想定でこのサプリを購入したんですが、このサプリを読み込んでいくほどにインスマスの奥深さに感心し、インスマスの冒険をたった三つのシナリオだけで終わらせるとは、あまりにも味気なくないか、と思ったのです。『インスマス襲撃』はインスマスシナリオの集大成とも言うべきものなのでこれは差し置くと、PLと探索者たちは『クロフォードの遺産』『インスマスからの脱出』という二つのシナリオの経験だけで、忌まわしき町の襲撃に取り掛かることになるわけです。『インスマス襲撃』はいわば探索者達人間の逆襲と言っても過言ではないシナリオなので、このシナリオにおいて味わうことのできるであろうカタルシスや達成感が損なわれてしまうのではないか、と思った次第です。幸いなことに、アドリブが得意な方はすぐにシナリオを作れてしまうほどに良質なシナリオフックが12もあるわけですから(うち2本は襲撃後のものですが)、これを基にしたシナリオか、または公開・販売されているインスマスシナリオを2,3『インスマス襲撃』の前に回した方が良いのではないかと思います。

 さて、私の参加する団体のコンベンションが今月末に開催されるということが決定しましたので、再来週の更新がお休みとなります。来週はおそらく身内の自作シナリオ『悪魔のヒト探し』の公開となるかと思いますが、製作社との詰めの関係でもしかすると公開が遅れるかもしれません。その場合は、来週お休みで再来週公開という不規則な形になってしまいますが、ご容赦ください。では、また次回の記事でお会いしましょう。

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